Vol.503

MONO

12 DEC 2023

青森ねぶた祭の熱気が息づく照明「KAKERA」

東北三大祭りの1つ「青森ねぶた祭」。国の重要無形民俗文化財にも指定されるこの祭りを知らない日本人はほとんどいないだろう。最近では海外からの観光客も多数訪れるようになり、世界的にも知られるようになった。そして、300年以上続くこの「ねぶた」に新たな歴史が刻まれている。それはNEBUTA STYLE<ネブタスタイル>というプロジェクトで、「ねぶた」の持つ美しさと生命力をベースに、照明器具やインテリア雑貨などを生み出す取り組みだ。

日本を代表する祭り、青森ねぶた祭

青森ねぶた祭の様子。暗闇に浮かぶねぶたは間近で見ると、迫力満点だ
私が青森ねぶた祭を初めて見たのは小学生の時だった。

「ラッセラー、ラッセラー」という掛け声をする方へ向かうと、踊り子のハネトたちがぴょんぴょんと跳ねながら進んでいく。大きなねぶたと呼ばれる山車が練り歩く姿は、幼い小さな体にはますます巨大に感じられ、熱気で圧倒された。

ねぶた名人 竹浪 比呂央(たけなみ ひろお)さん
今回取材にご協力いただいたのは、第7代ねぶた名人の竹浪比呂央さん。

ねぶたを制作する人は通常「ねぶた師」と呼ばれるが、ねぶた師の中でも卓越した制作技術と持ち、青森ねぶた祭の振興に貢献した人には「ねぶた名人」の称号が与えられる。竹浪さんは2023年8月に7代目ねぶた名人の称号を授与された。名人が誕生したのは、なんと11年ぶりだという。

11月にねぶた名人の竹浪さんのもとへ取材に伺うと、すでに来年に向けてねぶたの制作が始まっていた。知らない人も多いかもしれないが、実はねぶたは毎年新たにデザインされ、一から制作される。例えば、東日本大震災では復興をテーマに、コロナ禍では無病息災をテーマにデザインされた。夏が終わってから来年の構想を練ると制作が間に合わないため、竹浪さんは年中デザインを考えているそうだ。

また、海外からの観光客も増え注目を浴びているねぶたは、いまや祭事としてだけでなく、アートとしても捉えられている。以前よりも増して、見てくれる人を魅了するには、時代に合わせた変化も必要だ。伝統を守りながら、その時代を捉えた新しいデザインを取り入れる。そのための研究も欠かせない。300年以上も続く青森ねぶた祭の裏には、こうした職人たちの努力がある。

竹浪さんが主宰する「竹浪比呂央ねぶた研究所」でねぶたを制作する様子
ねぶたは木材を土台に、針金と糸で細かく骨組みを作っていく。昔は針金ではなく、竹を使って骨組みをしていたそうだ。「内側から光を当てる」「からくり人形のようにねぶたを可動させない」といった制作の条件を守りながら、ねぶたの躍動感を表現するためには、高精度な設計と手作業での細かい作りこみが要求される。巨大なねぶたからは、想像できない地道で繊細な作業に驚いた。

未来へ伝統をつなぐ NEBUTA STYLE <ネブタスタイル>プロジェクト

ねぶた作りは手作業が中心。細かい調整を何度も繰り返しながら、大きな山車が作られる
青森ねぶた祭のねぶた師は一年の大半をねぶたの制作に費やしている。しかし、ねぶた師の収入は安定しておらず、副業をして生計を立てる人も少なくない。

そんな状況を変え、若者がねぶた作りに専念できる環境を作りたい、と竹浪さんが立ち上げたプロジェクトが「NEBUTA STYLE <ネブタスタイル>」だ。

竹浪さんも、昔は薬剤師として働きながら、ねぶた制作を続けてきた過去を持つ。同じような経験をしてきた者として、またねぶた師を代表する名人として、後継者育成のために「NEBUTA STYLE」を通じて、技術を継承するだけでなく環境の改善にも積極的に取り組んでいる。

