冷たい風、朝晩の冷え込み、寒さというものはそれだけで人を億劫にさせる。まだまだ寒いこの時期はどうしても家に籠りがちになる。家で過ごす時間は次第にマンネリ化し刺激が欲しくなるものだ。レモン酒作りはそんな家時間を充実させてくれる。この時期限定の家仕事を取り入れて、日々の暮らしに新しい風を吹き込もう。
自家製レモン酒で家時間に刺激を
冷たく吹き抜ける風、ちらつく雪と白い息。全身で感じる寒さは身体だけでなく心も縮こまらせる。暦上は春でもまだまだ冬の気配が抜けない。「なるべく外に出たくない」と思ってしまうのがこの季節である。
近年は異常気象が続き、寒暖差が激しい日が続いたり突然大雪に見舞われたり、天気に振り回されることも多い。私が住む雪国では今年の暖冬の影響はあれど、以前寒さが厳しく吹雪く日もしばしばある。1日中家で過ごす日もあるくらいだ。
忙しない毎日を送っていると「ゆったりくつろぐ時間が欲しい」と切に願うものである。だが外出を控え家にいる時間が増えても不思議とつまらなく感じてしまう。外にある刺激や発見を得ることで満たされていた充実感を、家だけでカバーするのはなかなか難しい。どうしても日々がマンネリ化しがちだ。
そんな家時間に刺激となるスパイスを効かせてくれるのが、自分で漬け込むレモン酒。意外にも簡単に作れてビタミンも補給できる。体調を崩しやすいこの季節にはぴったりの果実酒だ。自分好みの味ができるまでの過程も楽しい手作りレモン酒を紹介しよう。
冬から春先までしか出回らない国産レモンの魅力
レモン酒に使うのは国産レモン。外国産のレモンには防腐剤やワックスなどの農薬が使われているが、国産レモンは農薬不使用で安全だからだ。皮も漬け込むレモン酒には是非国産のレモンを使ってほしい。
国産レモンの一大産地と言えば瀬戸内地方だ。国内生産量の8割を担う瀬戸内地方のレモンは美味しく栄養もたっぷり。雨が少なく暖かい気候の瀬戸内地方はレモンの栽培に適しており、木が健康に育つため無農薬栽培が可能だそう。世界的に有名なレモンの産地イタリアと同じような気候であるのが、瀬戸内地方がレモンの一大産地と言われる理由だ。
「なぜ冬にレモン酒なのだろう」と疑問に思う方も多いだろう。レモンはその見た目と味から夏のイメージを抱かれやすい。だが冬から春先にかけての極短い期間にだけしか国産レモンは出回らない。レモンの旬は夏ではなく実は冬なのだ。
白く冷たい季節にそぐわないフレッシュなビタミンカラー。だがそれが一層存在を輝かせ、冬の青果売場に並んでいる。レモンの実は皮にハリがあって重さを感じるものがベスト。弾力がなく軽いものは皮が厚く果汁が少ないため注意して選ぼう。
手作りレモン酒で自家製レモンサワーを
それではまず、甘さのあるスタンダードなレモン酒のレシピから紹介しよう。使うのはレモンと氷砂糖、それとキンミヤ焼酎の3つだけ。
焼酎は様々な種類があるが、下町で愛されてきた癖のないキンミヤ焼酎が甘いレモン酒に合っていると考える。この作り方は1週間ほどで飲み頃になるため、すぐにでも飲みたい人には打ってつけだ
キンミヤ焼酎1瓶(720ml)に対し、国産レモン5個(800g程)、氷砂糖300gを用意する。砂糖は果実に対して半分程度にするのが一般的ではあるが、甘いのが苦手な私は控えめにするのが好みだ。
レモンを水でよく洗い水気を拭く。5個の内2個は皮付きのまま薄めの輪切りにスライスし、残りは皮とワタを取り除き横に4等分する。アルコール消毒しておいた保存瓶にレモンと氷砂糖を交互に入れ、最後にキンミヤ焼酎を静かに注ぐ。
1日1回瓶を揺すって全体を馴染ませる。1週間後レモンを全て取り除いて液を濾したら完成だ。取り出したレモンは冷凍して氷代わりに使うと味が薄まらず味の変化も楽しめる。
さあ、出来たレモン酒でレモンサワーを作ろう。冷やしておいたグラスにたっぷりのロックアイスと凍らせたレモン、レモン酒を入れ強炭酸水を氷に当たらないように静かに注ぐ。下から1回だけそっとステアしたら、自家製レモンサワーの出来上がりだ。
