Vol.635

FOOD

18 MAR 2025

クルミをとことん味わい尽くす。ヨーロッパで出会った、クルミの食べ方

小さい頃、筆者はキャラメル集めにハマっていた時期がある。抹茶味に濃厚ミルク、チョコレートにバニラなどなど、世の中にはさまざまなキャラメルのフレーバーがあり、コレクターのように集めるのが楽しくてしょうがなかったのだ。そんな私の物事を “ディグる” 好奇心を現在満たしてくれているのが、クルミである。世界は広い。ヨーロッパには、まだまだ私が知らないクルミの楽しみ方があるのだ。

お酢にオイル、お酒まで。調べるほどに好きになる、魅惑のクルミ食材

スーパーで購入したクルミのジャムや調味料
日本でクルミは伝統的な料理である胡桃豆腐や胡桃ゆべしをはじめ、現代の食卓ではお菓子やパンとして、そしてちょっとおしゃれなビストロなどに行くと無花果などと一緒にサラダの具材としても楽しまれている。そんなクルミがヨーロッパでどんな風に楽しまれているのかを知るために、私は現在住んでいるフランスのスーパーを回ってみることにした。

そうして揃えたのが、上の写真の食材たちである。クルミビネガーにクルミオイル、クルミペースト、クルミとリコッタチーズのパスタソース、クルミと無花果のジャム。今回は見つけることができなかったが、クルミ入りのマスタードもある他、なんとイタリアでは「ノチーノ」というクルミのお酒まで作られているという。

普段は見落としていたけれど、「クルミ」に着目して探してみると、こんなにも多くの食材が見つかるのだ。

人類最古の食用木の実。世界中で愛されているクルミ

クルミの歴史は古い
洋の東西を問わず、我々人類の食文化に根付いていると言っても過言ではないクルミ。それもそのはず、歴史は古く、なんと人類は約7000年以上も前からクルミを食べていたというから驚きだ。なんでもクルミこそが、世界で最も古い食用の木の実なのだそうだ。

現在私たちが手に取ることができるメジャーな品種は、どれもペルシアクルミという種類の派生。原産である古代ペルシャでは約3000年も前からクルミが栽培されており、そこからギリシャやイタリアなど各地に広まった結果、種が増え、多種多様な料理も生み出されたのだ。

フランスのスーパーでは、果物コーナーに殻付きのクルミが並んでいることが多い

サラダに使うとおいしい、クルミのお酢とは?

サラダにぴったりのクルミオイルとクルミビネガー
日本でのクルミの使われた方を見ていると、摺ってペースト状にして用いたり、砕いて料理のアクセントにしたりが多そうである。そこで今回揃えた食材の中でも、私が日本ではあまり見かけなかった食べ方としておもしろそうだと思ったのが、クルミビネガーとクルミオイルだ。

クルミオイルは、オリーブオイルのクルミ版、と思っていただけたらわかりやすいかもしれない。クルミから抽出したオイルで、サラダのドレッシングにしたり食材を焼いたりするときに使うことができる。一方クルミビネガーは、クルミで風味付けをしたお酢のことだ。

クルミの調味料で作った3種類のサラダ
オイルとお酢を使って作れるものといえば、ドレッシングである。そこでクルミの調味料をふんだんに使って、サラダを作ってみることにした。基本は、クルミオイルとクルミビネガーを混ぜ、塩胡椒で味付けし、さらに砕いたクルミを混ぜたりトッピングしたりして使う。

作ったのは、グリーンサラダにチーズとクルミをトッピングしたものと、キャロットラペ、カリフラワーとビーツ、チーズのサラダだ。カリフラワーとビーツ、チーズのサラダは、濃い味の方が合いそうだったのでさらにクルミペーストも加えて仕上げてみた。

カリフラワーをクルミペーストのドレッシングで和える
試食してみると、クルミを使った調味料に変えるだけで一気に味が濃厚になった。クルミらしいまろやかな舌触りとコクがあり、野菜だけのサラダにも関わらず食べ応えが生まれる。最近ダイエットや健康のために主食をサラダに変える人がいるが、これなら十分にメインにできる味である。ちなみに、クルミは魚に多く含まれていることで有名な必須脂肪酸のひとつであるオメガ3脂肪酸や、ポリフェノールが豊富な食材だ。おいしいだけではなく、私たちの健康にも良い効果をもたらすのである。

ビーツを入れたため、ピンク色のサラダに
私はおいしさのあまり、クルミから作られた調味料のことをもっと知りたくなってしまった。これらは一体どうやって作られているのだろうか。油脂分の多いクルミからオイルを抽出し、クルミオイルが作られる、というのは想像がしやすい。けれどもクルミビネガーの製法は、まったくわからない。そこで調べてみると、そこには私が知らなかったクルミの世界が広がっていたのである。

クルミビネガーは、まだ未熟な青いクルミやクルミの殻を白ワインビネガーやシードルビネガーに漬け込み、数週間寝かせて作られているという。クルミといえば茶色のものしか知らなかった私にとって、青いクルミとは未知の領域だ。さらに興味がわき深堀りしてみた結果、同じく青いクルミをアルコールに漬け込んで作るイタリアのお酒「ノチーノ」を発見した。

梅酒のようにクルミを漬ける。イタリアのお酒「ノチーノ」

まだ青い未熟なクルミを漬けて作るイタリアのお酒
インターネットで「ノチーノ」と検索をかけて出てきた写真たちは、瓶に青いクルミを入れ、リキュールに漬け込んでいる姿だった。その様子は、まるで日本の梅酒のようである。