竹浪さんの元て制作をお手伝いしているスタッフ
NEBUTA STYLEは、ねぶた師がメーカーやデザイナーなどとコラボレーションする取り組みである。雑貨から家具まで、さまざまな商品に青森ねぶたの柄を取り入れ、新たな価値を生み出す。お土産としても人気だそうだ。なかでも私の印象に残ったのは、廃棄されるねぶたを活用し、インテリア照明としてアップサイクルする「KAKERA(かけら)」シリーズである。

ねぶた柄をモチーフにした雑貨たち。ねぶたや青森を身近に感じられる

祭りの静と動を感じるランプ「KAKERA(かけら)」

KAKERA”華”。光を灯すと厳かな雰囲気と和紙の温かみを感じられる
長い制作期間をかけて作られたねぶたも、祭りが終わると解体し、廃棄されてしまう。そこで、竹浪さんは祭りで実際に運行した大型ねぶたから彩色和紙を切り取って、照明器具の素材として活用することにした。それがKAKERAだ。祭りが終わると、彩色和紙は照明デザイナーに提供され、独特の色や柄を楽しむランプに生まれ変わる。

このアップサイクルの仕組みは、廃棄ロス防止につながるサステナブルな取り組みである。同時に、ねぶた師の新たな仕事や挑戦の場として需要をもたらし、青森ねぶた祭の価値向上にもつながっていく。

ねぶたの解体の際に切り取った彩色和紙
現在、KAKERAには縦型の”華”、ペンダントライトの”彩”、扇型の”舞”の3種のデザインがあり、インテリアに合わせて形を選ぶことができる。素材となるねぶたの彩色和紙は、ねぶたらしさが感じられる部分、そして汚れや折り目がない綺麗な部分に限定して切り取られ、ランプのデザインに合わせて選別される。

ねぶた特有の配色や力強い線の流れ、ロウの質感を感じられる
彩色和紙をよく見てみると、縁取られている線が透けているのが分かる。これは、ロウを溶かして線を描いているためだ。ロウは色のにじみを防ぐだけでなく、内側から明かりを灯したとき、光が通す重要な役割も果たしている。このような繊細な模様や職人の技術を間近で確認できるのもKAKERAの特徴の一つである。

ねぶた祭りの躍動感や熱気とは対照的に、KAKERAはほんのりと優しく部屋を照らす。同じ素材を使っていても、用途が変わると受ける印象が変わるのも、おもしろいところだ。

扇型のKAKERA “舞”。ねぶた祭りの躍動感とは対照的に、優しく部屋を照らす
ねぶた自体が一点ものであるため、ねぶたの彩色和紙を使ったランプも同じ模様になることは無い。つまり、世界に一つだけのデザインだ。また、KAKERAに封入される冊子は、この彩色和紙が実際のねぶたの一部である事を証明する写真集になっている。

KAKERAに封入される冊子。KAKERAに採用されたねぶたが分かるようになっている。

祭りの余韻と思い出を明かりにのせて

スターバックス コーヒー 青森中央店
なお、KAKERAは個人用として使われるだけでなく、青森県内のお店やホテルなどでも採用されている。例えば、スターバックスの照明にも使われているので、旅行や出張で青森に行く際は、ぜひ立ち寄っていただきたい。

ペンダントライトのKAKERA”彩”が店内を優しく照らす
日本には数多くの夏祭りが存在する。目的や意味は祭りによってさまざまだが、多くの祭りに共通している点は非日常性だ。いつもとは違う雰囲気、熱気に触れると、自ずと自分の気持ちも高揚していく。それだけ非日常の時間は価値のあるものなのだ。

だが、楽しい時間を過ごせば過ごすほど、祭りのあとには寂しさがこみ上げる。そんな寂しさに寄り添うように、KAKERAは静かに灯りをともしながら、夏の思い出を紡いでくれる。

長い歴史と職人の技術、そして異業種とのコラボレーションによって生まれた新しいねぶたの形、「NEBUTA STYLE」。今後、どのような商品が生まれてくるのだろうか。青森に行く楽しみがまた一つ増えた。

NEBUTA STYLE