Vol.176

FOOD

23 OCT 2020

日本のチーズを日々の暮らしに。白カビチーズ「十勝野フロマージュ」

いま、国産チーズがどんどん美味しくなっていて、本場フランスのコンテストで賞を獲得する工房もあるほど。ヨーロッパのものよりも、塩気が優しく繊細な味と評される国産チーズ。牛が食べる餌や水、日本の気候や風土がその味に表れるのはもちろん、日本人の味覚に合うものをと試行錯誤した作り手の想いも反映されている。そんな自然と人間が作り上げたローカルフードである日本各地のチーズをお取り寄せし、それを楽しむ日々を綴ってみた。チーズは保存食なので、日持ちする。いろいろな料理にアレンジしたり、いつもとは違う食材と組み合わせてみたり。チーズが冷蔵庫にあるだけで、どんな料理に使おう?どんなお酒と合わせよう…とわくわくしてくる、そんなチーズのある暮らしのヒントになったらうれしい。

北海道産のカマンベールチーズをお取り寄せ

「十勝野フロマージュ」の「おいしいカマンベール」1個1,674円(税込み)
日本随一の酪農王国、北海道。その中でも、国産チーズの半数以上を生産し、大規模なメーカーの工場から小さな工房まで、数多くのチーズ生産者が集まっているのが十勝地方だ。チーズ好きにとっては聖地のような場所である。今回国産の白カビチーズを探していて見つけたのが、十勝平野の南西部、中札内(なかさつない)村で近郊の生乳のみを使ってチーズ作りをしている「十勝野フロマージュ」のチーズだ。

「十勝野フロマージュ」ではさまざまな白カビチーズを製造しており、直径30cmもある「ブリ・ド・トカチ」やクリームを配合しリッチな口どけが楽しめる「ベルネージュ」のほか、白カビチーズを味噌漬けにしたものもあり、実に多彩。国内のチーズコンテストでの受賞歴もあり、白カビチーズを得意とする工房として知られている。

みっちりと詰まったチーズの断面。白カビの部分が均等に薄く、いい状態
なかでも今回取り寄せた「おいしいカマンベール」は、本場フランスのカマンベール作りをお手本にノルマンディーに何度も足を運びその製法を研究し作り上げたという一品で、大きさも本場と同じ250gほど。日本で売られているカマンベールは100g前後の大きさが一般的なので、倍以上の大きさがある。

そもそもカマンベールチーズは、フランス・ノルマンディー地方で作られる「カマンベール・ド・ノルマンディー」を真似して作られるようになったもの。本場のものは無殺菌乳を使うことが規定されていて、これにより、さまざまな微生物による熟成の変化が顕著に表れ、濃厚で複雑な味わいが生まれる。その芳香はマッシュルームのような、とも表現されるほどだ。日本では衛生管理の基準が厳しいことから無殺菌乳のチーズはなかなかないが、「十勝野フロマージュ」では生乳を低温殺菌することで雑菌の繁殖を抑えながらチーズに有用な菌を残し、日本人の味覚にもマッチした、穏やかに熟成していくチーズを作り上げた。美しいカビに覆われた真っ白なビジュアルは、十勝の美しい自然や空気を思い起こさせる。

まずはそのままで。シードルを傾けながら

口どけや風味を感じやすいよう、まずは薄く切って
まずはチーズを薄くカットし、そのまま食べてみる。食べる30分ほど前に冷蔵庫から出し、常温に戻しておくと、本来の味わいを楽しめるので忘れずに。口に含むと塩気は穏やかで風味も優しい。白カビの香りとともに加熱したミルクの風味が口の中に広がっていく。

本場のカマンベールをイメージして、ノルマンディー地方の名産である林檎発泡酒、シードルと合わせてみる。ノルマンディー産の完熟林檎のみを使用する、こだわりの作り手のもので、甘口ロゼという珍しいタイプのシードル。ナチュラルな風味と甘酸っぱさがチーズの味を引き立ててくれ、デザートのように楽しませてくれる。

もともとの包み紙も取っておき、そこに包み直して保存を
残りのチーズは切った断面にワックスペーパーやアルミホイルなどを当てて、乾燥しないように保存を。乾燥は食感を悪くし、チーズの味わいを落とす原因となる。断面を保護したら、もとあった包み紙で包んでからラップをし、野菜室へ。チーズは匂いが移りやすいので保存容器などにいれておくのがベストだ。

ほどよい湿気を保ち、冷たすぎない野菜室に入れることで熟成を促すことができる。水滴などが付くと雑菌が繁殖する原因となるので何日も入れっぱなしにせず、ときどきチーズの状態のチェックを。長く楽しむためには、このひと手間を大切にしてほしい。