皮の香りとほろ苦さ、果実から溶け出した旨味とコク。それが炭酸の泡のしゅわしゅわと共に鼻に抜けていく爽快感。これが自分で手に入れたものである喜びと共にそれら全てが身体中を駆け巡っていく。まさに贅沢の極みだ。
お風呂上がりにゴクゴクと飲めるようなものもいいが、このレモンサワーは「読書をしながらじっくり味わいたい」と思わせてくれる深みがある。
いろんな味を、変化と共に楽しんで
次に、甘くない無糖タイプのレモン酒のレシピを紹介しよう。甘いレモン酒もいいが無糖で作るレモン酒も甲乙つけ難い魅力がある。
無糖のレモン酒で作ったレモンサワーは食中酒にピッタリだ。揚げ物や脂の多い肉料理とは相性抜群で、こってりとした料理もさっぱり味わえて止まらなくなる。こちらは短いものでも1ヶ月以上漬け込まなければならないが、漬かるまでの変化を味わえるのが魅力だ。
キンミヤ焼酎800mlに対してレモン4個。白いワタが残らないよう丁寧に皮を剥いて半分にカットして、保存瓶に焼酎と一緒に入れる。香り付けとしてコアントローを100ml程加えて完成。
あとはこれを3ヶ月〜半年漬け込む。長い時間をかけてまろやかな旨みに変わっていく。出来上がりが待ち遠しい。
残った皮でもレモン酒を漬けよう。先程まではキンミヤ焼酎を使っていたが、ここでは黒糖焼酎を使ってみる。黒糖焼酎はその字の通り黒糖を原料とした焼酎で、コクのあるすっきりとした甘さがレモンの酸味とほろ苦さと相性が良いそう。
先ほどのレモン酒で残った皮を黒糖焼酎に入れるだけ。黒糖焼酎1瓶(720ml)に対してレモン4個分の皮を入れてみた。時間をかけて皮の香りと風味を焼酎に移していく。こちらは1ヶ月程漬けるが、それまでの変化も楽しみたい。少しずつ味が変わっていくのを楽しめるのが自家製の醍醐味だ。
自分だけの味を追い求めて
レモン酒は様々な作り方がある。ここで使用したキンミヤ焼酎、黒糖焼酎の他にも焼酎にはいろんな種類がある。使用する銘柄一つとっても種類の多さは計り知れない。
土台となるお酒の種類を変えて作ることもできる。梅酒作りに代表されるようなホワイトリカー、スピリッツで癖のないウォッカなど、こちらも種類豊富だ。それらのお酒とレシピの配合を考えると作り方は「無限」と言っても過言ではないだろう。
レモン酒は漬け込んで出来上がりを待って飲むまで自分の好みの味になっているか分からない。思っていたより甘くなったり、苦味が出て飲みづらい味になってしまったり、一筋縄には行かないのが現実だ。
お酒の種類、材料の分量と割合。漬け込む期間と果肉を取り出す時期。工夫しようと思えばいくらでもやり方はある。「これだ!」と思う味に巡り合っても「もっと美味しくするにはどうしたらいいのか」と、より上の味に挑戦したくなる。
ハマった沼からは抜けられない。終わりはないのだ。その試行錯誤の時間こそ、刺激の少ない冬の家時間に新しい発見という刺激を与え、日々を豊かなものにしてくれる。
手作りレモン酒に、正解はない。いや、ないと言うよりは、「すべて正解である」と言った方がいいかもしれない。味の好み、人間の数だけ正解はある。
自分にとっての、自分だけの正解を探しながら今日も私は家仕事に励む。
季節の家仕事で自分と向き合う
冬から春先までの短い間のレモン酒作りだが、作ったものは一年を通して味の変化を楽しめる。そして季節が巡って次の冬が来る。また新たなレモン酒作りが始まる。
そうやって生活の一部になり、家仕事を通じて自分とじっくり向き合える。
まだまだ寒さが残る季節。身体も心もどこか億劫になる。
家時間が増えるこの季節ならではの家仕事に挑戦してほしい。それはマンネリしがちな日々に刺激と発見を、スパイスのような隠し味を添えてくれるはずだ。
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北国で暮らすフリーのWebライター。お酒と猫に目がない。