Vol.132

FOOD

22 MAY 2020

ひと手間かけて焼酎を嗜む。焼酎の種類やツウ好みの飲み方まで

米に麦にそして芋と、素材によって味わいが異なるのが焼酎の特徴。また、焼酎は蒸留の違いによっても大きく味わいが違う。さらに飲み方としては、水割り、お湯割り、ロック、ソーダ割り...ほかにも焼酎の地元・九州ならではの「前割り(ぜんわり)」という飲み方もある。好みに合わせ、いろんな楽しみ方ができるのが焼酎を飲む醍醐味のひとつだ。焼酎について知り、そのいろいろな飲み方、楽しみ方に触れてみよう。

焼酎の生まれた背景、その種類について

焼酎と親しむには、まずその背景や種類を知っておきたい。それぞれの背景や種類を知っておけば、自分の好きな焼酎を選ぶ目安となるからだ。焼酎のふるさとは九州。焼酎は蒸溜によって作られる酒で、中世に南方の国から沖縄・九州に伝わってきたという。全国856の焼酎蔵のうち、なんと331もの銘柄が九州に集中している。

焼酎造りにも日本酒造りにも麹が必要だが、日本酒で使う黄麹が冷涼な気候の方が管理しやすいのに対し、焼酎で使う黒麹は温暖な気候向き。ちなみに日本酒の自然醸造最南端は熊本の「亀萬酒造」。これより南で作られている日本酒は、空調によって冷気を送って製造している。

また、熊本の米焼酎、鹿児島の芋焼酎、大分の麦焼酎が作られているのは、それぞれの地域の特産物を原料としているからだ。鹿児島のサツマイモは特に有名だろう。これらのことから九州、特に南九州では焼酎造りが盛んになった。

なかには野菜や海藻など、ユニークな原材料を使った焼酎もあるが、上記のように焼酎の原料の多くは、米・麦・芋のいずれか。それぞれの特徴と蒸留方法について触れておきたい。

米焼酎、麦焼酎、芋焼酎の味わいの違い

向かって左から米焼酎、麦焼酎、芋焼酎
米焼酎の原料は米と米麹。米の甘みと華やかな香りが特徴。熊本の山奥で作られる「球磨(くま)焼酎」が有名だが、沖縄の「泡盛」も同じく米を原料としている。米で作られているだけあり、日本酒と同じくあらゆる料理と合う。特に日本料理とは相性がよいが、古酒ともなると濃厚なブルーチーズやウォッシュタイプのチーズともよく合う。米焼酎で有名な銘柄といえば、「鳥飼(とりかい)」と「六調子(ろくちょうし)」。「鳥飼」は女性向きでフルーティーなやわらかい味わいなのでまずはストレートで、「六調子」は焼酎好きにおすすめのガツンとくる味わいが特徴でアルコール度数が高め。焼酎上級者でなければ、まずはロックで飲んでみてはいかがだろう。球磨焼酎はWTOによる原産地呼称を受け、国際的に「球磨焼酎」の名がブランドとして保護されている。

麦焼酎の原料は大麦と麦麹。麦の爽やかで軽い味わいが特徴。飲みやすく、焼酎初心者におすすめだ。合わせる料理は、麦の香ばしさと合うものをセレクトしてみよう。例えば、九州の麦味噌を使った田楽、オリーブオイルの香りとも相性がよいのでカルパッチョなど。麦焼酎で有名な銘柄といえば、なんといっても「いいちこ」だろう。「いいちこ」にはいろんなシリーズがあり、手頃な値段のものから低温発酵・長期熟成の高級品までいろんなものがある。産地としては、九州全域で作られているが、特に大分が有名。飲みやすさが特徴なので、まずはストレートで飲んでみよう。

芋焼酎の原料はサツマイモと米麹。今回紹介する3つの焼酎の中では一番コクがある。サツマイモの濃厚な香り、甘さが感じられる。力強い味わいのため、同じく力強い味わいの料理、例えば肉料理と相性がよい。芋焼酎で特に有名な銘柄は「魔王」。なかなか手に入らないことでも有名だ。ラベルには、室温でそのまま飲む、氷を入れて飲む、もしくは人肌に温めて飲む方法がお勧めだと記されている。産地は鹿児島がメイン。

蒸留の方法「減圧蒸留」と「常圧蒸留」

減圧蒸留は気圧を下げて蒸留を行う方法。海抜が高い(気圧が低い)ところで水を沸かすと100度に達しなくても沸騰するのと同じように、アルコールも気圧が低くなると沸点が下がる。減圧して低温で沸騰させ蒸留させる方法を減圧蒸留という。アルコール度数が低めで、スッキリした飲みやすい焼酎となる。前述の焼酎であれば、魔王やいいちこ、鳥海は減圧。

甕(かめ)で醸造される泡盛
常圧蒸留はそのままの気圧で蒸留する方法。昔ながらの伝統的な方法で、原料の風味・雑味まで生かした味わいとなる。アルコール度数も高めのものが多く、旨味やコクが強い骨太な味わいとなる。前述の焼酎の中では、六調子が常圧だ。

焼酎の飲み方…ストレートから通好みの前割りの方法まで

焼酎の基本の飲み方から、九州ならではの前割りの方法まで紹介したい。そのまますぐ味わえるストレートなどもおすすめだが、たまには時間をかけて数日前から仕込むまろやかな味わいの前割りもぜひ試してみてほしい。

