Vol.262

FOOD

20 AUG 2021

王道からスパイス系まで、3つの味で楽しみ広がる。「TEMTASOBI GINGER」のジンジャーシロップ

クラフトビール、クラフトコーラなど、小規模な造り手による個性豊かなドリンクが人気を集めていて、安心安全で造り手の思いがこもった品を楽しみたいというニーズが高まっている。そこで注目してみたのが、愛知県豊橋市で造られてている「TEMTASOBI GINGER(テンタソビジンジャー)」のジンジャーシロップ。ジンジャーシロップというと、健康食品のイメージがあるかもしれないが、ここで造られているのは、味わいにこだわった3つのフレーバー。活版印刷のラベルやボトルも男前だ。ジンジャーやスパイスの刺激を身近な日々の暮らしに。そんな思いを込めたプロダクトの魅力を、その活用法とともに紹介していく。

元医療技術者が造る、検査・分析を重ねた一品

「TENTASOBI GINGER」は愛知県豊橋市の古い商店街の一角を製造所とするジンジャーシロップのブランド。このブランドを立ち上げたのは、大阪出身で皮膚移植などの再生医療を手掛ける日本では唯一の会社に勤めていた中川さん。生物工学を学び遺伝子治療など最先端の医療に携わっていた人物だ。

そんな中川さんが、ジンジャーシロップを造るきっかけになったのは、たまたま友人にイベント出店のピンチヒッターをお願いされたことから。飲食経験のない自分ができることはなにか…と考えたときに、ドリンクならできそう…それなら自家製のものを出したい…と思案していった結果、ジンジャーシロップを手造りしてドリンクとして販売することを思いつく。

一つ一つ手作業で造るシロップ。製造方法をなるべく統一しながら、砂糖の種類や分量を変えるなどして3つのフレーバーを生み出している
医療に携わっていた中川さんが、製品化にあたって行なったのは、さまざまなジンジャーシロップや類似する飲み物の成分を分析し、自分の理想の味と比較検討し、分量や配合をひとつずつかえて試飲するということ。「ある意味力業ですね。成分を分析したり、造り上げた味を再現するための工程や製造方法などをひとつずつ検証していくことは以前の会社での経験が活かされていると思います」と話す。そうして選び抜いたのが高知県産のショウガや熊野古道で作られるマイヤーレモンのジュース。出来る限り国産で、季節を通して安定した味のものを厳選した。

このシロップが思いの外好評となり、飲食店の方から使いたいと声を掛けられるなど、どんどんと忙しくなっていく。当初は副業として週末や仕事終わりで製造を行なっていたが、いろいろな出会いも重なったこともあり、独立して製造所を立ち上げ、ジンジャーシロップを作るという事業をスタートさせることになった。

製造所の棚には今まで造った全てのサンプルが保管されている
同じ味を再現できるように製造方法についても検証を重ねるほか、毎回データを取り、サンプルを保管しておくなど、品質の改善に努める作業を積み重ねている中川さん。大手メーカーならまだしも、一個人による製造所がそこまできるのは、中川さんが人の命に関わる、緻密な検証が必要な医療現場にいたということが大きいだろう。中川さんも「まったく異なる事業ですが、ひたすら検証を行なっていたり…と作業としては前職と同じようなことをしていますね」という。

その味わいとデザインに込めた思い

その色を見ただけでも味わいが異なることがわかる。#2にはきび糖、#3にはグラニュー糖と砂糖もそれぞれの味わいに合わせて配合。各1,620円(オンライン価格)
そうして中川さんが完成させた「TEMTASOBI GINGER」の定番フレーバーは全部で3種類。それぞれまったく異なる味わいだ。#01は王道のジンジャーエールを、と作り上げた、炭酸で割って美味しい味。#02と#03はそれぞれ季節をイメージした。冬をイメージしたのが#2。シナモンやグローブなどさまざまなスパイスを配合し、温かい飲み物として楽しんでもらえる味に。#3は夏をイメージしてレモンを多めに配合し、唐辛子を加えすっきりと爽やかな味に仕上げてある。

薬包紙のように折られた紙には味わいの特徴やおすすめレシピが紹介されている
各ボトルには紙が挿まれていて、甘みやスパイス感などを表した相関グラフが記載され、その味わいがひと目で分かるようになっている。リフレッシュ、リラックスという項目もあり、どんなときに飲むのがよいのかもイメージしやすい。そして、この紙が薬包紙のように折られているのも、医療に携わっていた中川さんのルーツをうかがわせる。若い世代はピンと来ないかもしれないが、昔の粉薬を思い出し、なんだか懐かしい。

ジンジャーエールのルーツがジンジャービアというイギリスの飲み物で、ジンジャーエールを開発したのは薬剤師だったという歴史があるとか。薬瓶のようなボトルにクラシカルなロゴを施し、薬包紙を挿んで…。歴史や自身のストーリーを重ね合わせたデザインが、その存在感を際立たせている。

