Vol.74

MONO

18 OCT 2019

「雨晴」で見つける、作家がつくる日用品

こだわりの家具を揃えたのに、部屋を見渡すとどこか侘しさを感じる。この物足りなさ、心細さはなんだろうか? そういえば…と、以前動画で見たファッションデザイナーのマイケル・コースが住む、ニューヨークの自宅を思い出す。室内はモノトーンとナチュラルなウッド調のカラーで構成され、至る所に工芸の器やオブジェが置かれていた。モダンでありながら、ぬくもりや味わい深さを感じるインテリアにまとまっていたのが印象に残っている。
そうだ。もしかしたら、私の部屋には工芸品が足りないのかもしれない。春夏秋冬、雨の日も晴れの日も、寒い日も暖かい日も、心を満たしてくれるアイテムが欲しい。そこで向かったのが、白金台にある「雨晴(あまはれ)」という店だ。

日用品として使うことで輝く、工芸の美

現在も数多くの工芸品が生み出されている国、日本。存続が危ぶまれている伝統工芸がある一方で、モダンなデザインにすることで人気を得る工芸作品も増えてきている。これは現代の作り手が伝統に引きずられすぎず、“今”に感性をチューニングし、デザインや風合いを進化させているからこそ成り立っていると言える。そして工芸品を工芸品たらしめるのが、作り手が長年磨き上げてきた手仕事の技術である。このような高いクオリティを持つ日本の工芸品は、いまや年配の人々や文化人の間のみで愛されるものではない。若者や海外の人々にも広く受け入れられつつあるのだ。

「雨晴」が追求する、本当に心地よい暮らし

雨晴店内。「その土地の風土や文化から生まれたもの」「その土地でしか創ることができないもの」「その人にしか創ることができないもの」という視点からセレクト。常時40件以上の作家や職人の作品が展示販売されている 。
目的の店「雨晴」は、白金台の駅から歩いて10分の場所にある。落ち着きがあり洗練された店が立ち並ぶエリアだ。歩くと、秋の凛とした空気と相まって背筋がしゃきっと伸びる。

「『雨の日も晴れの日も 心からくつろげる暮らし』をどう実現していくか。店と作り手とお客さまの皆で一緒に考えるブランドとして、2015年に雨晴は生まれました。日本人は昔から自然に寄り添いながら過ごすことで、知恵と感性を育んできたと思います。そういった自然と上手に関わろうとする姿勢が、豊かさに繋がると考えています」と語るのは、店の主人・金子憲一氏。その言葉の通り、ただギャラリーショップとして作品を展示販売する店ではない。

「地方で暮らす工芸作家の方々の多くは、その土地に根付いた身近にある自然素材を使って、生活に使えるものづくりをされています。実際その方々の暮らしは、僕達から見るとすごく豊かで、素敵に感じます。ものだけでなく、作家が営む暮らしの魅力とともに伝えていきたい」という思いをベースに、店づくりに取り組んでいるそうだ。

そのためホームページではコラムを執筆。金子氏自身が全国各地に暮らす作家の元へ自ら足を運び、ものづくりの生産背景や仕事の現場だけでなく、作家自身の暮らし方や道具の使い方、生活の場に漂う空気感とともに“心地よい暮らし”のヒントを示している。

photo by Satoshi Asakawa

広々とした店内を見渡すと、食器類やフラワーベース、家具、オブジェなどのインテリアアイテムが置かれている。コンクリート打放しの無機質な空間が、手仕事で作られた作品の温もりをより引き立ててくれる。

作家と職人の違いとは? 日本の伝統工芸の未来を垣間見る

ところで、皆さんは「作家」と「職人」の違いについて考えたことはあるだろうか? 作家がつくる器と、職人がつくる器の何が違うのか。それについて金子氏は、その線引きは曖昧だとしつつ、「基本的に作家はその人の生活リズムとか考えの変化に合わせて作るものが変わっていく人。一方で職人は、決められたものをしっかり作り、求められるクオリティに応えられる技術を持つ人だと考えています」と語る。

