Vol.175

FOOD

20 OCT 2020

VOYAGER BREWINGとフードペアリングの冒険へ

本州の南端に張り出した紀伊半島。美しい海に囲まれた土地が抱く山の緑は濃く、川は清らかに流れ、世界遺産の熊野古道が聖地としての歴史を語るように刻まれている。熊野古道の玄関口として知られる和歌山県田辺市の準工業地域に立地するVOYAGER BREWING(ボイジャー・ブリューイング)はかつて鉄工所だった建物を利用して作られたブルワリーだ。地元だけにとどまらず、全国のビールファンに向けて本格クラフトビールの美味しさを発信している。VOYAGER BREWINGを訪ね、4銘柄のクラフトビールとフードペアリングの提案をしたいと思う。

鉄工所をリノベーションした無骨なアメリカンスタイルのブルワリー

田辺市の準工業地域に立地するVOYAGER BREWINGはかつて鉄工所だった建物を利用して作られたブルワリーだ。

工業地帯に現れた姿はまるでオアシスに見えた。

こじんまりしたエントランスドアの向こうでタップルームとオフィスが出迎える。
エントランスドアを開けると、温かみのあるウッディなタップルーム、その向こうにはガラス張りのオフィスが見える。

奥の階段を上がると醸造所を一望できるオープンスペース。

アメリカ映画に出てくる新聞社を思わせるオフィス。

注がれているのはTHRUSTERのハーフパイント。食べ物の持ち込みは自由。
自然光が差し込む明るいバーカウンターに供えられたドラフトタワーから注がれた出来立てのビールを片手に階段を上る。2階は広々としたオープンスペースになっていて、美しく磨かれた機材がクールに光る醸造所を眺めながらビールを味わうことができる。

広々としたオープンスペース。地元のイベントがここで開催されることも。

カナダ製の醸造機器が並んでいる。鉄工所だった時から建物の構造は変わっていない。ロゴデザインと醸造機器の機能美が映える。
VOYAGER BREWINGは代表の真鍋公二さんが妻の志麻さんと共に2015年に創業した。翌年の2016年にはビール製造免許を取得。多くのブルワリーが発泡酒免許からのスタートを切る中、これは非常に稀なケースだ。

代表の真鍋公二さん。田辺市の隣、白浜町出身。
1990年代のクラフトビールブームを経て、今や日本全国にブルワリーが多数存在する。地元色を打ち出したネーミングのクラフトビールが多いなか、真鍋さんはあえてそれをしなかった。

「ボイジャーは人工物の中で、最も遠い場所へ旅をし続けているものなんです」1977年に打ち上げられた惑星探査機にちなんで名付けられたVOYAGER BREWING。もちろん真鍋さんは自身のクラフトビールをブルワリーの地元から切り離したかったわけではなかった。ビールに使用されているのは熊野の大地を流れている名水であり、その味のバックボーンをしっかりと支えている。

「例えばオリオンビールはどうでしょう。オリオンは遠い星の名前ですがオリオンビールと言えば沖縄、というイメージはもはや定着しています」ボイジャー、と言えば田辺、となるところまでがVOYAGER BREWINGが持つ未来のビジョンなのだ。

他のブルワリーで18年の経験を積んでいた真鍋さんではあったが、VOYAGER BREWING創業からしばらくはCOPPERとGOLDの2銘柄のみの醸造に絞り、品質の安定を確固としたものにしたかった。その後IPAとTHRUSTER(スラスター)の2銘柄を加え、現在の4銘柄での販売をレギュラー化した。

グラスに注がれているのはTHRUSTER。スモークナッツとの相性も最高。
筆者がタップルームで頂いたのは女性におすすめだというTHRUSTER。フルーティで軽快な飲み心地の中に柑橘を思わせるホップが爽やかに香る。アルコール度数は4.5%と4銘柄の中では最も低いものの、華やかな手応えの酔いを感じた。VOYAGER BREWING初のセッションスタイルエールで伝統的な風味と個性的な味わいを同時に楽しめる。名前には軌道修正や第2エンジン、といった意味合いが含まれているのだとか。

VOYAGER BREWINGの4名柄のビールを楽しむフードペアリング

VOYAGER BREWINGの4名柄はそれぞれの魅力を持ち、味わい深い。つい勢いよく飲みほしたくなるビールだが、ゆっくりと時間を慈しみたくなるそんな季節には、ドリンクとフードを相性で合わせる、フードペアリングで楽しむのがぴったりだ。

VOYAGER BREWING【COPPER】+スモークナッツ、トマトのピクルス

カラメルモルト使用の香ばしくも程よく甘いCOPPERと、ヒッコリーのチップでスモークしたミックスナッツ、みずみずしく刺激的な酸味が旨いトマトのピクルスの組み合わせ。
COPPERの香ばしさと程よい甘みはスモークナッツの香りとコクに馴染んで飲みごたえ、食べごたえをお互いに高め合うかのよう。鮮烈なトマトのピクルスの酸味はCOPPERのリッチさを引き立たせ、柑橘系ホップの苦味と香りの中に甘みを生み、その甘みが苦味をさらに心地良く感じさせてくれる。

VOYAGER BREWING【GOLD】+シシトウとピーマンのヒルダ風ピンチョス

ピルスナーモルトの深い麦芽風味と英国産エールモルト、ミュンヘンモルトのブレンドによってすっきりとしつつ風味豊かな味わいを持つGOLDに、個性豊かなピンチョスを合わせる。
オリーブのコクとアンチョビの旨味・塩辛さはGOLDの優しい苦味と相思相愛の間柄。コリアンダー、オレガノ、クミンなどのスパイスと共にピクルスされたシシトウとピーマンの風味によってドイツ産ファインアロマホップの穏やかな香りがより芳醇に感じられる。

VOYAGER BREWING【IPA】+紀州南高梅の梅干しとゴーダチーズの紫蘇カナッペ

花や柑橘のような香りとミディアムなモルトボディの古き良きアメリカンIPAに南高梅の梅干しと木次(きすき)乳業のゴーダチーズ、紫蘇の個性をコンパクトにぶつけてみた。
アメリカンホップの代表、カスケードを中心とした5種類のホップの組み合わせで表現されたアメリカンインディアンペールエールの良質な苦味と豊かな香りは、梅干し、ゴーダチーズ、紫蘇との出会いによって驚きの変化を見せ、新たな旨味に変わる。意外なベストマッチングだ。

VOYAGER BREWING【THRUSTER】+塩レモンとクミンのモロカンチキンソテー

アメリカンスタイルならではのシャープなキレとオーツ・小麦麦芽由来の程よい酸味と口当たりが魅力のTHRUSTERとモロッコ風のチキンソテーの組み合わせ。
フルーティなみずみずしさとシトラスの香りは、クミンと塩レモンの爽やかさによってより鮮やかさを増す。マリネされた野菜がTHRUSTERの酸味をより引き出し、チキンの旨味がさらなる一杯を呼ぶ。

VOYAGER BREWINGとのフードペアリングの旅は果てしなく続く

今回は各銘柄に一皿ずつの提案しかできなかったが、いつまでも遊べそうなくらいその組み合わせはあるはずだ。いや、きっとそれは尽きることがない。季節によって、嗜好に合わせて、ライフスタイルに合わせて。VOYAGER BREWINGのクラフトビールと共に、楽しい味の冒険の旅へ、どこまでも。

VOYAGER BREWING