Vol.161

MONO

01 SEP 2020

暮らしの空間と外の世界を繋ぐ装置「テンポドロップ」

天気を予想する道具としてイタリアで開発され、イギリスに紹介されたと伝えられている「ストームグラス」。もともと19世紀頃のヨーロッパにて天気予報に使われていた道具で、透明なガラス容器に、エタノール・塩化アンモニウム・硝酸カリウムなどの混合液が入っている。天気の変化によって変形・増減する結晶によって、近い未来の天気が分かるとされている。しかし、どのように結晶が作られるのかといった法則は実はまだ解明されていないのだ。天候を予測するという目的で作られたストームグラスであるが、その目的以上に、気候によって日々違った表情を見せる結晶の繊細な美しさが素晴らしい。そのユニークで美しいストームグラスを自宅でも楽しめるようにと作られたのが「テンポドロップ」である。その魅力を紹介する。 

職人が一つひとつ丁寧に作る、雫型のガラスの容器

雫の形のテンポドロップは、透明な硼珪(ほうけい)酸ガラスで作れており、シンプルながらも品の良さと曲線美を感じられ、どのインテリアともマッチする。ちなみに硼珪(ほうけい)酸ガラスは、耐熱性・耐薬品性に優れていることから、理化学器具や台所用品などに用いられていて、少しの衝撃では壊れないため、安心して自宅に置くことができる。

一般的なストームグラスの中身は、樟脳(しょうのう) 7.09g、硝酸カリウム 1.77g、塩化アンモニウム 1.77gを粉末にして56.7gの44.1%エタノール水溶液(体積パーセント濃度50%)に溶かし、長さ25cm・直径2cm程度の試験管に入れ、針で細孔を開けた紙や革で封じて作られている。このテンポドロップはそのストームグラスを自宅でも楽しめるように、配合を調整し、小さくして作られたものである。

手のひらに収まるサイズ感。写真のものは大きなサイズで、高さ約20cm/1.1kg。小さなサイズは高さ約11cm/450g。
熟練した技をもつ職人によって一つひとつ製作されている。大きなサイズでもちょうど片手にすぽっとおさまるほどの大きさで、ついついずっと触っていたくなるほどの滑らかさ。その雫型の繊細で美しいフォルムは、穏やかで異質さを感じさせないため、すぐに自宅に溶け込んでしまう。

自由に置く場所を決めて、結晶の変化を楽しめる

テンポドロップは電力を不要とし、また日光を当てる必要や暗闇に置く必要もなく、置く場所が限定されない。好きなように持ち運びができ、部屋のさまざまな場所に置くことができる。リビング、書斎など、気分に合わせてテンポドロップを移動させ、それぞれの部屋の雰囲気も楽しめる。また、難解な説明書などは不要のため、自宅に届いた時から、その不思議な雫型のガラス器との共同生活をスタートさせることができる。

お気に入りのインテリアグッズとして、一番目に留まる場所に飾るのも良い。

ダイニングテーブルに置き、毎朝ごはんを食べながら天気を予測するのも楽しいだろう。

数時間後の天気を、自分で予測して行動する

先述した通り、ストームグラスは天候によって中の結晶が違う表情を見せる。ストームグラスの内容が変化する原因は未だに研究途上であるが、温度や湿度、気圧などの影響によって、水中の溶解度や結晶形状が変化するためと考えられている。そんな謎に包まれたストームグラスは、次のように変化する。

結晶が一つもなく、ただの無色の水のよう。とても天気がよく暑くなるときは、沈殿物は管の非常に低い位置までしか積もらないか、写真のように何も結晶が現れなくなる。この日の最高気温は37度を予測していた。

