Vol.465

FOOD

01 AUG 2023

優しい気持ちを包んだ防災グッズ。もしもの時の私たちに「とらや」の羊羹を。

地震や台風などのニュースを目にすることが珍しくなくなってきた。慣れてしまったわけではないが、多少のことでは驚かない程度には、近年日本各地で自然災害が頻発している。そこで注目されているのが、防災グッズだ。今回はそんな防災グッズの一つとして、和菓子屋『とらや』の「小形羊羹 手ぬぐい包み」をご紹介したい。優しくて甘い羊羹は、もしもの時にもいつもの安らぎをもたらしてくれるだろう。

もしもの備えに「小形羊羹 手ぬぐい包み」

老舗和菓子屋『とらや』が〈もしもの備えに羊羹を〉をコンセプトに展開しているのが「小形羊羹 手ぬぐい包み」という商品だ。『とらや』の定番商品である「小形羊羹」の人気フレーバー「夜の梅」「おもかげ」「新緑」各2本と、災害時に役立つ「手ぬぐい」がセットになっている。

とらや「小形羊羹 手ぬぐい包み」

6本の小形羊羹がオリジナルの手ぬぐいに包まれている
私が初めてこの商品と出会ったのはデパートだった。実は日頃から『とらや』の羊羹をご褒美に買っていて、その日もお土産に買おうと立ち寄ったのだが、店頭に置かれたある文字が目についた。〈もしもの備えに〉‥‥あまり和菓子屋らしくないその言葉の意味を店員さんに尋ねると、非常食として羊羹を提案するために手ぬぐいとセットにした商品なのだと教えてもらえた。2021年に期間限定発売し、2022年に仕様を改良したのち2023年から定番販売しているのだそうだ。

非常時にという手ぬぐい包みではあるが、『とらや』のマークがついた手ぬぐいが素敵で目を引く。中身はいつもの羊羹なのに、ちょっと特別な感じがするのはどうしてだろう?必要だと感じつつも、それを手に取るときにどうしても悲しい未来を想像してしまい、積極的に集めてはこなかった防災グッズ。この「小形羊羹 手ぬぐい包み」なら、むしろ欲しいという気持ちで手に取れる気がした。

他の商品にはないデザインと素材感が店頭でも目を引く

「小形羊羹 手ぬぐい包み」誕生秘話

今回この「小形羊羹 手ぬぐい包み」について、株式会社虎屋マーケティング部の大町さんにお話を聞くことができた。誕生のきっかけについて尋ねると、老舗和菓子屋ならではの真摯な答えが返ってきた。

とらや 赤坂店。ガラスと木目が美しい和モダンな外観

とらや 赤坂店内観(商品展開は記事公開時と異なる可能性があります)
「近年、深刻な自然災害が常態化し、日ごろの備えに対する世の中の意識の高まりを感じるなか、和菓子屋として何か社会に貢献できることはないかと考えたのがきっかけでした。災害時に羊羹が役立つことは、お客様にとっても有益な情報かと思います。羊羹の機能を確かにお伝えでき、有事の一助としていただける非常用セットをつくりたいという思いで企画しました」

実は手ぬぐい包みに決まるまでに、タオル地の巾着など色々な案が出ていたのだそうだ。しかし「有事の一助として」より汎用性の高い手ぬぐいが最適だと決まり、手ぬぐいで包むことに決めた。

「小形羊羹 手ぬぐい包み」について説明をする、株式会社虎屋マーケティング部の大町さん
また、発売当初は 縦37cm×横55.5cm サイズの手ぬぐいに、代表商品である「夜の梅」のみを6本、前後2列に並べて包んだ形状だったのだが、昨年改良を加え、縦37.0 × 横98.0cm サイズの手ぬぐいで 3種類の定番羊羹6本を平たく包むかたちにアップデート。横幅をぐっと長くすることで、手ぬぐいとしての活用の幅が広がるだけでなく 中の羊羹をより平らに包む仕様にでき、防災リュックの狭い隙間に入れやすくなった。

水や非常食、懐中電灯等でいっぱいの防災リュックの隙間にも入れることができる
味を3種類に増やしたことについて、大町さんは「避難先で食べられることを考慮して」と話す。確かに何かあった時、単調な食事の中に選ぶ楽しみがあったら、味を感じる余裕を持てたら、どれだけ心が助かるだろう。株式会社虎屋の経営理念は「おいしい和菓子を喜んで召し上がって頂く」だ。室町時代後期に京都で創業し、その後今日に至るまで五世紀に渡り和菓子作りを続けてきた『とらや』だが、この姿勢は昔も今も変わらない。

