Vol.381

FOOD

11 OCT 2022

赤く映える野菜、ビーツを堪能。身体に栄養を、視覚にインパクトを

食の中で欠かせない野菜は、毎日のように食べているものから、知っているようで良く知らない、どちらかと言えば食べた記憶もあまりない、というものまで幅広い。その中でビーツはどちらかと言えば後者に当たる食材ではないだろうか。サラダに入っている、東欧の郷土料理で有名なボルシチに使われている…そんなベーシックな情報しか知らなかった野菜、ビーツの魅力を解き明かし、味、栄養、そして色彩を活かす調理法に挑んでみたい。

ビーツの歴史の紐を解く

食わず嫌いとまではいかないものの、食べたことはあっても、どうも興味が持てない食材がある。ビーツがそのひとつであり、これまでスーパーマーケットで見かけても購入には至らない、食指の動かない野菜であった。ゴツゴツとした武骨な外見は地味な印象で、ほのかな甘味のある味はどの食材や調味料と合わせて良いのかピンと来ず、調理が面倒そう…と、我が家の食卓には縁のないものと決めつけていた。

その考えが180度変わったのは、フレッシュパスタの着色にビーツを使用してからだ。味に癖がないためパスタの色付けにはもってこいで、小麦粉と卵と混ざり合い、美しいピンク色に変化する。その色彩は天然の素材だけがもたらすナチュラルさあふれるもので、俄然ビーツという存在に興味が湧いてきたのだ。

ビーツは調理の仕方や混ぜ合わせる具材によって、その色彩が鮮やかに変化する
ビーツはヒユ科、フダンソウ属の根菜で、日本で認知度が上がってきたのはごく最近と言えるだろう。だがその歴史は古く、オランダのアールツワルトにある新石器時代の遺跡と、史上初のピラミッドとして知られるエジプトのサッカラのピラミッドで考古学的証拠が発見されている。紀元前800年にはバビロンの空中庭園で栽培されていたと、紀元前30世紀から前6世紀まで現在のイラク北部で興った国家、アッシリアでテキスト(碑文とよばれる石碑に彫りつけた文章)も残されているほどだ。

紀元前3世紀頃から古代ギリシャ人はビーツを栽培していたが、この時代に食べられていたのは葉だけであったという。現在食用にされている部分は薬用として使用された地域があったものの、食材として扱われたのは14世紀頃からと言われている。

現在のビーツの形になったのは16世紀から17世紀にかけてヨーロッパで生まれたもので、それまでは細い人参のようなかたちをしていたそうだ。ヴィクトリア朝時代には食べ物の着色料として、あるいは頬紅や口紅にも使用されていた。

地味な外見に反し、ビーツの中身はインパクトのある色彩が特徴
ビーツは栄養価も高く、鉄や葉酸、繊維など身体に必要な成分が豊富な野菜。血圧を下げる効果のあるカリウムはトマトの2倍以上、高血圧の予防や精神の安定化に役立つと言われるマグネシウムはキャベツ、セロリの2倍の量を含んでいる。

更にビーツの特徴である赤い色素はベタレインと呼ばれ、抗酸化物質を多く含んでおり、血液の酸素運搬能力を増加させる力を持っており、スーパーフードと呼ばれているのも頷ける。

ビーツの処理の仕方

ヨーロッパや中東ではふんだんに食卓に上るビーツだが、日本では食べたことがない、あるいは調理したことがないという人も多いのではないだろうか。ビーツは茹でる、蒸す、オーブンで焼くといった調理法があるが、まずはビーツの茹で方からご紹介しよう。

最初に茎と根をカットし、皮全体を軽くこすって汚れを落とし、水洗いしておく。

鍋にビーツを入れて被さるぐらいに水を注ぎ、酢を小さじ1杯ほど入れて30分ほど茹でる。ビーツが柔らかくなったら、冷たい水を入れたボウルに入れて冷まし、皮を剥けば完成だ。

茹でた後のビーツの皮は指で剥けるほど。冷凍保存も可能だ
次にオーブンでローストする方法を。ビーツの茎と根の部分をカットし、汚れを洗い落とす。キッチンペーパーでビーツの水分をふき取った後、アルミホイルに載せてオリーブオイルと塩を全体にかける。ホイルを閉じて、180〜200度のオーブンで30〜40分ほど蒸し焼きにし、粗熱がとれたら皮を剥けば完成だ。

肉や他の野菜と一緒にローストしても。コーンのような甘味のある味わいを楽しめる

ビーツを使用したレシピに挑戦

野菜の最もシンプルなレシピはサラダだが、栄養価の高いビーツもぴったりな食材。サラダに使用するビーツは茹でた状態をカットしたもの、あるいは生でも食べられる。生で食す場合は皮を2mmほど厚めに剥いて使用しよう。

