Vol.470

FOOD

18 AUG 2023

ほのかに甘い宮城の和紅茶「kitaha」で、ちょっとリラックスしませんか?

世界には多くの種類のお茶が存在する。特に有名なものは日本茶、紅茶、ウーロン茶といったものだが、実は原材料である茶葉は全て一緒である。発酵や製造の仕方で味や名前が変わるのだ。そのことを知ったきっかけは、「kitaha(キタハ)」という和紅茶との出会いだった。「kitaha」は宮城県石巻市桃生地区で育った茶葉を使って作られている国産の紅茶である。

東北で育つ「桃生茶」、400年の歴史と新たな挑戦

石巻の桃生地区にある茶畑で農園の方と一緒に茶摘みをする様子
日本のお茶の産地は静岡や鹿児島など、東京以西の地域が有名である。それは、年間平均気温が14~16℃以上、冬季の最低気温がマイナス5~6℃以上の場所が茶葉の栽培に適しているからだ。

そのため、一般的に冬の寒さが厳しい東北地方は茶葉の栽培に不向きだと言われる。ただし、宮城県石巻市の桃生茶(ものうちゃ)は例外だ。東北にお茶の産地があることすらご存じない方も多いかもしれないが、北限のお茶と呼ばれることもあるこの桃生茶の起源は、なんと伊達政宗が茶葉の栽培を奨励した江戸時代にまでさかのぼる。

400年以上の歴史を持つこの桃生茶に新たな可能性を見出したのは、(有)ファーム・ソレイユ東北の代表・日野 雅晴さん。桃生茶葉を緑茶ではなく、紅茶として製造することを考案し、2017年に東北初の和紅茶「kitaha」の販売を開始した。

kitahaは厳しい寒さを乗り越えた肉厚な茶葉が生み出す、やさしい味わいが特徴
和紅茶とは日本産の茶葉でつくられた紅茶のことで、「国産紅茶」や「地紅茶」とも呼ばれる。「飲みやすい」というのが、私が初めて「kitaha」を飲んだ時の印象だ。桃生茶葉で作られる緑茶はふくよかな香りとまろやかな味わいが特徴だが、「kitaha」はあっさりとしていて、えぐみが少なく、ほのかに甘い。その味ゆえ、食事やお菓子にもとてもマッチする。

一種類の茶葉から何種類ものお茶が生まれる

「kitaha」の原料は全て桃生茶を使用し、発酵の度合いを調整することにより、さまざまなお茶へと変化させている。初期の段階で火を通すのが緑茶。火を通すと発酵が止まるので不発酵茶と呼ばれ、紅茶は発酵茶、ウーロン茶は半発酵茶に分類される。

発酵は温度や湿度の影響を受けやすいため、それらを一定に保った管理が求められる。実は「kitaha」の茶葉は石巻で生産されているものの、お茶の製造に関しては去年まで静岡にある加工工場に依頼していた。宅配便では温度を一定に保って運ぶことが難しいため、日野さんたちが自ら車を運転し、車内の温度管理をしながら、静岡まで茶葉を届けていたという。その努力を聞いて、日野さんたちの紅茶づくりへの情熱を改めて感じた。

発酵の度合いによって、お茶の色も風味も変化する
昨年7月に石巻市内に自社工場が完成し、今年から本格的に自社でお茶の製造を行うという。建設の目的は静岡まで茶葉を運ばなくても済むようにするためだけでは無い。日野さんの次女でキタハブランド開発室長の日野 朱夏さんは「石巻産とうたうからには、製造も石巻で行いたい。地域のためにも石巻に工場を建てたい」と長年思い続けてきた。その夢がついに叶ったのだ。今回はそんな思いが込められた工場を見学させてもらった。

2022年に完成した「kitaha」の工場。紅茶の製造工場が東北に建てられたのは初めてとのこと

東北で初の紅茶づくりは試行錯誤の毎日

揉捻(じゅうねん)という葉を揉み込む機械へ、水分を飛ばした茶葉を入れる
工場に入ると、茶葉の豊かな香りが広がっていた。発酵のため、室内は湿度や気温が高く保たれている。現在、朱夏さんの夫で開発室工場長の日野 優介さんが製造を担っている。国産紅茶を復活させたことでも知られる丸子紅茶の村松 二六さんからやり方を教わったそうだ。

