Vol.244

FOOD

18 JUN 2021

発酵バターとは?クリーミーでコク深い、ヨーロッパの家庭の味

日本とヨーロッパでは、主流となっているバターが異なることをご存知だろうか。ヨーロッパで主流なバターを、日本では「発酵バター」と呼ぶ。 バターは紀元前から自然に発酵させて作られていた。一方、日本でバターの消費が増えたのは太平洋戦争が終わった1945年ごろからであり、発酵バターとは違う製法で作られている。 日本の一般的なバターとは違う発酵バターとは、どんなバターなのか、製法はどんなものなのかについて紹介しよう。

発酵バターとは?日本の主流のバターとは違う魅力を紹介

発酵バターは乳酸品を練り込んで発酵させる
ここでは発酵バターと一般的なバターの違いを、製法やバターの特徴に注目して紹介する。

原料のクリームに乳酸菌を加えて発酵させたバター

日本で使用されているバターは、無塩バターや有塩バターと呼ばれるものが一般的だ。厳密にいうと、それらは「甘性バター」に分類され、製法の途中でクリームやバターに乳酸菌を添加せず、発酵をおこなわない「非発酵製法」で作られている。
発酵バターは原料となるクリームに乳酸菌を混ぜ、半日以上発酵させて作られる。発酵バターの製法にはクリームに乳酸菌を添加する方法と、乳酸菌をバターに直接練り込んで発酵させる方法の2種類がある。

風味やコクが魅力の発酵バター。味わい深い仕上がりに

発酵バターは製造工程で加えられる乳酸菌のはたらきによって、バター本来のコクや風味が引き出される特徴がある。それに加えて、ヨーグルトのような酸味と独特な香りも感じられる。
そのため、一般的なバターに比べると、パンに塗ったり料理に加えたりするだけで、バターの風味をより深く感じることができるのだ。

バター本来の栄養素+乳酸菌を取り入れられる

そもそもバターには、良質な脂質やビタミンA、ビタミンD、ビタミンEなどの栄養素が豊富に含まれている。発酵バターを作る際には乳酸菌を加えるため、一般的なバターの栄養素に加えて乳酸菌のはたらきも取り入れられるのがうれしい。
乳酸菌は人のカラダにとって有益な「善玉菌」で、整腸作用や免疫力を高める効果 があるといわれている。

ヨーロッパ発祥の発酵バター。その歴史は紀元前から

古くから使われていた撹拌(かくはん)機
ヨーロッパの家庭では発酵バターが主流だ。しかし日本では甘性バターが主流であるため、発酵バターは新しいものとして認知されている。ここでは古くからある発酵バターの歴史を紹介しよう。

紀元前での製法では自然と発酵バターに

ヨーロッパでは紀元前からバターが作られていた歴史がある。発酵バターには伝統的な製法が存在しており、原料の乳からクリームを分離して撹拌(かくはん)する方法が用いられている。これを「チャーニング」を呼ぶ。
その当時は原料の乳の殺菌がおこなわれておらず、チャーニングにも時間を要したので、作っている段階で自然と発酵バターになったという。まさに自然の恵みからできた製法といえるだろう。

文明が発達するにつれてバター作りも機械化が進む

チャーニングには皮や木、陶器などが使われていたが、文明が進んだ中世ごろから専用の攪拌機が取り入れられるようになった。
撹拌機は進化を続け、19世紀にはクリームの分離が短時間でおこなえるようになったという。また原料として殺菌乳が使用されるようになると、時間をかけて作られていたころの発酵バターの風味は、利便性と引き換えに少しずつ失われてしまったのである。

発酵バターのおいしさを求める声は多かった

時代の移り変わりにより、芳醇な風味を失ってしまったバター。そんな中、ヨーロッパではかつての発酵バターのおいしさを求める声が大きくなっていく。人々は発酵バターを世に戻すべく、原料のクリームに乳酸菌を加えて発酵クリームを作る方法を編み出した。
そうして再び発酵バターが作られるようになり、現在にいたってもヨーロッパでは発酵バターが主流として広く使用されるようになったのだ。

日本でも気軽に手に入るおすすめの発酵バター

パンにのせて、バターの風味を味わい尽くしたい

アンデルセン醗酵バター

アンデルセン「アンデルセン醗酵バター」
アンデルセンと聞いて、街で見かけるパン屋さんを思い浮かべた人もいるのではないだろうか。「アンデルセン醗酵バター」は、ベーカリー「アンデルセン」がパンとの相性をとことん考えて開発した醗酵バターだ。
アンデルセン醗酵バターは、プライベートブランドの「HYGGE(ヒュッゲ)」シリーズの1つ。「HYGGE」はデンマーク語で「人と人とのふれあいから生まれる、温かな居心地のよい雰囲気」を意味する。HYGGEな食卓を楽しんでもらいたいという想いから名付けられたのだそうだ。

アンデルセン醗酵バターは、クリーミーで味わい深いバターを実現するために小岩井乳業と共同開発をおこなった。
原料は厳選された生乳。乳酸菌を使って醗酵させているため、クリーミーでほのかな酸味を感じられる。パンとバターのおいしさを最大限に引き出すために、塩分は少なめに作られているのが特徴だ。こんがりとトーストしたパンに、たっぷりのバターを塗って食べると、サクッとした食感と芳醇な香りと味わいが口の中いっぱいに広がる。

