Vol.660

MONO

13 JUN 2025

旅の思い出を「香り」で持ち帰る。La Note Parisienne

フランスには、「あなたのプルーストのマドレーヌは何?」という質問がある。作家マルセル・プルーストが書いた「失われた時を求めて」には、マドレーヌをきっかけに記憶が蘇る有名なシーンが存在するのだ。つまり「プルーストのマドレーヌ」とは、あなたの思い出を蘇らせるキーのような物事のこと。それは、夏の朝の匂いかもしれないし、とある映画で流れていた音楽かもしれない。はたまた10代の頃に使ったチープなシャンプーの香りや、お母さんが作ってくれた甘ったるい卵焼きの味の人もいるだろう。そんな私たちが持つ不思議でロマンチックな「記憶」や「イメージ」というものを、香りに宿しているブランドがある。それが、La Note Parisienneだ。

各区の雰囲気を香りに宿す

華やかなパリの街並み
石造りの美しい街並みに、華やかなファッション、クロワッサンやパン・オ・ショコラなどのおいしいヴィエノワズリー(ウィーン風のという意味。フランスではデニッシュやブリオッシュなどの総称)。観光地として大人気のパリは、セーヌ川の北岸に面した1区からはじまり、時計回りに20区もの区画に分かれている。23区に分かれている東京の街を思い浮かべていただければ、イメージがつきやすいかもしれない。それぞれの区は個性に溢れ、第1区にはルーヴル美術館やオーランジェリー美術館、第3区と第4区の間にはおしゃれなセレクトショップが並ぶマレ地区があり、有名なエッフェル塔は7区、そして日本でも大人気を博した映画「アメリ」にも出てくるモンマルトルは18区に位置している。

坂道に小さな商店が並ぶモンマルトル

パリの区に思いを馳せながら香りを楽しむ
これらの個性的なパリの区の雰囲気を香りで表現しようと考えたのが、2013年に誕生したブランド「La Note Parisienne」の創設者ルイ・アカとフロラン・マルタンだ。彼らが手がけるキャンドルやルームスプレーは、それぞれの区が持つ物語をトップノート、ミドルノート、ベースノートで表現している。

歴史、芸術。地区の魅力を3つの香りの構成で表現

組み合わせによって他にはない香りが生み出されている
街の雰囲気を香りで表現するなんてとてもおもしろい試みではあるが、それはどのように表現されているのだろうか。彼らのホームページの紹介文には、こう記されている。

第1区の場合は、セーヌ河の島にある最古のステンドグラスを持つ礼拝堂サント・シャペルやルーブル美術館の壮麗なファサード、そしてかつて市場があり、現在は中心的な駅として機能しているレ・アル、17世紀にリシュリュー枢機卿によって建てられたパレ・ロワイヤルなどの歴史的な側面からインスピレーションを受け、香りを作ったそうだ。使われている香りは、トップノートにガイアックウッド、ミドルノートにパチョリとムスク、そしてベースノートにはクローブとシダーウッドだ。歴史深い地区に相応しく、ウッディ系の落ち着いた香りが組み合わされている。

置いておくだけで香りを楽しめる
その一方で、例えば6区はどうだろうか。彼らは哲学者や芸術家たちが集う文化の拠点であったサン=ジェルマン=デ=プレのある6区を芸術の中心地、そしてエレガンスを体現する象徴的な地区として捉え、落ち着いたウッディ系の香りが使われている第1区よりも華やかな香りで表現している。トップノートはオレンジフラワー、ミドルノートはチューベローズ、ジャスミン、ローズ、そしてベースノートに使われているのはイチジクだ。

夜のリラックスタイムに
ちなみにチューベローズとは、日本語で月下香を指し、白い筒状の形をした清潔感のある花のことである。夜になると強い芳香を放つチューベローズの花言葉は、「危険な快楽」「官能的」。華やかさとともに現れる感性の危うさもまた、彼らは香りで表現したのかもしれない。

