見て飲んでお茶を楽しめる「TOKYO TEA JOURNAL(トーキョーティージャーナル)」。月額500円で月替わりのお茶3種類とお茶のおいしい淹れ方やコラムなどお茶にまつわる情報誌がポストに届くサブスクリプションである。見る体験と味わう体験を通して、時間や場所を問わずに煎茶を楽しんでもらいたいという思いからTOKYO TEA JOURNALは誕生した。
TOKYO TEA JOURNALができるまで
TOKYO TEA JOURNALを発行するLUCY ALTER DESIGN社は、『抹茶が「Matcha」として日本が誇る文化となったいま、私たちは煎茶を「Sencha」として文化と捉え、現代の価値観にアップデートしていきたい』と考えているという。
事業家でありデザイナーである青栁智士氏と谷本幹人氏は、TOKYO TEA JOURNALのみならず日本茶を通じて新しいライフスタイルを世界に向けて提供するために、「煎茶」を現代に合わせてアップデートするシングルオリジン煎茶専門店である煎茶堂東京や、世界初のハンドドリップで淹れる日本茶の専門店である東京茶寮といった直営店舗も展開している。
一般的なお茶の流通では、日本茶の品種である「やぶきた」が国内生産量の4分の3を占め、それ以外のお茶は価値が低いとされ避けられてきた。日本茶のスタンダード=「やぶきた」となり、それ以外のお茶は好まれず、お茶の個性も出しにくい。
コーヒーやワインなどと比べてお茶は多様性の少ない世界だという。TOKYO TEA JOURNALには「やぶきた」のみならず日本全国から、あらゆる良いお茶に注目し、まんべんなく情報を伝え愛でていきたい…という思いが込められている。
『単一農園、単一品種の繊細な味の違いを飲み比べて、日本各地に、そして茶農家一人ひとりに、想いを馳せてみるようなお茶の楽しみ方があったらどんなに良いでしょうか。 美味しいお茶がある暮らし。いま改めて、暮らしの中に「自由と個性」のあるお茶を取り入れてみたいと思います』と青栁氏、谷本氏は述べている。
コーヒーやワインのように、生産地やペアリングを楽しむ
奈良〜平安時代初期に中国から持ち込まれたことから始まったお茶。当時の日本は先進国であった唐(中国)の文化や学問・制度などを学んで自国へ取り込もうという風潮で、遣唐使を唐に派遣し、唐で仏教や文化などを学ぶ中で、彼らは茶の存在を知り、現在の嗜好品としての茶に繋がるが、当時の唐では茶を薬として服用していたとされる。
江戸時代になると茶は幕府の儀礼に正式に用いられ、このころに庶民の間にも嗜好品としての茶の文化が広まった。このときから庶民が飲んでいたお茶は、茶葉を煎じたもので、現代でいう煎茶だったという。
いまお茶の世界は、あえて言うなら伝統的な「茶道」と、合理性を追求した「ペットボトル」に二極化しているが、TOKYO TEA JOURANLは、はその中間に位置する、カジュアルに楽しめて暮らしを豊かにするお茶のカルチャーを作っている。
コーヒーやワインのように、お茶そのものの味わいだけではなく、生産地の違いを楽しむ、生産者のストーリーを楽しむ、スタイルを楽しむ、ペアリング楽しむといった広くて深い世界を広め、自国の文化であり、江戸時代から日本の居間にあったお茶である「煎茶」を、現代のライフスタイルに合わせて見つめ直し、新たな形で提案している。そのヒントがTOKYO TEA JOURNALの冊子に含まれている。
毎月届くのが楽しみになる、魅力あふれる中身
述の通りTOKYO TEA JOURNALには、全国 26 農家50種類以上のお茶から季節に合わせて選定されたお茶が3種類と冊子が入っている。前回5月号には「初夏の便りは爽やかなお茶と。」というタイトルの冊子と、「さえみどり」「翡玉」「あさひ」とう3種のお茶が入っている。
