Vol.506

22 DEC 2023

〔ZOOM in 西新宿〕喫茶店はタイムマシーン。新宿のレトロ喫茶店4選

新宿は駅前の開発の波に乗りながらも古いものと新しいものが共存し、独自の魅力を拡張し続けている。この繁華街の一角に残る昔ながらの喫茶店は、まるでタイムマシーンのように過去の記録を映し出す。長年愛され続ける各店自慢の珈琲とともに、新宿を長い年月見つめ続けた人々の昔話に耳を傾けてみよう。

出会い、別れ、すれ違う新宿

新宿駅前はかつての賑わいが復活
いま、新宿駅周辺の開発ぶりはまさに都心の中でも群を抜いており、多様なカルチャーやライフスタイルの発信地として賑わいを見せている。街を歩けば、近代的なオフィスビルや最新のショッピングモールがあり、都市としての機能を充実させながらも、歴史的な建造物や路地裏にひそむ隠れた名店を発見することもある。

新宿駅中央東口壁画。レトロなモザイクアート
ここで、どれくらいの人が出会い、別れたのだろうか。

新宿駅前には、今日も誰かを待つ人々の姿があり、この街で働き続ける人の姿もある。1972年から、ただすれ違うだけで人を幸せにし続ける、あの人の姿も。

映画スケジュールをじっくり確認中
この人である。

カメラを構えると、親指を立ててポーズしてくれた。いい人だ。主演映画、アマプラなどでぜひ観てくださいとのこと。

映画「新宿タイガー」公式X
https://x.com/shinjuku_tiger1?s=21&t=1dghhDvHLkAqzYnp5aYpcw

「1500客分の小さな物語」自家焙煎珈琲 凡

オーナーの平さん。器の話を聞くのも楽しい
物語はカップの数だけある。「自家焙煎珈琲 凡」は、珈琲のおいしさはもちろんのこと、カップのコレクションやこだわりのケーキを楽しめる名店だ。

それぞれのカップにカードをつけてくれる
カップのコレクションは1500客に及び、その中にはもう手に入らない貴重なものもあるという。どうしてこれほどの数になったのか。それは、店を気に入って再訪するお客さんに、せめて碗皿を変えて歓待したいというオーナーの平さんの思いから。器の話を聞きたければ、ぜひカウンター席へ。

膨大な量のカップのカード。なんとカードのコレクターもいるらしい
毎日小型焙煎機でローストする新鮮な豆を使った本格コーヒー。その至高の一杯に見合う、本物の生クリームを使った大きなショートケーキも人気だ。

本物の生クリームをたっぷり使ったショートケーキ
凡特製の大きなショートケーキは「幻のケーキ」と言われるほど貴重な材料からできている。クリームは100%動物性。崩れないようにカットするために、ケーキカット専用のナイフを作らせるほどのこだわりよう。

自家焙煎珈琲 凡

「1964年創業の純喫茶2号店」珈琲西武西新宿店

豪華なステンドグラスが特徴
東京オリンピックが開催された1964年に創業し、純喫茶の名店として59年の歴史を持つ「珈琲西武」の2号店。昭和をモチーフに、モダンな雰囲気の『古いが新しい』を追求し続ける店。薫り高い珈琲や、昔ながらのパフェなど、充実のラインナップだ。

駅前の喧騒から離れた場所にあり、静かにくつろげる店舗
今回あえて2号店を紹介したのは、繁華街の喧騒から少し離れたこちらの店舗の方が静かでゆっくりと過ごせるからだ。広々とした店内には、真っ赤な布張りのソファ。天井のステンドグラス装飾が、いかにも昭和な雰囲気を醸し出す。

ド迫力の自家製プリンのプリン・ア・ラ・モード
最近SNS界隈でも人気なのが「プリン・ア・ラ・モード」。一人で食べ切れそうにないボリュームで、シェアするグループも多い。ボリュームのある洋食メニューも豊富で、老若男女問わずたくさんの方が訪れる。

珈琲西武西新宿店

「優しいオーナーと看板猫」カフェ アルル

客席をパトロールする次郎長
次郎長と石松、2匹の看板猫がいることで知られる「カフェ アルル」。店内には所狭しと骨董が置かれ、独特な世界観を創り出している。

筆者の座る席の背もたれでくつろぐ石松
珈琲をオーダーすると、バナナとジャイアントコーンが出されてびっくり。オーダーしていないことを伝えると、お客様の健康を考えてのサービスなのだという。

ピリリと辛めはインドオムラ
こちらの名物メニューはカレー風味のオムライス「インドオムラ」。「男性がオムライスを頼むのは恥ずかしいという時代があったんですよ。喫茶店で食べるなら、男は黙ってピラフ。女はナポリタンってね。オムライスが食べたい男性もいるから」と、誰でも気軽にオムライスを楽しめるようにとの思いで作ったのだそう。

どこか居心地がよく、長居してしまいそうな温かな雰囲気は、看板猫だけではなくマスターの愛情が溢れているからだ。

カフェ アルル

「新宿の老舗Jazz喫茶」Jazz cafe & bar DUG

マスター・中平氏の作品が飾られる店内
最後にご紹介するのは、1961年創業の、文化人が集うハブとして賑わった「Jazz cafe & bar DUG」。

「DUG」は、1961年創業の「DIG」という店から始まり2号店の「DUG」とともに、ジャズ喫茶の草分け的な存在として多くの音楽ファンの憩いの場として続いてきた。新宿の街の中で移転を経て、新たに「DUG」として統合。現在の姿に至るという。

和田誠氏デザインの「DUG」のロゴ
この店は一般のジャズファンだけでなく、寺山修司氏、植草甚一氏、和田誠氏など、錚々たる文化人が集まるカルチャーのハブとしても機能してきた場所だ。タバコ「hi-lite」のくすんだブルーを彷彿とさせるロゴ。実はこれをデザインしたのも和田誠氏だ。

マスターの中平穂積氏はジャズ写真家でもあり、店内では様々なアーティストの写真を見ることができる。

CDのコレクションは数千におよぶ
こだわりの珈琲やフレッシュジュース、100種類以上のカクテルなど、品揃えも豊富。
良質な音と独特の落ち着いた雰囲気が、珈琲と酒の味わいを引き立てる。

Jazz cafe & bar DUG

変わりゆく新宿。変わらない喫茶店

暗めの照明で、雰囲気のあるDUG店内
目まぐるしいスピードで変化していく新宿の街で、昭和の面影をそのまま残す喫茶店。もし新宿に住むなら、普段使いに選ぶのは、今どきの”映え”カフェより、地元に根付いて文化を守り続ける老舗喫茶店ではないだろうか。

新宿にはこのほかにもたくさんの老舗喫店があり、独自の文化や珈琲哲学を発信している。
お気に入りを見つけて、サードプレイスとして通ってみてはいかがだろうか。