Vol.281

MONO

26 OCT 2021

火の灯りとゆらぎを嗜む照明「hymn|ヒム」

蝋燭の火を見つめていると、だんだんと気持ちが落ち着いてくる。不規則なリズムでゆらぎを繰り返す、儚くて小さな光。その光に癒された経験がある人は多いのではないだろうか。電気やガスなど火に代わる便利なものが当たり前になった現代の生活では火を意識することが少なくなってしまったが、いつのときも小さな火を見ると不思議と見入ってしまい、身体の力が抜けて心がほっと癒される。そんな気持ちにさせてくれる照明「hymn」を紹介したい。

ゆらゆらとかすかに揺れる灯り

hymnは蝋燭の火が灯っているような動きを見せ、「火」という原始的な光をコンセプトとして現代の光の在り方と重ね合わせたアンビエント照明である。空間デザイナー吉添裕人氏のプロトタイプ作品を株式会社アンビエンテックが2年間かけて開発し、hymn製品版として昇華させた。

gold(左)とblack(右)の2種類
hymnに関して吉添氏はこう述べている。

「現代の光の在り力を探求していく上で、ふと私の脳裏に浮かんだのはイタリアのフィレンツェにある教会に足を運んだ時のことでした。聖堂の真下には半地下の空間が広がっていて、薄暗いのですが、 小さな窓から日中の光がほのかに差し、澄んだ空気感だったことを記憶しています。

その空間に光の粒が、ゆらゆらと揺蕩いながら、 宙に浮かんでいました。それはー本の蝋燭の火でした。鮮烈なその記憶を辿りながら、思い巡らすと、人間が太古より扱ってきた「火」という存在は、現代においても私たちの暮らしと密接な繋がりがあることに疑いはありません。

火の周りに人が集い、その光に祈り、食べ、語らうような、人間の暮らしに寄り添う温かな光の風景。そのシーンは私たちの心を深く揺れ動かす新たな情感を生み続けているように感じます」

hymnがもたらす不規則な揺らぎと炎のように変容する光のテクスチャーは、私たちの根源的な心情を静かに揺さぶり、癒しをもたらし、カタルシスへと誘ってくれる。

空間に馴染みやすいマットな質感のblack

Ambientec_hymn

hymnのゆらぎ

デザインと機能性の共存

hymnは主に三つのパーツから成り立つ。レンズと磁石で構成されたゆらぎのある光を生み出す特徴的なペンデュラムレンズ、それを支える持ち手、そして吹きガラス職人によって一つ一つ丁寧につくられたガラスのシェードだ。hymnを製品化したアンビエンテック社の母体は水中撮影機材メーカーであり、その高度で繊細な技術をhymnのレンズやその他のパーツに落とし込み、制作している。

ペンデュラムレンズは光学と実験に基づいて設計された特殊なレンズ形状をしており、灯す光に影響させないようレンズとそれを支える繊細なアームは接着せず、レンズを凹ませてアームを噛ませている作りになっている。ペンデュラムレンズは磁力の見えない力量を受けて、繊細で不規則性を持った変容する光のテクスチャーを作り出す。

下部より光を投射すると、屈折の効果によってアクリルパーツの上部先端に光が浮かび上がり、その部材はアームによってバランスを取りながら立ち上がる
ペンデュラムレンズを支える台は、生活空間に寄り添う柔らかな曲線と削ぎ落としたエッジのあるディテールで構成され、持ち手と一体化した作りになっている。

火を持ち運ぶことを可能にした手燭台からもインスパイアされたデザイン
全体を包み込むドーム型ガラスのシェードは、埃除けのためだけでない。ガラスの持つ洗練された質感を加えることで、さらにインテリアに馴染みやすくしている。

儚い蝋燭の火を消さないように、おそるおそる持っているときのような、しんとした緊張感を感じられる

ガラスシェードは取り外し可能となっており、つけてもつけなくても灯りを楽しむことが可能
また、カメラやメガネなどといったガラスには表面にコーディングが施されているが、hymnのガラスシェードはあえてコーディングを一切行わず、無垢のガラスそのものになっている。光を透過するのと同時に反射するガラスの特性を活かし、暗闇で使うとhymnの灯りが空間にふわりと行き渡り、幻想的な姿を見ることができる。

