「あと、何日。」は、あなたの大事な日まであと何日がすぐ分かる、それぞれの人に寄り添う時計である。日曜から月曜までの英字が書かれた時計で、あなただけの7日間を刻み続け、意識と行動を変えるきっかけとなる週時計だ。一週間で針が一周する、不思議な七角形の時計を紹介したい。
「あと、何日。」の誕生秘話
「今」という時間は人それぞれ異なり、プライベートと仕事など、「今」という時間は視点それぞれでも違ってくる。「 あと、何日。」は人それぞれの時間を指し示す、あなただけの時計である。「あと、何日。」は、SATORU UTASHIRO DESIGNが立ち上げたプロダクトブランド「sorekara」から発売されている。デザイナーの歌代氏に「あと、何日。」の誕生秘話を伺った。
「『あと、何日。』はもともとsorekaraブランドとしての商品化を前提にアイデアを出したものではありませんでした。「コクヨデザインアワード2022」というプロダクトデザインのコンペティションに応募し、1,031点(国内555点、海外476点)の作品の中から一次審査を通過したファイナリスト10点に選出頂いた作品で、『あと、何日。』は、そのコンペティションの「UNLEARNING」というテーマに沿ってアイデアを出して生まれたものでした。」
「UNLEARNING」は誰も信じて疑ってこなかった真実にもう一度フォーカスして、モノとデザインの関係性を再構築しよう、というもの。時計に限らずいくつかのアイデアを出していく中で、注目した視点の一つが、「時計は12時間で一周する」という、当たり前すぎて普段疑わなかった事実だったという。
「24時間ではなく、12時間。そもそも時間の単位はなぜ12という半端な数字で単位が構成されているのか。当たり前と言えば当り前、でも、誰かが作ったこのルールには、もしかしたら再構築する余地があるのではないか。そこがこの時計の原点でした」
また、歌代氏は、時計に関して色々と考察している中で、デジタル時計とアナログ時計それぞれに対する意識の違いに気づいたそう。「デジタル時計は、その時の時刻が数字として表示される。だからこそ、『今が何時なのか』という事実を明確に把握する。一方アナログ時計は針の位置を空間的に把握し、『今が何時なのか』を把握するのと同時に、直感的にその人が基準に置いている時間まで『あと、どれくらいなのか』を意識していることに気づきました。
学生の頃、授業中に教室に掛かるあのシンプルなアナログ時計を見ながら、『あぁ、昼休みまでまだあと25分かぁ。早く終わらないかなぁ』なんて思った記憶はありませんか?そう、アナログ時計にはこの『あと、○○』という直感的な感覚があるのです」
この、「時計の単位を疑ってみること」と「アナログ時計で無意識に意識していた感覚」がヒントになって生れたのが、一週間で一周まわり、大切な日まであと何日なのかを数えることで意識と行動に変化が生まれる時計「あと、何日。」である。
プロダクトブランド「sorekara」の想い
プロダクトブランドsorekaraが目指しているのは、モノをきっかけに行動や気持ちに変化が生まれ、その人の物語がほんのちょっと豊かに動き出した「それから」の物語になることだという。
「機能的価値だけに捉われず、所有することにワクワクしたり、使う時に嬉しくなったり、側に飾っておきたくなったり、誰かにプレゼントしたくなったり。そんな、情緒に訴えかけるプロダクトでありたい。sorekaraのプロダクトとの出会いが、日常に小さな幸せや驚きをもたらし、新たな物語のきっかけになることを願っています」と歌代氏は話してくれた。
「このコンセプトは、例えばお気に入りのマグカップを買ったら今まで以上にコーヒーを飲む時間が大切な息抜きになったり、素敵な花瓶をプレゼントされたのをきっかけに花を飾ることが習慣化して暮らしが豊かになったりするように、sorekaraのプロダクトがある前と後とで生活や行動、感情がちょっと変わって、豊かなライフスタイルになって欲しいという想いを込めています。そのために、ただただ便利という機能的な価値だけではなく、必需品じゃないかもしれないけど、持っていたら何か嬉しい、誰かに教えたくなっちゃう、そんな情緒的な価値を持ったプロダクトを作ることを目指しています」と話している。