そして作家と職人の違いがわかりやすい例として教えてくれたのが、こちらの天平窯(てんぴょうがま)の 岡晋吾氏の取り組みだ。

天平窯 岡晋吾氏の磁器の作品。
岡氏は、有田で修業した後に料理家の助手として料理に合わせる器を作り、その後唐津に窯を築いた経歴をもつ。一般的に磁器は冷たい印象があるが、岡氏が作る磁器には料理にも合わせやすい温もりを感じる。さらに古典的でありながらモダンという絶妙なバランスも、この作家が生み出す個性である。

嘉泉窯の職人がつくる磁器の皿。
一方でこちらの皿は、作家の岡氏が監修し、長崎県にある嘉泉窯の職人によって作られた器だ。個体差のある風合いや、手仕事感のある絵付け、釉薬の配合を岡氏が伝え、作られたという。

作家ものの器が放つ雰囲気は魅力的である一方で、職人がつくる器も精度が高く、日用品として取り入れたくなる親しみやすさがある。どちらがいいと言うわけではなく、他の食器とともに食卓に並ぶとどうだろう?という視点で選びたいものだ。

このような作家と職人が手を取り、共創する取り組みにも今後注目していきたい。

日用品からアートまで。工芸を通して感性の土台を作る

工芸品は作家の判断によって、日用品にもなればアート作品にもなり得る。骨董のように日用品として使われていたものが、時が経つことによって何倍にも価値が膨らむこともあるものだ。

とはいえ、アートを買うことに慣れ親しんでいない我々日本人にとって、使用できて日常に馴染みやすい工芸品のほうが、価値を感じやすいかもしれない。

雨晴でも人気の高い、ガラス作家・辻野剛氏の作品を見てみよう。

「fresco」によるガラスの器
ガラス作家として超絶技巧を生かし、精巧なヴェネチアングラスを作るだけでなく、ガラスブランド「fresco」では、チームを率いて美しいガラスのプロダクトを制作。

さらに、コンセプト立てて制作することで、アートに寄った作品も生み出している。

photo by Yuichiro Ohmura

辻野剛氏のガラス作品「abyss」は、“海の底から見つけてきたもの“を意識して制作。アートの要素が強い作品だ。
「作家の視野が広がりつつある今、工芸が発展しアートのフェーズに移行していくことに可能性を感じています」と金子氏が言うように、見る側もまずは親しみやすい工芸作品から感性の土台を作り、アートへの興味関心を深めていくことができそうだ。

作家の“今”を知る、特集イベントも開催

雨晴では取り扱い作家にフォーカスを当て、特集展示とイベントも開催されている。

「作家ものの作品は、作家のその時の思想や何に興味を持つかで変化していくもの。展示では作家の成長を見ることができます。また、雨晴で購入しファンになったお客様が『よりたくさんの作品が見れて、作家の思いに触れられる』とお越しいただくことも多いです」と、金子氏。

展示期間中は作家の今を知り、より作品の奥深さを感じられることだろう。

photo by Kazumasa Harada

村上雄一氏による磁器の作品。
2019年11月1日からは、岐阜県土岐市に工房を構える陶芸家、村上雄一氏の作品が展示され、本人も初日に来店する。

村上氏自身が3年ほど前から夢中になっているという、中国茶を飲むための、中国茶器やティーポットなどを中心に、オブジェのようなうつわや日用の食器などが展示されるそうだ。
ぜひ足を運んでみよう。

作家の作品を家に取り入れて、暮らしを創造する

「工芸品は使い続けることで、自分だけの作品にしていけるという魅力がある」と金子氏が言うように、工芸作品は私たちの所有欲を満たしながら、感性も育ててくれる。

手仕事によって創られた作家の「作品」を、日常使いとして使用してみてはいかがだろうか。

雨晴/AMAHARE

住所:東京都港区白金台 5-5-2
TEL:03-3280-0766
営業時間:11:00 ~ 19:00
定休日:水曜日

公式HP:https://www.amahare.jp/