Vol.596

FOOD

01 NOV 2024

暮らしを豊かにする「中国茶」の楽しみ方|茶葉6大分類

前回は中国茶の魅力を引き立てる茶器や淹れ方について詳しく述べたが、今回は中国茶の根幹をなす茶葉そのものに焦点を当てる。中国茶といえば、私たちに馴染み深い烏龍茶や、食後のひとときに最適なジャスミン茶、プーアル茶がよく知られている。しかし、中国茶はそれにとどまらず、さまざまな茶葉が存在する。茶葉の体系を理解することで、お茶の楽しみが一層広がる。中国茶の6大分類を探求し、より豊かなお茶の時間を楽しむための準備をしよう。

中国茶6大茶分類とは?

代表的な茶葉を並べて観察
世界各地にはさまざまなお茶が存在するが、その中で中国茶は紀元前から続く世界最古のお茶とされている。その種類は中国国家標準により6つの分類として定められており、これを「中国茶6大分類」という。お茶の分類は葉の種類や発酵度の違いだと思われがちだが、正確には茶種ごとの「製茶工程」を分類上の定義としている。 同じ茶種のなかでも茶葉の品種や複雑な工程を経て味わいや香りは大きく異なる。

色や形もさまざまな中国茶の茶葉
中国茶6大分類は、緑茶・黄茶・白茶・烏龍茶(青茶)・紅茶・黒茶に分けられている。

緑茶:新鮮な茶葉の風味が活きた爽やかな味わい。
黄茶:緑茶に近いが、特別な工程により穏やかな味。
白茶:ふくよかな香りとまろやかさが特徴。
烏龍茶(青茶):香りの茶ともいわれ発酵度により幅広い風味が楽しめる。
紅茶: 甘みとコクがあり、深い香りが特徴。
黒茶(プーアル茶):熟成により複雑な味わいと健康効果が期待される。

それぞれの特徴を詳しく解説していこう。

緑茶

白く光る部分は産毛に覆われた新芽
中国茶といえば烏龍茶が有名だが、実は中国国内で最も消費されているのは緑茶で、全体の約65%を占める。

緑茶の大きな特徴は、摘み取った直後に高温で加熱し、酵素の働きを止める点にある。この処理により、茶葉は鮮やかな緑色を保ち、爽やかな風味が生まれる。さらに、加熱後の乾燥方法は、炒青(しょうせい・炒める)、烘青(こうせい・炙る)、蒸青(じょうせい・蒸す)、晒青(さいせい・天日干し)の4つに分類される。

中国緑茶は有名柄だけでも100種類以上が存在し、それぞれが地域ごとに異なる特色を持つ。
味わいについては、日本の緑茶が旨味や渋味を特徴とするのに対し、中国の緑茶は甘やかな香りが強調され、渋味は少ない。抽出適温は80〜90度と、日本茶よりやや高めである。

写真の「碧螺春(へきらしゅん)」は、巻き毛のように丸まった茶葉が特徴で、新芽が含まれるため、繊細で豊かな風味を持つ高級茶である。
<茶葉と水色(茶湯)>
茶葉は緑色。
水色は薄い黄緑から緑。

<中国緑茶の例>
恩賜玉露(おんしぎょくろ)
太平猴魁(たいへいこうかい)
六安瓜片(ろくあんかへん)

黄茶

黄茶は水色も茶葉も黄色だが、黄色の葉の緑茶もあるため注意が必要
黄茶は中国でのみ生産される希少なお茶であり、中国全体の茶生産量のわずか0.2%程度しか作られていない。

製法は緑茶とほぼ同様だが、最大の特徴は「悶黄(もんおう)」という独自の工程である。これは、高温多湿の環境で茶葉の葉緑素を分解させる工程で、これにより茶葉の渋味が取り除かれ、黄茶特有の穏やかで繊細な味わいが生まれ、飲みやすい仕上がりになる。

黄茶には新芽が多く含まれているのも特徴で、この新芽は茶に一層の上品さを与える。
抽出温度は緑茶よりやや低めの85度前後が最適とされており、丁寧に淹れることでその豊かな香りと味わいが引き出される。

黄茶の希少性や製法の手間を考えると、特別な場面で楽しむ贅沢な茶として、根強い人気を誇っている。
<茶葉と水色(茶湯)>
茶葉は黄色。
水色はごく薄い黄色。

<黄茶の例>
君山銀針(くんざんぎんしん)
霍山黄芽(かくざんこうが)
平陽黄湯(へいようおうとう)

白茶

白茶の代名詞ともいえる白毫銀針は白い産毛に覆われた新芽だけの茶である
白茶は中国の福建省、雲南省、四川省で生産され、特定の茶品種を使用して作られる。

白茶の製法の特徴は、摘んだ茶葉を萎れさせる「萎凋(いちょう)」という工程にあり、地域によって方法に違いがある。例えば、福建省では細かな技術が使われる一方、雲南省では茶葉をそのまま放置する。

加熱処理が行われないため、年を重ねるごとに熟成し、芳醇な味わいを楽しむことができる。茶葉は、白く輝く産毛に覆われており、これが「白豪銀針(はくごうぎんし)」など高級白茶の象徴となっている。抽出温度は低めの85度前後が適しており、穏やかな香りと繊細な風味を引き出すことができる。

福建省産の「白豪銀針」は、白茶の中でも最高峰とされ、非常に高い品質を誇る。
<茶葉と水色(茶湯)>
茶葉はさまざまな様子で、白豪に覆われた部分は白、ホールリーフは茶葉の色。
水色はごく薄い黄金色。 