「 あと、何日。」のこだわり
今回の時計において、意匠上で最も大事にしていた思想は必然性であると歌代氏は話す。「何かの属性に分類されたり、特定の好みに偏ったりする要素は最小に、機能とコンセプトに忠実に、7日間の週時計として未来の定番になるようなものにしたい…ということを意識していました。その思想から、7日間で一周するということが決まった時点で正七角形というかたちは最初の検証形状でした。当初は外形と7日間という数字の一致によるミニマムな形状検証という位置付けでした。
しかし、実際に形にしてみて、ふと、正七角形は自立時に必ず上が凸になることに気がつきました。奇数の正多角形の法則として、もちろん当たり前といえば当たり前なのですが、正三角形や正五角形は日常でもよく見る形状であったものの、正七角形は普段あまり見る機会がなかったため、法則としては当たり前ですが、見た目としては意外な発見でした。そしてこの、どう回転させても自立時に必ず上が凸となるという特徴は、時計においては12時の位置をどの曜日にでも変えることができるということを意味しており、結果的にこのプロダクトの最大の特徴となりました」
従来の時計は0が基準のため、必ず12時の位置に12(基準の0)を設ける必要があるが、「あと、何日。」はそうではない。曜日感覚は人それぞれであり、明確な0としての基準がない。
歌代氏は「『今日は何曜日なのか、今日は大切な日まで残り何日なのかということを日々意識することで行動に変化を生む』という時計の機能とコンセプトにおいて、頭の中だけでなく物理的、視覚的に人それぞれの基準を設定できるという特徴は、コンセプトと形状の必然性が一致した瞬間でした」と話してくれた。
カラーはSHIRO(白)とKURO(黒)の2色展開。プライベートと仕事の使い分けや、パートナーとそれぞれの使い分けなど、シーンや人に沿った使い分けが可能。通常の置時計と異なり、時計を回す行為の中で手に触れる機会の多いプロダクトのため、手のひらサイズの握りやすいサイズ感と、滑らかな形状、優しいマットな質感により、回す行為が心地良くなるように設計されている。普段あまり見かけることのない七角形のフォルムも面白い。余分な要素を徹底的に排除したシンプルなデザインは、流行に左右されず、個性的でありながらあらゆるインテリアに馴染んでくれる。
「あと、何日。」の使い方
1)一週間の中で、自分にとって大切な一日を決め、その日の曜日がてっぺん(12時の位置)に来るように時計を回す。
2)上記で決めた日まで「あと、何日。」を意識し、楽しみまでの日々をイキイキと過ごしたり、締め切りまでの日々を計画的に過ごしたり、メリハリのある毎日を過ごすきっかけになる。
歌代氏は「この時計で一番大切にした時間の考え方が、『ハレとケ』という日本人の伝統的な時間論です。ハレは儀礼、年中行事などの『非日常』、ケは普段の生活である『日常』と捉えられ、ハレの場では、衣食住や振る舞い、言葉遣いなどを、ケとははっきりと区別し、区切りやけじめにあたる濃密な時間と考えられてきました。しかし、現代では、生活が豊かになったことに伴い、毎日がハレのような食事や出来事に溢れ、ハレとケの境界が曖昧になってしまっていると言われています」
『あと、何日。』は時間の価値を疎かにしがちな現代において、日常の中にちょっとしたハレとケの概念を生み出し、一日一日の意識と行動を変えるためのトリガーとなることを目指しています。そして、この時計を持つ前と後とで、1週間の時間の使い方にちょっとした変化が生まれ、その人の暮らしがメリハリのある日々になることを願っています」と述べている。
時間を新たな視点で可視化して、意識と行動を変える
「無意識についつい惰性で過ごしてしまった一週間」と、「楽しみや目標に向かって一日一日を意識した一週間」。時間の価値は意識の差で変わるのではないだろうか。生活の中で、一日一日のメリハリを意識して行動すると、時間はもっと濃密に出来るはずであり、意識の差で時間の価値を変えてくれるのが「あと、何日。」である。デジタルの時計でもアナログ時計でもない、新たな時計で一日一日をあなたらしく過ごしてみてはいかがだろうか。
あと、何日。
CURATION BY
東京生まれ。フリーライター・ディレクター。美しいと思ったものを創り、写真に撮り、文章にする。