Vol.588

FOOD

04 OCT 2024

料理人御用達。こだわり抜いて作られたミツル醤油醸造元「生成り、」で、食卓の質を上げる

料理人が「塩」にこだわるとは、有名な話である。食材のみならず、プロは調味料にも妥協しないのだ。この話を元に、ふと思い浮かんだことがある。一流のシェフのように料理の腕をあげるのは難しいが、調味料を少しだけアップデートしてみるだけでも、毎日の食事がより豊かになりはしないだろうか。そこで今回は、日本人にとっての基本の調味料である「醤油」に注目してみたい。数ある醤油の中からご紹介するのは、私が知り合いのシェフ2名ほどに紹介された、プロも認める1本、ミツル醤油醸造元「生成り、」である。

ミツル醤油醸造元「生成り、」

自社醸造。福岡県糸島の醸造元が作る、知る人ぞ知る醤油

シンプルな佇まいで高級感があるパッケージ
福岡県糸島にあるミツル醤油醸造元は、近年では珍しく、原料の仕入れから製造までの全ての工程を行なっている蔵である。

そもそも醸造元が一から醤油作りをしていないのかと、不思議に思う方もいるかもしれない。実は元々はそれぞれの蔵で作られていたが、昭和38年に制定された「中小企業近代化促進法」という法律をきっかけに、醤油作りは大きな転換を迎えたのである。醤油作りの発展のために最新設備が導入された協業工場が作られ、その結果醤油の生産量は向上したが、各々の醤油蔵は仕上げの味付けや火入れを行うのみで、一から作らなくなったのだ。そのため現在では、仕込みから醤油作りを行う蔵は、全体の1割ほどと、たいへん希少なのだそうだ。

ミツル醤油という屋号は、先代の城守男さんが「満たされる、満足していただける物作りを」という想いから命名されたそう
てっきりそれぞれの蔵がそれぞれの味を作っていると思っていた私は、この事実を知って驚いてしまった。そして調べてみると、一度失われてしまった自社醸造を改めて行うためには、多大な労力が必要になるため、なかなか難しいのだという。仕込みを復活するには、技術の習得の他にも、原材料の処理から圧搾までに要する費用と手間をかけなければならないのだ。

こうした背景を理由に、ミツル醤油醸造元も、件の法律の制定から自社醸造を辞めてしまっていた。けれども4代目である城慶典さんの努力により、復活を遂げたそうだ。高校生の時から真剣に後を継ぐこと考えていた城さんは、大学で醸造学を学び、その後も7箇所の醸造元で修行を重ねたという。

そんな長年の情熱が結実し、40年ぶりにミツル醤油醸造元が一から醤油を作り出すことに成功。そして出来上がったのが、この「生成り、」なのである。

手前が「生成り、」。右奥の他メーカーの醤油に比べ、薄く柔らかな色をしている

混じりっけのない材料。ミツル醤油醸造元だからこその製法

生成色とは、漂白も染色もしていない素の木綿や麻の色を指す。この名前を冠したミツル醤油醸造元の醤油もまた、ありのままの素材が持つ旨味に良さを見出して作られている。

材料には、無農薬、かつ肥料も使わずに育てた九州産の大豆と小麦を使っているそうだ。「生成り、」は、こうしたこだわりを持って選ばれた大豆と小麦をコウジカビにつけて「醤油麹」というものを作り、さらに塩水と混ぜてもろみにし、1〜2年かけて発酵するという、シンプルな方法で作られているらしい。けれども種麹と呼ばれる「麹」の元である麹菌の種を、通常1種類しか使わないところをミツル醤油醸造元では桶毎に変更して数種類用いているなど、この醸造元だからこその繊細で複雑な工程も存在している。長年醤油作りと向き合い、研究を重ねた職人だからこそできる技なのではないだろうか。

ちなみに、ミツル醤油醸造元がある九州では甘口の醤油が主流だが、添加物を避けるためにその流れにも乗らず、独自の醤油に仕上げているそうだ。

裏のラベルの原材料には「大豆(国産)、小麦、食塩」のみ書かれている
日本には食品が溢れているが、安心・安全な食べ物を見つけるのは難しいと感じている人も多いのではないだろうか。かくいう私も、スーパーに行っては調味料やお菓子を手に取り、裏に貼られた原材料のラベルとよく睨めっこをしている。

