Vol.567

FOOD

23 JUL 2024

創業100年、築地の老舗玉子焼き屋がたまごの新しい魅力を発信。デザートブランド『tsukiji SHOURO』

築地の老舗玉子焼き屋「つきぢ 松露」が新たに始めたスイーツブランド「tsukiji SHOURO(つきぢ しょうろ)」。茨城県の提携養鶏場から届けられる新鮮なたまごを使ったこのデザートは、創業100年を誇る同店が次の100年に向けて始めた挑戦だという。子どもから大人まで多くの人々においしい笑顔を届けたいという想いを込めて作られる「tsukiji SHOURO」のプリンやミルクセーキには、新しさの中にどこか懐かしい雰囲気が漂う。100年も続く「つきぢ 松露」とはいったいどのようなお店なのだろうか? そして、新しさの中で感じたあのスイーツの懐かしさの正体はいったい何なのだろうか? そんな好奇心とともに、築地へ向かった。

人が賑わい、自然が身近な街「築地」

所狭しと並ぶ店舗と大勢の人で賑わう築地場外市場
築地は暮らすのにも観光するのにも適した街である。東京メトロ日比谷線、有楽町線、都営地下鉄大江戸線の3つの路線が通り、銀座までは徒歩圏内という好立地なので、気軽に訪れて、買い物や食事を楽しむことができる。

中央卸売市場が豊洲に移転してからも、築地場外市場は外国人を中心に多くの観光客で賑わっている。さらに、重要無形文化財に登録された歌舞伎座やオリエンタルな雰囲気の築地本願寺、特別史跡・特別名勝に指定された浜離宮恩賜庭園など、歴史的な魅力もある。

すぐ近くには隅田川が流れ、緑豊かな公園がある。近年は再開発や新築物件の建設も進み、観光の街だけでなく住む街としての人気も高まっている。

自然あふれる中央区立築地川公園

玉子焼き専門店「つきぢ 松露」

高級料亭でも愛されている玉子焼き
築地の老舗玉子焼き屋「つきぢ 松露」は、元々寿司屋だったという。終戦直後の統制下で寿司ネタや米が手に入りにくくなり、代わりに店先で玉子焼きを販売したことがきっかけで、玉子焼き専門店に転換したそうだ。

築地場外市場では高級料亭などを対象に業務用として販売してきたが、銀座三越への出店により一般の顧客にも認知されるようになった。今では、築地といえば玉子焼きを思い浮かべる人も少なくない。

店頭には、定番の玉子焼きのほかに、手軽に口に運べる棒付きの玉子焼きや玉子サンドが並ぶ。鮮やかな黄色によって彩られたショーケースに目を奪われ、おのずと気分が高揚してしまう。

玉子焼きが挟まったサンドはボリュームがあり、食欲をそそられる
「つきぢ 松露」の一番のこだわりは原料のたまごだ。茨城県坂東市(旧岩井市)の養鶏場「都路(みやこじ)」と40年以上にわたって共同開発を重ね、徹底された衛生管理と鮮度維持のもと、玉子焼きに最も適した味と色味を実現した。

仕込みの段階では、玉子焼きの旨味とだし汁の味のバランスを一定に保つために、一度に約50本分をまとめて仕込むという。それを一日寝かせた後、卵にだしの風味がしっかり浸透しているかどうかを、味見を繰り返して確認する。醤油をつける必要のない旨味と甘みを抑えたさっぱりとした後味は、この仕込みと長年の経験から確立された焼き方によって生み出される。

手際良く玉子焼きを焼いていく様子は、職人の技が光る
時代によって人々の味覚や嗜好は変わる。「つきぢ 松露」では、少しずつ味を進化させているそうだ。伝統の味を守りつつ、進化を恐れない。この順応力が100年続く老舗の秘訣であるように感じられた。

これほどまでに玉子焼きにこだわる同店が、なぜ今スイーツづくりを始めたのか。副社長の斎藤修司さんにお話を伺った。

「つきぢ 松露」の副社長であり、tsukiji SHOUROで代表を務める斎藤修司さん

これからの100年もたまごとともに。スイーツで挑む新たな事業

シックな雰囲気の「tsukiji SHOURO」
スイーツブランド「tsukiji SHOURO」の立ち上げは創業100年を迎えた「つきぢ 松露」が、これからの100年に向けた挑戦として始まった。自ら開発に携わってきたこだわりの卵の味を、古くからの常連さんだけでなく、まだ同店に馴染みのない若い世代にも知ってもらうために、たどり着いたのがスイーツの開発だった。

tsukiji SHOURO。左がミルクセーキ、右がプリン
「tsukiji SHOURO」は現在、ミルクセーキとプリンの2種類のラインナップで販売されている。フランス菓子の有名パティシエの助言を仰ぎながら、甘さの調整や味にアクセントの工夫を重ね、完成させた。

