Vol.497

21 NOV 2023

〔ZOOM in 日本橋馬喰町〕うつわ、工芸の世界が広がる。ユニークな複合施設「TOIビル」

芸術的な意匠をこらし、高度な技術をもって生み出される日用品“工芸品(クラフト品)”。漆器、陶磁器、木工品、染織品などの伝統工芸品が、全国には237品目 (経済産業省指定、令和4年3月18日時点)あるという。大量生産される安価な日用品が手に入る現代、工芸品を選ぶことの良さとは何なのだろうか。 江戸時代から日本の商いを支えてきた問屋街・日本橋横山町に2022年7月に誕生した、うつわを中心に扱う工芸品の複合施設「TOIビル」でその意味を探ってみた。

江戸時代から続く問屋街、日本橋横山

日本橋横山町は、100年以上続く老舗カバン専門卸や洋傘の専門店、服飾雑貨専門卸など、さまざまな店が並ぶ日本最大級の問屋街。「TOIビル」は日本各地で受け継がれる工芸である“うつわ”を軸とした複合施設で、“問”屋街から、これからのクラフトを考える新たな"問い"を立てることをコンセプトにしている。

運営しているのは、伝統工芸のプロデュースをしている会社「Culture Generation Japan」。代表取締役の堀田卓哉さんは、「日本橋横山町は今、昔から街にいらっしゃる問屋のみなさんはもちろん、私たちのような新しく街に入ってきたプレイヤーなどがどんどん混じり合っていて、まさに変化していっている途中のように感じます。そういった意味では、完成した街ではなく、発展途上の街なんです」と話す。

例えば、同じ街にある問屋・住民・企業がフラットに繋がって問屋街を“面白がる”交流場「+PLUS LOBBY 日本橋問屋街」などとのコラボイベントも実施している。今までの問屋街は、「一般販売お断り」などの閉じた世界というイメージが大きかったが、業界外の人々にとっても楽しめる街になりつつあるようだ。

「TOIビル」の前の通り

うつわを中心に、日本全国の工芸との出会いの場に

そんな日本橋横山町に誕生した「TOIビル」は5階建てで、1階はうつわと料理のマリアージュを楽しめる飲食店(現在新店準備中)、2階はセレクトショップ&ツアー案内所「Onland Store(オンランド・ストア)」、3階はうつわのサブスクリプションサービス「CRAFTAL(クラフタル)」のショールーム(要予約)、4階はオフィス、5階はうつわやものづくりなどへの愛を語るスナック「QUESTIONS(クエスチョンズ)」という構成。

1階から5階まで、うつわを軸とした工芸づくしのTOIビル
2階のセレクトショップ&ツアー案内所「Onland Store(オンランド・ストア)」は日本各地のものづくりに触れるツアー「Onland(オンランド)」をプロデュースする全国のローカルプロデューサーがセレクトしたうつわなどの工芸品の販売をしていて、定期的に商品が入れ替わる。取材時は東京都がテーマで、一枚の金属板から二重構造のうつわを成形する独自の技術「一枚鉸(ひとひらしぼり)」による高桑製作所のグラスや酒器、さまざまなカットが美しい「江戸切子(えどきりこ)」による木本硝子のグラスや酒器、廣田硝子の醤油差しなどが並んでいた。

技術力を感じられるものや、現代のデザインを取り入れた斬新なデザインなど、いろんな東京の工芸の側面が垣間見られる(東京の企画展は11月25日(土)まで)。

2階「Onland Store(オンランド・ストア)」

東京で活動する陶芸家/修復家の竹村良訓さんの作品。写真奥の「ポテトケース」11,000円(税込)はポテトを入れてもよし、フラワーベースにしてもよし

廣田硝子による江戸切子の醤油差し各2,750円(税込)

3階は、うつわのサブスクリプションサービス「CRAFTAL(クラフタル)」のショールーム。飲食業の関係者向けだが、サブスク自体は一般の人もオンラインから利用することができる。

月額3000円(税込)で5点、5000円で10点のうつわを月替わりで楽しむことができ、有田焼(佐賀県)、美濃焼(岐阜県)、瀬戸焼(愛知県)、会津本郷焼(福島県)など、日本全国の窯元・陶芸作家の作品が300種類を取り扱っている。レストランなど飲食店のプロの料理人も利用しているだけに、寿司などの華やかな料理にも負けない高品質なものがそろう。

日常のなかで特別感を演出できるので、毎日の食事で気分を変えたいときや、来客時のおもてなしにもよさそう。スタイリングの好みを伝えれば、プロのスタイリストがセレクトし、うつわの特徴や作家・窯元のエピソードストーリーと一緒に届けてくれる。

ショールームとしての利用のほか、一般向けのワークショップのスペースにもなっている。常滑急須でのおいしいお茶の淹れ方のワークショップや、常滑焼茶碗を使ったテーブル茶道体験、花器を使った生け花教室などを実施してきたほか、今後は、金継ぎや陶芸体験教室なども予定しているとのこと。