沈殿物の量が徐々に増え、星のような形のものが透明の溶液中を浮遊するのが見られたら、雨に変わる前。 夕方から雨を予測していた日。

拡大してみると、小さく細かな結晶がたくさんできている。スノードームのように小さな結晶が動き続けているので見飽きることがない。

霜や雪のときには、管の高い位置まで沈殿物が積もり、白く固まり、浮遊する点状のものが見られる。天候が悪く、一日中低い気温を予報していた日。

嵐やひどい風の前には、固形分の一部が溶液の表面まで達し、大きな葉のような形に。溶液は濁り、発酵しているように見える。この日の予報では一日中雨・強風となっていた。

拡大してみると、一つ一つの結晶の形が大きく、葉の形のような結晶が作られているのがわかる。
このように、日々表情を変えるため、悪天候でも楽しめる点がこのテンポドロップの魅力の一つでもある。予想できる天気の変化はだいたい6時間後~12時間先と言われており、例えば今は穏やかに晴れている天気だけれども、テンポドロップが雨の予想をしているのであれば、洗濯物は入れてから外出するといった使い方もできる。天気を知る際に、TVやネット以外での情報収集はなかなか現代では行わないが、あえて、現代ではあまりやらない200年前から続いているプリミティブな天気の予測を楽しんでみてはどうだろうか。

自然と連動したテンポドロップ

植物に水をあげるのと同じタイミングで、テンポドロップを観測するルーティンも良いかもしれない。
温度や湿度、気圧などの影響によって変化するため、全く同じ結晶は、二度と現れない。雪のように真っ白だったり、何も存在していないかのように透明だったりと、その日のさまざまな偶然が重なってできあがった不思議な結晶は、唯一無二の存在である。

白色と透明色の濃淡で作り出す密度や色の違い、沈殿物の量などといった要素が組み合わさって作られる、もうこの世に全く同じものは出現しない結晶。それは天候や季節によって日々刻々と姿を変える自然と、テンポドロップが深く連動しているということを教えてくれる。テンポドロップが作り出す結晶は少し揺れただけで簡単に崩れてしまうほど繊細で壊れやすい。その点も自然界の作りと同じである。 結晶が表す変化を通して、自然が織りなす豊かさを感じ取ることができるのではないだろうか。一年を通して四季の移り変わりを楽しみながら、どう結晶が変化していくのかを記録するのも素敵である。

暮らしの空間と外の世界を繋ぐ装置

毎日変化を見せる姿は、小さな生き物のようである。
天候を予測するテンポドロップは、家の中にいても外の様子を知ることができ、外の世界との繋がりを感じることができる。その外の世界の様子を表す結晶に一見変化が見られないように感じられても、今見ている結晶は先ほど見たものとは違い、不可視なレベルで変化している。予測不可能な自然界と同じように、その結晶は小さなガラスの器の中で、人間にはわからないほどの小規模でも変化を続けているのだ。

現代において、陸、海、空、宇宙からの雲の動きや空気の変化を見ることで、天気を予想することはできる。しかし、「明日雨が降って欲しい」「今すぐ晴れて欲しい」などいう天候の変化の希望は、実際に叶えることは不可能であり、コントロールできない。テンポドロップも自然と結びついているためアンコントローラブルであり、人間が持つ意思や行動では結晶を形成することはできない。自然が作り上げた結晶を鑑賞しながら、自分の力ではどうにも変えられないものの存在を受け入れ、共に生活するということを考えさせられる。

さまざまな地域で起こっている天変地異的な事象も、当然のことながら人間が操作することはできない。日々移り変わる結晶は、そういった揺るぎない事実や現実を受け入れる為の生き方を静かに示唆しているのではないだろうか。毎日、少しずつ淡々と容器の中で表情を変え、それでいて二度と同じ結晶は存在しない。今の世の中全体を体現しているようである。このテンポドロップは、固定化された暮らしの空間の中で、変化することをやめない世界との共存を教えてくれているのかもしれない。

Tempo Drop(テンポドロップ)

https://100percent.stores.jp/items/57eb7ca500d331b2db001ebe

価格:大 6,050円 (税込)/小 4,180円(税込)