最近ではミルクセーキを見かけることが少なくなった。洋菓子店でさえも扱っているところはあまりない。それでもあえてミルクセーキを商品化しようと思ったのには、修司さんの子供の頃の原体験が関係している。実家が喫茶店を営む友人の家に遊びに行った時に出されたミルクセーキの味が大人になった今でも忘れられず、それならばいっそのこと自分で再現してみようと修司さんは考えた。そして、若い人にも自分と同じような体験をしてもらいたいと思ったそうだ。

「我々のような年代の方にとっては『懐かしいもの』ですが、今の若い子にとっては『新しいもの』ですよね。そんな『懐かしいけど新しい』という感覚がおもしろい」と修司さんは話す。そして、「素材の味を楽しんでほしい」という思いから、保存料や着色料は使っていない。お子さんを持つ親御さんや健康に気を遣う人も安心だ。

色彩やフォントから、和モダンな高級感が漂うパッケージ。手土産にもおすすめ

店内の壁にはブランドコンセプトに合わせた動物たちが描かれている

懐かしいと新しいが共存する驚きの玉子スイーツ

いまやコンビニでも手軽に本格的なスイーツが手に入るような時代である。パティシエが腕を振るう洋菓子店も昔に比べてだいぶ増えた。しかし、それらとは一線を画すのが「tsukiji SHOURO」だ。その魅力を紹介したい。

tsukiji SHOURO のプリン。3層のハーモニーが楽しめる
「tsukiji SHOURO」のプリンは都路のたまごを使用した濃い味わいと、しっかりとした食感が特徴だ。一口食べれば、子どもの頃に食べた「昭和」のプリンを思い出す人もいるだろう。スイーツの定番であるプリンというスイーツだからこそ、他のプリンとは一味違った「tsukiji SHOURO」らしさが光る。

上部にかかるスープアングレーズ(卵黄を使ったカスタード風味のソース)はプリンの味に深みを出し、底にあるカラメルソースまでスプーンですくえば、3層のハーモニーを楽しむことができる。

tsukiji SHOURO のミルクセーキ
ミルクセーキはいまや日本人だけでなく、外国人観光客にも人気の大ヒット商品となっているそうだ。

味に奥行きを持たせるために、ホワイトチョコレートが隠し味に使われているそうだ。カスタードクリームのような色合いもあって、甘そうな印象を受けるが、実際に飲んでみると、さらりとした飲み心地と、すっきりとした後味になっており、暑い夏でもごくごくと飲めてしまうおいしさだ。甘いものが苦手な方にもぜひ試していただきたい。

これからもたまごとともに。納得のいくものだけを食べてもらいたい

玉子サンドとミルクセーキでひと休み。築地川公園にて
修司さんは現在、新たなスイーツづくりに取り組んでおり、その一環としてこれまで販売していたシュークリームを「tsukiji SHOURO」のラインナップ商品としてリニューアルするそうだ。さらに、新商品としてマカロンやカヌレ、そして贈答用の焼き菓子などの販売も計画中だという。

創業100年の玉子焼き専門店が、次の100年に向けて挑戦するスイーツプロジェクト。長期視点で取り組むからこそ、開発にじっくりと時間をかけて、納得いくものだけを販売していく。今後、どのような銘品が生まれてくるのか楽しみである。

玉子焼き専門店「つきじ 松露 築地本店」と、スイーツ専門店「tsukiji SHOURO」。どちらのお店でも玉子焼きとスイーツの両方を取り扱っているので、築地や銀座を訪れる際にはぜひ立ち寄って欲しい。きっと卵の新たな可能性を発見できるはずだ。

tsukiji SHOURO

東京都中央区築地 4-7-5 KYビル1F
03-3542-0582
営業時間:平日 9:00~18:00
休業日 :日曜・祝日・休市日

https://shouro.co.jp/