Vol.516

26 JAN 2024

〔ZOOM in 渋谷神山町〕奥渋の人に愛され続ける「SPBS」とは?

感度が高い人々が集う街として知られる「奥渋」。ここが奥渋と呼ばれる前から、多様な客層に支持されているのが今回ご紹介するSHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(通称SPBS)だ。SPBSは本屋という形ではあるが、普通の本屋の品揃えとは全く異なるのが特徴。「奥渋」に集まる人の感性を支えているのは、もしかすると、この本屋なのかもしれない。

感度高め。奥渋

商店街のフラッグ
奥渋エリアを歩いてみると、新しいものと古いもの、スタイリッシュなものと生活感あふれるものとが混在していることに気づく。冒頭で「感度の高い人々が〜」などと当たり前のように書いてしまったが。そもそも、感度って何だろう。流行の感度?そんな、まさか。

商店街の魚屋さん。達筆だ
感度が高いというのは、あくまで自分の尺度で良いものを見つけられることだと思う。たまたま見つけた魚屋さんの定食が素晴らしく美味しかったことだとか。

だれかが作った小さな秘密基地
緑が生い茂る空き地に、小動物たちを見つけて笑顔になったこととか。

洒落た店もあるけれど、生活感も程よくあって、静かに遊んだり学んだり休んだりできる街。このゆとりのある独特な雰囲気が好きな人はきっと多いだろう。

用事がなくとも入りたい本屋「SPBS」

レトロなビルの1階にあるSPBS
「みんなが買ってる」と言われれば欲しくない。それと逆に「私が買わなきゃ誰が買うの?」くらいのものが愛おしい。「あの人の喜ぶ顔が思い浮かぶ」ような、すてきな贈り物も見つかるかもしれない。それがSPBSという場所だ。

本の他に、古着や雑貨も並ぶ
店内に入ると、本以外のものに目が行く。古着や雑貨などもあり、見ているだけで楽しくなる。「本を選びに来たのに、うっかりセーターまで買ってしまった」だとか、「友達のプレゼントを選びにきたのに、自分用に本を買いすぎてしまった」だとか。

日々の営みに押し潰された好奇心をぐいぐい引き出してくれるような、フックの効いたキュレーションがたまらない。

きみ、さっきお外の花壇にいませんでしたか?

知っている。オシャレな人はみんな使っている

本屋好きのための古着?
SPBSのキーワードは「入り口の本屋」。雑貨、古着、ギャラリーの展覧会。どんなものでも来店のきっかけになればという思いから、本がある生活にしっくりくるような物販コーナーを設けている。普段は本を読まない人でも、この店は大いに楽しめると思う。

もちろん、SPBSで扱われる本のファンは多い。読書に慣れていない人でも、つい手に取りたくなるような面白い本たち。雑貨と本を組み合わせてギフトにする人も多いようだ。

本と小物の組み合わせ。気取らない贈り物にぴったり。

実は年代別の名作揃い。SPBSの本棚

エントランスから入って右側の本棚
各本棚に陳列されている本は、各カテゴリーごとにまとめられており、そのセレクションと一緒に注目していただきたいのが、本棚のデザインだ。

写真上はソーシャルと文芸のセクション。右側が40年代のアンティーク。左は50年代のCharles & Ray EamesとCharlotte Perriandのシェルフ。手前には平積みのコーナーがあり、雑誌や絵本、リトルプレスが並ぶ。

ギャラリースペース手前
こちらは60年代のDirectional Funituresのもの。その左に少し写っているのはGulio Polvaraのシェルフ。左側へいくとコミックが並んでいる。その奥の深緑色の小部屋は、作家たちが展示するギャラリースペースだ。

レジ手前には料理本
左から90年代Ron Arad、2000年代のNeuland、Naoto Fukuzawa、Yasumichi Moritaのシェルフ。筆者は右の料理本コーナーがたまらなく好きだ。料理本と言ってもレシピ本だけではない。エッセイや小説もある。

