食事を一緒にした際に、所作が美しい人に目を奪われることがある。背筋をすっと伸ばし、箸やカトラリーを上手に使い、静かに優雅に食する。慣れた様子でごく自然にこなす人を見ると羨ましさを感じる反面、自らを省みて不安になることがある。相手を不快にさせない所作を、本当に自分は身につけているのだろうかと。そんな時に知ったのが懐紙を活用する方法だ。エレガントな大人がこなす優美な動作を、日本に古くから伝わる懐紙が教えてくれるだろう。
日本古来の懐紙を使い、美しい所作を身につけて
些細なことがきっかけで、憧れの気持ちを抱いたり、逆に幻滅を感じてしまうことがある。私にとっては食事がそれで、食べ方が綺麗な人だと尊敬の念を抱いてしまうし、逆にその所作が気になるものだとがっかりしてしまうことが多々あるのだ。
そうかと言って自分がちゃんとしているのかと問われると、すぐに肯けない自分がいる。特に和食は細かなルールが多く、すべてを知っているのかと言われれば情けないが否と答えるしかない。
知人の中にいつも美しい食事の作法で憧れの人がおり、常に上品に振舞う彼女が食事中に使っていたものに目が留まった。どこかで見たことがあるようだがその名前が分からず、尋ねてみると「懐紙」という答えが返ってきた。
着物を着る人以外には縁がないと最初は感じた「懐紙」。だがその使い方を知るほどに、美しい所作を身につけるための手助けになるものだと知った。
日本に古くから続くマナーを学んで
懐紙と聞くと、懐石料理やお茶の席で使うもの、という印象を抱く人も多いかもしれない。その歴史は古く、平安時代に高貴な人々が和歌を書く際に現代の便箋として、あるいはティッシュやハンカチの代わりとして日常的に使うものであったという。
茶道が一般に広まった明治時代以降には着物を着る際はもちろん、洋装の場合でもバッグの中に懐紙を入れ、日常に欠かせないものであった。これを鑑みると共に時間を過ごす相手を気遣う、上品なマナーが当たり前のことであったのがよく分かる。
現代では懐紙は主にお茶の席や、懐石料理を頂く時に受け皿として使ったり、グラスに付いた口紅や箸先などを拭う際に使用するなど、美しい食事の仕方には欠かせないものとなっている。
食事の際のマナーのためだけでなく、多種多様な活用法がある懐紙。日本に伝わる小さな思いやりと美意識の表れである懐紙を使いこなし、優美な所作をごく自然に行えるようになってみたい。
美味しく、そして美しく食べる作法を懐紙とともに
懐紙の使い方はたくさんあるが、食事の際に活用すれば、スマートかつ上品に食べることができるだろう。外食の際に使用する場合は、レストランなどでテーブルに案内され、着席した後に懐紙を膝の上や脇に置いておく。使用する際は懐紙を二つ折りにし、折った側を手前にしておこう。
例えば和食料理で焼き魚が出されると、どのように食べるべきか悩んだことはないだろうか。箸だけで骨を取るのは難しいが、懐紙で魚の頭の部分を抑えればスムーズに骨を外すことができる。
また和食には煮物など汁気が多い料理があり、口元に運ぶ際に手を受け皿としている人もいるが、これはマナー違反。そんな時は懐紙を受け皿代わりとして使用してみよう。
また食事を終えた後、箸先の汚れも懐紙で拭き取ることが出来る。他にも手先を拭いたりテーブルにこぼしてしまったソースを拭くなど、ティッシュ代わりにして使っても良いだろう。
なお使用した懐紙だが、魚の骨等を隠すために皿に覆う以外では、持ち帰るのが礼儀となっている。最後まで懐紙を使う小さなルールを守っていこう。
使い方は自由自在。懐紙を日常生活に
懐紙は食事の時間だけでなく、他にも多くの使い方があるのが嬉しい。例えば立食のパーティーではコースター代わりとして懐紙をグラスの底から包むようにして使うと、水滴が手や服に着くこともなく過ごせるはず。カトラリーの下に敷いたり、箸袋の代わりとして使用するのも良いだろう。
あるいはオフィスでお土産や持ち寄りでお菓子が配られることがあるが、むき出しのまま机に載せるのはちょっと、と抵抗感を感じる時がある。そんな時には小皿代わりに懐紙が役立つはずだ。
また、懐紙は食卓を好みに合わせて彩るのにも向いている。天ぷらを始め、揚げ物料理を載せる際に下に敷いたり、お菓子を上に載せて華やかに演出したり。懐紙はデザインやカラーも豊富なので、載せる食材や季節に合わせて懐紙を選んで、器とともにコーディネートを楽しんでみたい。
他にもちょっとしたメモを書く際の用紙としても、あるいはお礼の手紙を書く時にも、バッグの中に懐紙があると必要に応じて使うことが出来る。あるいはチップを渡す際のポチ袋として活用するのもおすすめだ。
大人のマナーとエレガンスを取り入れて
食事をするというのはある種、非常にプライベートな行為のひとつ。普段は自宅で一人で、または家族や親しい友人とするものだが、時としてそうではない場面に遭遇することがある。美しい動作で食する人と席を共にすれば、美味しい料理はより一層味わい深くなり、そのひと時は楽しいものになるはずだ。
懐紙は日本で古くから使用されてきたものだが、根底にあるものはひと時を共に過ごす相手を気遣い、不快にさせたくないという想いなのではないだろうか。楽しい時間を過ごせたと、相手に感じてもらえるように。美しい所作を自然に出来る、大人のエレガンスを懐紙を用いて身につけてみたい。
CURATION BY
1992年渡英、2011年よりスコットランドで田舎暮らし中。小さな「好き」に囲まれた生活を求めていたら、夏が短く冬が長い、寒い国にたどり着きました。