私はこの「おいしい和菓子を喜んで召し上がって頂く」という言葉の背景に、「どのような時も」という想いを感じる。どのような時も『とらや』のおいしい和菓子をいただく。その優しい甘さは、ほんの束の間でも、心に穏やかな喜びをもたらしてくれるはずだ。

およそ100年前(大正14年)の、とらや店頭での写真。経営理念である「おいしい和菓子を喜んで召し上がって頂く」という思いは、当時から変わっていない(画像提供:株式会社 虎屋)

3種類の定番羊羹。避難先でも味わう楽しみを

心にも栄養を。非常食として優秀な羊羹

取材中、大町さんが何度も羊羹の機能性について語られているのが印象的だった。

「羊羹は常温で長期保存でき、温度や湿度の変化にも強い食品です。また『とらや』の小形羊羹は50gの食べきりサイズのため携帯がしやすく、切る必要がないので手も汚れません。低脂質で高糖質なので、効率的なエネルギー補給に向いていると思います」

『とらや』の羊羹は味によって製造方法が異なるのだが、「小形羊羹 手ぬぐい包み」の「夜の梅」「おもかげ」「新緑」そしてもう2種類の定番商品「はちみつ」「紅茶」は、熱いうちにアルミ充填することで空気に触れさせずに密閉している。さらに砂糖の含有量が多いこともあり、長い日持ちが実現。賞味期限は未開封で製造から1年だが、賞味期限後も未開封であれば1年は食べることができるそうだ。

アルミ充填された小形羊羹は消費期限が長いだけでなく、食べやすいというメリットも
また「夜の梅」「おもかげ」「新緑」は、植物性原材料だけを使ったアレルゲンフリー食材でもある。どのような方も同じように、エネルギー補給として口にすることができるだろう。砂糖を多く使うが精製度の高い砂糖を使用しているため、甘さもすっきりとしている。水がなくても食べられるのも魅力の一つ。登山やスポーツにもいいかもしれない。

とはいえ、と、大町さんは続ける。

「エネルギー補給だけで言えば、羊羹よりも向いている食材は沢山あると思うんです。食事のメインにはならないですよね。けれども私たちは非常食として羊羹をおすすめしたい。非常時だからこそ、ほっと安らげる味を、いつものおいしさを、お届けしたいと考えています」

いつものおいしさ。そのおいしさが心に与える栄養こそ、非常時にもっとも必要なものなのかもしれない。

老舗和菓子屋ならではのいつものおいしさは、安心感につながる

心強い味方にもなる、昔ながらの手ぬぐい

手ぬぐいについても触れておきたい。このデザインは包装紙にも使われているので、親しみを感じる方も多いだろう。手ぬぐいに施された「虎」の漢字を使用したしるしは『とらや』のロゴマーク。「虎」の字を四つの鐶(かん:引き出しの把手)で囲んだ意匠で、なんと延宝2年(1674)の井籠(せいろう:お菓子を入れて運ぶ器)の外箱に使われていた様子が残っている。『とらや』の歴史を感じる伝統的なロゴマークだ。今回このデザインを落とし込んで手ぬぐいを製作するにあたり、『とらや』はその製法にも老舗らしいこだわりをもって取り組んだ。

とらやのロゴマークが施された手ぬぐい

同じロゴマークが、とらや 赤坂店にも掲げられていた
製造は、国内でゆかたなどを手掛けてきた老舗商店。伝統工芸に指定された「注染(ちゅうせん)」の技法を用いて、職人による手作業で製作を行なっている。「注染」とは、特殊な糊で防染し重ねた生地の上から染料を注ぎ、模様部分のみを染め上げる伝統的な技法のこと。近年手ぬぐいグッズが増え様々な店、シーンで目にするが、実はプリントによるものが多い。裏を見たときにも色が出ているものが「注染」技法によるものだ。

注染技法による手ぬぐい。裏側からも鮮やかな赤を見ることができる
素材は綿100%。見た目にはプリントと大きな違いがあるわけではないが、例えば首に巻いたとき、肌に触れたとき、ふとした瞬間に、職人の手仕事によるあたたかさを感じて心が安らぐ。ただ包むだけでなく使い手のことを考えた手ぬぐい。その姿勢は、羊羹でも手ぬぐいでも変わらない。

