Vol.120

UNIQUE

10 APR 2020

クラフトコーラ文化の発信拠点「伊良コーラ総本店下落合」で、素材と作り手が見えるコーラを飲む

伊良コーラ(いよしコーラ)は日本初のクラフトコーラメーカー。これまではイベントや通販などでの販売が主だったが、2020年2月、東京・下落合に工房併設の常設店をオープンさせた。コーラといえば、飲食店、映画館、イベントなど、あらゆる場所で手にする身近な飲み物だが、私たちはその正体をよく知らない。材料や起源。栄養効果など、自信を持って答えられる情報は限りなく少ないだろう。ミステリアスな謎に包まれているコーラだが、長年人気を獲得し続けている唯一無二の存在でもある。そんなコーラ業界に新しい風を巻き起こしたクラフトコーラとはどのようなものなのか。オープンしたばかりの「伊良コーラ総本店下落合」を訪れ、代表の小林隆英さんにお話をうかがった。

作り手の顔が見える、工房併設のクラフトコーラ専門店

「伊」の文字が描かれた建物の1階に、工房兼ショップがある。電信柱には「コーラ小道」の看板。
下落合駅は、西武新宿駅から2駅という都心至近に位置しながら、落ち着いた雰囲気をもつ駅。個人店が多くならぶ駅前では、学生や路線バスが盛んに行き交う。駅周辺には神田川が流れていて、ここが新宿区だということを忘れそうになるくらい、のどかな雰囲気だ。

伊良コーラ下落合総本店が位置するのは、神田川に面した遊歩道沿い。「クラフトコーラ専門店です」と書かれた看板に、多くの人が足を止めていた。

引き戸を開けてお店に踏み入れると、コーラのいい香りがする。手作りのコーラが、一般的なコーラと似た匂いがすることに驚いた。その味に期待が膨らむ。

テイクアウトカウンターには、コーラのシロップがたくさん吊るされている。
コーラと聞いて思い浮かべるのは、強い甘みと炭酸、他に例えようのない、不思議なフレーバー。魅惑の黒い液体の中に何が入っているかは知らないけれど、特有の爽快感や幸福感を味わいたくて、定期的に買ってしまう。

2018年にスタートしたクラフトコーラメーカーである伊良コーラは、コーラを愛飲する人にとって革新的な提案をしている。驚くべきポイントは、材料がすべて開示されていることだ。製造はすべて自社内で完結。併設の工房では、実際の製造工程を見ることができる。

入り口から入って右手には工房を覗く窓を設置。
この建物は小林さんの祖父が営んでいた漢方工房を改装したもの。当時の什器などを用いて祖父の時代の面影を残しつつ、現代的なデザインにアレンジされている。

入り口の引き戸は、この建物が漢方工房だった時代のデザインを踏襲した特注品。
店頭では、コーラの素である「シロップ」と、テイクアウトで飲める2種類のコーラが購入できる。早速、コーラを作ってもらった。

パウチに注がれたのは、スパイスやフルーツで作られたコーラの原液。このシロップを、炭酸水や牛乳などで割り、レモンをトッピングして完成。

牛乳で割ったミルクコーラ(左)と、炭酸で割った通常のコーラ(右)
ストローで混ぜ、ひとくちすすると、まさしくコーラの味がした。甘くて、不思議な味で、しゅわしゅわしている。市販のコーラと違うのは、コーラの中身をまったく知らなかった私でも、素材の個性が感じられる強い香りだ。

注意深く香りを観察すると、いくつかのスパイスが組み合わさって、鼻の奥をスーッと通してくれるような爽快感を与えてくれる。レモンやライムなどのフルーツエキスが、コーラらしい酸味を生み出し、甘みを助長している感じがする。
様々なスパイスの香りが溶け合って、コーラの不思議な味が構成されるのだと、五感を持って実感させられる。

そのことに感動しているうちに、体がぽかぽかと温まってきた。

ミルクコーラは、コーラシロップに牛乳と炭酸水を加えたもので、予想もつかなった不思議な味わいだ。スパイシーな香りと爽快感はそのままに、ミルクのマイルド感が加わって、とても飲みやすい。
クラフトコーラの底知れない魅力を感じる一品だ。

趣味ではじめたコーラづくりが、クラフトコーラという文化を生み出した

興奮気味に、「このコーラには何が入っているんですか!?」と、小林さんに尋ねると、カウンターに並んでいるスパイスを指差して一つ一つ教えてくれた。

上段右から、ジンジャー、コリアンダー、シナモン、クローブ、ラベンダー、カルダモン、エゾウコギ、バニラビーンズ、ペッパー。2,3段目に並ぶのは、祖父がストックしていた生薬の一部。
「コーラのシロップは、レモンとライムの果汁や、各種スパイス、コーラの実を調合して煮詰めたものです。レシピがあれば誰でも作れるかというと、そうではありません。特に最後の火入れでは、香りや音、水分量などを注意深く観察して調節する必要があります」

