Vol.572

FOOD

09 AUG 2024

大須ういろ「ういろのこな」は体験という名のとっておきのおやつ

幼い日の記憶に刻まれている、おやつの記憶。特に自分もお手伝いして手作りしたおやつは、どれだけ形が歪だったとしても、どんな既製品よりも美味しく感じたし、そのお菓子の魅力を再発見するきっかけにもなった。大人になった今、もう一度あの体験をしてみるのはどうだろう。ういろという和菓子の魅力を体感できる「ういろのこな」は、家族や友人はもちろん、自分自身へのプチギフトにもぴったりだ。

「ういろって何?」に答えたくて

ういろ(ういろう)という和菓子をご存じだろうか。羊羹に似た見た目の、白や茶、淡いピンク色をした和菓子。もっちりとした食感と優しい甘みは印象深く思い出されるが、どのように出来ているかというとすぐには答えられない方が多いかもしれない。

ういろはいくつか有名な産地があるが、その中のひとつが名古屋である。「ういろのこな」を販売する『大須ういろ』もまた名古屋で長く愛される和菓子店だ。

大須ういろ本店(愛知県名古屋市中区大須)
ういろが定番土産とされる地域に住んでいても、その正体をイマイチ掴めないういろ。『大須ういろ』社長の村山賢祐さんは、ういろのそのような立ち位置こそまさに「ういろのこな」開発のきっかけなのだと教えてくれた。

「『ういろのこな』開発のきっかけは、お客様からの『ういろって何?』の一言でした。このご質問に答えるため、お客様の手によるういろづくりを提供したいと考えたのです」

大須ういろ社長の村山賢祐さん
商品開発者とともに週末のたび自ら店頭に立つ村山さん。「ういろって何?」という質問を受ける中で、ういろの美味しさは届けることが出来ても、その本当の魅力は商品説明だけでは伝え切れないのではないかと悩んだそうだ。たとえば、ういろは米粉に砂糖を練り合わせて蒸し上げたお菓子だが、お米の蒸し菓子と認識されているケースはあまり多くはないのだという。またそれゆえに温度変化に敏感であることも、あまり知られていない。

「当社の工場で体験教室を開くと、参加したお子様たちは皆、ういろの形づくられていく様子にとても興味を持ってくれました。あの好奇心いっぱいの眼差しで、ご自宅でもういろづくりを楽しんでもらえたら」

幼い日、手作りしたおやつの美味しさを思い出す。馴染みのあるお菓子でも、馴染みのないお菓子でも、ああ、こうしてできているんだと知ることで、尚更美味しく思えたものだ。まさかういろを手作りできるとは思わなかったが、手作りとして身近ではないお菓子だからこそ、とびきりの美味しさが期待できそうな気がする。

大須ういろ本店の店頭に並ぶ「ういろのこな」

鮮やかパッケージの無添加ういろキット

「ういろって何?」という質問をきっかけに生まれたという「ういろのこな」。人気商品なのだろう、店内でも目立つところに置かれており、その鮮やかな幾何学模様が目を引いた。

「ういろのこな」のパッケージは、なんというか良い意味で和菓子屋らしくない。シンプルで、モダンで、雑貨屋のプレゼント包装さながらの雰囲気だ。各フレーバーごとのカラーリングがお洒落で選ぶのも楽しい。

シンプルだが印象的なパッケージ
そういえば『大須ういろ』は、名古屋市内の他の和菓子屋と比べても、若いお客さんが多いように思う。若い人が和菓子を選ぶって、それも『大須ういろ』のような老舗に買いに来るって、なんかいいなと私は感じた。思わず持ち帰りたくなるお菓子たちは、きっと多くの家庭で老若男女問わず愛されているのだろう。

また、パッケージの底に記載されている原材料名を見て、私はもう一つ若い世代に人気の理由が分かった気がした。材料がとてもシンプルなのだ。たとえば「ういろのこな しろ」の原材料は、砂糖(国内製造)、米粉(国産)、澱粉。この材料に、フレーバーによって黒糖、抹茶、きなこがそれぞれ足されている。

無添加の「ういろのこな」(「ういろのこな しろ」の原材料名)
口に入れるものに気をつけている方は、買い物をする際「/(スラッシュ)」記号以降の記載をチェックすると思う。スラッシュ以降がすべて添加物なのだが、注意して見てみると、その量の多さにギョッとすることがある。対して「ういろのこな」の原材料にはスラッシュの記載がない。つまり、無添加。『大須ういろ』社長の村山さんは、これもまた、こだわったポイントなのだと話す。

「店頭に並んでいるういろもなるべく添加物を入れずに製造していますが、保存のためどうしても多少は使用しなければなりません。その点『ういろのこな』は、粉の状態で販売し、出来立てを召し上がっていただくことを想定しているので、無添加が実現しているのです。小さなお子さまのいるご家庭でも安心してお楽しみいただけます」

「ういろのこな」は心も体も喜ぶようなキットなのだなと、私はそのカラフルなパッケージをワクワクしながら家へ持ち帰った。

どれにしよう?と目移りしてしまうデザイン(全4種)

