Vol.279

FOOD

19 OCT 2021

11/11はチーズの日。食に寄り添う「イタリアフレッシュチーズ」の魅力

11/11はチーズの日、また毎年10/30はイタリア版のボージョレ―ヌーボーである「ノヴェッロ」が解禁となる日。食欲の秋を謳歌するシーズンがやってきた。イタリアのワインにはやはり、イタリアのチーズを合わせたいところだが、イタリアというと、どんなチーズを思い浮かべるだろうか。最近日本でも人気が出ているのがモッツァレラ。出来立てのモッツァレラを作るお店が日本でも数多く登場している。そんな国内のモッツァレラを調べていたら、本場イタリアの機材を取り寄せ、現地で学んだ職人がチーズを作り、モッツァレラ以外にもイタリアのローカルなフレッシュチーズを作っているという工房を見つけることができた。この工房のチーズを紹介しながら、モッツァレラだけではない、イタリアチーズの魅力について探求していこうと思う。

ヨーロッパ各地のチーズのルーツにもなっているイタリアチーズ

イタリアにはパルミジャーノ・レッジャーノといった長期熟成タイプから、ウォッシュ、ブルーなどさまざまなタイプのチーズがある
「イタリアチーズ」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。パスタにたっぷりとかけると美味しいパルミジャーノ・レッジャーノやナポリピッツアにかかせないモッツァレラなどは日本でも人気となっているが、イタリアチーズはそれだけではない。イタリアの地域ごとにチーズがあり、牛はもちろん、羊や水牛など乳種もいろいろ。ローマ時代よりチーズはイタリアに根付いていて、ローマ人によりヨーロッパ各地にチーズの製法が広まっていったという。

例えばパルミジャーノ・レッジャーノは、イタリア北部で作られる2年近く熟成させた巨大なチーズ。14世紀の物語集「デカメロン」にも記載があり、中世より修道士たちが作り続けてきたという歴史がある。このチーズを担保にお金を借りられるほど、現在もその価値が認められている。

また中南部地域では羊のミルクを使ったチーズが多く、ペコリーノと呼ばれ料理にふんだんに使われる。ペコリーノ・ロマーノ、ペコリーノ・シチリアーノなど地域の名をつけたものがあり、それぞれ独自の製法が守られていて、同じ羊乳でも味わいは驚くほど異なる。そしてイタリアの青カビチーズといえば、ゴルゴンゾーラ。刺激強めのピカンテとマイルドなドルチェの2タイプあり、パスタや肉料理のソースにすると官能的な味わいに。イタリアでは多彩なチーズが多彩な食文化を育んできた。

日本で本場イタリア製法を再現。「KAWABA CHEESE」とは

そんなイタリアチーズはその製法を学んだ人たちにより日本各地でも作られていて、特に南イタリア発祥のチーズ、モッツァレラはその独特の食感や、フレッシュでそのまま食べても美味しいことから数多くの工房で作られるようになっている。モッツァレラはチーズのジャンルでいうとフレッシュタイプと呼ばれる、熟成させずに味わうチーズ。日本で作ることにより出来立てのものが食べられるので、国内で作られたものも人気が高いのだ。

モッツァレラを作る国内のチーズ工房の中でも今回注目したのがイタリアに本店があるグローサリー「イータリー」の日本の店舗でも使用されている「KAWABA CHEESE」だ。群馬県にあるチーズ工房で、現地で学んだ職人とチーズ製造機材により、本場の味を再現しているという。

「KAWABA CHEESE」がある道の駅、川場田園プラザの全景
「KAWABA CHEESE」があるのは、道の駅、川場田園プラザの園内で、薄根川を望む小高い丘。原料となる生乳は、園内から100m内という牧場から毎朝搾ったばかりのものが届くので、劣化が少なく、より生乳の風味を活かしたチーズ作りができる。そしてフレッシュチーズの味わいを作る大切な要素となっているのが水。利根川水系最上流部に位置する武尊山が育んだ天然水を使用できるという環境にあり、これらがチーズ作りの基礎となっている。