クラフトコーラにも?実験のように楽しくアレンジ

「TEMTASOBI GINGER」のファサード。古い建物の名残を残しながらリノベートしている
中川さんの製造所は、週に数回ドリンクスタンドとしてオープンしていて、近所の人が挨拶代わりに訪れたり、SNSなどで見て訪ねてくる人も。古い商店街の一角を改装した製造所に販売スペースを設けるなど、さまざまなイベントも開催し、この場所をきっかけに人と街との繋がりが広がっていく、そんな活動を行なっている。

ジンジャーシロップのさまざまな楽しみ方を提案するこの店で提供しているドリンクのレシピを教えて貰ったので紹介しよう。

まずは炭酸水で。ミントを添えるだけで爽やかなドリンクが出来上がる
定番は炭酸水で#1を割ったジンジャーエール。炭酸水で割るときはシロップ1に対し炭酸水4の割合がおすすめとのこと。#2はミルクと相性がよく、ミルクティーと割ったジンジャーチャイも。ミルクと割るときはシロップ1にミルクティー9の割合で。さらに#2は炭酸水で割り、バニラエッセンスを数滴加えたものを、ジンジャーコーラとして提供しているという。

「#2はカルダモンやグローブなど、スパイスの配合が今人気のクラフトコーラととても似ていて、足りないのがバニラの風味だったので、それを加えてアレンジしてみました」。ジンジャーの刺激溢れるコーラは、大人にぜひ味わってもらいたい一品だ。#2はワインに加え、スパイスやフルーツとともに温めれば、ヨーロッパの冬の定番、グリューワインのようにも楽しめるだろう。

ヨーグルトと牛乳を攪拌し#3を入れてラッシー風に。レモンの酸味や唐辛子の辛さで爽快な味わいが楽しめる
#3は唐辛子とレモンの割合を多くした爽やかな味なので、炭酸水はもちろん酸味のあるヨーグルトによく合うとのこと。ヨーグルトやアイスクリームにかけるのはもちろん、牛乳とヨーグルトと一緒に混ぜ合わせ、ラッシー風のドリンクにすれば、スパイシーなカレーによく合うドリンクになる。

冬は体を温めてくれるし、夏は食欲を書き立たせてくれ、元気になれるのがジンジャーシロップの魅力。お酒好きならばビールに加えてシャンディガフ風にしたり、ラムやジンと合わせてカクテルのベースにしてもいいだろう。3つの味わいがあることで、さまざまな使い方が広がっていくのも楽しい。

それぞれの特性を生かしてドリンク以外にも

さらにこのシロップは料理にも活用できるという。例えば#1はバランスのよい味わいで、ショウガや唐辛子、三温糖など和食の調味料とも共通するものが多く使われているので、きんぴらごぼうを作るときに仕上げにひと掛けするのがおすすめとのこと。夏ならば、ナスを焼き、好みの味噌とこのシロップを合わせたタレを絡めるだけで、おかずにもアテにもなりそうだ。

スペアリブの漬け込み液に#2を加えて焼き上げる。スパイスと相似する香りを持つオレンジをアクセントにして
#2はウスターソースとケチャップと混ぜ合わせればBBQソースのようになるとか。パンチのある味わいで肉料理に合うという。ならばとスペアリブを#2のシロップと酒、醤油を合わせた液に漬け込んでオーブンで焼いてみた。漬け込み液はドライオレンジととろみが付くまで煮詰めてソースに。黒ビールや赤ワインと合わせたくなる一品になった。

#3を使えば後味に辛みが広がるドレッシングに。酢はリンゴ酢など爽やかな味のものがいいだろう
#3はその爽やかな味を活かしてドレッシングにしてみる。オリーブオイルやリンゴ酢、塩胡椒と混ぜ合わせ、バターで焼いたホタテとナッツのサラダにかけたら、夏にぴったりな前菜に。深みのある味のドレッシングを簡単に作ることができた。

限定フレーバーなど、さらなるバリエーションにも期待

地元の農家とコラボしたミントジンジャーシロップ。ミントの香りのインパクトに驚かされる
「TEMTASOBI GINGER」では地元の農家とコラボしたミントの爽やかな香りが楽しめるミントジンジャーシロップなど、限定商品が登場することも。ショウガの畑が識別できる限定ボトルを作ったこともあり、コラボ商品も随時リリースしていく予定だとか。

体を温め、代謝を高めてくれる、ショウガ。その効能を気軽に取り入れることができるジンジャーシロップは健康食品のイメージが強かったが、「TEMTASOBI GINGER」はクラフトマンシップに溢れ、スパイスのアクセントも絶妙。ディテールもおしゃれなので身近に置いておけばきっとリラックスタイムやリフレッシュのひとときの良きお供になるはず。心地よい刺激が日々の暮らしの愉しみとなってくれるだろう。

TEMTASOBI GINGER