Vol.539

16 APR 2024

〔ZOOM in 池尻大橋〕見て、聞いて、触れる。プロダクトデザイナーのあたまの中

賑やかな渋谷の隣にありながら、静かで落ち着いた雰囲気が魅力の池尻大橋。駅前の大通りから一本入れば閑静な住宅エリアがあり、小洒落た店も点在している。今回ご紹介するのは、暮らしを豊かにする道具が並ぶ「TENTのTEMPO」。プロダクトデザイン会社が運営しており、実物のプロダクトに触れながら開発ストーリーやプロセスなどを解説してもらうことができるユニークな店だ。

見上げる。見下ろす。池尻大橋

池尻大橋と言えば、ジャンクション
駅名の「池尻大橋」とはどこにあるのか。橋といえば川。ということは、一番近い目黒川?
調べてみると、そのような名前の橋はどこにもない。

東急玉川線があった時代の世田谷区池尻町に「玉電池尻」、目黒区上目黒に「大橋」、それぞれの電停があり、それらのほぼ中間地点に設置されたことから「池尻大橋」の名称とされた合成駅名であるとのこと。

ダイナミックな高架下の景色
大橋はないが高架はある。池尻大橋といえば、このダイナミックな高架下の景色を思い浮かべる方が多いだろう。

迫力のある高架下の景色
高架にそって進んでいくと、おお、本当にすごい迫力。夜景写真を撮りにきたら楽しいだろうな。そんなことを考えながら、さらに登っていくと———

池尻大橋のオアシス「目黒天空庭園」
驚くことに、広々とした庭園につながっていた。いつも見上げていた池尻大橋の景色を、こうして見下ろせる場所があったとは。

ぐるっとOの字を描くような形状も意外性があって面白い。この庭園は国土交通大臣賞やグッドデザイン賞など各賞を受賞しているのだそう。

よくあるオシャレ道具店じゃない「TENTのTEMPO」

「TENTのTEMPO」外観
グッドデザイン天空散歩を楽しんだ後は「TENTのTEMPO」へ行ってみよう。

「TENT」とは2011年に中目黒で活動開始したプロダクトデザイン事務所で、「つくる」に関わるあらゆるものごとの企画・デザイン・ディレクションを行うクリエイティブユニットである。

「TENTのTEMPO」内観
「TENTのTEMPO」では、これまでにTENTが手がけてきた様々な製品の実物に直接見て触れられるほか、店頭に立つデザイナーと話すことも可能だ。

これまでTENTが手掛けたプロダクトたちは文具、食器、雑貨、家具、家電とジャンルを横断したラインナップで、多くの企業とコラボレーションしている。

一つひとつをじっくりと見て、手に取っていくと「なるほど、これはたしかに嬉しいデザイン!」と膝を打つ製品ばかり。

ショーウインドウに書かれたショップのコンセプト
TENTのプロダクトは「ミニマルさ」と「便利さ」という一見相反する2つを融合した、本当に暮らしの中で使いやすい道具を目指しているという。

あくまで道具としての機能を重要視しながらも、単純に使い勝手のよさを追求しているわけではない。一つひとつのプロダクトから感じられるのは、使う人の生活がより豊かになるような工夫で、キャプションを読みながら手に取ると、利用シーンがリアルに立ち上がって見えるような感覚が面白い。

デザイナーズプロダクトはさぞかし高価だろうと思いきや、手ごろな価格帯も非常に嬉しい。

コレすごくいい!TENTの暮らしの道具たち

置かれているプロダクトは実に多岐にわたる
ショップ内にはたくさんのプロダクトが置かれており、すべてを紹介したいくらいなのだが、ここでは筆者が個人的に「すごくいい!」と感じたものを一部ピックアップしてご紹介する。

出しっぱなしにしておきたい掃除道具。BRUSHUP

BRUSHUPシリーズ「BOOK」
生活感が出てしまいがちな掃除の道具。見せたくないなら使った後に収納してしまえばいいのだが、散らかりがちなデスクの上だとか、ちょっとしたときにサッと掃除したいが、掃除道具を出したりしまったりが少し面倒だというシーンは多い。

そういうわけで、つい掃除道具を出しっぱなしにしたり、あるいはゴミが出しっぱなしになったりで、なかなか片付かない。そんなお悩みは、この「BRUSHUP」シリーズで解決できそうだ。

BRUSHUPシリーズ「BAR」
このシリーズは、友安製作所とTENTのコラボレーションプロダクト。

友安製作所は1948年にネジや金属製のカーテンフックの製造で成長した企業で、約20年前にインテリア商品の輸入・販売を開始。現在は創業時から培ってきた鉄加工の技術を活かし、家具や雑貨など、インテリアを中心とした新しいものづくりを行っている。

「BRUSHUP」は、ブラシが使われるさまざまなシーンを想定した6つのデザインを展開。ホウキとチリトリが一体化するデザインで、使う時の使いやすさはもちろん、使わない時の佇まいもミニマルで生活空間に馴染みやすい。

うつわのような家電。STAN. by ZOJIRUSHI

象印おなじみのゾウさんのロゴ
1918年創業、魔法瓶を中心に炊飯器、電気ポット、ホットプレートなどの調理器具の製造販売を行う電機メーカー、象印マホービン株式会社。創業から101年目の新たなスタートを迎え、現代の暮らしに合わせて新たに生み出したのが「STAN.」シリーズだ。

生活空間に馴染むデザイン
TENTはプロダクトデザイン及びクリエイティブディレクションを担い、キッチンや食卓になじみ、食の楽しみを見せたくなる、現代の暮らしに寄り添ったデザインを取り入れた。