暗闇の中で灯りが広がっていく
全体と同色の質感にこだわった亜鉛合金製のコンパクトな専用充電台は、USB充電が可能でコードレス仕様。最長24時間持つため充電やコードを気にすることなく、リラックスしたいとき、穏やかに眠りたいとき、ゆったりと読書をしたいときなどさまざまなシチュエーションで使える。さらに、防水性能も備えているため、バスルームやバルコニーといった場所でも楽しむことも。火が消えたり火災が起こったりする心配がなく、火を使うのが難しい場所でも火の灯りとゆらぎを楽しめる。

灯りへのこだわり

光源のパワーはキャンドルと同様で、光源色もキャンドルと同じやわらかな温かみを持つ2000Kを採用。持ち手の下にメインボタンが付いているが、持ち手の横側にも切り替えのタッチセンサーが付いており、蝋燭にふっと息を吹きかけて消すように、さっと指でなぞるだけで灯りのオンオフが可能となる。

ゆらぎのある光はペンデュラムレンズの動きによって不規則に生み出されているが、点灯時と消灯時には特徴的なLEDの光の動きがプログラミングによって組まれている。点灯時は火が灯るように強く輝いた後に光量が落ち着き、その後は一段階強い光量を選択することができる。消灯時には火を吹き消すように瞬きながら消えていき、光と触れ合う楽しさを遊び心を持って表現している。

LOWとHIGHの二段階の調光が可能であるが、LOWとHIGHの明るさにははっきりとした差異はなく、明るいところで点灯すればわからないほどの微々たる差異であるため、ある程度暗い場所で使うことをおすすめする。

LOW点灯時

HIGH点灯時
アンビエンテック社の代表・久野氏は、「通常この程度の差異の調光機能を持つプロダクトはあまりないですが、あえてhymnには二段階の調光機能をつけました。人の目は暗いところで慣れてきます。始め暗いと思っていても、だんだんと光に目が慣れてくると明るく感じたり、周辺が真っ暗のときと少し周りが明るい時では光の感じ方が違ったり、その時にその人に合わせた光を表現できるようにしました」と話す。また、北欧地域に多い明るさを感じやすい青い瞳などといった色素が薄い瞳を持つ人と、光に強いとされる黒い瞳を持つ人ではそれぞれ光の感じ方が違うため、さまざまな人種を対象に光を微調整できる照明を可能にしたという。

火の存在を新たに見つめてみる

火の存在について、デザイナーの吉添氏はこう述べている。

「hymnが目指したのは火を写実的に再現したり擬似することではありません。私の感動的な記憶には常に光が伴っています。私が見たあの一本の蝋燭のように、hymnが放つ光が誰かの新しい情感を形作っていくことを願っています」

火の存在を再解釈し、その根源に宿る魅力そのものを、日々の暮らしの概念が拡張していくような体験価値へと昇華させたいと考えているという。

灯りのやさしさを感じる
他のLED型キャンドルは近くで見つめてみると、イミテーションだとわかりがっかりしてしまうが、hymnは消沈するどころか、ものとしての美しさの魅力に引きずり込まれ、ますます虜になる。遠くから眺めたときと近くで見つめたとき、hymnはそれぞれの魅力を持っている。火が持っている温かみのあるやさしい色、そして予測できない独特なリズムを持つ微かなゆらぎを、hymnは現在の日常に寄り添った新しい形で表現している。蝋燭の火の灯りもhymnの灯りも、どちらもオリジナルでオーセンティックであり、hymnは火や蝋燭の模倣でなく、それとはまた別物なのだ。

日常に寄り添い、共に暮らす

非日常的な蝋燭の灯りを日常に取り込む
蝋燭の火が人々の生活に寄り添ってきたのと同じように、hymnも日常のシーンやインテリアに溶け込み、生活の一部になっていく。静謐な空間で一人の時間を楽しみたいとき、何も考えずぼうっとしたいとき、大切な人たちとの穏やかで幸せな時間を過ごすときなど、いつもそっとそばに置いておきたいそんな存在である。ゆらゆらとゆらめくhymnの灯りと一緒に、毎日の素敵な時間を積み重ねていってはどうだろうか。

hymn

https://ambientec.co.jp/collections/hymn

black 27,500円(税込)
gold 29,700円(税込)