Vol.526

01 MAR 2024

〔ZOOM in 西五反田〕真鍮製の照明をヴィンテージに育てるインテリアショップ「POINT NO.39」

昼から夜に近づき、暗くなった部屋で照明を灯す。スイッチひとつで、同じ部屋なのに、明るかった昼間とは全く違う表情。蛍光灯とは違い、光と影の演出がいかに心を楽しませてくれるものかを教えてくれたのが、表面に塗装を施さない無垢の真鍮を使うことにこだわり、1920年代のアメリカをイメージしたオリジナル照明器具を扱うインテリアショップ「POINT NO.39」だ。2023年8月に目黒から西五反田に移転し、店舗を拡張したと聞き、足を運んだ。

TOC閉店の一方で有名ホテル進出も。勢いのある五反田エリア

JR山手線、都営浅草線、東急池上線と複数路線が乗り入れる、便利な五反田。たくさんのオフィスや飲食店が立ち並び、にぎやかな印象を受けるが、駅から少し離れれば静かな住宅街や個性的な個人店が並び、目黒川沿いでは人々が散歩やランニングを楽しむ穏やかな光景が見られる。

駅ビルや商業施設がひしめく五反田駅前
五反田のランドマークといえば、卸売ビル「TOC」だ。24年3月で閉店して建て替え・再開発が進められるということで地元民からはしばしの別れを惜しむ声が。一方で、星野リゾート運営のまち歩きを楽しむ都市観光のためのホテル「OMO5東京五反田」が4月に進出するなど、いま、街が移り変わるただ中にある。

五反田で長年愛されてきたTOCを現在の姿で楽しめるのも、あとわずか

パーツの海外輸入や自作も。1920年代のアメリカをイメージしたオリジナルデザイン

「1920年代ヨーロッパの雰囲気を持つアメリカ」をコンセプトにしたインテリアショップ「POINT NO.39」が移転したのは、五反田駅から徒歩約7分の場所。路地裏にある2階建ての倉庫を改装し、10年間、目黒で構えていた店よりも店内の総面積が3.5倍の約248平米にパワーアップした。

1階はオリジナル照明を中心にラインナップしているほか、コーヒーとクレープを楽しめる「SUNAO COFFEE」がある。2階はヴィンテージ・アンティークの照明や大型・小型の家具をそろえるスペースになっている。

「地域や業種を越えた人々の交流拠点」になることを目指し、年代もデザインもさまざまなイスをそろえた「イス展」といったイベントも企画中とのこと

2階には1920〜70年代のアメリカやイギリス、フランスなどの家具や雑貨がズラリ。アメリカのアンティークモールを意識したという空間

宝探しのように掘り出し物と出会えるのが醍醐味。リペアも行っていて、ちょうどシネマチェアの座面を張り替え終えたところ

ハンドドリップコーヒー&バターシュガークレープを提供する「SUNAO COFFEE」

先端はパリパリ、下の方はしっとり食感のシュガーバターレモン600円。レモンの香りが爽やか! ほか、チョコレートやハム&チーズなどもある。ドリップコーヒー420円
「POINT NO.39」の看板商品といえば、無垢の真鍮素材を使ったオリジナルデザインの照明器具。ペンダントライト、シャンデリア、ブラケットライト、スタンドライトなどを扱い、オーダー後に自社の工房で制作している。

「将来のヴィンテージとなる素材と作りにこだわっています」と​​オーナーの杉村聡さん。

「ヴィンテージ家具や照明も初めは全て新品でした。経年変化を楽しめる真鍮無垢の素材をベースに使い、普遍性のあるデザインを心がけています。もちろん、長く楽しんでいただきたいので、修理もできるようにしています」

オーナーの杉村聡さん

注文を受けたあと、目黒にある自社工房「ウェアハウス」で制作している。修理もここで行う。近くには2号店『POINT NO.38』がある
デザインは、ヨーロッパの影響が色濃かった1920年代のアメリカの要素を取り入れたオリジナル。真鍮無垢と相性の良いスチールやガラス、シェードなどにコットン素材などを組み合わせ、多彩なカスタムオーダーができるようになっている。

パーツも、アメリカを中心に海外から独自で輸入し、理想のものがない場合は自作。現代のコードは化学繊維のレーヨンのものが多いが、当時のスタイルどおりツヤ感を抑えたコットンで作るために、 スーツの仕立て工場に依頼して編んでもらっているものもあるのだとか。細部までこだわりがあり、ずっと見ていたくなる楽しさだ。

「1920年代のアメリカのデザインは、すごくかわいいんです。電球の明るさがまだ十分でなかったから、電球をいっぱいつけて街灯にしていたりして。当時のデザインを追求するために、当時のカタログを海外のオークションサイトで探したりしました」