ただしビーツにはゲオスミンという物質が含まれており、これは「雨が降った後の土の香り」がすると言われている。この素朴な香りがビーツの特徴でもあるのだが、土の香りが苦手、という人もいるので、生で食す場合は香りの高いドレッシングを合わせたり、味の濃い野菜や果物を合わせるのがおすすめだ。

生のビーツを味わう際は、乾燥を避けるために盛り付ける直前にカットしよう
切り方によって味の変化が楽しめるビーツだが、生の場合は薄切りや細切りにするのが食べやすい。おすすめは野菜ヌードルカッターでヌードル状にしたもの。生の風味を美味しく味わえ、新たな食感を感じられる。他の野菜と彩り良く組み合わせれば、インパクトのある食のシーンが生まれるだろう。
また、食欲のない時にも向いているのがビーツのスープ。玉ねぎを1/2個薄くスライスしてバターで炒め、中サイズのじゃがいも1個を1㎝幅に切り、軽く炒める。じゃがいもに火が通ったら水を250ml入れ、柔らかくなるまで煮る。

火から下ろして粗熱が冷めたら、ビーツを65g分カットして入れ、ブレンダーで撹拌する。再び鍋に戻し、牛乳を250ml入れて加熱し、塩・胡椒で味付けして完成。ビーツの鮮やかさが食欲をそそり、甘みのある優しい味が身体を癒してくれるだろう。

マグネシウムやカリウムが豊富に含まれているビーツのスープは、神経を安定させる効果が期待できる

時にはカラー重視の食卓へ

ビーツの特徴と言えば、何と言ってもその色彩。紫に近いほどの濃い赤い色合いは、他の野菜では見られないほど鮮やかで、アイデアを閃かせて美しく食材に色を付けていきたい。ビーツが美しく映えるレシピのひとつがフレッシュパスタ。普段と異なるカラーのパスタが自宅で楽しめるレシピをご紹介しよう。

ビーツの手打ちパスタ

シンプルな材料、作業工程でできるフレッシュパスタ。ビーツの栄養とカラーを堪能できる

材料

・パスタ用小麦00粉230g
・全卵1個、卵黄1個分
・茹でたビーツ65g
・オリーブオイル8g
・塩ひとつまみ

作り方

1. 茹でたビーツをカットして、全卵と卵黄とともにボウルに入れ、ブレンダーで撹拌する

ビーツの粒が残らないよう、よく撹拌すると美しい色のパスタになる
2. パスタ用小麦粉をボウルに入れて中央をくぼませる。1.とオリーブオイルをボウルに入れて塩を振り、フォークで粉全体に水分が行き渡るよう、よく混ぜる。

天然素材で好みの色をつけるのは、手打ちパスタだからこそ味わえる楽しみのひとつ
3. 粉全体が充分に混ざったらひとつにまとめ、約10分間こねる。丸めてラップでくるみ、冷蔵庫で生地を休ませる。 
パスタマシンを使用した作り方は、下記の記事の「カラフルパスタ」を参照してほしい。
続いてビーツのクレープを。材料に茹でたビーツを30g、卵1個、薄力粉45g、牛乳100mlを用意し、スイーツとして食べる場合は砂糖を15g、チーズやハムを挟む軽食の場合には、塩をひとつまみを加える。

カットしたビーツと牛乳、卵をブレンダーで撹拌する。続いて薄力粉と、クレープのトッピングに合わせて砂糖、もしくは 塩をボウルに入れ、ダマにならないよう、よく混ぜ合わせて約30分休ませる。フライパンでバター(分量外)を溶かし、お玉に2/3ほど生地を入れ、フライパンを回しながら薄く伸ばして両面を焼けば完成だ。

ビーツのカラーが映えるレシピ、クレープ。その色合いを活かすトッピングを見つけたい

味と栄養、そしてヴィジュアルにこだわりを

世界には数多くの食材が存在しているが、興味が持てるのはごく一部。だがふと気付けば、新たな方向性に目を向けることが少なくなり、その結果としてあまり変化のない食の風景が繰り返されている。

料理、それは作業工程から完成した味そのものを楽しむこと。そんな日常的な意識から、食材が持つ「色」を楽しむ、という発想を付け加えると、普段は目に留まらなかった存在を試してみたくなり、料理そのものが新鮮に思えてくる。

この色彩に合う他の食材は何だろうか?どの食器を使えばもっとカラーが映えるだろう。色を活かしつつ「美味しい」と思える味付けはどうすれば良いだろうか…。

ビーツが持つのは、扱うには少々難しいと言える独自の色彩。だからこそ上手に使いこなしたいという思いが強くなる。

普段のメニューではあまり登場しないビーツのカラー。その個性を活かしてみたい
まずはビーツを使ったレシピを考えるところから始めようか。ドラマティックな色合いを活かし、素朴な味を引き立てるスパイスを考える。食卓に飾るリネンや花のカラーの組み合わせを考えて、色が映える食器を選ぶ。そして共に味わう人の笑顔を思い浮かべてみれば、想像力はより掻き立てられるに違いない。