針金が付いた道具を使って固まってきた生乳をカットしているところ。このタイミングやカットの大きさがテクスチャーや味わいを左右する
チーズバットやモールドなどチーズ作りの機械や道具もイタリア製のものを取り寄せ、現地の製法を再現している「KAWABA CHEESE」。チーズ作りの主な作業はチーズバッドと呼ばれる湯舟のような形をした容器の中で行なうが、「KAWABA CHEESE」では、より手作業の繊細な仕事を反映でき、チーズの攪拌を滑らかにすることができる半円球のダブルボトム型チーズバットを使っており、国内では珍しいもの。それにより、より均一で生乳に負担をかけないチーズ作りができるという。

「KAWABA CHEESE」が作るフレッシュチーズについて

モッツァレラやリコッタなど「KAWABA CHEESE」のフレッシュチーズの数々
「KAWABA CHEESE」で製造されているのはモッツァレラのほか、リコッタ、ブッラータ、ストラッキーノの4種類。どれもイタリアのフレッシュチーズの代表格であり、身近なテーブルチーズで、イタリアでは日本でいう豆腐のように身近なもの。それぞれの特徴について紹介していこう。

モッツアレラ&ブッラータ

「KAWABA CHEESE」のブッラータ(1個1,350円)
モッツァレラは、チーズの素を湯の中で練ることでその独特の食感を生み出す、他にはないイタリア独自の製法が伝わる伝統チーズ。ブッラータはモッツァレラの中にストラッチャテッラというモッツァレラの生地と生クリームを入れて包んだ、袋状になったチーズで、中を割るとトロリと中身があふれ出す。どちらもイタリアでは水牛のミルクで作られたものも多く、「モッツァレラ・ブッファラ」と呼び、牛乳よりも脂肪分が高いのでより濃厚な味わいが楽しめ人気が高い。

リコッタ

「KAWABA CHEESE」のリコッタ(125g700円、250g1,280円)
モッツァレラなどを作る工程で生成されるホエイを熱すると、タンパク質の成分が固まって浮き上がってくる。これをすくって水を切ったものがリコッタだ。いわばチーズの副産物。イタリアでは古代ローマ時代の文献にも記載があるチーズで、伝統的な料理の多くに使われている。パスタの詰め物や、お菓子作りにとアレンジも実に多彩。南イタリアではアンティパストやトマトソースのパスタの横に写真のような水切り籠の跡が付いたリコッタが丸ごと乗っていて、サラダやパン、パスタと一緒に食べるのが定番となっている。ほろほろとした食感と優しい甘さが特徴だ。

ストラッキーノ

「KAWABA CHEESE」のストラッキーノ(100g800円、200g1,500円)
イタリアにはストラッキーノという名前の付いた伝統的なチーズがいくつかある。実はイタリアの青カビチーズ、ゴルゴンゾーラもかつてはストラッキーノと呼ばれていたチーズ。ストラッキーノとは“疲れた牛の乳から作ったチーズ”という意味で、夏に放牧し、山の美味しい牧草を食べた牛が秋になって麓に下りてくる、その長旅から帰って疲れた牛たちという訳だ。しかし山の美味しい草を食んだ牛のミルクは栄養たっぷりなので、ストラッキーノは美味しいチーズの名前の総称だった。現在、イタリアでストラッキーノといえば、フレッシュなクリームタイプのチーズ。特にイタリア北~中部で親しまれている。

「KAWABA CHEESE」のストラッキーノは、わらび餅のような、もっちりとした食感でくちどけ滑らか。乳酸菌由来の爽やかな酸味とミルクの甘みやうまみがじんわりと口に広がる。そして出来立てがもちろん美味しいが、1週間ほど置いてから食べても、酸味が落ち着き味わい深くなるのだという。

その製法は、加熱した生乳にレンネットを加えて固めてカッティングし、撹拌した後にモールドと呼ばれる水切り穴が開いた型に移してホエーを切り、短期間発酵させるというもの。フロマージュ・ブランなどのフレッシュチーズと近い製法だが、凝乳方法とカッティングや型入れのタイミングにより、独特のもちもちとした食感に仕上げている。

