Vol.315

MONO

22 FEB 2022

居住空間にコンフォータブルな違和感を与える「yrohako | イロハコ」

毎日長く過ごす居住空間を、好きなモノやお気に入りのインテリアで揃えている人は多いだろう。その空間でより質の高い生活を送るにはどうしたらいいだろうか。そう考えている中で目に留まったのがyrohako(イロハコ)だ。今のインテリアに飽きている方やなにか物足りなさを感じる方、模様替えは気力がいるから気が進まないという方にもおすすめしたいインテリアボックスだ。

コンフォータブルな違和感

yrohakoは「コンフォータブルな違和感」をコンセプトとしたインテリアブランドYROEHT(イロエット)の第一弾プロジェクトとして誕生。エッジの効いたシェイプ、美しい発⾊、重厚な質感といった特徴を持つ収納ケースだ。

さまざまな色、大きさを揃えている
YROEHTを立ち上げた垣下祐介氏に話を伺った。

YROEHTのブランドの核となるコンセプトである「コンフォータブルな違和感」。それは一体何を指すのだろうか。

「空間に緊張感を走らせる異質性、つまり違和感のあるものを空間に投入すると、逆説的に心地よく浸っていたい(コンフォータブル)空間になると考えています。

よく手にする本の上にyrohakoを乗せてみる
コロナ禍でこれまで外に向いていた意識や目線が一気に内側に向き、そして自宅で過ごす時間が長くなった結果、これまで良い意味で休息の場だった居住空間が、働く場、リフレッシュする場、アクティビティとしての場と、複数の役割・機能を持ち始めていることに気づきました。すると、お気に入りのインテリアを集めて作り上げた心地よい空間であるはずなのに、どこか物足りなさを感じるようになりました。

いつも目にする空間にyrohakoを置いてみる
シンプルなもの、リラクシングなもの、ナチュラルなもの。こういったもので作り上げた空間はとても居心地がいいのですが、毎日見ているとどこか単調に感じてしまう。

そこにあえて"違和感のある"ものを投入することで、かえって今までよりもコンフォータブルな空間ができあがるのではないだろうか。理想のプライベート空間は、単にリラックスできる場所ではなくて、常に心地よい刺激をもたらしてくれる場所であるべきなのではないかと考え、YROEHTを立ち上げました」


yrohakoの蓋にはYROEHTのロゴが入っている

職⼈の⼿仕事が光るyrohako

YROEHTの第一弾プロジェクトとなるのが、yrohakoだ。コロナ禍に居住空間を再定義していく中で、しっくりくる収納ケースが無いと感じた垣下氏は、創業68年の老舗パッケージ企業である共同紙業株式会社と共にモノを包み守る包装資材の一つである貼り箱を洗練された収納ケースへと再構築した。

「貼り箱は奥が深く、こんなにも工匠やクラフトマンシップが詰まっているのにもかかわらず、 あくまでも包まれるものや入れるものが主役で、箱は“従”になる前提でしか設計されていません。これは非常にもったいないことだなと感じました。そこで YROEHTの枠組みで収納ケース自体をインテリアオブジェクトに昇華することができたら、プライベート空間に対する新しい提案になるかもしれない。そう考えて開発に取り組むことにしました」と話している。

包装資材としての貼り箱は、質素だったり輪郭がぼやけているものが多く、インテリアとして活用しにくく、さらに日常使いするには強度や耐久性が不足しているという。そこでYROEHTは伝統的な貼り箱の製法をベースとしつつ、制作プロセスや素材を抜本的に見直した。箱の構造上、厚みのある紙材を使いながらシャープな線を作り出すことは難しいが、昔ながらの技巧に立ち返り、新しい発想でモノづくりを見つめ直すことによって、エッジの効いたシェイプを作り出すことに成功した。

角は美しく90度に折られている。これが手作業だというから驚きである
また、yrohakoは通常の貼り箱の何倍もの素材を活用し、紙材をミルフィーユのように贅沢に何重にも重ねて製作している。一つひとつ、職人の手仕事で仕上げ、内側に複雑な技巧を凝らすことによって、インテリアに相応しい重厚な質感と耐久性も実現しているという。

紙で作られているとは思えない重厚感
機械による大量生産ではなかなか生み出すことの出来ない、手作業ならではの良さを詰め込み、素材を贅沢に使用して一つひとつ職人の手によって作られたyrohako。歪みのない線は凛々しく、遠くからでも気迫を感じるほどだ。しかし近くでよく見てみると、パルプの模様をうっすらと感じ、触ってみるとエッジィでシャープな線の見た目とは裏腹に、やわらかな紙の温もりを感じてほっとした気持ちにもなる。視覚のみならず触覚でも紙というマテリアルの良さを十分に味わえ、紙のさまざまな表情を感じ取ることができるオブジェクトとなっている。

日常風景を落とし込んだカラー

yrohako の真髄ともいえるのが、日常にある何気ない風景の記憶を落とし込んだカラーとネーミングだ。

カラーは黒、白、黄、といった普遍的な色名ではなく、アスファルト、セメント、ザッソウ、ノバナ、フェンス、アレイネオンといった色名。その理由はアスファルトを敷き詰めた道路、セメントを固めて作った建造物、空に向かい無造作に伸びるザッソウといったように、「いつも当たり前にそこにあるのに忘れさられている景色/どんな街にも存在する風景」から抽出されたカラーを使用しているからである。