日本をテーマにした本棚
こちらは日本がテーマになっている。少しマニアックだったり難しそうだったりもするが、美しい装丁の本もあり、興味をそそられる。

本棚ごとにジャンルが分かれており、それぞれ一名ずつスタッフが担当し、選書も行う。選書には明確なルールがなく、各スタッフがおすすめしたい本をセレクトしているのだそう。どの棚も個性があり、他人の家の本棚を眺めているような面白さがある。

世界がテーマの本棚
それぞれテーマ別の本棚をじっくり見ていくと、とても楽しい。同じジャンルやトピックでも、さまざまな切り口の本があるものだなあと感心してしまう。こちらは世界をテーマにしたコーナーだろうか。インド、台湾、アメリカ、ソウル。一冊持って近くのカフェで読んでみても良いかもしれない。

そしてこちらはEttore Sottsassのシェルフ。

担当者の手書きポップがまた良い
アート本のコーナーにこんなポップが。「ビビッとくる写真集、探してみませんか。」

探してみよう。ハードルが高そうな本でも、ちょっと手にとってみようかなと思わせる気軽さが心地よい。写真集を読むとウイスキーが飲みたくなるのは筆者だけ? 

ちなみにSPBS立ち上げ当初はアートブックが中心のブックセレクトだったそうで、それこそこの近辺で働いていて感度の高い「THE業界人」の方たちが写真集などを買い求めにくる店だったのだそう。

SPBS文庫選も人気
こちらはSPBSで人気が高い文庫を集めた「SPBS文庫選」。こちらもファンが多いコーナーなのだそう。

棚のセレクトに関しては、ジャンルが変わることもある。たとえば、コロナ禍で観光客が減ってしまった時期は、今はある日本の棚はなく、お家での過ごし方やセルフケアへの感心高まりに合わせてライフスタイル関連の本を充実させるなど、その時々で工夫しているという。さらに現在は観光客も復活し、意外なものが動きを見せている。

リトルプレスやZINEは海外の人にも人気が高い
それは、個人や団体が自らの手で制作した少部数発行のリトルプレスと呼ばれる出版物だ。海外の方に人気がある理由は定かではないが、写真やイラストで構成されているものなら言語の壁がないことと、英語版の作品も多いからではないかと考えられている。

確かにどれも目新しく、装丁や製本にこだわっているのがよくわかる。SPBSスタッフのポップも力が入っているのが伺える。

ガラス壁の先はオフィス

店舗の奥にはオフィススペースがある
店舗の奥にはオフィススペースが続いている。店舗部分との仕切りはガラスだけで、店側からもオフィス側からも双方を見渡すことができる。しかも、この店舗のライトが一直線に境界部分まで伸びており、同じライトがオフィスにも設置されているため、まるで同じ空間にいるかのような感覚に。

この長いライトがかっこいい
かつてこのオフィス部分はSPBSの編集部を設置し、作り手が見える本屋として運営していたが、現在は出版機能を休業し、受託編集や、本屋の学校・SPBS THE SCHOOLを主催しているという。

コロナ禍を経て店が開けられない時期が続いたことがきっかけで、オンラインワークショップの開発が進み、今はその一歩先にある業態を目指しているのだそうだ。さまざまなワークショップが開講される中、現在ちょっとしたブームにもなっている「短歌」を編集し、1冊の歌集をつくる講座が人気とのこと。渋い!けれど、ものすごく面白そうだ。

感性を引き出してくれる本屋

右下の本棚は80年代Ettore Sottsassの作品
編集とは、特殊なことのようで、実は私たちが日々手のひらツールで行っていることも、ある意味で編集。そう捉えると、本がより身近なものに感じてくるかもしれない。

SPBSの軸としては、今後も変わらず本を通じた出逢いを提供し、そこから派生する新しい本屋像を目指していくという。まだ行ったことがない方は、ぜひ一度覗いてみてほしい。普段は見つけられないような面白いものに、きっと出逢えるから。
※ご紹介した棚の一部はレプリカとなります

SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS 本店

東京都渋谷区神山町17-3
営業時間11:00-21:00

HP:https://www.shibuyabooks.co.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/spbs_tokyo/