好きな店がある街に住む———そんな選択もアリだと思わせる店に出逢うことがある。気分転換したいときや小腹が空いたとき、誰かと話したいときなどに、ふらっと立ち寄って、そこにいる人に「やぁ!」と声をかけられるくらいの距離感がいい。今回は、自分が住んでいる街にあったら行きつけにしたくなる、オールデイユースのカフェ&バーをご紹介する。
大人が遊ぶ、住みよい街。富ヶ谷
その店は代々木公園駅・代々木八幡駅などからアクセスが良い渋谷区富ヶ谷にある。富ヶ谷、神山町、宇田川町は合わせて「奥渋」と呼ばれ、感度が高いクリエイターにも人気のエリアだ。渋谷中心部とは違って人通りはそれほど多くはなく、ハイエンド層をターゲットとする質の高い店と、住む人の暮らしを支える店がバランスよくある印象だ。
このあたりに住めばもう、代々木公園は庭のようなもの。朝のジョギングでもはじめてみようか。秋は木陰で読書をしたら気持ちがいいだろうな。そんな妄想が掻き立てられる、広い空と豊かな緑。住処としても遊び場としても、大人が「ほどよさ」を感じられるエリアである。
ノルウェー発のカフェバー「FUGLEN TOKYO」
大通りから一本奥に入った静かな通りで、ひときわ賑わいを見せているのが「FUGLEN TOKYO(フグレン・トウキョウ)」だ。1963年にノルウェー・オスロで誕生したカフェ「FUGLEN」の海外進出一号店である。朝7時から深夜まで、年代も国籍も異なる多様な人々が出入りしている。
FUGLENは「鳥」を意味するノルウェー語だ。「KAFFE FUGLEN」という地元民に愛された喫茶店だったが所有者の事情により閉店せざるを得なくなり、2008(平成20)年に現在のオーナー・アイナール氏が店舗を買い取って「FUGLEN」を誕生させた。コーヒー、カクテル、ヴィンテージデザインという3つのコンセプトが加わり確立されたのがFUGLENブランドである。
オスロ在住のアーティストBendik氏が手掛けたオリジナルポスターには、いつか支店を出したいと思い描いた「オスロ」「東京」「ニューヨーク」の都市名が入っている。(NY支店はまだないそうだ)
FUGLENのコーヒーは、果実味が感じられる軽さが特徴だ。まるで紅茶のようにすっきりとした飲み口は、1日に何杯ものコーヒーを飲むノルウェー文化を考えれば必然ともいえる。朝起きて一杯。出勤前にもう一杯。打ち合わせに、食後に、寝る前にも。日本でいうところの緑茶のように、ノルウェーの人々にとってコーヒーは生活と切り離せないものなのだ。
コーヒー豆や焙煎方法にもこだわりがある。
看板やブランド、産地を限定することなく、本当に美味しい豆を現地農園まで買い付けに訪問しており、季節ごとに豆の仕入れを変えながら、常時3〜5種類の豆が店頭に並ぶ。川崎市に自社ロースターを構え、コーヒー豆はブレンドせず単一で焙煎する。ノルディックローストと呼ばれる浅煎りが基本で、豆本来のフルーティな風味を引き出している。
日替わりのTODAY'S COFFEEはレギュラーサイズで410円。ワンコインでおさまる価格帯がうれしい。
古民家の一階部分をリノベーションした店の中には、フグレンブランドの3つのコンセプトのひとつである北欧ヴィンテージデザインの家具や小物が並び、ショールームとしての機能も兼ね備えている。ノルウェー本店では家具や小物、食器にいたるまで、店内にあるもののほとんどが購入可能だ。(現在東京では販売調整中)
友人の家でくつろぐようなバータイム
日中はコーヒーをテイクアウトする人が多いが、日が暮れたあとは、地元民率が高くなるという。水曜日から日曜日までは25時まで営業時間が延び、近隣で店舗を営む人が訪れたり、夕食後の2軒目として来店する人も多い。
「店舗空間は、自分の家に友人を招き入れるような気持ちで整えています」と話してくれたのは、ストアマネージャーの荻原聖司氏。近所付き合いも活発で、近隣の店にコーヒーを卸したり、すぐ近くのショコラティエからカクテルの材料を仕入れたりすることもあるそうだ。互いの店の顧客が行き来することも珍しくない。
アルコールメニューは、定番カクテルを飲みやすくアレンジしたメニューもあれば、ここでしか味わうことができないオリジナルカクテルも多数ある。コーヒーと北欧の酒を組み合わせたコーヒーカクテルにも力を入れているという。
今回は、濃厚なエスプレッソを使った「アダルトモカ」と、爽やかな飲み心地の「メモリーレーン」をオーダーした。
エスプレッソ、ホワイトラム、自家製チョコレートシロップ、スチームミルクにココアパウダーをあしらった「アダルトモカ」。チョコレートやコーヒーとラム酒は相性が良い。甘さとほろ苦さ、ラム酒の香りが、その日の疲れをゆっくりと溶かしてくれる、大人のホットチョコレート。強いカクテルが苦手な人にも飲みやすく仕上げられている。
こちらは北欧を感じる爽やかなカクテル「メモリーレーン」。古くからノルウェーなど北欧各国で親しまれてきたアクアビットをベースに、レモンジュース、シロップ、卵白を加えてシェイクした甘酸っぱいカクテルだ。
日本人の主食は米。米から作る日本酒があるように、ジャガイモを主食とするノルウェーではジャガイモの蒸留酒アクアビットが地酒のような存在。数種類の薬草が入っているため、クセが強いものが多いが、フルーツの香りとレモンの酸っぱさ、そしてシェイクしたフワフワの卵白層によって、カクテルを飲み慣れていない人にも飲みやすい味だ。
夜のコーヒーカクテル。気取らない社交場
特別ではない、ごくありふれた日に行きたいと思わせてくれる店は、案外多くはないかもしれない。落ち着いた北欧ヴィンテージ家具に囲まれて、ほっと一息ついていたら、顔見知りが「やあ!」と言いながら入ってくる。「FUNGLEN」は、そんなほどよい距離感がいい。
「夜のお誘いなら『酒を飲みに行こうよ』より『コーヒー飲みに行かない?』くらいのほうが、何だか大人な感じがするよね」
そんなことを言いながら、3杯目のカクテルを飲んでいるうちに日が変わってしまった、くらいの店が、近所にあったらしあわせだなと思う。
FUGLEN TOKYO|フグレン トウキョウ
CURATION BY
料理とアートが好きなコラムニスト&写真家。
毎日、都内をぐるぐる歩き回っていますが、本当はインドア派。
映画を観ながら、作品に合わせた外国の料理を楽しむことにハマっています。