家で過ごしている時間、ふと空腹感を覚えたり、疲れて料理をする気が起きないことがある。取り合えずお腹に溜まるものをと、すぐに食べられるファストフードやインスタント食品、スナック菓子に手が伸びてしまうことはないだろうか。そんな時におすすめしたいのが、野菜がたっぷり入ったスープ。自ら調理したスープが家にあるだけで、食生活はぐっと豊かになるだろう。スープは身体だけでなく、心にも栄養を与えてくれる滋味に富んだ料理なのだ。
スープから始まったレストランの歴史
人類が火の扱いを知り、保存するための容器が生まれた時代から作られてきたスープの歴史は約2万年前に始まったと言われ、レストランが誕生した際の最初のメニューとしても知られている。
「レストラン」という名称が生まれたのは1765年のパリ、ブーランジェ氏という人物がブイヨンを提供する店をオープンしたことが発端となる。「外食」とは旅館が宿泊者のために提供していた料理や、露店で販売していた食材を食することを指した時代だ。
その店の看板には「ブーランジェ氏が提供する、神々にふさわしい元気を回復するもの」と書かれており、そのメニューはスープであった。ブーランジェ氏が店の宣伝に利用したフランス語の動詞、Restaurer=回復する、取り戻すという意味が、今日の「レストラン」の由来となっている。
体力を回復し、元気を取り戻すメニューとされたスープは、心理的にも栄養的にも大きな影響を与えてくれる。欧米では風邪を引いた時の定番にチキンスープがあるが、この風習は12世紀には始まっていたほど。
充分な水分を摂取することができ、熱い液体が喉の痛みを和らげ、免疫力を高める効果がある玉ねぎ、人参、セロリやニンニクが入ったスープは病気の時は欠かせないものであった。必須の栄養素である野菜をふんだんに摂れるスープは、飲めば身体だけでなく、心までも潤い癒してくれるメニューなのだ。
世界にはその国独自のスープがたくさんあるが、野菜がたっぷり摂れるミネストローネは、始まりは紀元前2世紀、ローマ時代という長い歴史を持つメニュー。通常はパスタや豆を入れるが、ここでは簡易版を紹介しよう。
みじん切りにした玉ねぎ一つを鍋に入れ、オリーブオイルで炒める。しんなりしてきたら細かく刻んだニンニク1かけ、1㎝角に切った人参1本、細かく刻んだセロリ半分を鍋に入れて炒める。
人参が柔らかくなってきたら、小さめに切ったズッキーニ半分とキャベツ150~200g、皮を剥いて1㎝角に切ったトマトをふたつ鍋に入れて炒める。野菜はすべて同等の大きさにカットすると食べやすくなる。
水400mlとチキンブイヨン、月桂樹を鍋に入れて煮込み、具材が全て柔らかくなったら塩コショウで味を整えて完成だ。
ミネストローネは簡単に調理でき、アレンジが効くのが魅力のスープ。好きな野菜はもちろん、冷蔵庫で使い道に困っていた野菜も入れて、「我が家のミネストローネ」を作ってみたい。野菜たっぷりで満足感のあるスープは、食べ過ぎた翌日やダイエット中にもおすすめの一品だ。
ハンドブレンダーで、スープのレシピが大きく広がる
スープは野菜や肉、魚などの食材と味のベースとなるブイヨンやコンソメ、液体があれば完成するとてもシンプルな料理。あとは調味料と鍋さえあれば調理できるが、ひとつあるとスープの世界がぐっと広がるプロダクトがハンドブレンダーだ。
野菜を水とブイヨンで煮込み、牛乳を足したものをピューレ状にしたとろみのあるスープ、ポタージュは、ハンドブレンダーさえあれば簡単に作ることができる。ミキサーのように場所を取らずに収納できるハンドブレンダーは、スープ生活に欠かせないものとなるだろう。
ポタージュの作り方はひとつ覚えると多くのバリエーションに対応できる。例えばブロッコリーのポタージュスープ。薄切りにした玉ねぎひとつを鍋に入れてバターで炒め、しんなりしてきたらスライスしたじゃがいもを一つ入れる。
ブロッコリーをひと房、小さく乱切りにして鍋に入れて炒め、油が全体に回ったら、水200mlと牛乳200mlを入れて煮込む。具材が全て柔らかくなったら火から下ろし、冷ましたらボウルへ移してハンドブレンダーで攪拌する。再び鍋へ移してチキンブイヨンを入れて弱火で煮込み、最後に塩コショウで味を整えれば完成だ。
このブロッコリーをポロネギ&じゃがいも、マッシュルーム、人参やかぼちゃなど、その時の旬や好みの野菜に変えて、さまざまなポタージュスープを楽しんでみよう。仕上げにパセリやクルトン、ブルーチーズや炒ったナッツなど、それぞれのポタージュに合うトッピングを見つけてみたい。
作り置きして冷凍に。スープがメイン料理に変わる
スープを作り過ぎてしまったり、毎日同じスープだと飽きてしまうという方は、小分けにして冷凍するのがおすすめだ。ただし、じゃがいもは固形のままだと食感が変わってしまうため、冷凍するのであればポタージュにしたものを。液体を冷凍でき、洗えば何度でも使用できるシリコンのフリーザーバッグを活用すればエコで便利だ。
解凍してスープをそのまま楽しんでも良いし、冷やご飯を一緒に入れて煮込めば簡単リゾットに早変わり。パスタを表示時間より1~2分ほど早めに茹で上げ、スープに入れて煮込めばスープパスタとしてメイン料理となる。
週末など時間がある際に多めにスープを調理しておき、冷凍庫にスープを常備しておこう。忙しくて料理をする時間がない場合や、空腹感を感じた時に。スープは前菜にも軽食にも、メインディッシュにもなる便利なメニューなのだ。
自然の恵みと小さな幸せが詰まった食卓に
身体も心もぎゅっと縮こまりそうな寒い夜、温かなスープが私たちを癒してくれる。自然の恵みをふんだんに含んだ、甘く優しい野菜の味と香りが体中に染み渡り、張り詰めていた気持ちがゆるりとほどけていく。
少し時間がある時は、自分のためにスープを調理してみよう。バターやオリーブオイルを鍋に入れ、刻んだ玉ねぎを加える。木べらでゆっくりかき混ぜながらその香りを吸い込むと、それまで感じていた疲れが静かに消え去っていくのを感じるだろう。
熱々のスープをお気に入りの器に注ぎ、いただきます、と小さく呟きテーブルの上を眺めてみると、スープからふんわり立ち上る湯気が心を温める。
それはささやかだけれど、小さな贅沢が詰まった食卓。スープは自分の身体と心を回復させる力を持つ、栄養満点のメニューなのだ。
CURATION BY
1992年渡英、2011年よりスコットランドで田舎暮らし中。小さな「好き」に囲まれた生活を求めていたら、夏が短く冬が長い、寒い国にたどり着きました。