Vol.68

UNIQUE

27 SEP 2019

時代の先を行く燗酒と料理。JOE’SMAN 2号のペアリングの極意とは

肌寒くなり空気が乾燥してくると、お燗した日本酒を飲んで冷えた身体をあたためたくなるものだ。さらに料理と合うお酒であれば、なおさら幸せを感じることだろう。そんな食への欲求を満たすなら、季節の料理と燗酒(かんざけ)のペアリングを試してみてはいかがだろうか。「熟成させた魚」や「自然酒のクラフト燗」など、食材やお酒を最適な状態で提供することにこだわる、三軒茶屋JOE’SMAN (ジョーズマン)2号へ伺った。

おいしさを引き出す。日本酒と料理のペアリングの世界

近年日本でもポピュラーになりつつあるペアリング。コース料理の一皿ごとに相性が考えられたドリンクをプレゼンテーションしてくれるサービスのことである。使う材料や素材の良さを引き出す調理法に加え、どのような発想でドリンクを組み合わせたかといった、その店ならではの哲学に耳を傾けながら、引き立て合い広がっていく味わいを楽しむことができる。

このペアリングはフレンチでは一般的なスタイルで、ワインを合わせるものというイメージが強い。しかし、この数年ではクラフトビールやお茶、ジュースなど、ペアリングで合わせるドリンクの種類は多様化してきている。そして今、特に注目されているのが日本酒とのペアリングだ。

ワインと同じく日本酒も、穀物や果実などの原料を酵母によってアルコール発酵させて造る「醸造酒」。アミノ酸が豊富に含まれているためうま味を感じやすく、なおかつ健康効果も高いという。

日本酒本来の飲み方である燗酒に新しさを。JOE’SMAN 2号とは

店には日本各地の地酒や自然酒など、常時60種類以上の日本酒が揃う。
「日本酒に含まれているアミノ酸は、ワインのおよそ10〜20倍もあると言われていて、身体にも良い飲み物。日本酒は二日酔いしやすいというイメージを持たれがちですが、醸造アルコールが添加されていない純米酒を適切な飲み方で飲めば、二日酔いせずにおいしく飲むことができるんです」と語るのは、三軒茶屋にあるJOE’SMAN2号のオーナー、高崎丈(たかさき・じょう)氏。2011年まで出身地である福島でJOE’SMANという店を切り盛りしていたが、東日本大震災で営業が困難になり東京に店を構えた。まだまだ除染が終わらない東北地方の復興への強い思いとともに、「価値があるモノを伝える居酒屋」としての大志を抱き、数多くの日本酒イベントや有名ホテルとのコラボレーション企画などにも参加している。

そんな高崎さんは料理人であり、お燗をつける“お燗番”でもある。お燗したあたたかい日本酒というと、寒い季節に飲むものというイメージがあるが、店では1年を通して燗酒を出している。その理由は「元々日本酒は燗で飲むお酒だったという歴史もありますが、単純に燗酒のほうが体への負担がかかりにくい」からだという。
「アルコールを体内で分解するためには、一度アルコールを体温に近い温度まであげる必要があるんです。燗酒はすでにアルコールが温まっているので、すぐに分解が始まる。だから酔い始めるのは早いんですけど、抜けるのも早い。一方で冷酒はどうしても体温まで温めるのに時間がかかり、アルコールの分解にタイムラグが生じて蓄積してしまうんです。そういう意味で、燗酒は気づいたら悪酔いしていたということを防ぎやすいお酒だと言えますね」と、ただ美味しさを追求するだけでなく、身体に取り入れた後のことまで考えられている。

日本酒好きだがどちらかというと下戸の筆者としては、いままで冷酒で悪酔いした経験を思い出すと合点がいく話だ。

「日本酒のラベルによく、おすすめの飲み方が書いてありますけど、燗酒が向いている日本酒でも『冷やして』と書いてあることがあります。というのも、そのお酒に合うちょうどいい温度にするのは結構難しいからなんです」というように、お燗番は「お酒が持つ個性をどの温度でどうやって温めれば強調できるか」「料理にどのように合わせるか」といったことを考え、客の飲むペースも考慮に入れながらお燗をつける、繊細で技術を要する仕事である。

高崎さんはお燗をつける道具にもこだわり、ビーカー、錫(すず)、銅の入れ物を仕上がりのイメージに合わせて使い分けている。「それぞれの道具を料理の調理法に例えると、ビーカーは『蒸す』で、風味を広げるイメージです。錫は『煮る』で、丸みを帯びた味わいにしたいときに使います。そして銅は『焼く』。エッジを際立たせたいときに使っています」これらの道具を使って、90℃と60℃のお湯でつける。お酒・道具・温度の掛け合わせで、仕上がりの可能性は無限に広がるのだ。

燗酒の知識を得たところで、早速ペアリングを開始。どのようにうま味を引き立たせていくのか、ポイントを見ていこう。もちろん悪酔い防止のため、お冷を適宜飲むことは忘れずに。お酒の3倍くらいが目安だそうだ。