伊良コーラの芳醇な香りは、職人の細やかなこだわりによって生み出されているということだ。それこそがクラフトコーラの本領だと小林さんは語る。

「クラフトコーラと銘打つブランドは国内にいくつかありますが、その多くは、製造を他社に委託していると聞きます。この店舗を構えようと決意したのは、クラフトコーラで大事な顔の見える物作りを色々な人に伝えたいという思いからでした。工房の様子を公開することで、クラフトビール やビーントゥーバーに続く「クラフトコーラ 」という文化を世の中に広めたいです」

店頭に立つ”コーラ小林”こと小林さん。店舗運営のほか、イベント出店や商品開発、発信まで幅広くこなす。
伊良コーラが目指すのは、世界的なコーラメーカーに次ぐ第3のメーカー。そのために、商品の提供や店舗の運営、情報発信などの取り組みを続けている。

なぜそこまで、クラフトコーラに情熱を注ぐのだろう。

もともとコーラマニアとして、世界中のコーラを飲み歩いていた小林さん。インターネットでコーラのレシピを見つけたことをきっかけに、趣味としてコーラづくりを続けたという。転機は2年半ぐらいたったころに訪れた。

「当時勤めていた広告代理店の同僚にコーラを飲んでもらう機会がありました。彼はとても美味しい、お金を払ってでも飲みたいと言ってくれたんです。それならばと思い、すぐにフードトラックを作ってイベント出店に挑戦しました」

初めての出店は、表参道で毎週開催されている青山ファーマーズマーケット。そこでコーラを提供したことが、自信の価値観を大きく変えるきっかけになったという。
「お金というのは、人を喜ばせた対価としてもらうものだと思うのですが、それまで自分が従事していた仕事ではその事実をなかなか体感しづらい状態でした。でもあの日、伊良コーラを飲んでくれたお客さんが、みるみる笑顔になって、楽しそうにお帰りになる姿をたくさん見たんです。人の役に立てた感触を手にして、新しい世界が見えたような気持ちに満たされました」

それ以来、イベント出店を重ね、少しずつ販路を開拓し、今年実店舗をオープンさせた。今後はYouTubeをはじめとするオンラインでの発信も注力したいという。

「まずはクラフトコーラとはどのようなものなのかをしっかり伝えていきたいです。さらには、伊良コーラが第3のコーラメーカーになるまでの道のりを、人々と共有していけたらなと思っています」

カラフルでかわいらしいネオンが光る店頭。

日常づかい楽しむクラフトコーラ

店頭で販売されているシロップを購入してみた。炭酸などの割り物があれば、いつでも伊良コーラを味わえる。レジャーシーンや家でまったり過ごす日に、このシロップが活躍することは間違いないだろう。

オンラインショップでも購入できる。
春・夏シーズンのレジャーでは、シュワっとした甘い飲み物が欲しくなる。そんなとき、クラフトコーラはもってこいだ。目的地までの道すがら、コンビニエンスストアで冷えたペットボトルを買うのもいいが、シロップ、グラス、氷、ソーダ水を持参して、クラフトコーラを飲む幸福感には適わない。

屋外で飲むクラフトコーラはレジャー気分を格上げしてくれる。
クラフトコーラは、車の運転でじんわり疲れた体をシャキッとさせてくれる。その秘密について、小林さんが漢方の書物から知り得た情報の一部を教えてくれた。

「伊良コーラにブレンドしたスパイスは、さまざまな効能を持ちます。血行を良くするもの、エネルギー効率をよくするもの、免疫力を高めるもの、癒し効果を持つものなど。ガーナで入手したコーラの実には滋養強壮作用があるとも言われています」

愛飲者の中には、お腹の調子が良くなったという人、活力が湧いてきたという人、体が温まったという人もいるそうだ。

スパイスの香りが食欲をそそる。
おすすめの食べ方として小林さんが教えてくれたのは、バニラアイスにシロップをかけてアフォガード風にする方法。

深い茶色のシロップをアイスにかけると、粉砕されたスパイスを視認できる。素材感がしっかりと伝わる食べ物は、信頼がおけそうだ。大人から子供まで広くから愛されそうな、コーラスイーツの完成。一口食べると、コーラとして飲む時とは全く異なった味わい。クリーミーなーアイスによってスパイスの風味がかなり和らぐが、シロップに含まれる柑橘系の爽やかな風味のおかげで、まったりしすぎない食べ心地だ。

楽しみ方のレパートリーは、ウイスキーと割ったり、牛乳で割ったりなど、多様。オトナな飲み方を探すのも楽しそうだ。

レジャーやまったり過ごす日以外にも、仕事で疲れた日や、自分へのご褒美が欲しくなったとき、また伊良コーラを飲みたくなるのだろうと思う。コーラ職人が生み出したクラフトコーラ文化が日本中に広まり、どこでも気軽にクラフトコーラを飲める日がくるのを楽しみにしたい。
Photo:Yuki Morita

伊良コーラ総本店下落合

住所:東京都新宿区高田馬場3-44-2
営業日:金・土・日
営業時間:13:00-17:00(4月-10月は13:00-18:00)
公式HP : http://iyoshicola.com/