Vol.312

FOOD

11 FEB 2022

味や香りがどんどんと進化。日本人の食に寄り添う、和紅茶

和紅茶とは日本で作られている国産の紅茶のこと。日本で紅茶が作られていることを知らなかった…という人も中にはいるかもしれない。実は和紅茶は緑茶の名産地といわれるところで主に作られていて、栽培方法、製法にこだわった紅茶も続々と生まれている。そして和紅茶には多種多様な茶樹が使われていて、その品種は100種類以上あるとも。しかしこれが和紅茶って何?選び方が難しい…とも思われてしまう一因にも。そこで今回は和紅茶専門店の方々にお話を聞き、選び方や飲み方について紹介。緑茶や中国茶、海外の紅茶などとも似ていたり、違っていたり。さまざまなシーンで楽しめるお茶であることを発見して欲しい。

国産の紅茶、和紅茶とは?その歴史、特徴について

インドから日本に紅茶品種の種子が持ち込まれたのは明治時代
緑茶と紅茶の違いは摘み取った茶葉を発酵させるかどうかにある。発酵させることでその味わいが引き立つのが紅茶品種だが、品種の違いだけでもともとは同じ茶樹なので製法を変えるだけで紅茶も緑茶もどちらも作ることができる。よって日本でも海外へ輸出するため、明治時代より国産紅茶の生産が行なわれるようになる。

戦後は徐々に品質の高い紅茶が作られるようになっていき、1955年には最大で8,500tも生産していた時期があったとか。しかし1971年、紅茶の輸入自由化により安い海外紅茶に太刀打ちできなくなり、生産量が激減。衰退の一途をたどることになる。その後、日本の紅茶の状況が一変するのが、1995年に「べにふうき」という日本独自の紅茶品種が生まれたこと。これにより国産紅茶に再び目が向けられる。

「べにふうき」の茶葉。元々は緑色の茶葉だが、手や機械で揉み、発酵させると赤黒く、茶褐色になる
「べにふうきは2007年にはイギリスの品評会で金賞を受賞するなど、日本紅茶を世界に再び知らしめた品種。これ以降、日本のコンテストでもべにふうきの紅茶が上位を占めるようになっていきました」というのは紅茶インストラクターなどの資格を持ち和紅茶専門店「レインブラントティー」の代表を務める森本さん。学生時代にファームステイしたケニアでチャイを飲んだことをきっかけに、紅茶の魅力に開眼。紅茶の移動販売をしたり、大手企業の紅茶部門のエリアマネジャーを務めてきた人だ。

「べにふうき」の誕生により、国産でも品質の高い紅茶生産が可能であることが認知され始め生産量が増えていき、さらに近年は、べにふうき以外の緑茶品種を使った紅茶もランクインするように。この背景には紅茶生産技術の向上はもちろん、日本の和紅茶の作り手は緑茶との兼業の茶園が多いことが言える。緑茶品種を使った質の高い紅茶を生み出すことで、茶園の経営を維持し、新たな生産物として価値を高めようと努力した結果、さまざまな和紅茶が生まれていったのだ。かつて行っていた紅茶作りを復活させたいという茶園も。

静岡はもちろん、熊本、奈良、高知など緑茶の名産地でよく見かけるようになった和紅茶
森本さんは2018年に和紅茶が集まるイベントに参加し、その品質の高さと生産者の方々の熱意を目の当たりにする。もともと紅茶で起業をしたいと考えていたが、和紅茶に絞った専門店の事業化へと舵を切った。コロナ禍ということもあり、まずはECサイトで和紅茶の魅力を発信しながら、自分が本当に美味しいと思えるものをセレクトしたネットショップを立ち上げることに。和紅茶を取り扱う店はネットでも増えてきているが、その美味しさを正しく分かりやすく伝えることに主眼を置いたサイトを目指した。

「現状は和紅茶を飲みたいと思ったら茶園のサイトを訪れ、取り寄せるしかない。いろいろ飲み比べたいと思うと送料もかかってしまう。茶園も生産だけでなく販売にも注力しなければならない…そんな国産紅茶の現状の問題解決になればとも思いました」。

