Vol.541

MONO

23 APR 2024

毎回違う揺れや傾きを生み出す小物入れ「SESEKI」

「SESEKI(セセキ)」は暮らしにささやかな変化をつくる、鋳鉄を生かした入れ物である。樹脂と鋳鉄で一体成型されており、入れるものや入れる角度によって毎回違う揺れや傾きを生み出し、暮らしの風景に変化を作り出す。そんな不思議なSESEKIを紹介したい。

SESEKIの誕生秘話

ゴールドツヤ加工のSESEKI
SESEKIは、鋳鉄の魅力を現代の暮らしに提案するFeVitaというライフスタイルブランドから展開されている。FeVitaでは自動車部品メーカーのアイシン高丘とTHAT社が共同で研究を重ね、鋳鉄の新たな可能性と価値をカタチにし、暮らしが楽しく彩られる製品づくりを心がけながら、細部まで妥協のないものづくりに取り組んでいる。SESEKIとFeVitaについて、アイシン高丘の先行開発部・高野幸氏にお話を伺った。

樹脂と鉄の組み合わせに目を奪われる
「アイシン高丘には自動車部品という命に関わる製品に携わってきた、品質へのこだわりがあります。そして、鋳鉄に長年関わってきた歴史と技術、知識があります。今まで自動車部品という形で鋳鉄の特徴や機能をみなさまに提供してまいりましたが、その魅力を伝える機会は多くありませんでした。アイシン高丘がFeVitaを立ち上げた理由は、鋳鉄の長所や利点を熟知しているメーカーだからこそ、その魅力を広く知ってほしいという思いがあるからです」と話す。

「例えば、鉄の欠点とされているサビも手中の技術で対策でき、遠ざけられがちな重量感は長年の知識を活かすことで利点へ変えていきます。さらに、研究開発を進めることで新たな可能性を生みだしていくことも、これまで鋳鉄に関わってきたからこそといえます。そのようにして培ってきた知識や技術を活かし、新たな可能性を発見していくライフスタイルブランドを立ち上げたことは、アイシン高丘だからこそできる挑戦です。私達はFeVitaを通して鋳鉄の魅力を発信していきます」と教えてくれた。

746gと安定感もあり、お気に入りの小物を入れても倒れない
アイシン高丘が自動車業界で培ってきた技術と知識、それにTHAT のアイデアやデザインをかけ合わせ、新たな鋳鉄の可能性を発見し共に提案しているのが、SESEKIをはじめとするFeVitaブランドであり、SESEKIは鋳鉄を中心に材質特性や加工、製造方法まで見直し、様々な素材との組み合わせと接着方法、また、色や表情などCMF(color、material、finish)の観点から研究して開発された。

2つの素材と2つの加工。21色の組み合わせ

さまざまな種類からお気に入りの一つを見つけたい
SESEKIは鋳鉄と透明樹脂が一体型となり、半球状の底部が内容物の大きさや重さ、入れ方、位置などで毎回違う揺れや傾きを生みだし、様々な表情を見せてくれる。

「鋳鉄の重みを活かすことで起き上がりこぼしのような動きをします。ペンを1本増やしたり、ものの入れ方を変えるだけでも、傾きが変わります。また花瓶として使う時には植物の成長によっても傾きが変化し、新たな表情を発見できるかもしれません。毎日の机の上や棚の上でふとした変化がおきます」と高野氏は話している。

入れるものや角度によって傾きが異なる
カラーラインナップは、様々な用途・シチュエーションに合わせることができるように、現在21色展開されている。今回紹介するのはシルバーのグロスとマット、とゴールドのグロスとマットの2色2種。鉄の部分は、鏡面つや消し、ヘアライングロス、ヘアラインマットがあり、樹脂の部分はグロス、マット、グラデーション染色の3パターンがある。それぞれの仕上げ色を組み合わせ、21種がラインナップされている。