先日発刊された6月号には、「雨の日こそ、しっとりお茶時間」というタイトルの冊子と「茂2号(しげるにごう)」「しずかおり」「さきみどり」というお茶が入っている。色んなお茶に出会える楽しさが、ポストインできる薄型の紙製ボックスタイプのパッケージにたっぷり詰まっている。
「さえみどり」の産地は鹿児島県霧島、濃厚な海苔の香りがするボディ感のあるテイストで煎茶らしい上品な後味が長く続く王道の味わいだ。台湾茶の代表的品種のひとつである「翠玉」はジャスミンのような華やかさと淡い味わいを感じる一杯で、冷茶にするものおすすめ。
「あさひ」は京都和束で注目の若手が手がける淡く繊細な玉露。玉露とは収穫前に2-3週間ほど被覆(覆いをして、茶葉に太陽を当てないこと)をして作ったお茶のことを指す。苦みが少なく、アミノ酸由来の凝縮した旨味を楽しめるお茶で、低温でじっくり抽出することで玉露の特徴である、とろりとした旨味を引き出す。「あさひ」のように被覆した玉露の茶葉は煎茶に比べて柔らかく、食べられるという。茶葉をお茶請けに、玉露を飲む贅沢な時間を楽しめるのも特徴だ。
新茶「茂2号」は濃い旨みとともにとろりとした甘みがあり、渋みが少なく後味はきれいで、飲み飽きない。新茶の美味しさを存分に味わうならできるだけ早く飲むのがおすすめ。
国産の茶葉を使って作られる和紅茶「しずかおり」は、渋みが少なく和洋どちらにでも合い、ハチミツのような華やかな味わい。シャープな味が特徴の「さきみどり」は、旨みと渋みの絶妙なバランスを楽しめる。
付属の冊子は、表紙、構成、レイアウト、写真ひとつひとつこだわり、季節をテーマにしたおしゃれなイラストやそれぞれのお茶のレシピ、料理家のコラムや、二十四節気カレンダーなど月によってさまざまな情報が詰まっている。
知的好奇心がくすぐられ、届くたびに嬉しい気持ちになり、冊子は絵本のような写真集のような目で楽しむことができる。毎月のレシピとともに新しい発見があるように、丁寧な工夫がされているのが伺える。
ミニマルで洗練されたパッケージデザイン
TOKYO TEA JOURNALのお茶のパッケージは、味・品種・産地・生産者・蒸し具合・焙煎具合が記載されホワイトをベースにミニマルで洗練されたフォントとデザインで構成されている。カラーのものや、箔押しで印刷されたものだなどが混じり、パッケージを見るだけでも楽しい気持ちに。
お茶の継続に貢献したい、現代にアップデートした美学を生み出したいと考えている青栁氏と谷本氏は、「日本の素晴らしい資産は、引き算の美学であり、簡素であるがゆえに豊かな情景を感じさせる固有の美的スタイルである」と考えており、パッケージのデザインは先述した日本固有の美意識が現れている。TOKYO TEA JOURNALは日本各地のお茶をミニマリズムの世界観で統一して集めるプラットフォームのようなもので、小さな日本に見立てているという。
開封前のパッケージはどんなお茶が入っているのだろうと想像力を掻き立て、楽しい気持ちでお茶と向き合わせてくれる。パッケージを開封するとふわっと素敵な香りにつつまれ、ティーバッグではなく茶葉を目から楽しみ、飲む前に色や香り、そのまま口に含んだりと、五感で感じることで体験が深く記憶に残るものになる。
心と時間の解放のお供にお茶のある生活を
お茶に興味があるけど選び方が分からない、ゆったりしたお茶時間を過ごしたい、お茶に関わるいろいろなことを知りたいという方にはもちろんおすすめであるが、お茶の淹れ方やお作法など、お茶を飲むことに対してハードルが高いと感じ方にこそ手に取ってもらいたい。
TOKYO TEA JOURNALは、お茶は自由なものであることを教えてくれるからだ。その日の天気や気分などにあわせてお茶を選べて、楽しく自分だけのための時間、肩の力を抜いて心を休める時間もできる。TOKYO TEA JOURNALを通じて魅力的なお茶の世界への扉を開いてみてはいかがだろうか。
TOKYO TEA JOURNAL
CURATION BY
東京生まれ。フリーライター・ディレクター。美しいと思ったものを創り、写真に撮り、文章にする。