まな板で食べてもいいじゃない。CHOPLATE

まな板にもなる皿「CHOPLATE」

切ってそのまま皿として使える
大手メーカーの自動車や家電などの精密部品を数多く製造してきた、大阪のプラスチック成形加工メーカー 株式会社河辺商会とTENTが開発した、まな板になるお皿「CHOPLATE」。

「見たことある」「持っている!」という方も少なくないはず。こちらの製品は、公開直後から大きな話題となり予約が殺到。累計販売数は9万枚以上という大人気の製品だ。

まるでレコードのようなパッケージ
ちょっぴり後ろめたさを感じながらも、まな板でカットしたフルーツをそのまま食べたい人や、子どものためにテーブルで食べ物を切り分けたい人、洗い物が面倒に感じるほど忙しい人には、この「CHOPLATE」をおすすめしたい。

そんなシチュエーションに最適な、まな板になる皿。独特の模様とザラついた表面仕上げで、食べ物が美味しそうに見え、ナイフ傷も目立ちにくくなっているという。

軽量で高硬度なSPS材を成形するのは河辺商会の技術力ならでは。強度も十分で、アウトドアにもぴったりだ。パッケージもユニークで、ちょっとした贈り物にも◎。

つくると食べるを一緒に。FRYING PAN JIU

可愛らしい見た目
1951年創業の、大阪の小さな町工場・藤田金属株式会社とTENTが開発した、お皿になる鉄フライパン「FRYING PAN JIU」。

山形県天童市で作られた無垢の木材と、スライド機構の軽快な動きで、使うたびに嬉しくなる専用ハンドル。 塗装なし、厚さ1.6mmという厚手の黒皮鋼板だから美味しく焼けると評判のフライパンだ。

ハンドルとフライパンが分離できる
ハンドルが脱着可能なことによって、スタッキングができ、オーブンにも入れやすい。フライパンで調理したら、お皿としてそのまま食卓へ。「作る、食べる、洗う」その全てが効率良く、スタイリッシュになる道具だ。

コピー用紙を諦めない。UPRIGHT

コピー用紙を立ててみよう
「用途として不足はない」「実用品だからしかたない」

生活はそういう物事の積み重ねだが、そこで諦めないことがいかに素晴らしいかを痛感させられるのがこちらのプロダクト。

コピー用紙を買ってきたら、包装紙をビリっと破いてそのまま使う。見た目はちょっと嫌な感じだし、たまに引っかかって取り出しづらい。まぁそれって、ごく普通に仕方ない光景だと思っていた、この製品を見るまでは。

このモシャっとが———

立てるとこんなに美しい
500枚のA4用紙を、まるごと立てられるスタンド「UPRIGHT」は、TENTとアウトドア製品などを展開するtwelvetoneが共同で立ち上げたidontknow.tokyoというプロダクトブランドのプロダクトだ。

シンプルな中にもこだわりのポイントが。紙を受ける部分をわずかに直角より鋭角にすることで、紙が1枚1枚わずかにずれて重なるようになり、一枚ずつの紙が取りやすい。

インテリア小物になる栞。BOOK YACHT

ヨットのようなデザイン
このプロダクトは、読書の時間がもっと楽しくなること間違いなし。読みかけのページを帆の上におけば栞になり、その本はそのままインテリアの小物に。

宙に浮くようにも見える
お気に入りの本とともにベッドサイドに置けば、一日の終わりがもっと素敵になるはず。本が好きな友人に贈りたい。

食器は石鹸で洗う。TEILE

シンプルで使いやすい道具
キッチンの食器用洗剤は生活感が出てしまいやすいアイテムの一つ。海外製品を使ったりディスペンサーにこだわったりと試行錯誤することがあるが、そもそも液体洗剤以外の選択肢があるとは、まさに目から鱗。そんな製品がこちら。

洗い物が楽しくなりそう
キッチン用固形洗剤メーカーであるダイニチコーポレーションとTENTが提案するのは、「作業」だった食器洗いを「お手入れ」へ変える新しい洗浄用品シリーズ。

ダイニチ独自の固形洗剤と、その性能を十分に活かせるスポンジ。使い方は簡単で、スポンジに石鹸を1、2度擦り、泡立てて使用する。スポンジはとても丈夫でへたらないと評判とのこと。

デザインの役割を見つめ直す

TENT・青木氏の父上が制作した「HAND LAMP」
デザインやクリエイティブの仕事と聞くと、オシャレやセンスに直結する印象を持つが、TENTのデザインは外側の装飾ではなく「目的」と「使う人の本音」に焦点が当てられているようだ。

彼らが考案したプロダクトを手に取ると、オシャレかどうか感じるより先に「ありがとう」と言いたくなるものが多い。

普段使っている道具に対して、不便はしないけれども些細な違和感を感じてしまう人は、ぜひ店舗に足を運んでみてほしい。「そう!こういうのが欲しかったんだ!」というものに、きっと出逢えるはず。

上の写真はTENTの共同代表である青木氏の父上がデザインしたハンドランプ。1986年にグッドデザイン賞を受賞したプロダクトで、今もさまざまなシーンで使われているロングセラー商品だ。

長く愛されるプロダクトデザインとは、時代背景などの垣根を超え、あくまでも道具として、使う人にとってそれが何なのかをじっくり探究していくことなのかもしれない。

TENTのTEMPO

東京都世田谷区池尻2-15-8
営業時間 平日:14:00~18:00 / 土日祝:13:00~18:00
定休日:月曜(平日は不定休のため営業情報は公式Xをご確認ください)

https://twitter.com/tent_1000

オンラインストア
https://tent1000.stores.jp/