ディスカウントショップなどで手軽に、品質的にも問題の無い食器がいくらでも買える中で、積極的に食器にこだわろうとする人が年々増えているようだ。SNSで自分が作った料理をアップするときに、より“映え”をもたせるために器にこだわり、それを見た人が料理とともにその器にも興味を示す、という図式だ。食器にはこだわってみたいが、ブランド食器や有名陶芸家の食器は高額な印象があるし、そういったお店を訪れるのも敷居が高い。そこで、東京の住宅地にポツンと佇む「羊と山羊」という器のセレクトショップを紹介したい。置かれている器は、新進気鋭の陶芸家のものだが、いずれも店主の目利きによって選ばれた、個性的で魅力あふれる器の数々が所狭しと並べられている。
器と、そのストーリーを届けるセレクトショップ「羊と山羊」
東京都西東京市に実店舗を構える器のセレクトショップ「羊と山羊」は、2020年にネットショップからスタートし、そのおよそ2年後の2021年11月に実店舗をオープン。鉢や器の販売、陶芸家の個展、珍奇植物の販売イベントなどを定期的に行っている。土日以外は不定期でオープン。場所は住宅地の一角と、実店舗としては決していい立地ではないが、これには強い理由があると店主の八木雄太氏は言う。
「このお店、訪れにくいですよね(笑)。一応自分なりの意味があって、わざわざ来たいと思って足を運んでくださったお客様に、選んだ器の作家さんの背景や技法や特徴を一人ひとりに丁寧にお伝えして、モノといっしょにそのストーリーも一緒に持って帰ってもらいたいというのが、実店舗を構えるにあたってのやりたいことだったんです。そのためには、不特定多数の人がどんどん入ってくるような立地じゃないほうが良いなと思って、こういう場所を選びながらゆっくりとしたペースで活動しているという感じですね」
器を扱う仕事をしたいと思ったのは、20代の頃から趣味で器のギャラリーや個展を見に行っていたことが高じてのことだったという。作家を追っていくことはあまりせず、作品自体に焦点を当てて、質感や雰囲気、作り方を知って自分の好きな傾向にあるものを集めていたという点からも、“モノと一緒にストーリーも持ち帰ってほしい”という今の販売コンセプトに繋がってくる。
「自分がセレクトするのであれば、売れっ子作家さんのものより、駆け出しの作家さんだったり、これから活動の幅を広げていきたいという作家さんのものを扱いたいと思ったのは、自分もお店を始めて間もないので、一緒に成長し活動していきたいという側面もあります」。
扱っている食器は、益子焼や笠間焼といった関東近辺からだけでなく、岐阜や三重、熊本からなど津々浦々。実際に個展を訪れて取り扱いのオファーをしたものもあるため、SNSだけでは見つからない魅力的な器に出会うこともできる。
さらなる需要の高まりが期待される器シーン
各種SNSの投稿を見る限りでは需要を伸ばしている器だが、昨今の植物ブームでその需要を飛躍的に高めている「鉢」からの影響はないのだろうか。
「そもそも鉢と器では客層が違っていて、その鉢の作家さんの器だから欲しいということにはならなかったんです。ただ最近、うちのお店での話ですけど、鉢のほうから器の方へ流れてくる方が増えてきているので、もしかしたらそういう傾向が出てきているのかもしれません。少なくとも、以前よりもお客さんは増えて、作家の器を扱う店舗やギャラリーも増えていますね」
羊と山羊がセレクトする作家の器3選
1.うーたん・うしろ
「うーたん・うしろさんは、益子で薪窯を中心に陶芸されてる方です。穴窯っていって、その土地に穴掘って窯を作って、その中に薪をくべて5日間とかの長い時間焼き続ける、昔ながらの方法に近い感じで作っているんです。背景がものすごく多彩で、元消防士で、ダンス、タロット、音楽などもやっていたりして、そういった要素を表現する媒体として器を作っている感じがするんです」
「この湯呑もうーたんさんなんです。同じ人の作品とは思えないほどに全然違いますよね。まだ30代前半の作家さんなんですが、人物の多彩さというか振り幅の広さが器からみえませんか? 作家の経歴をずっと追い続けるのって、そのときに出会ってないとできないことですよね。うーたんさんに関してはそれができるので、この人の作品は追っていくことにして、リリースされるごとに湯呑みを2個以上買うと決めているんです。以前は男性に人気があったんですが、最近は女性からの人気が上回っている感じがありますね」
2.井上健太
「形を作ったあと、作品が乾ききる前に「どべ」と呼ばれる泥を指でなぞって立体的に作って、こういう表情や質感を作っているんです。井上さんは20代後半くらいの若い作家さんで、飲食関係の仕事をしていたときに食器に興味が出て、器の世界に行きたいと思ったとか。ガレージ系のロックが好きな方なんですけど、なんとなく作品雰囲気から見て取れますよね」
「茶道を本格的にやられているみたいで、抹茶碗や台湾茶用の小さい急須など、お茶の世界に通ずるものをよく作られていますね。急須は経年変化も楽しめます。台湾茶をたてるとき、温度を保つために急須にお湯をかけますよね。そのときに中から溢れ出したお茶の油分が表面に残って、表情がだんだん変わるんです。2週間くらいでグッと変化してくれるので、育てるのも楽しいですよ」
3.杉山悠
「笠間で作陶されている方で、製陶所で修行したのちに独立されたのですが、丁度コロナウィルス流行の時期と重なってイベントとかが全部なくなってしまったそうなんです。かくいう私も、お店をやろうと思った時期がそういう時期で、そのときに出会った作家さんなんです。色彩による表現を大切にして釉薬の調合をしていることと、しまったり重ねたり、食器として扱いやすい形も大きな特徴です」
「以前は金属感の強いブロンズ系やオリーブ色の落ち着いたものがメインで、その中にちらっと紫色のものが混ざっているという感じだったのですが、徐々に鮮やかなもののラインナップがかなり増えていますね。いろんなところからのお声がけが増えている人気の作家さんです」
作家の器で普段の生活をちょっと特別なものに
今回は杉山悠作の大皿を購入。個人的にはブロンズ系のシックでゴツ目な器でカッコつけるのが好きなのだが、流行りに乗り鮮やかなものに。汎用性の高い26cmの平皿をチョイスした。
新しい食器を手に入れてテンションが上がらない人はいないだろう。早速何か作ってみることにした。
普段の食卓を華やかにしてくれる作家の器たち。家庭を持つ方だけでなく、一人暮らしの方でも1、2枚こうした器があると、ちょっとした自炊のときの満足感を底上げしてくれるし、さらなる自炊へのモチベーションにも繋がってくれる。アナタとの出会いを待っている器を探しに、羊と山羊へ訪れてみてはいかがだろう。
羊と山羊
CURATION BY
編集者、ライター。まだ見ぬおもしろいモノを探して日々活動中。