レインブランドティーのサイトで販売している飲み比べセット。1杯ずつリーフティーを淹れることができるポーションセットなども

海外紅茶との違い、品種や味わいの多様性を紐解く

森本さんのサイトを見ると、各紅茶に紅茶鑑定表というものが記されていて、和紅茶の特徴を5つの項目に分けてその度数を表現している。例えば「ボディ感」は渋みや収斂性なども含めた紅茶全体のボディ=骨格。これはミルクティーに合うかどうかの指標にして欲しいという森本さん。しっかりしたものは濃厚なミルクともバランスがよくなる。

「5つの項目の中でも甘み・旨味という項目は海外の紅茶の鑑定基準にはあまりないもので、和紅茶の味わいを表現するのに必要なのではないかと思い独自に加えてみました」。つまり甘み・旨味は和紅茶ならではの特徴。海外の紅茶との違いはまさにここにあり、日本人の嗜好に合った紅茶とも言えるだろう。

「レインブラントティー」のサイトでは商品紹介の中で独自の紅茶鑑定表を作成し、特色や飲み方について解説
では、海外紅茶はダージリンやアッサムなど産地の名前が付けられ、その味わいの特色がイメージできるが、和紅茶はどうだろう。産地の名前や茶葉の品種の名前が記載されていることが多いが、和紅茶初心者にとっては違いがいまいち分かりにくい。品種の違いの特徴をざっくり知っておくと、好みの味を選びやすいのではと思い森本さんにその特徴をうかがってみた。

手前が緑茶品種「やぶきた」、奥が紅茶品種「べにふうき」の紅茶。製法にもよるが水色や淹れた後の茶葉の色が異なるのがわかる
まず味わいや香りは、緑茶品種と紅茶品種で異なるので、まずこの2つの特徴をとらえる。緑茶品種は日本の茶園面積の7割を占める「やぶきた」など。紅茶にしても緑茶のような爽やかな香りや旨味を持つものが多い。それに対して「べにふうき」など紅茶品種は、発酵することで味わいが良くなるもの。熟成した香り、コクを持つものが多く、しかし海外の紅茶よりも渋みが穏やかなものが多い。

・緑茶品種…やぶきた、さやまかおり、さやまみどり、とよか
・紅茶品種…べにふうき、べにほまれ、べにひかり

「このほかにも在来品種として各地で守られてきた、いわゆる野生の茶樹があり、緑茶向きのものがほとんどですが100年以上の歴史があるものも。味わいはマイルドですが、土地の魅力を感じることができる唯一無二の紅茶です」。

そして各茶園でこれら品種の茶葉を独自に配合したブレンドティーを販売していたり、アールグレイのようにベルガモットなど柑橘の香りを加えたフレーバーティーや中国の紅茶、ラプサンスーチョンをイメージさせる燻製をかけた紅茶も。製法でも多様で個性的な味わいを生み出している。

具体的に選び方の参考になるよう森本さんに食べ物との相性も聞いてみた。

例えばあんこなどが使われた和菓子には、緑茶品種のなかでも「さやまかおり」、「みなみさやか」など、適度な渋みもありながら、優雅な花のような香りを呈するものがおすすめだとか。クリームなどを使った洋菓子には紅茶らしいボディーがある「べにふうき」や「べにひかり」を。ミルクティーとして飲むのにもいい。和食と共に楽しむならば「やぶきた」、「おくみどり」など日本茶のような旨味を感じる和紅茶が違和感なく寄り添うという。

「レインブラントティー」ではさまざまな産地や品種別に和紅茶を選ぶことができるので、和紅茶は初めて…という人も選びやすい。さらに個性のあるものを飲みたい、ミルクティーにしたいなど好みでも選びやすいようになっているので、ぜひ訪れてみて欲しい。