「生成り、」は、そんな安心・安全で、かつ美味しいものを求めている人たちから、発売するや否や称賛を受けた醤油である。すぐさま料理人やバイヤーなどの間で話題となり、東京では食への感度が高い人々に向けて商品をセレクトしている伊勢丹や、自然派食品の店で購入することができる。

お刺身につけて

フレッシュかつ奥深い香りで、後味はスッキリ。刺身や卵かけご飯を楽しむ

冒頭でも紹介したが、私はこの醤油を知り合いの料理人2名から紹介してもらった。その内の1人は、家庭料理の味をよりよくするために調味料を変えるなら「醤油」、さらに「ぜひ生成り、」と、太鼓判を押したのである。

正直なところ、「醤油300ミリリットルに税込1,234円もかける必要があるのだろうか……」と、醤油にしては高い値段を前に迷わなかったわけではない。味の違いだって、料理を仕事にしていないような自分にもわかるものだろうかと、訝しがらずにはいられなかった。けれども今回試しに醤油を変えて生活をしてみて、味の違いはもちろんのこと、ちょっとした調味料の変化がもたらす暮らしの質の向上を体感し、「生成り、」を手に取って良かった、と思わずにはいられなかった。

ここからは、実際に「生成り、」を使ってみた様子をレポートしたい。

卵かけご飯に合わせて
肉じゃがなどの煮物からしょうが焼、おひたしなど、幅広い料理で使える醤油だが、今回は醤油自体を最大限に味わうべく、刺身や卵かけご飯などに使ってみた。

蓋を開けてみると、とてもフレッシュできりりとした香りが鼻を抜けてゆく。食べてみると、味にもキレがあり、少量でも十分に食べ応えを感じられた。

そして私が「生成り、」独自の混じりっけのないシンプルな味の良さを一番に感じたのは、後味だった。食べた後、口の中にすっきりと気持ちの良い旨味がひろがるのである。ちょっと醤油をつけすぎてしまったかなと思っても、しつこく口の中にいつまでも残る、なんてことがない。もう一口食べたいとつい思ってしまうような、すっきりとした美味しさである。

刺身はさておき、卵かけご飯は決して豪華な食事とは言えないだろう。けれどもこだわりを持って作られたおいしい醤油をかけるだけで、嗅覚や味覚など、いつもより5感をフルに使って食事をしたように思う。火を使っていない「料理」とも呼べない食卓だが、満足度はとても高かった。簡単かつおいしい、さらに安心して食べられる食事を取れるなんて、時間に追われている現代人にとってとても贅沢ではないだろうか。

300mlは、そのまま食卓に出しておくのにぴったりのサイズ

食卓に出しておきたくなる、洗練されたパッケージ

日本人であれば、目玉焼きや納豆に使うために、朝食から夕飯まで食卓に醤油が出ている、という方もきっと多いはずだ。私の家でも、テーブルで醤油を使う機会はとても多い。そんな時に醤油さしに移し替えると、洗い物が増え何かと面倒だと感じている。かといってテーブルの上に醤油のボトルをそのまま置くのも、どこか味気ない。けれども「生成り、」は食卓に出して置いても素敵な見た目をしており、このパッケージもまたご飯を美味しく感じさせてくれる要因の一つだと思った。

シンプルで美しいラベル
現在4代目としてミツル醤油醸造元を継いでいる城慶典さんは、大学卒業後、フードコーディネートについても学んだという。そんな城さんだからこそ生まれたこだわりなのかは定かではないが、「生成り、」のパッケージはとても洗練されている。細身の瓶にシンプルなフォント、サイズも程よく、思わず毎日テーブルに出しておきたくなるのだ。

どんな食卓にも似合うパッケージ
今回試してみた刺身や卵かけご飯の他にも、おひたしや焼き魚、冷奴など、醤油をかけるだけで完成するさまざまな料理がある日本。「生成り、」が1本テーブルにあるだけで、毎日の食事の質は格段に上がる。みなさんも醤油をこだわりのあるものに変えて、日常を少しだけアップデートしてみてはいかがだろうか。

ミツル醤油醸造元

福岡県糸島市二丈深江925-2
http://www.mitsuru-shoyu.com/