料理にお菓子に。オリーブオイルとワインも忘れずに

新鮮なミルクの味わいと爽やかな酸味を楽しめるストラッキーノ。フルーツやパンと盛り付ければデザートのよう
「KAWABA CHEESE」をお取り寄せしたら、まずは塩やオリーブオイルなど、シンプルな食べ方でその味わいをしっかりと楽しんでみて欲しい。そしてどのチーズもぜひ常温、または少し温めてみるのもおすすめ。冷たいままでは感じなかった味わいを感じることができるだろう。食感が柔らかくなり、出来立てを食べているような感覚になる。

川場田園プラザのレストランで提供されていたリコッタチーズと明太子のパスタ。和の食材とも上手に寄り添ってくれる
「KAWABA CHEESE」がある川場田園プラザにはレストランやカフェ、ピッツェリアがあり、出来立てのチーズを使った料理やデザートを楽しむことができる。例えばモッツァレラやブッラータはピッツァにたっぷりのせて焼き上げて。リコッタは葡萄の果汁を煮詰めたモストコットやハチミツを添えてデザートのように、ストラッキーノはトマトソースのパスタとあえて、贅沢なパスタに仕立てるなど、さまざまな楽しみ方で味わうことができる。そのままでももちろん美味しいが、ほかの食材や調味料と組み合わせることで、味わいがさらに広がっていくことを感じられるだろう。

日本のストラッキーノということで、柿と組み合わせて食べてみる。チーズとオリーブオイルでマリネしたフルーツ。それだけで、立派な前菜になる
筆者自身、モッツァレラやブッラータ、リコッタは日本でもよく作られているチーズだったので食べたことはあったが、ストラッキーノについては、今回初めて食べたチーズで、その食感やフレッシュなミルクの味わいにとても驚いた。食べ方についても、よく知らなかったので、イタリアの郷土料理の本を調べていたら、エミリア・ロマーニャ州の郷土料理に小麦粉とラードで作った薄焼きパンに具材を挟んで焼く、ピアディーナという料理があり、これにストラッキーノが使われているという。

トルティーヤの生地にたっぷりストラッキーノを塗り、生ハム、野菜、巨峰を挟んだピアディーナ風サンド
ストラッキーノはとても柔らかなテクスチャーなのでバターのように生地に塗って、同じくエミリア・ロマーニャの名産である生ハムとルッコラを挟むのが定番なのだそう。これをイメージし、トルティーヤの生地にストラッキーノを塗って、生ハム、ベビーリーフ、カットした巨峰を挟んでみた。現地では鉄板などで焼いて仕上げるということで、スキレットで生地が香ばしくなるまで焼く。ストラッキーノがあるだけで、本場の味をよりリアルに再現できた気分だ。イタリアの発泡ワイン、スプマンテを添えてみたが、ランブルスコのようなチャーミングな甘みがある微発泡ワインにも合うはず…とワイン選びも楽しくなってきた。

日本人の味覚ともリンクするイタリアチーズ

イタリアの製法を忠実に再現している「KAWABA CHEESE」
イタリアのチーズ、なかでもフレッシュタイプのチーズはそのままで食べるのもいいが、ほかの料理や食材と組み合わせることでさらに美味しさが広がるチーズ。イタリアでは、料理やワインに必ず添える、食卓にかかせない食材だ。そしてどれもミルクの風味が生きた優しい味わいなので、日本人好みの味。醤油をたらして刺身風に食べても美味しく、実は日本の料理とも合わせやすい。

もちろん今の時代、イタリアからの輸入品を購入することもできるが、フレッシュチーズはやはり出来立てが命。「KAWABA CHEESE」ならばオーダーごとに出来立てのチーズを届けてくれるので、ぜひお取り寄せしてイタリアチーズの包容力を感じてみて欲しい。
参考文献:「イタリアの地方料理 北から南まで 20州280品の料理」(柴田書店)、「イタリア料理教本」吉川敏明・エルカンピドイオ著(柴田書店)

KAWABA CHEESE