私が住む愛知県の山間部に地元産の鉱石を使ってファンデーションを作る会社があるという。化粧品を選ぶときに肌に優しいことは気にしていたが、原材料の産地まで気にすることはあまりなかった。まず、ファンデーションの材料が何からできているのかまったく知らない。いろいろな疑問や知りたいという気持ちに突き動かされ、山間の小さな町、北設楽郡東栄町を訪ねることにした。
森林に囲まれた自然豊かな地、愛知・東栄町での出会い
東栄町は、愛知県の北東部に位置し、静岡県と隣接する山間の町。人口2600人ほどだが、65歳が50%以上という高齢化が顕著な町だ。90%以上が森林という緑豊かな山並みの間を清流が流れ、1500万年前のマグマが固まってできた堅い安山岩(火成岩)の地層が見られるジオパークのような風景も魅力の一つとなっている。
この地に和歌山県から移住してきたのが、現在、愛知県産の鉱物で化粧品作りをする会社「もと」の代表である大岡千紘さんだ。13年前に東栄町に訪れ、地域おこし協力隊として町の魅力を発信する仕事をしてきた大岡さん。その中で出会ったのが、東栄町にある鉱山から鉱物を採掘、精製して出荷している会社「三信鉱工」だった。
三信鉱工が80年前から採掘、精製、販売を行ってきたのは、セリサイト(絹雲母)と呼ばれる鉱物で、鉱脈を掘ると白く光っているようにも見え、ほろっと崩れるほど柔らかいが湿気を帯びると粘土のようになる。主に化粧品の材料として使われている天然鉱石だ。国内ではここ東栄町でしか採取できないという。
東栄町以外でも世界各地でセリサイトが採掘されているが、東栄町のものは色がとても白く、純度が高いことから高級化粧品の原材料として使用されているほどなのだそう。今も人の手で掘り出しているので1日に採掘できる量も限られ、資源としても潤沢にあるというわけではないのでとても貴重な鉱物だ。そんな世界的にも注目を集める鉱物だが、産地を化粧品に記載することはないので、愛知県でそのような鉱物が産出されていることは県民でも知る人は少ない。
そのことを知った大岡さんは、このセリサイトを地元の魅力として発信できないかと、三信鉱工の協力を得て、ファンデーション作りができる教室「手作りコスメ体験naori」を立ち上げる。体験ではセリサイトをはじめ、ファンデーションの原料について紹介しながら、それらを体験者自身が計量し、混ぜ合わせ、自分の肌色に合わせた世界にひとつだけのファンデーションを作っていく。さらに実際にセリサイト鉱山に入山し、採掘場を見学する体験プランも用意した。今では化粧品に関心がある人はもちろん、地層や鉱物について興味がある人など、男女問わず楽しんでいるという。
産地と原材料への思いを込めたコスメブランド「moto」
愛知県・東栄町の素晴らしい産物を知ってもらいたい。さらに、ファンデーション作り体験で、もっと使いたい、販売してほしいという声ももらい、セリサイトを活かしたコスメの開発をはじめた大岡さん。しかし、商品化するために、普段使いしやすい固形ファンデーションの商品化を目指したが、セリサイトはそのきめの細かさゆえに固まりにくいという性質があった。
「セリサイトは肌触りがなめらかで、くすみにくく透明感が出るなど、素晴らしい鉱物ですが、その結晶構造が薄い板状となっていて、とても固まりにくい性質を持っています。しかし固めるために肌に優しくない成分を入れたくない。そして、なるべく高い割合でセリサイトを配合したい。そこを目指し、試行錯誤が続きました」。セリサイトを高配合できる、産地ならではのコスメを作りたい、その思いを伝えメーカーと試作を繰り返すなかで、粒子の少し粗いセリサイトを一定量配合することで、固めることに成功する。
2年ほどの開発期間を経て、原料=もと、の素晴らしさを体感できる化粧品シリーズとして2023年にリリースされた「moto」。ファンデーションには60%もの東栄町産セリサイトを配合し、東栄町の隣にある設楽町産のお茶の実から作られた保湿力のあるスキンケアオイルも使用している。肌に優しい天然鉱物を使ったファンデーションをミネラルファンデーションと呼ぶが、それでも原材料の産地を謳ったものは見かけない。産地を打ち出したファンデーションという、新たな商品ができあがった。
ファンデーションのほかにも、80%ものセリサイトを配合したフェイスパウダーや化粧下地を開発し、オリジナルのパフやフェイスブラシなども、セリサイトを肌に優しくまとわせられるよう、最高の付け心地を追求して作り上げていった大岡さん。手入れのしやすい素材、環境負荷の少ない容器など、エシカルな視点も大切にした東栄町発のコスメブランドとして、さまざまな商品の開発を続けている。
使うたびに肌が喜ぶ。大地の恵みを感じる、スキンケア感覚のコスメ
実際に「moto」の「ミネラルリッチファンデーション」を使ってみると、肌にのせている感覚が本当に軽やかで、塗った後の肌のさらさらとした感触に驚かされる。ほんのりパールのような艶をまとった肌になるのも特徴だ。微細なセリサイトの板状の結晶がぴたっと肌にくっつくことで、時間が経ってもよれたり、くずれたりしにくいのもセリサイトを高配合しているからこその特徴だ。
このよれにくさを最大限に引き出すためには、薄い板状の構造をしているセリサイトを薄く均一に肌につけることが大切。なので使うときは、まずは日焼け止めや化粧下地などを塗った後、すこし時間を置いたり、ティッシュオフしてべたつきを少なくしておく。こうすることでファンデーションが固まってのってしまうことを防ぐことができる。その後パフにファンデーションをとったら、バフをこすり合わせてしっかりとなじませてから肌にのせる。これも薄く均一に肌にのせるためのポイント。とても伸びがよいので、少量でも全体に塗り拡げることができる。
さらに「moto」シリーズの嬉しいポイントがクレンジング不要で、石けんだけで落とせること。これは顕微鏡で肌をチェックして立証しているという。リピーターからは、ファンデーションをしているほうが肌がキレイになっている気がするとの声もいただくという。
「セリサイトは泥パックにも使うことができる鉱物なので、石けんで洗い流すたびに肌のくすみの原因となる皮脂などの汚れも落として、洗顔後に透明感を感じる人もいると思います」
エシカル志向、郷土への思い。共感できるプロダクトを日常に
自分の住む場所、故郷、地元の産業や伝統文化のことをどれだけ私は知っているだろうか。担い手が少なくなった産業、失われつつある文化、美しい風土。それらを守り、支える人と出会ったことで、そんなことを考えるようになった。そして、郷土への思いが込められた、肌にも環境にも優しいプロダクトを使うことで、自分本位ではない考え方にライフスタイルをもっと変化させてみたいとも思うように。
地元が誇る産物で作り上げたプロダクトを毎日の暮らしに取り入れる。そのことで自分たちが住む場所に誇りを持つことができ、使うことで地元産業を支えることにもつながる。しかもストレスフリーで肌に優しく、環境負荷も低い。大岡さんと出会い「moto」を知ったことで、どこで生まれ、誰が作ったのかを知ってプロダクトを使う心地よさに改めて気づくことができた。
moto
CURATION BY
古いものや熟成したものと愛娘に目がない、フリーライター。チーズ好きが高じて、「チーズプロフェッショナル」の資格も取得。カメラ片手に町や人、美味しいものを訪ね歩く日々を過ごす。