アンデルセン醗酵バター:https://www.andersen-net.jp/shop/g/g9798/

プレミアムバター

山中牧場「プレミアムバター」
「山中牧場」は豊かな自然に囲まれた北海道赤井川村、余市岳をいただく山あいの一角に開かれた牧場。山中牧場の「プレミアムバター」には、東洋のスイスともいわれるストレスの少ない環境で育った乳牛から搾乳した、限りなく自然に近い牛乳が原料として使用されている。

山中牧場は、「本当においしいバターを作りたい」という想いからバターの製造と販売をスタート。納得のいく発酵バターの完成には数年の歳月を要した。山中牧場の発酵バターは、殺菌や発酵、冷却、エージング(保持)の過程におよそ2日間をかけ、3日目に回転式バターチャーンで攪拌する。
どこかにぬくもりを感じられるバターにするために、バターチャーンのローラーはあえて「木製」。容器には小樽にある缶詰工場の缶を使用し、原料から容器までをできる限り地元産でまかなう。山中牧場のこだわりが詰め込まれた発酵バターは、プレミアムと名付けられるにふさわしい。

プレミアムバターは、冷蔵庫から出してすぐにバターナイフが使えるほどやわらかい。発酵バターならではの乳脂肪豊かな風味と、コクのある味わいがある一方で、すっきりとしてくどくない後味が魅力だ。ぜひ北海道の大地を感じながらご賞味いただきたい。

プレミアムバター:http://yamanakabokujyou.co.jp/goods/butter.html

トラピストバター

トラピスト修道院「トラピストバター」
北海道にある、灯台の聖母トラピスト修道院は1896年に創立された。修道者の多くがヨーロッパ出身だったため、創立当初から乳製品、特にバターの製造に力を入れたという。
トラピスト修道院の発酵バターの製造は、1897年ごろから手作業でおこなわれている。1903年にはオランダからホルスタイン種の乳牛を導入し、牛乳の品質改良もおこなった。その後、牛乳を用いた製品としてバターの一般販売を開始したそうだ。1952年には専門家のアドバイスに基づいて、さらに改良が加えられた発酵バターの製造に取り掛かっている。

トラピストバターは本格的な発酵バターとして、多くの人を魅了している。バターを作る際には、低温殺菌の生クリームをじっくり時間をかけて発酵させる。連続マシーンを使わずに、バターチャーンを用いて発酵バターの風味を生かし、食塩を控えめに製造するのだそう。豊かな香りとコクのある味わいが感じられるトラピストバターは、中世から続くシトー会修道院の伝統製法による希少な発酵バター。歴史に思いをはせながら味わいたい。

トラピストバター:https://www.trappist.or.jp/home/Butter.html

冷凍保存はできる?発酵バターの保存方法

バターの常温保存、暑い日本では溶けてしまうことも
発酵バターのおいしさを損なわないためには、保存方法にもこだわりたい。ここでは保存方法と、おすすめの使い方を紹介する。

バターは消費に時間がかかるもの。冷凍保存がおすすめ

バターは基本的に常温保存がよいとされているが、一度開封すると早めに消費するのが望ましい。そのため大量消費が難しい発酵バターは、小さく切り分けて冷凍保存することをおすすめしたい。冷凍保存する際は、霜防止のためにラップでぴたりと包んで保存袋に入れよう。その際、できるだけ空気を抜くこともお忘れなく。

一度解凍した発酵バターは、再冷凍しないほうがよい。せっかくの発酵バターの風味を損なう原因になってしまうからだ。また、冷凍庫での保存期間は1ヵ月が目安と覚えておこう。

冷凍した発酵バターをおいしく解凍。使う前は常温保存も

冷凍した発酵バターをおいしく解凍したいときは、冷蔵庫で自然解凍するのがよいだろう。パンに塗る場合はさらに常温に戻しておくと便利だが、料理で急に必要になった場合は凍ったまま使用することも可能だ。

ヨーロッパでは、バターは常温保存するのが当たり前だという。しかし日本とヨーロッパには平均気温の差があることを考慮しなければならない。すぐに使用する場合は常温でも構わないが、室温が18℃を超えるとやわらかくなって溶けてしまうので注意しよう。ほとんどが油脂成分でできているバターは、一度溶け出すと酸化が進み、成分と油分が分離してしまうため元に戻すのは難しい。

長期保存をせずに2週間ほどで使い切る場合は、冷蔵保存でも構わない。2週間を超えると風味が損なわれてしまうため、早めに冷凍保存に切り替えよう。

発酵バターを取り入れて、食卓に新しい風味を

世界中で愛されるバターを、自宅でいただく贅沢
普段、日本で多く流通している甘性バターを使用している人にとって、発酵バターの風味やコクはイメージしづらいものかもしれない。パンがメインの食卓や料理の隠し味に発酵バターを取り入れると、既存の食生活に新しい刺激と発見が生まれるだろう。
長く、奥深い歴史をもつ発酵バター。人々から必要とされるには、きっと多くの理由がある。この機会に古代から人々に愛されてきたバター本来の風味を、ぜひ試してみてはいかがだろうか。