キャビネットの引出しを一段だけ取り出したような、小さな収納家具「KaKuKo(カクコ)」。一見ただの四角い塊に見えるKaKuKoであるが、上部のフチを手がかりにして引き出せば、スムーズに動作する引出し機能を搭載している。各々の暮らしに馴染む小さな倉庫、KaKuKoを紹介したい。
KaKuKoの誕生秘話
KaKuKoはオフィス用キャビネットを製造販売するダイシン工業株式会社のインテリア家具ブランドTEKO DESIGNと、プロダクトデザイナー治田将之氏と青木亮作氏によって結成されたクリエイティブユニットTENTの共同開発で誕生した。
事務用キャビネットの製造で培ったダイシン工業の製造技術と設計ノウハウを活かし、スルスルと動作し、閉めた時には「ましかく」に見える形状を実現。本体の製造から塗装仕上げまで全てを国内でていねいに行っている。
TEKO DESIGNの鶴見氏とTENTの治田氏にKaKuKoの誕生秘話を伺った。
「1次試作を作った時点で8~9割近い完成度だなと感じました。実際、そこから計7回ほど試作を繰り返し、リリースまで1年以上かかりました。想定より長くかかってしまいましたが、躓いた部分がいくつかありました」
まず、収納家具に必要な引出しを作るのが大変だったそう。「何も工夫せずに設計をしてしまうと、物を収納した状態で引出しを引き出すと先端に荷重がかかり、本体が傾いてしまいます。簡単に傾いてしまうと収納家具として機能しないため、ある程度の耐荷重を達成出来るように設計面で工夫しました。結果的にKaKuKoは2kg、KaKuKo WIDEは4kgの引出耐荷重を実現出来ました。」と鶴見氏は話す。
また、引出に必要不可欠であるレールの選定が難しかったそう。「フルスライドレールにするか、2/3程度しか開かないレールにするか、ソフトクローズ機構をつけるか、引出しが簡単に開閉しないようにキャッチ機構をつけるか、単式レールにするか、ボールスライドレールにするか、レールカラーはどうするか、引出レールと本体レールが脱着出来るタイプにするかなど、さまざまな検討をしました」と述べている。
「実現したい機能を十分に満たし、サイズ・価格なども適正なレールを選ぶことは至難の業でした。私たちはオフィス家具などで引出製品をたくさん設計してきたため、設計力に自信がありましたが、引出しが独立して自立するという商品はこれまで作ったことがなかったので、とても苦労しました。10種類以上のレールを試作で試し、最終的には機能やコスト面で一番バランスの良いレールを選定することが出来ました。製品を触った方からもとてもスムーズな動きですねとお褒めの言葉をいただくことが出来、大変嬉しく思います」と聞かせてくれた。
数多あるレールの中から求める機能を満たすレールをどのように選定すればいいか、何度も金物屋さんに足を運んで打合せを行い、KaKuKoが出来上がった。
プロダクトの要と言っても過言ではないスムーズに動作する引出しは、長い年月をかけて培った事務用キャビネット設計技術と重量バランスのノウハウなど、さまざまな努力によって完成された。
積み重ね方は自由自在
引出しの方向や数を自由に組み合わせたり、引き出す方向を変えることもでき、多種多様な暮らし環境に合わせ、最適な使い方を選べるのもKaKuKoの特徴である。サイズについてTENT治田氏は「シェルフや、玄関先の靴箱、キッチン棚などに程よく収まるサイズに収める一方で、天面に置けるものの自由度も確保したかったので、モニターやトースターなどの電化製品や、観葉植物など、家の中の様々なシーンでの使用を想定し、様々なサイズで試作を繰り返し実際に使ってみることでサイズを決めていきました」と話している。
TEKO DESIGN鶴見氏は「天板の剛性を出すために、板厚の選定から溶接方法まで色々と試行錯誤を行い、ようやく今の形にたどり着きました。最終的には天板耐荷重を20kgまで高めることが出来ました」と話す。KaKuKoは小型ながらも堅牢なつくりとなっているため、単体では天板上を収納スペースとして活用したり、モニターを置くことで引出し収納付きのモニタースタンドのような使い方も可能だ。マウス、イヤフォン、スマホ、キーボードなどガジェット類を収納すれば、作業環境がすっきりと整う。
鍵、時計、マスクなど玄関靴棚の上において、玄関に置きたい小物を入れたり、カトラリー、コーヒー用品、ベビーフード、食器など、キッチンに置いてキッチン小物用品を入れたりもできる。十分な耐荷重もあるため、キッチン家電の下に置くのも可能だ。また、筆記用具、文房具、薬、郵便物などダイニングテーブル上においてちょっとした小物を入れたり、時計、アクセサリーなど部屋にある棚などの上において、コレクション入れとして活用することもできる。
