「おはぎ」。通年で親しまれるあの庶民的な和菓子が、いま贈り物として流行っているらしい。スーパーの惣菜売り場にも並ぶ、普段使いの顔をした「おはぎ」がハレの舞台に立っているというのだ。その理由を探るべく向かった店で目にしたものは、見慣れたあずき色だけでなく、白や緑、ピンク、紫(しかも花の形をした!)と色彩豊かで、一粒一粒が花のような美しさを湛えていた。筆者もその美しさにやられてしまい、取材直後にその「おはぎ」を携えて友人宅へ駆け込んだほど。今回は、そんな「おはぎ」の新星を生み出した「タケノとおはぎ」をご紹介する。
そもそも「おはぎ」とはどういうものなのか
「タケノとおはぎ」を紹介する前に、まず「おはぎ」についておさらいしておくとしよう。
いまでこそ年中楽しまれている「おはぎ」には、かつて、亡くなった先祖の霊を供養するために、墓参りの後に食べるという風習があった。「おはぎ」は、春と秋の行事である「お彼岸」に関連して食べられてきた日本の伝統菓子なのである。
「おはぎ」はもち米やうるち米を炊いたものをあずき餡で包んだもので、実は「ぼたもち」と同じである。名前の由来には諸説あるが、春の牡丹、秋は萩といった花の名から取られたといわれている。
「おはぎ」は歴史を経て、地域ごとに独自の風味や形状が発展していった。定番のあずきに加え、白あん、きなこ、ゴマ、青のりなどがあり、地域によってもバリエーションが異なる。
おはぎの専門店「タケノとおはぎ」
ここからが本題。進化を遂げた「おはぎ」についてだ。
「タケノとおはぎ」は、桜新町にあるおはぎ専門店だ。モルタル造りの無機質空間に整然と商品が並ぶ様は、アートギャラリーさながらだ。店舗には、定番の「つぶあん」「こしあん」もあればフルーツやナッツを組み合わせたものなども並ぶ。その中の数種類は日替わりで展開する。
見慣れた「おはぎ」とは異なる風貌に「これは果たして『おはぎ』なのだろうか……」と戸惑ったが、お客たちは皆そんなことは気にする素振りもない。開店と同時に行列が伸びていった。
都内で行列ができる店をいくつか知っているが、ラーメン店には男性客、パンケーキ屋には若い女性客というように、大体同じような客層である。それとは異なり、こちらのおはぎ専門店に並ぶのは、若い女性、ご高齢者、ビジネスマンなど、実に多様である。
若い女性たちのグループは、自分たちの順番が回ってくると歓喜の声をあげながら商品を選んでいた。得意先への贈り物であろう数十個をまとめ買いするビジネスマン風の男性も多い。初老のご夫婦が「薔薇とクランベリー」「抹茶とココナッツ」といった意外なチョイスをされていたのが印象的だった。
「タケノとおはぎ」のこだわり
「タケノ」の店名は、オーナーである小川寛貴氏のおばあさまの名前に由来している。「おはぎ」を作ることが得意なおばあさまで、小川氏は幼少期からその「おはぎ」が大好きだったという。タケノさんと小川さんが一緒に過ごしたひとときと、美味しかった「おはぎ」の思い出。この店には、美味しさと温かさを多くの人に伝えたいという想いが込められている。
「タケノとおはぎ」に宿る美意識は、デリカテッセン(食品や料理の専門店)からヒントを得たものなのだという。日々、色合いのバランスを考慮した7種類を制作しており、客を飽きさせずに新しい味を楽しめるような工夫がなされていることが窺える。
見た目の美しさだけでなく、素材へのこだわりも特筆すべき点だ。
「おはぎ」に使用されている素材はすべてオーガニックであり、添加物は一切使用せず、自然の味や風味を大切にした優しい味わいが特徴。大人から子どもまで安心して楽しむことができる、からだに優しい和菓子に仕上げられている。
伝統的な「おはぎ」をベースにしつつも、独自のアレンジと工夫が加わった「おはぎ」の新星たち。「タケノとおはぎ」の製品は、伝統の味を守りながらも、現代の舌にもマッチする、進化系おはぎなのだ。
1ヶ月待ちのオーダーメイドおはぎ「春まど」
最後に「春まど」と名付けられたサービスをご紹介する。
「タケノとおはぎ」では、オーダーメイドおはぎの生産も可能で、贈り物として大変人気があるそうだ。1日4セット限定。価格は一箱6,480〜10,800円。受取希望日の1ヶ月前9:00より予約受付開始。商品は店頭受け取りのみ。
好きな時にサクッと購入するという気軽さはないが、大切な方との集まりやイベントなどの手土産に、花束のような「おはぎ」なら喜んでいただけるに違いない。
甘くて美味しい花束。私ももらってみたいものだ。
あの人に贈りたい「おはぎ」
春はぼたもち
夏は夜船
秋はおはぎ
冬は北窓
「おはぎ」は、季節によって呼び方が異なるという。日々の何気ない一コマにも、季節との結びつきや言葉遊びを楽しんできた日本の心を思い出させてくれる。
「おはぎ」といえば、筆者にはお彼岸に親族でいただいた思い出がある。祖母が生きていたら、こんな綺麗な「おはぎ」を見てびっくり仰天するに違いない。そんな妄想をしながら、小ぶりな「おはぎ」を一粒ずつ味わった。
一人でいただくのも良いが、やはり、これは誰かに贈りたくなる「おはぎ」である。お彼岸などの家族の集まりに「おはぎ」を携えて、思い出の一コマを作ってみてはいかがだろうか。
タケノとおはぎ
受取場所
東京都世田谷区用賀3丁目5−6アーニ出版ビル1階
タケノとおはぎ 世田谷本店
東急田園都市線「桜新町駅」より徒歩約8分
https://www.takenotoohagi.com
CURATION BY
料理とアートが好きなコラムニスト&写真家。
毎日、都内をぐるぐる歩き回っていますが、本当はインドア派。
映画を観ながら、作品に合わせた外国の料理を楽しむことにハマっています。