また手ぬぐいは、平織りかつ端が切りっぱなしのため乾きが早く、保水力も高いという特徴がある。止血など怪我の応急処置や、保冷剤を巻いて首を冷やすことに使用する時にも便利だ。手で裂けるため紐がわりにもできるし、赤と白の目立つ色合いを生かし、旗にして目印にすることもできるかもしれない。さらに羊羹を束ねているバンドを使えばマスクがわりにもなるなど、応用できる幅は広い。

非常時を想定しているので、男性の首に巻いても十分な長さ
ただ羊羹が包まれているだけでなく、それ自体にも沢山の想いを乗せた『とらや』の手ぬぐい。だから「小形羊羹 手ぬぐい包み」は、まるっと優しさを包んだような商品だ。『とらや』のこだわりの全てが、いざという時の私たちの心に強さを与えてくれるだろう。

手ぬぐいについては、付属の小冊子でも使い方を確認することができる

あらゆる世代に向けて、贈る防災グッズとしても

そしてその優しさは自分だけでなく、誰かにも贈ることができる。開発時は想定していなかったことだが、この「小形羊羹 手ぬぐい包み」は贈答用にも人気が高いそうだ。

私もまた千葉に住んでいる祖父母のことを想い、贈った。忘れることのできないあの震災時、大きな不安を感じていた祖父母。当時側に居られないことがもどかしかったが、今後も何かあったときに側に居られない可能性が高いので、せめて想いだけでも届けたい……。「小形羊羹 手ぬぐい包み」は、そんな気持ちを表現するのに適した商品だと考えたのだ。

想いを乗せる、プラスアルファの防災グッズとして
基本的な防災リュックを持っている家は多いが、プラスアルファの心の余裕のための備蓄品はまだまだ広まっていないように思う。私自身そうであるように、いつ起こるか分からない災害に備えるのはなかなかハードルが高いし、そもそも正直 積極的に災害時のことを考えたくもない。しかしだからこそ、意外と大切な人に贈ることに向いているのかもしれない。

何かあったとき、これを食べて心が安まりますように。そんな『とらや』の優しさが包まれた商品は、さらにそれぞれの優しさをも包んで、誰かに届けることができるはずだ。目にも心にも留まる「小形羊羹 手ぬぐい包み」なら、形式だけの防災グッズのような仰々しさもなく、程よい柔らかさをもってあなたの想いを届けられるだろう。

羊羹を備える習慣を

最後に私が提案したいのは、一年に一度、今年も安全でよかったねという気持ちで新しい「小形羊羹 手ぬぐい包み」を買い直し、古い方を大切な人と楽しむというサイクルだ。その時はおいしいおやつとして、家族の笑顔と一緒に味わいたい。

バトンタッチしたあとは、大切な人と一緒におやつとして楽しむ
また、これは余談だが私とパートナーにはある習慣があり、互いに遠方に仕事に出かける際は、相手の手荷物にメッセージを書いた付箋をつけた羊羹を忍ばせている。半分サプライズで、しかし半分お決まりの流れで。以前はチョコレートなどでも行なっていたのだが、チョコレートは手軽に食べるのには向いていても、どうしても溶けてしまう。溶けた状態で潰れてしまったら最悪だ。しかし『とらや』の羊羹なら、ご紹介してきたとおり環境の変化に強く、また硬くて潰れにくいため手荷物にサッと入れておいても問題がない。仕事の合間、パートナーの優しさに触れつつ羊羹の甘さを味わうのは、どんな疲れも吹き飛ばすような安らぎになる。

いつものバッグにも忍ばせて、日常的に羊羹を楽しむ
『とらや』は、ばら売りも行っているので、羊羹を口にする習慣がない方は、まずは1本ずつ買う習慣をもってみてもいいかもしれない。そして日常に羊羹を取り入れてみて、その優しい甘さが心の安らぎになりそうなら、ぜひ「小形羊羹 手ぬぐい包み」を手に取ってみてほしい。

永きに渡り丁寧に作り続けられてきた『とらや』の羊羹は、手ぬぐいの魅力もあいまって、日常にも有事にも、あらゆる世代の人々に寄り添ってくれるはずだ。

虎屋|とらや

https://www.toraya-group.co.jp/

住所:東京都港区赤坂4-9-22
営業時間:9:00〜18:00(平日)/9:30〜18:00(土日祝)
休業日毎月6日(12月を除く)
東京メトロ丸の内線、銀座線「赤坂見附」駅A出口より徒歩7分