「積み重ねて使うこともできるため、窓際の床に積み重ねておき、天面で植物を育てながら、お手入れ道具も引出しに入れて置けるので、便利だけど見栄えの良い植物コーナーを作ってみるのもおすすめ」とTENT治田氏は話している。お気に入りをすぐ手の届く身近な場所に、煩雑にならずにおいて置くことが可能で、KaKuKoはどこに何を置こうかと夢が広がる。
1.2mmの鉄の魅力
一見収納家具とは思えない美しい仕上がりであるKaKuKo。それを構成する一つが薄い鋼板である。
鶴見氏は「1.2mmの鋼板(鉄板)を見せるデザインを実現することにこだわりました。天面の縁は、1.2mmの板が立ち上がっており、物を置いても落ちないデザインとなっています。また引出しの鏡板も1.2mmの板一枚で出来ています。オフィス家具には、天板に縁があったり、鏡板を板1枚で作るデザインは存在しません。外観だけ見ると、オフィス収納家具もKaKuKoも四角いキャビネットと似ていますが、全く異なる設計方法を考える必要がありました。新しい設計手法ではありましたが、これまでの板金設計ノウハウを複数組み合わせた根拠のある方法で設計を行いました」と話している。
1.2mmの鉄板でできた家具はあまり目にすることがなく、自宅の家具を見渡しても木製のものが多かったり、鉄の家具はもっと板厚が厚いものが多い。「鉄(アイアン)を使った家具や建具をインテリアに取り入れることで、シャープでスッキリとしたモダンな空間を作ることができる」と鶴見氏は話しており、存在感はありながらも薄板で作られたKaKuKoはインテリアに馴染み、空間をスタイリッシュに昇華させてくれる。鉄は重いため塊だと簡単に持ち運べないが、細く薄くても強度(剛性)があるため、シャープでスタイリッシュなデザインを実現できる。
「KaKuKoも1.2mmという鉄板の薄さを随所に見せるデザインとなっており素材の重さを感じさせません。鉄(アイアン)を使った家具や建具を適度にインテリアへ取り入れると、鉄の素材感がアクセントになります。また、ミニマルなフォルムは他のインテリアと喧嘩せずどんな空間にもマッチします」と話している。
ブラック・グレー・ネオンイエローの3色のカラー
KaKuKoはブラックとグレー、ネオンイエローの3色展開。マット仕上げのブラックとグレーはどんなインテリアにも馴染みやすく、ネオンイエローは空間を彩り、明るくしてくれるカラーだ。しかしネオンイエローの実現にも困難があったと鶴見氏は話す。
「塗料メーカーに問い合わせてみると過去に海外で使用されていたが、現在は生産されておらず、対応が出来ないとの回答でした。一度は諦めたのですが、代わりとなる色がなかなか見つからなかったため、メーカーに再度問い合わせて海外の各拠点にも細かく確認を入れてもらいました。すると数か月後、海外のある拠点でまだ生産されている工場が見つかり無事に仕入れることが出来るようになりました。輸送方法や価格面でもハードルが高く、製品化出来るか極めて難しい状況でしたが、何とかリリースまでたどり着くことが出来ました」と話している。
ただし簡単に取り寄せられる塗料ではないため、現在の在庫が無くなれば、次の生産時期まである程度期間が空いてしまう可能性もあるため限定カラー的な立ち位置になっているそう。ハッとする鮮やかさのあるネオンイエローは、家具では珍しい色彩となっており、何か空間にアクセントを加えたい方にもおすすめである。
KaKuKoと生活を共に
鉄の魅力を存分に味わうことができ、インテリアのメインともなり、アクセントともなるKaKuKo。飾り棚としても、毎日使うものを入れておいても、お気に入りのコレクションを入れても、隠しておきたいものを入れておくのも良い。便利で収納力もあり、見栄えも良いKaKoKoはどこに置いても馴染み、生活の一部となってくれる。
ヴィンテージ感のある木製家具も素敵だが、鉄製で正方形のKaKuKoは現代の生活にマッチする。生活の変化や引っ越しを重ね部屋の大きさなどが変わっても、暮らしに寄り添ってくれる家具であり、ずっと生活を共にしたい、自分だけの小さな倉庫である。
KaKuKo
https://tent1000.com/kakuko/BLACK / GRAY / NEON YELLOW
KaKuKo ¥18,700 税込
KaKuKo WIDE ¥24,200税込
CURATION BY
東京生まれ。フリーライター・ディレクター。美しいと思ったものを創り、写真に撮り、文章にする。