3階のショールームは、希望があれば要予約で一般客も見ることもできる
5階のうつわやものづくりなどへの愛を語るスナック「QUESTIONS(クエスチョンズ)」では、ママとのうつわトークと一緒に、各地のお酒、そしてそれらに合わせたぐい呑で楽しむことができる。2階で展示・販売中の作家さん自身がママになることもあるのだとか。うつわの話を聞きながら、実際にそのうつわでお酒を飲めるというのは得難い体験ではないだろうか。

作家さんのほか、「TOIビル」スタッフや「Onland(オンランド)」のローカルプロデューサーがママを務めることも

プロも利用するうつわのサブスク

ここからは、うつわのサブスクリプションサービス「CRAFTAL(クラフタル)」をピックアップして紹介。さまざまなうつわで彩る日常とはどのようなものか、サブスクで借りられるうつわの一例を、実際に使ってみよう。

使用したうつわたち

「グリーン プレート」(恩田陽子、16cm、岐阜県/美濃焼)

岐阜県瑞浪市に工房を構える恩田陽子さんの作品。子育てをする日々の暮らしの中で感じた、使いやすい・使いたいうつわを中心に作陶しているのだそう。シンプルな形状、シックな釉薬表現は、何を盛っても相性が良さそうだ。

コンビニの豆大福を載せるだけでも、高級スイーツのように。もう少し大きめのサイズもあり、そちらは朝ごはんでサラダや目玉焼きなどを盛ってワンプレートで使える

「朝鮮唐津櫛目 パスタ皿」(中垣連次、25cm、岐阜県/美濃焼)

織部・志野といった伝統的な美濃焼の技法を現代の食卓を彩るうつわへ反映させる、美学や技術を感じられる中垣連次さんの作品。美しい櫛目や、水墨画を思わせる釉薬が特徴だ。

フラットなので、高さが出せる料理が映える

「霧流し 曲鉢 M BK」(白井渚、石川県)

日本の伝統技法「墨流し」を取り入れた独自の技法「霧流し」による、水墨画を彷彿とさせる濃淡が魅力のうつわ。磁器土を使った緩やかな流線が美しい。

スーパーの惣菜を盛っただけだが、料亭のような一品に。横から見たときの流線、水墨画のような白と黒の濃淡が、カラフルなサラダやフルーツを引き立てる

「碧彩 ボウル 小」(大日窯、京都府/京焼・清水焼)

陶芸家の竹村氏が自ら育てたひまわりや、杉、葡萄などの自然の植物を灰にし釉薬として使っており、自然の植物ゆえ素材によってそれぞれ異なる色が現れる。⻘色のグラデーション、釉薬が結晶化した中心部の溜まり部分も美しい。外側の釉薬が垂れている表現も面白い。

エビのビスクなどのスープや汁物との相性が抜群。具だくさんのポトフも楽しげな雰囲気に
いろいろなうつわを使ってみて思ったのは、「主役は料理ではなくうつわである」ということ。量産品の食器を使うときと違い、「このうつわに合わせるには、どのような色彩を加えるのが良さそうか」「この料理はどのうつわを使うと映えそうか」と考える。料理を作ること、食べることだけでなく、「うつわを楽しむ」という食の楽しみが一つプラスされるのだ。

「CRAFTAL」担当の髙橋由美さんは、こう話す。

「伝統工芸品のうつわは、同じ作家さん・窯元の作品であっても、一つ一つの表情が違っていたりするんです。そういうところに愛着を感じていただけると思います。料理が得意じゃなくても、スーパーのお惣菜や、コンビニスイーツだって、ただ伝統工芸品のうつわに移すだけで食卓の雰囲気がガラリと変わるんですよ。それだけでも毎日の気持ちが華やぎますよね」

伝統工芸品というと、高額でそろえるのが難しいこともあり、ハードルを感じる人も多いはず。しかし、サブスクなら気軽に楽しめる。全国各地のうつわで日々の食卓を変化させながら、それぞれのストーリーに思いを馳せる。そんな新しい楽しみ方を知ることができるだろう。

自分に合ううつわ、日常を彩るうつわとの出会い

酒飲みとしては心惹かれずにはいられなかった、木本硝子のグラス「Mai 3 レギュラー <和>」3,080円(税込)を購入。精米歩合30%の丸くコロンとした酒米のシルエットをモチーフにデザインされていて、お酒を注ぐとキラキラと輝く
よい食事をした一日は、最高の気分で過ごせる。それは、食事の味だけでなく、見た目や内容にもよるところも大きい。うつわ選びは、その食事の質を大きくアップさせてくれる。

「TOIビル」では、東京にいながらにして、日本各地で受け継がれる工芸を知り、触れ、実際に手に入れることができる。数ある工芸品から自分の好みに出会える、新しいきっかけになるはず。

今後は、1階に器と食事の組み合わせを楽しめる飲食店が入店する予定とのこと。日本橋横山町で器と工芸品のカルチャーがどう展開されていくのか、今後も楽しみだ。

TOIビル

東京都中央区日本橋横山町5-18 TOIビル
営業時間:12:00~19:00
定休日:日・月曜

https://toi-bldg.jp/

CRAFTAL|クラフタル