外出することもままならなかった期間中、不自由さを感じたいっぽうで新たに発見したことも数多い。そのひとつが自宅でアルコールを愉しむことで、気取らずのんびり、素の自分に戻ってくつろげる。だが外で飲むのと異なり、ドリンクの種類はいつも同じとつい凡庸にもなりがちだ。カクテルスモーカーキットはアルコールに煙で香りをまとわせて、新たな風味を加えるプロダクト。いつものお酒がフルーティーなテイストに、あるいはまろやかで芳醇な香りを放つ。儚く漂う煙のマジックで、家での一杯を極上のものにしてみたい。
ドリンクタイムを極上なものに香りづけ
徐々に過去のものとなりつつある、外出もままならなかったあの月日。外へ出かけて人に会う、食事をする、お酒を楽しむといった行為が減った代わりに増えたのが家での時間だ。
新たに生活習慣となったことも多く、外食ができない代わりに料理の楽しさを知った人や、気のおけない友人たちとアルコールを間に挟んで語り合う喜びは減ったものの、家で飲む心地良さを認識した人もいるのではないだろうか。
外で飲むお酒は、案外ストレスになることもある。選んだ店が好きになれなかった、周囲の騒音が気になる、少々苦手な人と数時間過ごさなくてはならない、程よく酔った後に交通機関を使って帰宅しなくてはならない…。その点自宅で飲む時はそんな苛立ちを感じることがない。好きなお酒を用意して、周りを気遣う必要も帰宅時間を気にすることもなく、コストパフォーマンスが良いのも嬉しい。
家で飲む際のデメリットと言えば、自宅で飲むが故にくつろぎ過ぎてしまい、冒険心が少なくなることかもしれない。誰が見ているわけじゃなしと衣類に注意を払うこともなく、お酒はいつも同じもの、使うグラスも毎晩一緒と、特別なひと時である夜のドリンクタイムがルーティンと化している。
仕事を終えて、あるいは休日にアルコールとともに過ごすのは、自分を取り戻すための大切な時間。そのプライベートタイムをより贅沢に、エンターテイメントとしても楽しみたい。家での定番ドリンクに新たな風味を与え、そのひと時をさらに充実させてくれるのが、カクテルスモーカーキットだ。
アルコールに煙で香りをまとわせる
カクテルスモーカーキットはサクラやリンゴ、ヒッコリーなどのチップと呼ばれる木材の破片を燃やし、アルコールに煙で風味を加えるものだ。同じような方法で食材に煙で新たな味を加える燻製がブームになって久しいが、カクテルスモーカーは2007年、ニューヨークのバーでコーラとバーボンをミックスしたカクテルに煙で風味を足したのが始まりと言われている。
だが実は、アルコールに煙で独特の風味を加えることはずっと以前から始まっている。有名なところではピート(泥炭)を燃料として作られているウイスキー。大麦を乾燥する際にピートを燃料にして、排出される煙から出るフレーバーが大麦に浸透して独自の味わいを生み出している。
ピート香の高いウイスキーの代表と言えるのがスコットランドはアイラ島で作られるアイラウイスキーだ。初めて飲む人にとっては衝撃とも言える、忘れがたい特別な風味を放っている。
またメキシコ産のメスカルも、リュウゼツランという多肉植物の根元の部分を採取し、蒸し焼きにして香りを付けた蒸留酒だ。メキシコ・ハリスコ州にあるサンティアゴ・デ・テキーラで生み出されたテキーラもメスカルのひとつとして知られている。
アルコールに煙で風味を加えることは生産する際に行うことで、自宅でするには不可能と思われていたが、ニューヨークのバーで生まれたアイデアからそれが可能となった。僅か数十秒ほどで新たな味への変化が自宅で体験できる、それがカクテルスモーカーキットだ。
カクテルスモーカーキットの使い方
煙でアルコールに風味を付ける流行に伴い、今では様々なメーカーから色々な種類のスモーカーキットが発売されている。購入する際はチップの種類やトーチの有無、デザインなどを考慮して、自分にぴったりなものを見つけてみたい。
カクテルスモーカーキットの使用法だが、まずは香りを付けたいお酒、そしてグラス、そして好みのチップを選び、テーブルにすべてを用意する。なお、煙は冷たいものにまとわりつく習性があるので、グラスを良く冷やすか氷を一緒に入れておくのがおすすめだ。
ご覧のように、カクテルスモーカーキットの使用法はごく簡単。火の取り扱いに注意して、自分好みの好きなチップとアルコールの組み合わせを見つけてみよう。
より深みのある味に挑戦。カクテルスモーカーキットを使って
使用方法が分かったら、どんなものの組み合わせが合うのか探してみたい。まずは最初に作られたレシピのメインとなるお酒、ウイスキー。そのままで飲んでも美味しいウイスキーだが、煙で新たな香りをまとわせることによって、より柔らかく、より深みのある味になる。
続いてウイスキーを使ったドリンクを試してみたい。例えばハイボール。そのままでも飲みやすくてスッキリとした味わいが魅力的なハイボールだが、好きなチップで香りづけすることによって、さらに贅沢な味わいとなるだろう。
ウイスキーだけでなく、他のドリンクにもトライしてみたい。意外なところでは、黒くなるまでローストした大麦を使用した黒ビールの一種、スタウトや、上面発酵で製造されたコクのあるエールも、ぐっと深みのある味わいに変化しておすすめだ。
スモーカーキットはカクテルを楽しみたい時にも活用できる。ライウイスキーとアンゴスチュラビターズ、スイートベルモットで作る、カクテルの女王と呼ばれるマンハッタンはおすすめのひとつ。煙をまとわせ、幻想的な雰囲気とともに新たな味を楽しみたい。
なおカクテルにはカクテルグラスぎりぎりまで注ぐタイプのものがある。その際はグラス上ではなく、シェーカーやミキシンググラスの上でグラストップスモーカーを使用してみよう。
これらの他にワインやシードルなどでも試してみたが、繊細な味を持つものよりも、アルコールのテイストにしっかりと独自のものを持っている方が向いていると感じられた。だが味覚は人によってそれぞれ異なり、まったく別の意見を持つ方もいるだろう。ぜひ自分好みのベースのお酒、そしてそれに合うチップを見つけてほしい。
私的空間で過ごす時間をより贅沢に
自分にとって世界で最もくつろげる場所、それはおそらく自身の住まいだろう。すべてのものを自分で選び、居心地の良いように配置した我が家は自分だけの聖域だ。ならばそこで過ごす時間は、何処で送るひと時よりも贅沢なものにしてみたい。
お気に入りのアルコールと、とっておきのグラスを用意して、カクテルスモーカーキットをセッティング。合うチップを入念に選び、慎重にトーチで火を点ける。煙がグラスに満ちてゆるやかに立ち昇るのを眺め、微かに流れる香りを捉え、新たなフレーバーに変化した味を確かめる。
自ら香りづけしたアルコールが胃の中へゆっくりと滑り落ちて行く瞬間、ようやく本来の自分自身を取り戻せたような気分になれる。自分だけの空間で今日の疲れを癒し、明日への活力を見出すために必要な一杯を、カクテルスモーカーキットとともにより贅沢に味わってみたい。
CURATION BY
1992年渡英、2011年よりスコットランドで田舎暮らし中。小さな「好き」に囲まれた生活を求めていたら、夏が短く冬が長い、寒い国にたどり着きました。