左からゴールドマット、ゴールドグロス、シルバーマット、シルバーグロス

鋳物、鉄に新たな価値を

お気に入りのポプリを入れて見せる収納としても
また、高野氏はこう話している。「鋳造技術と鉄は2000年以上の歴史があります。時代と共に様々な製造方法や材質が考案されてきましたが、次第に鉄は別の素材に代替されていくことが多くなりました。その中で私達は改めて鋳造技術と鉄を見直し未来へ向けて新たな価値をつくっていきます。技術や加工方法、表情、特性を見直し、デザインと現代の技術によって、その魅力を再発見します。また、鋳鉄を中心に異素材と組み合わせることで、互いの良さを引き出しあう、新たな可能性を広げる製品づくりに挑戦します。私達は長い歴史を持つ鉄の価値を更新し未来へ継承していきます。」

生活に取り入れやすいFeVita
FeVitaは、「鋳鉄だからできること」+「素材研究」+「デザイン」によって鋳鉄の価値を見出し、他の素材との組み合わせを積極的に行い新たな鋳鉄の面白さやおどろきを発見し発信していくプロジェクトでもあるという。FeVitaのアイデアは鋳鉄をどのようなカタチにすれば、特徴や面白さが伝わるかから始まり、例えばSESEKIは「鋳鉄はズッシリというイメージだけどその重さを利用すれば踊るように揺れるペン立てや、花瓶がつくれるのでは?」というところからスタートしたそう。

「実際につくってみると、思った以上に美しく揺れることにおどろき、それでいて安定するSESEKIに私達自身も感動しました。また、展示会での発表の際にはみなさまにも大変楽しんでいただけました。このようにFeVitaではアイデア出しや制作過程で面白さを発見し提案していきます。そして、それらがみなさまの手に渡った時、おどろきや感動を共有できるような製品をつくっていきたいと考えています」と高野氏は教えてくれた。

鉄をもう一度暮らしへ

底面にはFevitaのロゴが書かれている
鉄は、昔から人々の暮らしを支える重要な資源であり、紀元前2000年にはすでに鉄を使う技術があったとされている。鉄は歴史の中で日用品として活躍し、農具や狩りの道具としても利用され、日本に鉄が伝来してからは茶道具や香炉、火鉢、鉄瓶など様々な暮らしの道具として独自の発展を遂げてきたという。現在では高い熱伝導性を活かしたフライパンや鍋が注目を集めているなかで、鉄は重さやサビが欠点とされ、徐々に暮らしの中で「見えにくい素材」となっている。

「鉄には歴史に裏打ちされた堅牢性があり、他にも高い導電性や磁性など、暮らしの中で活かせる特性と価値があるように思えます。また、サビはメッキ加工や塗装を施すことで耐食性を向上させることができ、重量は時に高級感を演出してくれます。そして、鉄は本来持っている優れた耐久性によって長期的に使用できる素材でもあります。FeVitaはこのような鉄の特性を活かしながら、さらに鉄以外の素材との組み合わせや、CMF(color、material、finish)の研究を通して、今までにないような鉄製品を開発、提案していきたいと考えています。暮らしの中でもう一度鉄が「見える」「魅せる」ライフスタイルブランドとして、その魅力を発信していきます」

些細な傾きの変化が日常を彩る
鋳鉄の面白さやおどろきを含んだ、自由で今の時代にマッチする入れ物は、自動車部品という命に関わる製品に携わってきた品質へのこだわりと、鋳鉄に長年関わってきた歴史と技術、知識を持つアイシン高丘だからこそできる新たなプロダクトであった。

暮らしのディティールをつくる

ものを入れずそのまま置いておき、インテリア小物としても
入れるモノの大きさや重さ、入れ方、位置などで毎回違う揺れや傾きを生みだし、様々な表情をみせてくれるSESEKI。生活に寄り添うプロダクトの何気ない肌触りや、ちょっとした見え方の変化は、私達を前向きな気分にさせてくれる。21種から自分に合うSESEKIを自宅に迎え、より豊かな暮らしを送ってみてはいかがだろうか。

SESEKI