<白茶の例>
福鼎白茶(ふくていはくちゃ)
政和大白茶(せいわたいはくちゃ)
月光白(げっこうはく)

烏龍茶(青茶)

馴染み深い烏龍茶は中国茶の中でも少数派
烏龍茶は中国の伝統的な半発酵茶で、全体の茶生産量の約11%を占める少数派だが、日本や世界でも人気が高い。

以前は「青茶」として分類されていたが、2014年に「烏龍茶」として名称が統一された。製造過程の中でも特に重要なのが「揺青(ようせい)」という工程で、茶葉を揺すって回転させ、葉を傷つけて発酵を進めることで香りと風味を最大限に引き出す。揺青によって生まれるフローラルな香りや甘さ、時に香ばしいトーストのような風味が烏龍茶ならではの複雑な味わいに繋がっている。

蓋碗の蓋でこぼすように泡を切る
発酵度は幅広く、低いものでは軽やかな花の香り、高いものでは重厚な風味を楽しむことができる。

抽出する際の温度は高温で沸きたての湯を使うことが理想であり、泡を切るように淹れることで、より洗練された味わいを引き出すことができる。中国南部のほか、台湾でも香り豊かな烏龍茶が多く生産されている。
<茶葉と水色(茶湯)>
茶葉は濃緑と縁。全体が濃黒緑色の茶葉もある。
水色は黄金色から橙。茶殻の特徴は緑葉紅縁(りょくようこうへん)といい、やや赤みを帯びた様子が見て取れる。 

<中国烏龍茶の例>
岩茶(がんちゃ)
安渓鉄観音(あんけいてっかんのん)
鳳凰単叢(ほうおうたんそう)

<台湾烏龍茶の例>
高山烏龍茶(こうざんうーろんちゃ)
凍頂烏龍茶(とうちょううーろんちゃ)
文山包種茶(ぶんざんほうしゅちゃ)
木柵鉄観音(もくさくてっかんのん)
東方美人茶(とうほうびじんちゃ)


紅茶

右手前が紅茶
紅茶と聞くと、インドやヨーロッパを思い浮かべる人が多いが、実は世界最古の紅茶の生産地は中国である。特に福建省と雲南省は、優れた紅茶の産地として知られ、紅茶に適した茶樹品種が栽培されている。

また「ウンカ」という害虫に食われた茶葉を使用する紅茶は、独特のとろけるような蜜香を放つとされる。ウンカは農薬を嫌うので摘採時には農薬散布をさける場合が多い。紅茶は完全に発酵させているため、濃厚な風味と深い色合いを持つ。高温で抽出するのが美味しく淹れるコツであり、しっかりとした香りと豊かな味わいを楽しむことができる。

各地で育てられる紅茶には、独自の風味や香りがあり、地域による特性を味わう楽しみもある。
<茶葉と水色(茶湯)>
茶葉は紅。
水色は濃橙色。濃橙色〜輝くような紅茶湯まで幅がある。

<中国紅茶の例>
祁門紅茶(きーむんこうちゃ)
正山子種(せいざんしょうしゅ)
滇紅(てんこう)
英徳紅茶(えいとくこうちゃ)

黒茶

円盤型に固められた茶葉。包紙も美しいものが多い
黒茶は、中国の特異な茶類であり、 原料茶は緑茶です。製茶後の茶葉に湿度と温度を与え、積みあげておく「渥堆(あくたい)」という工程を経ることで作られる。このプロセスによって、茶葉の成分は変化し、まろやかで独特な風味を持つことになる。

これらは通常、熱湯で一度洗ってから淹れることもある。黒茶には散茶と緊圧茶があり、緊圧茶を淹れる際には、茶刀を用いて茶葉をほぐすことが一般的だ。

右奥で手に取られている道具が茶刀
黒茶の産地や種類によっては、円盤型やお碗型に固められ、美しい包装紙に包まれていることがある。これらの形状はかつてお茶が辺境へ輸送される交換物資であったことを示し、運搬に適したコンパクトな形状が現在でも継承されている。そのデザインは地域の文化や伝統を反映している。

黒茶はその深い味わいと独特の香りが特徴で、特に長期熟成された黒茶は、豊かな風味が一層際立つ。
<茶葉と水色(茶湯)>
茶葉は濃茶色から茶色。
水色は濃茶色から黄金色(生茶など)まで幅がある。 

<黒茶の例>
プーアル茶
六堡茶(ろっぽちゃ)
花巻茶(はなまきちゃ)
康磚茶(こうせんちゃ)

お茶の味わいに、日の揺らぎを感じて

自分のために丁寧にお茶を淹れる時間
たとえお茶のプロフェッショナルであっても、同じ茶葉、同じ淹れ方で、同一の味わいを実現することは一度たりともないという。お茶は自然の産物であり、厳密なレシピがあったとしても、結果は常に異なるものなのだ。そして、私たち自身もまた、変化し続ける存在である。

そうした日々の揺らぎを感じ取ることは、お茶が持つ一つの役割かもしれない。

自ら淹れたお茶よりも、他者によって淹れられたお茶の方がなぜかおいしく感じる。それは、お茶の味わいは単なる成分の組み合わせに留まらないことを示している。環境、淹れ手、それらを味わう人によって、同じ茶葉であっても違いがあること。そして、私たち一人ひとりが、その揺らぎを味わい、喜べることこそが、お茶の時間の真髄ではないだろうか。

SHOUEI SALON

取材協力:株式会社 晶瑩 SHOUEI SALON 
中国茶インストラクター 山田晶子氏

公式HP:https://www.shoueitea.jp/
お問い合わせ:shoueitea.web@gmail.com

各種講座一覧
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