「コロナ禍で“外に出かける事”への考え方に変化が生まれ、目的や目的地のない移動が増えたことで、今まで見過ごしていた景観が視界に入るようになりました。同時に “外”という大きなパブリックスペースを構成している美しいマテリアルの存在を再認識し、“見過ごされている風景”をデザインコンセプトにしようという発想が生まれました」と垣下氏は話す。

アスファルトやセメントといったマテリアルを抽象化して色彩として落とし込み、オブジェクトとしての異質感をさらに感じさせ、コンフォータブルな違和感を表現した色を作り上げた。印象的なブランドカラーのイロエットイエローは、リラックスや調和を連想する僅かなグリーンに、新奇性や刺激的なものを連想させるイエローを多めに混ぜて作ったオリジナルカラーで、コンセプトであるコンフォータブルな違和感を体現している。

上からイロエットイエロー、セメント、ザッソウ、アスファルト
アスファルトは光が当たると白っぽいグレーに変わり、明るさを落とした部屋では夜の漆黒な海を想起させるような黒色が引き立つカラー。セメントは彩度の低い水色が混じっているようなホワイトベースのカラーで、どんな部屋にもマッチしやすい。ザッソウは明度の高いイエローとグリーンの中間のようなカラーでやわらかいアクセントを部屋に与えてくれる。居住空間では目にすることのない、普段は見過ごされている外の風景を居住空間に持ち込むことで、普段見過ごしていたものを見つめ直すきっかけにもなり、今までの居住空間が違った空間になるような感覚に。

それぞれのカラーを組み合わせて飾ることで、頭の中にある見過ごされた風景の記憶にアクセスし、その結果これまでの閉じたプライベートではなく、ぼんやりとパブリックな空間と繋がるような感覚になる。

散乱しているデスク

yrohakoで整理した状態。綺麗にするだけでなく空間にインパクトや緊張感をもたらしている
yrohakoは色彩をくすませることなく、美しい発色のままケースとして表現できるよう、色や紙の量に加えて目に触れることのない内側の台紙にまでこだわり、紙自体が持つ色味を最大限に引き出すことにもこだわっている。

プロダクトとアートの間のオブジェクト

yrohakoはプロダクトでもアートでもなく、オブジェクトであると垣下氏は話す。

プロダクトという言葉はどこか商業感を感じさせ、機能性が前面に出てしまう。アートという言葉もどこか崇高で排他的な感覚があり、アートのように鑑賞するだけのものではなく、プロダクトとアートの中間にあたるような存在でありながら空間に調和と刺激をもたらすもの、すなわち「オブジェクト」であることを強く意識しつつ、垣下氏はyrohakoを制作しているそうだ。今存在している言葉で一番しっくりくるのがオブジェクトであるそうだが、ジャンルには固執してないという。

「プロダクトが持つ機能的な部分は、相手に解釈の余白を与えないため受け手としては楽ですが、モノと人との関係性が切り離されている感覚がありどこか虚しさを感じてしまいます。機能性が削ぎ落とされ使い勝手が不明瞭なモノは、その余白にその人の個性や価値観、ライフスタイルが流れ込んでいくので、人とモノが分離された関係性になりにくく、そのモノを保持している時の愛情だったり高揚感のレベルが違うと感じています。そこを意識して作っています」と話す。

プロダクトとしてものを入れて保管しても、アートのように鑑賞する気持ちで部屋に飾っても良い。見せる収納として積み上げていくのも良いだろう。使い方は個人に委ねられている。サイズもXS、S、M、Lと4種類あり、好きな色と好きな大きさを選ぶことができ、さまざまな色や大きさを組み合わせたり、同色でサイズを揃えたり、部屋のテイストや大きさに合わせてチョイスすることが可能だ。

Lサイズは大きな本や靴なども収めることも可能。Mサイズは服やガジェットなどを入れたりできる大きさ。Sサイズはティッシュボックスがすっぽり入り、サングラスや時計など身の回りのものを入れておくのにちょうどいい。XSサイズは大事な小物を入れたり、箱の中に小さなフラワーベースを入れて、一輪飾ってみたりなど、そばに置いておきたいサイズ感だ。いずれも収納としてもインテリアでもあり、収納としてもインテリアでもない、不思議な存在感のあるオブジェクトとして空間に佇む。

Lサイズは大きな洋書を入れても余白ができるほど。お気に入りの服をまとめておくにはMサイズをチョイス

外で目にする風景の色を、居住空間に置く。あなたは何に気づくだろう

これからのプライベート空間を作る

この不思議なオブジェクトを自分仕様にアレンジ
垣下氏は「これからのプライベート空間の在り方を考えるきっかけにしてもらいたい」と話している。コロナ禍で屋外と屋内、パーテーションの向こう側とこちら側、陽性なのか陰性なのかなど、さまざまなところで隔てや区別を意識する機会が多くなった。yrohakoはそのような分断された世界ではなく、外の世界と居住空間である内部を曖昧にし、そしてそれをつなぎ合わせるような世界を作り出す。さまざまな狭間を曖昧にし、心地よさと違和感を同居させ、日常にゆるやかな刺激を与えてくれる。

今まで作り上げてきた心地の良い空間も、yrohakoを加えてみるとこれまでと違った景色になるだろう。変化の多いこれからの時代を生きるための居住空間を、yrohakoで作り上げてみてはいかがだろうか。

yrohako

yrohako ASSORT"BASIC" 11,000円(税込)
XS 1,400円/S 2,100円/M 3,800円/L 4,500円(全て税込)
https://yroeht.jp/yrohako/