本場フランスの味をイメージして。バゲットサンドの朝食を

林檎は紅玉など酸味のある品種が合う
フランスには「ブリー」という巨大な白カビチーズがあるが、これを使ったサンドイッチがフランスでは朝食やブランチの定番。これを真似て朝食を作ってみる。パンは国産小麦配合のバゲットを使用。カマンベールを5mmほどにカットしたら粒マスタードを塗ったバゲットに、ハムとフレッシュな林檎をスライスして一緒にサンド。甘くみずみずしい林檎がアクセントになって、一気に奥行きのある味になる。あわせるドリンクはいつものコーヒー。コーヒーはチーズに合う飲み物だとつくづく思う。

出汁の旨味と重ねて。チーズで簡単お夜食を

温かいご飯と出汁で、チーズが溶けていくのを少し待つ
今日は、夜食にチーズを持ち出す。用意したのは発芽玄米のご飯に濃い目にとった鰹出汁、刻み海苔とネギの小口切り。カマンベールは常温に戻さず冷たいままで、さっと作る。温かいご飯の上にカットしたチーズをのせたら、熱々の出汁を注ぐ。仕上げに海苔とネギを添えれば「チーズの出汁茶漬け」の完成だ。

ご飯と出汁の熱で溶け出し、チーズがどんどんと変化。味が物足りなければ、出汁醤油をひと垂らし。イメージは和風のチーズリゾット。海苔がまたチーズとよく合うのだ。今度は大根のおでんとカマンベールチーズを合わせてみようか、と発想が膨らんでいく。

加熱することでさらにアレンジの幅が広がる

蒸し野菜を入れれば、栄養バランスのよい一品ができあがる
カマンベールは白カビや乳酸菌がチーズのタンパク質を分解していくので、日を追うたびに少しずつ柔らかくなっていき、香りも強くなっていく。そんな香りをちょっと和らげたいときには、焼くという調理法を試してみて欲しい。

今日はワインのお供にしたかったので、スキレットなどにオイルとにんにく、ローズマリーなど好みのハーブとドライトマトを一緒に入れてオーブンで香りが出るまで焼く。加熱することで、チーズの酸味が和らぎ、まろやかな味わいに。バゲットはもちろん、蒸したジャガイモや南瓜と食べても美味しいだろう。

ほかにも、いつものグラタンに、角切りにしたカマンベールをごろごろとのせて焼くだけで贅沢なグラタンに。衣を付けてフライにすれば、白カビの部分がサクサクになって食べやすくなり、しかも中がとろとろになる。油やクリームがチーズを包み込み、風味を穏やかにしてくれるので、純米酒など日本のお酒と合わせてみても楽しそうだ。

フルーツやジャムを添えればデザートのような一品に

白カビチーズは甘いジャムやフルーツとの相性もよい
「おいしいカマンベール」は、優しい味わいなので、いろいろな使い方を試してみたくなるチーズ。「十勝野フロマージュ」ではカマンベールを使ったチーズケーキやソフトクリームなど、スイーツも人気なのだそう。お菓子にアレンジするとまた違った一面を感じることができそうだ。しかしお菓子を作るのはちょっと面倒…というときは、いろいろなジャムや蜂蜜、フルーツなどをチーズと盛り付けて、デセールのような一皿を作ってみるのも楽しい。

ということで、ティータイムにチーズを取り出し、家にあった無花果や林檎のジャム、旬の葡萄を添え、お気に入りのベーカリーで買ってきたドライフルーツと紅茶のパウンドケーキの上にチーズをのせて食べてみた。お菓子の上にチーズをのせて食べるのはハイカロリーで罪悪感この上ない食べ方だが、これが実にいい感じ。紅茶をゆっくり楽しみたくなる。洋酒たっぷりのブランデーケーキにのせたら、もっと美味しいかもと、またまた食欲と妄想が膨らんでいく…。

チーズの優しい味わい。その包容力にまかせて

結局、チーズは1週間ほどで食べきってしまったが、チーズは熟成していくので、もう少しゆっくり時間をかけて食べてみるとさらにその醍醐味に触れることができ、アレンジの幅も広がるだろう。

いろいろ試してみて感じたのは、どんな食材と合わせても不思議と相性良くまとめてくれる、日本の白カビチーズの懐の深さ。気軽に旅ができないご時世だからこそ、風土や作り手の思いを感じられる特別なチーズをお取り寄せして、食事の時間を味わい深いものにしてみてはいかがだろうか。

十勝野フロマージュ