揉捻した茶葉は細く丸まり、少し茶色に変化している

更に棚の中に茶葉を入れて発酵、室温・湿度の管理は優介さんたちが目で確認しながら行う
工場で使用しているほとんどの機械や道具は、昔から使われている既存製品を改造したもの。電子制御もされていないシンプルな構造のため、職人の知識と経験が頼りだ。優介さんは「シンプルだからこそ、職人の技が光ります。発酵や火入れのタイミングは、見た目や香りで判断します。今は二六さんにアドバイスをもらいながら、試行錯誤しているところです」と言う。

昔ながらの機械は効率の面で不便なところもあるが、壊れた時に比較的簡単に修理できるという良い点もある。電子化がいつも便利だとは限らない。必要な機能に絞り、直しながら長く使うという意識がサステナブルな経営にもつながっていく。

ガスバーナーで機械に火入れをし、茶葉を乾燥させ、発酵を止める

朱夏さんと優介さん。夫婦で試行錯誤しながら、kihataづくりに取り組む

「kitaha」が紡ぐ、次世代への希望と夢

(左)開発室工場長の日野 優介さん、(右)キタハブランド開発室長の日野 朱夏さん
「kitaha」の開発は、朱夏さんが会社を継ぐために東京から石巻へ帰郷したことがきっかけだった。東日本大震災からの復興にも取り組む中で、「娘たちの世代に残せるような新規事業を始めたい」と、雅晴さんが企画した。朱夏さんは当初、和紅茶をつくることに戸惑ったそうだが、今では「kitaha」は自分の子供のように大事な存在になっているという。コーヒーやペットボトル飲料が普及する今、紅茶づくりを次世代へ残し、自身で茶畑を守ることが使命だという。

今年から「雪をかぶり、やわらかに澄む」を「kitaha」の新コピーに採用し、リニューアル
今後は、工場と同じ敷地内に、できたての紅茶を味わえる施設をつくり、工場見学と組み合わせて提供することも考えているとのこと。紅茶は使用する水や温度によっても味が変わるため、製造した土地で飲むのが一番おいしいのだとか。また、地元の子どもたちにお茶作りに参加してもらい、卒業式で紅茶を渡す構想もあるそうだ。単にお茶を売るだけでなく、お茶を通して人や地域に貢献していく姿勢もまた「kitaha」が愛される理由だと感じる。

「kitaha」でひと休み、リラックスしたひとときを

「kitaha」にドライいちごが入ったフレーバーティー
「kitaha」の中でも私が一番おすすめしたい商品は、フレーバーティーシリーズの「kitaha纏(まとい)kitaha×いちご」だ。クラッシュされたフルーツが入っているものが多いが、このフレーバーティーはいちごを浮かべて飲むという珍しいスタイル。 もちろん、いちごは食べることもできるので、香りだけでなく味まで楽しめるのも嬉しい。「香料や着色料は使っていないので、素材そのものの味が感じられる」と朱夏さん。紅茶の味わいといちごの甘酸っぱさが気持ちをリラックスさせてくれる。

お茶を飲みながらおしゃべりを楽しむ東北の習慣
私は普段、仕事の合間にコーヒーを飲むことが多い。これは次の仕事に向けて、気合を入れ直すためで、意識的なものだ。一方、お茶は仕事を終えた時や、休日にゆっくりしたい時に家族や友人と飲むことが多い。気分を落ち着かせたい時や疲れを癒したい時に、無意識のうちにお茶を選んでいることもある。それぐらいお茶にはリラックス効果があると私は思っている。

また、東北には「おちゃっこする」という、とてもかわいらしい言葉がある。これは「お茶を飲みながら、世間話をする」という意味だ。この言葉からもわかるとおり、昔からお茶はコミュニケーションツールとしての機能も果たしてきた。

仕事や勉強、家事、SNSなどで時間に追われ、忙しい人が多い今、お茶が果たす役割は以前よりも増しているように思う。たまには「kitaha」で家族や友人とおちゃっこしながら、ゆったりした時間を過ごすのはいかがだろうか。

お茶のあさひ園 kihata | キハタ