天井にはデザインが異なる無数の照明が

「どうやったら光を綺麗に見せられるかを考えて、なるべく無駄を削ぎ落としたシンプルなデザインにしています」(杉村さん)

パーツの細部までこだわりが

当時を舞台にした『華麗なるギャツビー』などの映画からデザインのインスパイアをされることもあるのだとか

LED電球でも暖かな色合いを楽しめる。種類も多様で、組み合わせによって、デザインの印象もガラリと変わる。白熱電球や、スマート電球対応の商品もあり

パーツの組み合わせもバリエーション豊か

スタンドライト

ペンダントライト
杉村さんは、経年変化を楽しむことを「育てる」と言う。真鍮の表面にクリアコーティングを施さないことで、使うごとに風合いが変わるだけでなく、傷が増えていくのも味わいに。実は、素材選びのこだわりには、物を大量生産・大量消費するのが当たり前になっている現状へのアンチテーゼがある。

「アメリカやヨーロッパには、物を大切にして、それを受け継いでいく文化があります。100年後、自分達がつくった照明が『アン ティーク』と呼ばれるようになるまで捨てられずに残っているなら、それは本当に、本物だなあと思うんですよね」

オリジナルデザインのほか、アメリカを中心に海外から買い付けたヴィンテージの照明もラインナップ

取材中、杉村さんのあとをずっとついて回っていた看板娘のヤギちゃん

異なるデザインを複数使いする

「POINT NO.39」のアイテムを部屋に取り入れたらどうなるか。杉村さんの自室を見せてもらった。

「自宅は新作の照明の調和などを見るための実験として使うことが多く、実際に数ヶ月間使ってみるんです。照明の高さを変えてみたり、光の色合いを変えてみたり。照明って、電球を入れ替えてみるだけでも、家具の見え方が全く変わるのが魅力なんですよね。そういった遊びがあると、暮らしが豊かになると思うんです」

ソファはイギリス製、ダイニングテーブルとチェアはアメリカ製、と自宅にある家具や雑貨類は時代や国もバラバラにしている
天井には、2種類の照明を使用している。

「高さやデザインが対照的なものを取り入れつつ、これらを共存させることで、空間を分ける効果を生み出しています。ただ、素材の組み合わせなどで統一感が出るようにはしています。

高さがある方(写真奥)は男性的なイメージのインダストリアルなデザイン、低い方(写真手前)は女性的なイメージのアールデコ風のデザイン。まったくデザインが違う物を複数使うのもオススメです」

高さのあるインダストリアルなデザイン

高さが低い方のシャンデリアは左右対称のアールデコ風デザイン
また、スタンドライトの使い方も特徴的だ。観葉植物がある窓際のスペースに置いているのは、空間に奥行きを出すため。

「窓際は植物が育ちやすい場所ですけど、夜はさみしいですよね。光が届かない場所に照明を足して、壁に光を当ててあげることなどで、空間に奥行きが出るんです。ライフスタイルや家具の配置によって、1灯だけでなく、複数組み合わせてみてください」

スタンドライトは明かりを補いたいところにプラスするとよい

住人と共に歴史を刻む照明を「育てる」楽しみ

筆者が自宅で愛用している「POINT NO.39」のアイテム。リビングで

寝室の天井には、光の広がりが美しいデザインのものを採用

ベッドサイドにはスタンドライトを1灯置いて、読書を楽しんでいる
杉村さんが照明の魅力に目覚めたきっかけは、アメリカからの買い付けから帰国した時のこと。

「日本に帰ってきて、高層マンションを眺めると、真っ白な光がやたら多いことに気づいたんです。アメリカでは、白い光はオフィスやお店だけで、民家はオレンジ色の光で生活している。

そもそも、人間は太陽が昇って沈むのにあわせて生活していて、寝る前は穏やかな光に包まれて寝る準備をし、朝は太陽の光で起きるのが自然だと思うんです。光と人間は切っても切れない関係。日本にいると気づかないことですが、自分で”光”の役割を広めていくことができたら、と思ったんです」

人間の暮らしと共にある光。「POINT NO.39」は、そんな人間と光の根源的な結びつきに気づかせてくれる。

部屋は、住んだ年数だけ、その人の味わいが滲み出てくるもの。家具が味わいを増し、照明もいつかヴィンテージに育ったとき、私たちはどんな人になっているだろうか。

POINT NO.39

東京都品川区西五反田7丁目19-3
営業時間12:00-20:00
定休日 水曜

https://clownandsons.co.jp/
https://www.instagram.com/point_no.39/