まずはストレート。焼酎の香り、味わい、風味をそのまま堪能できる飲み方だ。常圧の焼酎など、アルコール度数が高いものは冷やすとトロリとした感触が生まれる。チェイサーとして水を準備しておこう。

ストレートで味わう焼酎
焼酎初心者にもおすすめなのは水割り。焼酎をグラスに注ぎ、水を自分の好みで加える。やわらかな味わいで、いろんな料理とも合う飲み方。水の割合で味わいも変わるので、好みや料理と合わせて割合を変えてみよう。ポイントは焼酎を先にグラスに注ぐこと。

自分好みにアレンジしやすいのが水割りの良さだ。
グラスに氷を入れ、焼酎を注ぐのがロック。少しずつ氷の表面に注いでいく。ひと口目はストレートのような力強さを、氷が溶けてくるにつれて水割りのように楽しめる。大きめの氷、できれば市販のロックアイスなどを使うのがポイント。

カランとグラスで鳴る氷の音が、情緒的だ。
前割りは、焼酎と水を混ぜて冷蔵庫で3日から1週間ほど寝かしてから味わう通好みの飲み方。九州、主に鹿児島でお客様をもてなすために作られていたという。時間をかけて焼酎と水をなじませることから、普通の水割りよりもずっと、まろやかな味わい、喉ごしとなる。

前割りは、まろやかな口当たりがクセになる。
鹿児島の焼酎の多くは芋を原料とする。芋焼酎のアルコール度数は37~40度なので、5:5の割合で水と混ぜれば約18〜20度の飲みやすい度数になるので、焼酎を飲み慣れない人でも気軽に飲むことができる。時間をかけてじっくり味わいたいときにおすすめの飲み方だ。

必要な道具は、焼酎、ミネラルウォーター、ろうと、ペットボトルなど密封できる容器。ミネラルウォーターは、軟水がおすすめだ。もし用意できるのなら、焼酎の産地と同じ地方で採水されたものを準備しよう。同じ地方で取れたもの同士は相性がよく美味しい。

ミネラルウォーターと焼酎を、ろうとを使って容器に注ぐ。割合は6:4もしくは5:5(ミネラルウォーター:焼酎)。3日以上寝かすのがベストだが、1日だけでも風味と口当たりが変わる。少しずつ寝かす時間を増やして味の変化を楽しんでみるのも良いだろう。水で割って冷やしてあるので、冷蔵庫から取り出してストレートで飲むとちょうどよい冷たさ。さらにココから燗につけて飲むのもおすすめの方法。

前割りに合わせたい ひと手間かけたつまみ

豆腐の味噌漬けと焼酎
せっかく時間をかけて3日前から前割りを仕込むなら、つまみも同時に仕込んでおくことを提案しよう。

例えば、味噌漬け。豆腐の味噌漬けは、焼酎王国である九州でよく作られており、現地でもよく酒の肴として出されるもの。もともとは平家の落人がもたらしたものだとも言われているが、定かではない。別名「山ウニ」とも呼ばれ、豆腐とは思えない濃厚な味が特徴だ。その滑らかな舌触りと、ウニのような味わいは、どっしりとした焼酎ともよく合う。

また、卵黄の味噌漬けもおすすめだ。レシピは簡単。味噌床を作って漬けおくだけだ。味噌 250gに対し赤酒(甘みのある酒)大さじ2〜3杯の味噌と赤酒をよく混ぜ、タッパーなどに入れる。豆腐や卵黄など、漬け込む素材はキッチンペーパーなどに包んで漬けると後から取り出しやすい。2、3日後に取り出して食べる。

卵黄の味噌漬け。2、3日味噌に漬けておくだけで、ねっとりとした濃厚な味わいに。
九州の焼酎を飲むのなら、相性がよいのは九州の麦味噌に熊本の甘い酒、赤酒。もし麦味噌や赤酒がないときは、自宅にある味噌やみりんを使ってもOK。似た味わいとなる。同じ味噌床で野菜などを漬けることもできるが、野菜は漬ける前に一晩海水と同じ濃さの塩水(1リットルあたり大さじ2程度)に入れておき、水分をとばしておくと味噌が染み込みやすく、味噌床も水っぽくならない。

前割りも味噌漬けも、ちょうど3日目が食べごろ、飲みごろ。3日前から同時に仕込んで、3日後に冷蔵庫から取り出して一緒に味わうことができる。温かみある陶器などに盛りつければ、気分はちょっとしゃれたな居酒屋気分。濃厚な豆腐や卵黄を、ひと口食べてはキュッと焼酎を飲む...そんな幸せなひと時を楽しんでみて欲しい。

時間に、人に。寄り添ってくれる焼酎

焼酎は種類も飲み方もさまざまで、間口がとても広く、さらに奥が深いもの。焼酎初心者から飲み慣れた人まで、好みに合うものがきっと見つかるはず。ゆっくり時間をかけて前割りを作るもよし、簡単にストレートやロックにするもよし。肴をいろいろ試してみるのもオツなもの。ゆっくりと焼酎と向き合い、自分好みの味わい方をみつけてみよう。