日本酒と料理、うま味の相乗効果を計算高く狙う

イシガレイ、のどぐろ、キンメダイのお造り
まず出てきたのは、白身魚のお造り。魚本来の味をシンプルに味わうため、醤油ではなく塩をつけていただく。左からイシガレイ、のどぐろ、キンメダイである。ほんのりピンクに色づいた身は美しく、どれも脂が乗ってキラキラと光っている。 
そこに合わせるのが、「神雷(しんらい)じゅうさん・と」という純米酒。無ろ過生原酒でアルコール度数は13度と通常の日本酒(15〜16度)よりも低く、軽やかに飲めるお酒である。お猪口に注ぐと、柑橘系の香りがふわりとひろがる。よく見るとレモンの皮が入っているようだ。

「燗酒にグリーンレモンの皮を入れています。秋に採れるグリーンレモンは、レモンの香りが強いのが特徴。お刺身を食べた後に、すかさず燗酒を飲んでみてください。あたたかいお酒と刺身って相性が良く、お酒の熱で魚の脂身が溶けて、よりうま味が感じやすくなるんです」と、高崎さん。

言われる通り、キンメダイのお刺身に少し塩をつけて口に入れ、お酒を飲む。

魚のうま味がじわっと口の中に広がり、レモンの爽やかな風味が鼻を抜ける。それぞれの魚のおいしさを繊細に味わうことができた。

「この料理はもう2種類のペアリングを楽しめるようになっているんですよ。燗酒と一緒に、炭酸水を飲んでみてください」

そう言われて燗酒と炭酸水を飲めば、さっぱりとしたレモンサワーに早変わり。これは、これは。一品目からお酒がすすんでしまう。

個性ある古代米酒。料理と合わせるポイントは?

続いて登場したのが「戻りカツオのエロカツ」という一皿。レアに揚げたカツを南蛮酢にさっとつけて甘酸っぱくしている。確かに見た目からしてピンクでセクシーさを感じる盛り付けだ。芳ばしいカツの香りが食欲をそそる。
それに合わせるのがこちらの「伊根満開(いねまんかい)」を使ったクラフト燗である。
「伊根満開」は古代米(赤米)を使うことでピンクに色づいた、甘酸っぱいフルーティーなお酒。個性が強く、料理と合わせにくいようにも思われるお酒も、岩手県遠野市にある「民宿 とおの」がつくる新感覚どぶろくを1割ほどミックスしお燗にすることで、店オリジナルのクラフト燗に仕上げている。

日本酒はミックスして飲むのもありなのか!と驚かされつつひと口飲むと、軽やかな酸味がカツのコッテリ感を見事に中和してくれる。和の繊細な食材よりも、洋風テイストと合うようだ。
「日本酒も料理も、最高の状態にして出すことが大切だと思っています。このクラフト燗は、一度お燗にしたお酒を瓶詰めし直して、冷蔵庫で寝かせています。先ほどのように飲むときにまたお燗にするのもいいですが、冷やしたままグラスに入れて飲むのもおすすめです」とワイングラスに注いで提供してくれた。

この見た目、まさにロゼだ。卵のソースと鮮やかなピンク色をしたビーツとのコクと酸味のハーモニーもたまらない。日本酒のペアリングをしていることを忘れてしまう新鮮な味わいだ。

季節を感じ、味覚を磨く。ペアリングで広がる食の世界

ペアリングコースを堪能しているうちにすっかり酔っ払った筆者。普段飲まない割にはかなり飲んでしまったようだ。そこで高崎さんがシメに出してくれたのは、赤米を使ったいくら丼。ツヤツヤと光るいくらが美しい。
それに合わせて出してくれたお酒が、自然酒で有名な仁井田本家の「田村」を使った燗酒だ。これ以上飲めるのだろうかと躊躇していたら、ほんのりとお出汁のいい香りがする。

「これはシジミでとった出汁で日本酒を割ったものです。お酒があまり飲めない方や、酔った身体を落ち着けたい方に好評ですね」

そう聞いてひと口。これは沁みる…。アルコール度数も低くなっているため、酔いも落ち着いてくる。

一緒に食べるイクラ丼も、イクラと穀物のプチプチ食感のコントラストが効いていて、泣けるほどにおいしい。

爽やかに出会い、途中熱く盛り上がり、最後はしみじみと泣ける。振り返れば、まるで映画をみているかのようなドラマチックなペアリングだった。

今後は「海外でも、日本といえば寿司・ラーメン・熱燗と言われるほど熱燗をポピュラーな飲み方にしていきたい」と夢を語る高崎さん。実は季節を問わず楽しめる燗酒と料理のペアリングを通して、味覚の宇宙を体感してみてほしい。

JOE’SMAN 2号

住所:東京都世田谷区太子堂2-25-6 池田屋ビル2F
TEL:03-6450-8792
営業時間:月〜土18:00~26:00(L.O.25:00) 日17:00~25:00(L.O.24:00)
定休日:年末年始