知らない土地を旅するように手に取った香り

2e arrondissement(2区)と書かれたパッケージ
そんなさまざまな香りを楽しめるキャンドルの中でも、今回私が手にとってみたのは2区を表現した香りだ。2区は1799年に開業したパリで最も古いアーケードのひとつ「Passage des Panoramas(パッサージュ・デ・パノラマ)」があり、さまざまな飲食店が軒を連ねている。私たちは雨の日でも細いアーケードを通って、各国の料理を楽しむことができるのだ。

浴室を良い香りで満たす
私がそんな2区の香りを選んだ理由は、行ったことのない土地だったからだ。香りをきっかけに、訪れたことのある地区を思い出す時間も楽しいかもしれない。けれども香りによってまだ知らぬ土地の雰囲気をイメージしてみるのも、おもしろいのではないかと思ったのだ。

パリの1区と2区の間にあるヴィクトワール広場に建つ、ルイ14世の騎馬像
先ほど紹介したパッサージュ・デ・パノラマの他にも、パリの元証券取引場であるブロンニャール宮殿がある歴史深い2区。コリント式の円柱に囲まれた美しい建築が見られるこの地に相応しく、La Note Parisienneはレザーと葉巻を彷彿とさせる香りを作り出している。

落ち着いた香りは夜にぴったり
トップノートは甘くスモーキーな香りを放つガイアックウッド。そしてミドルノートにはサンダルウッドにシダー、ベースノートはパチョリとムスクだ。あたたかなウッディ調の香りの中に甘さを感じさせる組み合わせは、アンティークショップに迷い込んだかのようなどこか懐かしく気持ちを落ち着かせてくれる香りである。今までキャンドルや香水は花や果物の香りばかりを好んで使っていた私にとって、とても新鮮な気持ちにさせてくれるキャンドルだった。それはまるで旅先で出会った見知らぬ風景のように、私の中にあったまだ気づいていなかった感性を呼び覚ましてくれたかのようである。

原料はフランス産。こだわって作られている製品

手作業で作られているこだわりのキャンドル
La Note Parisienneの製品は、すべてパリ16区のアヴェニュー・マルソーにある自社アトリエで作られている。キャンドルの製造はすべて手作業。香水の都として知られているフランスのグラース産の高品質な香料と、フランス製の植物性ワックスを使用しているそうだ。

パリの区を表現した「Les Parisiennes」シリーズ
今回ご紹介したパリの区を表現したシリーズは「Les Parisiennes」。その他世界の各都市をイメージして作られた「Les Voyages」もあり、マラケシュやニューヨーク、ロンドンのほか、「TOKYO」という名のキャンドルも用意されている。東京生まれ東京育ちの私にとって、彼らが東京にどんなイメージを持ったのか興味があり調べてみたところ、日本の国旗が象徴するように「昇る太陽」からインスピレーションを受けて香りを構成したそうだ。トップノートには アイリスとホワイトフラワーが使われ、ミドルノートはアイリス。そしてラストノートには桜の葉と白檀が使われており、日本人の私たちにとって馴染みのある花々の香りで構成されている。

ユニセックスなパッケージはプレゼント用にも

高級感のあるつるりとしたブラックの器
香りは個性豊かだが、パッケージはとてもシンプルでシックである。ブラックのガラスにエレガントなフォントが描かれているLa Note Parisienneのキャンドルは、主張しすぎず、けれどもインテリアに上質な雰囲気をもたらしてくれる。浴室に寝室、リビングの棚の上など、置く場所を選ばないパッケージは年齢や性別を問わずどんな方にも喜ばれるだろう。そのためギフトにもぴったりだ。

小説を読むように、香りから見知らぬ土地を想像してみる
旅の思い出を香りとして持ち帰るのはもちろん、私のように旅行に行ったかのような気分も味わえるLa Note Parisienneのキャンドル。トップノート・ミドルノート・ラストノートと時間によって変化する香りを楽しみながら、まるで小説でも読むように、遠い異国の地に思いを馳せてみてはいかがだろうか。

La Note Parisienne