「ノチーノ」は、5月から6月にかけて収穫されるクルミを使って作られる、北イタリア伝統のリキュールの名前だ。このクルミはまだ未熟でやわらかなため、皮ごとナイフで切って使うことができるのだ。切ったものをクローブやシナモンなどのスパイスや砂糖、ウォッカなどとともに数ヶ月漬け込む。

ショットグラスなどに入れて、食後酒として楽しまれている
こうして出来上がったお酒は、やはり梅酒のように爽やかな色をしているのかと思いきや、まるでコーヒーのように重たいブラウンに仕上がるのだから不思議である。

クルミらしい香ばしい香りをまとったリキュールは、食後酒として人気なのだそうだ。イタリアには他にも葡萄の蒸留酒であるグラッパなど、アルコール度数の高いお酒を食後に楽しむ文化があるが、これには胃酸分泌を促進させ、消化を助けるというとても理にかなった効果があるらしい。

またクルミの風味を持ったノチーノは、もちろんお菓子との相性も良く、焼き菓子に入れたりアイスクリームにトッピングしたりしても楽しまれている。私の中でイタリアのデザートといえばティラミスなのだが、ティラミスに加えてもおいしいかもしれないと、思わず想像が膨らんでしまう。

日本でもお馴染みの「Barilla」が作る、クルミのパスタソース

イタリア語でクルミを意味する「NOCI」の文字
土地が違うだけで、同じ食材でも食べ方がこうも変わるのだからおもしろい。お酒にする他にも、イタリアではクルミを使ったパスタソースも楽しまれている。

今回私が見つけてきたのは、イタリアの食品メーカー「Barilla(バリラ)」のリコッタチーズとクルミを使ったパスタソースだ。バリラは日本のスーパーでも箱に入った乾燥パスタがよく出回っているので、きっと見たことがある方も多いはず。リコッタチーズとクルミのソースは、なんともイタリアらしい発想の組み合わせで、聞いただけで「おいしそう」と気分が上がる。

クリーミーかつ酸味のある味は、トマトクリームソースが好きな人であればきっと気に入るはず
クリーミーで濃厚そうなソースのため、平打ちのパスタであるタリアテッレに合わせてみた。クルミらしいまったりとしたオイリーさを、リコッタチーズが爽やかにまとめており、こちらもドレッシングにしたりパンにつけたりしてもおいしそうである。

パスタからドレッシング、肉用のソースまで、クルミペーストを楽しむ

使い勝手の良いクルミペースト
ナッツや胡麻など、油分の多い食材をペースト状にすると、なんでこうもおいしいのだろう。油っこいため食べすぎてはいけないと思いつつ、ついつい手が伸びてしまう。日本にいた頃はよく胡麻のペーストを買ってきて、ほうれん草を和えたり、うどんやそうめんなどのタレを作るのに使っていた。クルミのペーストも、同じようにさまざまな使い方ができそうな食材である。

クルミペーストとネギを使ってソースを作る
ゆでた野菜に合わせるだけでもおいしそうだが、私が好きなのが肉との組み合わせだ。胡麻だれがかかったチキンや、ピーナッツソースをかけた豚肉は、たまに無性に食べたくなる魅力に満ちている。

ローストポークにかけて食べる
今回私は、豚肉を焼いた後のフライパンに残った肉汁に、刻んだネギと醤油、塩胡椒、クルミのペーストを加えて一煮立ちさせ、クルミのソースを作ってみた。豚肉はポン酢や塩胡椒だけでさっぱり食べるのも好きだが、ナッツ類との相性もとても良い。肉汁とクルミのコクが混ざり合ったジューシーな味は、豚肉を贅沢な一皿に変えてくれる。

おやつにもクルミ!ジャムと塩メープル

クルミとメープルシロップでおやつを作る
サラダやローストポークなど、クルミの調味料で料理を作ってみたが、クルミを使った甘いものも捨てがたい。出来合いのものを買ってきても良いが、家にメープルシロップや蜂蜜があれば、自宅で簡単におやつも作れてしまう。

仕事中のおやつにもぴったり
フライパンにメープルシロップと塩を少々加え、クルミを加えて絡ませる。そしてクッキングシートの上でしばらく冷ませば、クルミの塩メープルの完成である。デスクワーク続きで集中力が途切れたときの、気分転換にも最適だ。部屋に香ばしい香りが立ち込める料理中も、濃縮した甘さを思う存分味わえる食べる時間も、どちらも癒しをくれる。

クルミとメープルの香ばしい香りをかいでいるだけで至福
他にも、甘さ控えめのビスケットに無花果とクルミのジャムを合わせたおやつもおすすめだ。無花果とクルミは定番の組み合わせ。スーパーで探してみると、いくつかのメーカーがこのジャムを作っているのを見つけることができる。

この食べ方をする時、好きな瞬間が2つある。ひとつ目は、ビスケットに好きなだけジャムをのせる瞬間だ。多すぎかなと思いつつ「もうひとすくい」とジャムを足すときは、大したことではないはずなのにものすごい贅沢をしたような気持ちになれる。

そして2つ目は、ジャムの中にクルミの粒を見つけたときだ。スプーンでクルミのごろっとしたかたまりをすくい上げ、さらに口の中に粒を感じると、思わず童心に返ったかのようなうきうきとした気持ちが湧き立ってくる。

ジャムとビスケットでおやつの時間に

まだまだ楽しめる食材「クルミ」

クルミの楽しみ方はもっとあるはず
調べれば調べるほど、多くの味わい方が見つかるクルミ。料理からおやつまで、クルミが秘めた可能性はまだまだ底が知れなそうである。

歴史が古く各地方や国の違いによって、クルミの食べ方は独自の進化を遂げている。みなさんもぜひ、スーパーはもちろん、旅行先などでクルミを探してみて欲しいと思う。きっとそこには私たちが知らない、クルミのおもしろい食べ方があるはずだ。