アウトドアブームとともに人気と需要が高まっているのが、オイルで火を灯すハリケーンランタンやオイルランプ。陽が沈み始めるひと時から夜の時間を照らす柔らかな炎は、人々を魅了せずにはいられない力を持っている。機能性に優れたシンプルな構造、印象的なデザインで誕生以来長く愛され続けているプロダクトは、火の取り扱いを理解した大人のためのガジェットと言えるだろう。現代でも同じ仕組みを持つ製品が販売され続けているが、より所有欲を掻き立て、遊び心を刺激するのが、それぞれが独自の物語を持つヴィンテージ品のハリケーンランタンやオイルランプだ。
世界を照らしたオイルランプとハリケーンランタンの歴史
人類は歴史とともにさまざまな種類の油を燃料として、周囲を照らす灯りを作り出してきた。その中でも1780年に物理学者であり、化学者でもあったスイスのフランソワ・ピエール・アミ・アルガンによって発明されたオイルランプは、燃料を入れる容器が炎を風から守る筒の部分と繋がったかたちになっており、それまでのランプに比べて明るく、長持ちするものであった。
このランプはベースになる容器と、ホヤと呼ばれる炎を保護するガラス製の筒、そして炎の強弱を芯の長さによって調節できるコントロール・ノブを備えた、筒と容器を連結するバーナーから成り立っている。ランプの燃料として、初期の時代はクジラオイル、あるいはオリーブオイルなどが使用されていたという。
通称アルガンランプ、もしくはアルガン灯と呼ばれたランプはそれから長い間、容器の素材やデザイン、筒のフォルムを変えながら、時代を超えて世界中を照らし続けていった。
その後、蝋燭の火を風から守るために「ハリケーン」もしくは「ハリケーンシェード」と呼ばれるガラス製の円筒型、もしくは樽型の筒が普及することとなる。これと同等のもの、通称グローブを備えたランタン型の灯りは、ハリケーンランタン、またはストームランタンと呼ばれるようになった。
ハリケーンランタンはトップにハンドルが付いており、持ち運んだり吊り下げることができるため、農場や路線工事など多くの作業場で使用され、それまでは夜になり暗くなると仕事を終えざるを得なかった人々の労働時間拡大の手助けとなった。
なお、ハリケーンランタンは3種の構造に分かれている。最初に発明されたのが、バーナーの真下から新鮮な空気を取り入れ、グローブの上から熱風を放出するデッドフレーム式だ。
1868年にジョン・アーウィンによって特許が申請されたホットブラスト式は、グローブ上の熱風を、両脇に設けられた中が空洞になっているチューブ(チャンバーとも呼ばれている)と呼ばれるフレームを通して再循環させたものを指している。
現在販売されている主なハリケーンランタンは、コールドブラスト式と呼ばれるものだ。これは冷たい新鮮な空気がグローブの上部から吸い込まれ、チューブを通って炎に送られる仕組みで、1874年に特許が申請されている。
デッドフレーム式より明るいホットブラスト式に比べても、コールドブラスト式は更に約2倍の明るさを放っていた。発明された当初から多少の改良はあったものの、現代のハリケーンランタンの構造は20世紀初頭から殆ど変わっていない。
この事からもハリケーンランタンがどれほど機能的であり、かつ実用性に優れているのかがお分かり頂けるであろう。
ハリケーンランタンとオイルランプの楽しみ方
ハリケーンランタンやオイルランプの燃料の中で、最も長く親しまれてきたのは「灯油」だろう。だが灯油は煤が出る、匂いが強いといった理由から使用をためらう方が少なからずいるに違いない。
今は煤や煙、匂いの出にくいランプ用オイルが数多く販売されている。一酸化炭素中毒の恐れもあるため、灯油に比べると価格は少々高くなるが、安全なオイルを選んで使用して欲しい。
点火の際はオイルをタンクに半分~3/4ほど入れ、芯にオイルを浸透させる。ハリケーンランタンの場合はグローブを上げて着火し、オイルランプの場合はホヤを取り、どちらも位置を元に戻して芯の高さで灯りを調節する。
火を灯す時はぐらつかない安定した場所に置き、周囲に紙や布など燃えやすいものを置かないこと。なお、オイルは事前に注いでおくと移動中に漏れてしまうことがあるので、使う場所で注入し、使用後に使いきれなかったものは元の容器に戻しておこう。
火を消す際は、ハリケーンランタンの場合はグローブの位置を上げて火を吹き消し、オイルランプはホヤの上部の片側に手をかざして火を吹き消す。火を消した直後はグローブやホヤはまだ熱いままなので、触れるのは充分に冷ました後にしよう。
ヴィンテージ品を購入する際に
現在でも新品のハリケーンランタンやオイルランプが手に入るが、クラシカルで美しいヴィンテージ品が欲しいと思う方のために、購入の際にチェックしたい点を挙げておこう。
まず芯を動かすノブ。バーナーに接続している燃焼ハンドルと呼ばれるこの部分が壊れていると、よほど詳しい人以外はプロに修理を任せる他ない。ここがきちんと動くのかを確認しておこう。
ハリケーンランタンはオイルを入れる容器である燃料タンクのキャップの有無の確認も忘れずに。ヴィンテージ品だと同種のキャップが手に入りにくい場合があるので注意したい。
燃料タンクの底も確認が必要だ。まずは穴が開いていないか要確認。見つけにくいほど小さな穴が開いている場合もあるので、使用前に厚手の段ボールなどの上に置き、少量だけオイルを入れて染み出てこないかチェックしよう。
錆びは自分でも落とせるが、その際に壊れてしまうほどのひどい錆びなら避けた方が良いだろう。ホヤやグローブがバーナーとサイズが合っているかの確認も忘れずに。
ヴィンテージのものはさまざまな状態の品があるため、美品を手に入れるためにもオークションなどで購入する際は、納得のいくまで質問をしておこう。
郷愁を誘う灯りとともに、ここではない何処かへ
スイッチひとつで灯りが点く時代、原始的とも言えるハリケーンランタンやオイルランプは手間のかかる存在だ。しかしそれさえも愛おしく感じるほど、オイルが灯された炎は見飽きることのない美しさと言えるだろう。
電灯では得ることのできない炎の揺らめきを眺めれば、時が経つのさえ忘れてしまうほど。ヴィンテージのハリケーンランタンやオイルランプに火を灯せば、炎の向こう側にノスタルジックな風景が見えてくる。
それぞれが長い歴史を持つランタンやランプに火を灯し、幻想的な炎とともに、ここではない何処かへ旅に出てみてはどうだろうか。
CURATION BY
1992年渡英、2011年よりスコットランドで田舎暮らし中。小さな「好き」に囲まれた生活を求めていたら、夏が短く冬が長い、寒い国にたどり着きました。