ういろを自宅で作る

「ういろのこな」を用いて、実際に家でういろを作ってみた。

家でういろを作ってみる
用意するものは、せいろなどの蒸し器、ボウル、泡立て器、蒸し型(耐熱容器や流し型はもちろん、陶器や磁器でも)、そしてお湯125g。

作り方はとてもシンプルで、「ういろのこな」の入ったボウルに沸騰したお湯を入れ、泡立て器でよくかき混ぜてから蒸し型に流し込み、蒸し器で蒸したあと(弱火で45分ほど)蒸し器から蒸し型を取り出し、粗熱をとったら、
ラップをかぶせて冷蔵庫で寝かせて完成。40分ほど寝かせることが推奨されているが、お好みで時間を調整することもできる。

「ういろのこな」と熱いお湯を混ぜる

お好みの蒸し型に流し入れる

蒸し器に入れて45分ほどで蒸し上がる
懸念していた蒸すという工程だが、思っていたよりも簡単にできたことが嬉しい。またつやつやとした出来立てのういろがとても可愛らしく、以前よりもういろというお菓子に親しみを感じている自分がいた。

そして何より自分で作ることができたという達成感が、食べるワクワクを増しているようだ。

多少歪でも美味しそうに思える。お気に入りのお皿に載せて特別なおやつの時間に
『大須ういろ』村山さん曰く、開発当初は電子レンジを用いる方法も検討したようだが、思うような食感が得られないという理由で、ういろ本来の「蒸す」という工程を大切にしたそうだ。蒸し器を使わなくても蓋の付いた鍋やフライパンがあれば、水を張りアミなどで底上げすることで蒸すこともできるそう。

ちなみに私は、これまでの人生で「蒸す」ことをしたことがなかった。しかし思い切ってやってみたことで、蒸し器から立ち上る湯気の美しさや、出来立ての香りの素晴らしさに気がつくことができた。家庭の小さなキッチンで作ったういろだが、規模こそ違えど、『大須ういろ』の作り手の皆さんも同じような気持ちでういろを作っているのではないだろうか。この先ういろと聞けば、私はこの光景を思い出し、お腹を空かせるのだろうなと思う。

蒸し上がったばかりのういろ。湯気と香りが立ち上る

アレンジをして四季折々で楽しむ

実際に自分で作ってみて気がついたのは、ういろは蒸してからの経過時間や温度の変化によって、いろいろな食感を楽しめるということだ。また夏だからといって冷やしすぎると、冷やご飯と同じように、ボソボソになってしまって美味しくない。常温で保存し、食べるときには茹でて温めなおすと良いそうだ。

ほんのり温かいういろの美味しさは、手作りするまで気が付かなかった。この夏もとても暑くて、つい冷房がよく効いた部屋で過ごしがちだが、優しい甘さの口溶けの良いういろは、冷えた身体に心地よい温もりを与えてくれるように思う。

ほんのりと温かいういろはコーヒーとも相性が良い
また「ういろのこな」は自宅で作るからこそ、アレンジも行いやすい。たとえば「ういろのこな しろ」にコーヒーや紅茶を混ぜて蒸したり、「まっちゃ」「きなこ」「くろ」に芋や栗を加えてみたり。出来上がったういろをカットしてあんみつに入れたり、生クリームやあんこと合わせてパフェ風にする楽しみもある。

蕎麦猪口で蒸した「ういろのこな まっちゃ」は和パフェ風に

「ういろのこな しろ」を一口サイズにカットし、あんみつにして楽しんだ
ちなみに『大須ういろ』社長の村山さんのおすすめは、「ういろのこな しろ」にきなこをまぶして、わらびもち風に食べるというもの。ういろのほのかな甘さに、きなこの香ばしさがよく合う。

お好みの食べ方を探して
「ういろのこな」を通じて、ういろとは四季折々を彩ってくれるようなお菓子なのだと知った。次はどう作ろうかなと、せいろを開けるあの瞬間を思い出しながらニヤニヤしてしまう私がいる。実際に体験するおやつって、やっぱりこの先の人生を豊かにするような、とっておきのおやつなのだ。

体験という、とっておきのおやつを。大切な人と

「ういろのこな」の素晴らしいところは、この体験を誰かに贈ることができる点にもあると思う。

粉の状態なので日持ちするし、パッケージも薄いので、荷物の隙間に入れ込むこともできるだろう。『大須ういろ』の村山さん曰く、海外に住む人への差し入れにも人気なのだそうだ。確かに異国の地で和菓子のあたたかさに触れられるのは、言い表しようもなく嬉しいことだろうと想像する。

粉のまま保存できるのでお土産に選びやすい

「ういろのこな」で体験をおやつに
海外に送るなど大掛かりでなくとも、たとえば夏の帰省に、いつもとちょっと違うお土産として持ち帰ってもいいかもしれない。

体験というとっておきのおやつは、誰かと体験することで、もっともっと、とっておきになるのではないだろうか。ういろ特有の温もりのある甘さは、あなたと大切な人との時間を、あの立ち上る湯気のように優しく包み込んでくれるはずだ。

大須ういろ