Vol.69

MONO

02 OCT 2019

日本のものづくりの真骨頂。保存しながら変化を楽しむ「開化堂」茶筒

肌寒い朝に体を温めたくて、ひんやりとした空気に肩を竦めながらお湯を沸かし、棚から茶筒を取り出してティーポットに茶葉を入れる。旅先で買った、とっておきのお茶だ。湿気る前に蓋を閉める。シュンシュンと音を立てたお湯をティーポットに注ぐ。立ち上がる湯気の温かさと、お茶のいい香り…こうして淹れられたお茶を飲む時間は格別だ。
そんな朝晩の一連の所作は、スマートにこなしたいもの。「茶筒の蓋がなかなか開かなくて茶葉を取り出すのに苦労する」「茶葉が湿気って香りや味が悪くなる」なんて論外である。そのうえ、茶葉は空気に触れるたびに劣化してしまうので、1ヶ月程度で使いきれる程よい大きさであることも大切だ。日本茶や紅茶、中国茶はもちろん、コーヒーなど湿気に弱いものや酸化しやすいものを保存したい時に使えるとなお良い。だからこそ、使うほどに職人の技を感じる、開化堂の美しい茶筒が必要なのだ。

長く使いたくなる日用品には、理由がある

美しいものは、綺麗で新しいものとは限らない。特に日用品においては、長く使うことで出てくる使用感に美しさを見出せるものもある。現代はひとつのものを何年、何十年も使うことが昔に比べ少なくなった。それでも生き残り、選ばれ続けてきた「長く使いたくなる日用品」は、使い勝手の良さと味わい深さを兼ね備えたものだろう。今回注目する開化堂が作る茶筒は、5年、10年と言わず100年先も使いたくなる日用品。なぜ使い続けたくなるのか、その理由を探ってみよう。

130もの工程を経て作られる“ホンモノ”の茶筒

京都 開化堂本店
現在は注文販売の予約待ちが続くほど世界中で高い人気を誇る開化堂は、京都で明治8年に創業された日本で最も古い茶筒店だ。明治維新後、西洋の文化が日本に入ると、衣食住の習慣や制度が大きく変化した。明治8年は、こういった現象を福沢諭吉が著書で「文明開化」と言った年であり、ブリキ板がイギリスから日本に輸入されるようになった時期でもあった。
そんな活気溢れる時代にブリキ製の丸缶を作りはじめた開化堂は、シンプルなデザインと製法を創業当初から確立。その作業工程はなんと130あまりあり、職人の高度な技術が必要とされる代物だ。世界大戦での金属不足や高度経済成長期による大量生産・大量消費など、時代ごとに危機があっても手作業によるものづくりの精度にこだわったことで、現在の確固たる地位が築かれたのだ。

スタンダードな茶筒。上段がブリキ、中段が真鍮、下段が銅。無地タイプは8サイズの展開となっている。
京都にある開化堂本店では、スタンダードな形の茶筒のほかに、取っ手とスプーンが付いた「珈琲缶」や段になった「だんだん」という茶筒、「取っ手付き」茶筒など様々なデザインのアイテムが展示されている。もちろん、在庫があるものは購入可能である。

銅製茶筒 取込盆用120g 13,000円(税別)
数ある茶筒の中から筆者が選んだのは、銅の120gサイズの茶筒。新しいものはほんのりピンク色がかっていて背が低く少し寸胴。コンパクトなサイズ感が愛らしい。

マルチに使える保存容器。クオリティの高さは使用感に現れる

筒の口をふさぐ「口止中フタ」も材質はブリキを使用している。
この茶筒は「取込盆用」というタイプで、茶器一式を入れる茶櫃(ちゃびつ)に入れるのに適した高さの低い形状になっている。100g程度の茶葉やコーヒー豆を保存するのにちょうど良いサイズだ。1〜2人暮らしなら1ヶ月程度で茶葉を消費できる。また、内側はブリキを使った二重構造になっているため、密閉性が高く湿気を防いでくれる。茶葉やコーヒー豆はもちろん、パスタや乾物など、保存できる食品はさまざまである。
胴部と蓋部に入っている線を合わせるようにして蓋をかぶせると、最後は自重により音もなくおのずと閉まってくれる。このようにソフトオープン・ソフトクローズで、ストレスなく蓋を開け閉めできるのは手仕事のなせる技だという。
コンパクトな棚に置いた時の佇まいもいい。お茶の時間がますます楽しみになる。

手のひらで撫でて作りあげる、唯一無二の風合い

開化堂では、外側にブリキや真鍮、銅など様々な金属を使用している。どれも地肌を生かして塗装をしない生地物の金属のため、何度も手で触れることで茶筒の表面の表情が徐々に変化していく。
色の変化のムラを無くすコツは、手のひらで包み込むようにして全体を撫でること。お茶やコーヒーを淹れるたびに、よく撫でてあげよう。色の変化とともに、素材特有の味わいのある光沢も出てくるはずだ。水分に弱いので、手についた水気は取ってから。こうして日課のように茶筒を撫でることで、その人なりの美しい風合いが出てくるのだ。
経年変化の度合いやスピードは、外側に使われている金属によって大きく変わる。銅の経年変化のスピードは早く、1〜2年でも程よい色に変わり、10年で渋みのあるきれいな茶色になる。
真鍮はそれよりもスピードが遅く、落ち着いた黄土色に変わるまで10年。ブリキに至っては30〜40年で、銀色が黒々とした色に変わっていく。

心地よく使い、日々の営みの形跡を残せるアイテム

10年、20年、30年…ライフステージが変化したとしても、暮らしのお供に使い続けたい開化堂の茶筒。何年も使っていれば、落として蓋が閉まりにくくなることや、うっかり水気に触れて錆びてしまうこともあるだろう。そんな時も修理対応してくれるため、安心して使い込むことができるはずだ。

使い勝手のいい茶筒が見せてくれる、日々の営みの積み重なり。それはやがて、深みのある美しさになるだろう。

開化堂 京都本店

住所:京都市下京区河原町六条東入
TEL:075-351-5788
営業時間:9:00~18:00
定休日:日・祝・第二月曜

公式サイト:https://www.kaikado.jp/