レインブラントティー
https://rainbrant-tea.com/

基本は海外紅茶と一緒。和紅茶の味わいを広げる淹れ方について

品種の違いや選び方がわかったところで、今度は美味しい楽しみ方について。

キッチンカーで和紅茶専門のドリンクスタンドを開いている「Tea&life style」の浅井さんに美味しい淹れ方や飲み方について教えてもらった。基本は海外紅茶の淹れ方と同じで汲みたての水をしっかり沸騰させ、茶葉をいれたポットに一気に注ぎ、蓋をする。そうすると茶葉が上下に動くジャンピングと呼ばれる現象が起こり、茶葉から成分がしっかり抽出できる。和紅茶は渋みが出にくく、品種によっては抽出時間を5分以上と長くとったほうが味わいを引き出せるものも。淹れる前にしっかり温め、保温性の高いポットを使うのもポイントになる。

ポットで茶葉がジャンピングしている様子
「茶葉とお湯は、きっちり計量してください。水は空気をたくさん含んでいる水道水を。ペットボトルなどに入った飲料水は水分中の空気が抜いてあるため、均等に茶葉から味が出ないと言われています。お湯を沸かすときは熱伝導が良く、水分中の空気が抜けずに早く沸かせる銅鍋がおすすめです。口当たりが良くなります」そして、紅茶を飲むための落ち着いた雰囲気を作ることも、その味をじっくり楽しむためには大切だという。

和紅茶の可能性を広げる飲み方、楽しみ方のバリエーション

浅井さんのお店では様々なフレーバーティーを販売しているが、どれも和紅茶の繊細な香りや味わいを生かしているのが感じられる。寒い時期にはジャスミンのような香りを持つ宮崎茶房の「みなみさやか」をチョコレートミルクティーに。カカオに似た香りを持つ和紅茶なので相性がよく、華やかな香りのドリンクとなる。夏には国産グレープフルーツと緑茶品種の和紅茶を組み合わせたアイスティーも。塩味をアクセントにし、和紅茶を使うことでバランス良い味わいに。ゴクゴク飲める一品だ。

フルーツと組み合わせたり、和紅茶をゼリーにした喉越しのよいドリンクを創作している「Tea&life style」
そんなフレーバーティーの中でも簡単にでき、和紅茶を使うことで美味しくなるミルクティーの作り方を教えてもらった。用意する道具は手鍋とカップだけ。ミルクは和紅茶の香りを邪魔せず甘みを引き出す低温殺菌乳がおすすめだという。

まずは水100mlと茶葉4〜5g(通常の1.5倍)を入れて火にかけ、茶葉から味わいを引き出すように少し煮出す。これを濾してカップに紅茶液だけを移すが、茶葉が水分を吸ってしまっているので鍋に水を足して紅茶液が100mlになるようにする。茶葉を取り出した鍋に紅茶液を戻し、ミルク100ml、きび糖、はちみつをお好みで加えて火にかけ、溶けたらできあがり。沸騰させないよう弱火で温めるのがポイントになる。

この淹れ方であれば、茶葉の成分が出やすいし、好みの濃さに調節もしやすい。道具も最低限で済み、ポットを温めておくといった手間も省ける
「インド式のミルクティーの製法に近いので、茶葉を煮だすときにカルダモンやグローブ、シナモンなどのスパイスを入れてチャイのようにして楽しんでも。べにふうきなどの紅茶品種を使うのがおすすめです」。

Tea&life style
https://www.instagram.com/teaand_lifestyle/

多様性が魅力の和紅茶。選び方や飲み方が分かれば日常に寄り添うお茶に

和紅茶の旨みや甘みが味覚を刺激し、食前酒のような感覚で味わえるブレンドティー「和の滴 食前紅茶」。Tea&life styleのサイトより取り寄せも可能
浅井さんはドリンクのほかにも、和紅茶を使ったパンやスイーツを販売するほか、京都の茶園「和束紅茶」にオーダーし「和の滴 食前紅茶」というブレンドティーを開発。さまざまなシーンで和紅茶を楽しんでもらいたい、そんな思いが込められたお茶だ。

生産者はもちろん、浅井さんや森本さんのような人々の創意工夫により、その可能性がどんどんと広がっている和紅茶。そして緑茶作りと共に育まれている和紅茶を日常に取り入れることは、日本の大切な文化である日本茶の生産者や茶畑のある風景を守ることに繋がる。ぜひ日々の暮らしの中に取り入れて、日本の四季や風土が生み出したその美味しさを楽しんでみて欲しい。