Vol.128

MONO

08 MAY 2020

香りを深く感じる。東京香堂「香木を楽しむギフトセット」

同じ空間にいながらにして気分を変えたい時、手軽に使えるものといえば「香り」だ。リードディフューザーやアロマキャンドルなどのルームフレグランス、スティックやコーンタイプのお香、サシェ(匂い袋)など、さまざまなアイテムがある。どのアイテムも手に入れやすく、使用したことがある人も多いだろう。しかし未だ挑戦したことがないものがある。それが香道などで使われる「香木」だ。その香りを手軽に楽しめる東京香堂の「香木を楽しむギフトセット」を見つけ、さっそく取り寄せた。

すこし背伸びをして、香木の世界へ

香木に興味を持つようになったのは、香道体験に参加してからだ。香木とは樹木から採れる香料のことで、主に白檀(びゃくだん)・沈香(じんこう)・伽羅(きゃら)を指すことを教えてもらい、香木全体からどのように使う香木を切り出しているかまで見せてもらった。香道の世界では香りを嗅ぐのではなく、「聞く」と表現するそうで、実際に聞香を体験させてもらった。そこで驚いたのは、香木の香りはあまり強くなく、非常に繊細に香るということ。そして注意深く「聞く」と、同じ種類の香木でも香りが微妙に異なることを知り、ますます興味が増していった。

白檀と沈香の香木を刻んだもの。この2種類は最もポピュラーな香木だ
日本でいつから「香」の文化が取り入れられるようになったのかを調べてみると、飛鳥時代にまで遡る。仏教伝来とともに伝わり、場を清めるものとして宗教儀礼などに焚香料が使用されるようになったという。また595年には、淡路島に漂着した香木が朝廷に献上されたという記述も、日本書紀に残されている。

さらに奈良時代には煉香(ねりこう)が伝わり、平安時代に移ると香は宗教から切り離され、煉香を焚いて衣類や髪に焚きしめる薫物(たきもの)が貴族たちの間で広まり、教養や趣味として発展していった。煉香の原料には香木も使われていたそうだが、香木そのものの香りを楽しむようになるのは鎌倉時代になってからのこと。平安貴族が好んだ薫物の風雅さとは異なる、香木のすっきりとした香りは、精神性を重んじる武士たちに好まれたようで、そこから香道が発展していったのだという。

ちなみに今も一般的に使われている線香が中国から伝わったのは、その後になる。江戸時代以降は国内でも生産されるようになり、庶民の間でも身近な「香」として親しまれてきた。

そのほかにも焚かずに香りを楽しむ匂い袋や空薫で楽しむなど、「香」の文化は様々な発展を遂げてきた。筆者自身もこれまでにいろいろなお香を試してきたように思う。ただ最近は、お香を焚く時の煙や香りの強さが気になる。やさしく香りを感じるには、香木を焚くのが良いのかもしれない。

とはいえ本格的な香道は、正直なところ初心者には敷居が高いものである。まずは香木を自分で焚いてみたい、香木の香りを楽しんでみたいという好奇心を満たしてくれるアイテムを探していたところ、東京香堂の「香木を楽しむギフトセット」に行き着いたのだ。

自分自身に贈りたい「香木を楽しむギフトセット」

東京香堂「香木を楽しむギフトセット」 ¥ 5,800 (+tax)
オンラインで注文して数日。中央に金の箔が押された、白いシンプルな箱が届いた。

ギフトセットは、「香木を楽しむセット2020」にシンプルな「ガラスの器」が付いている。
箱を開けると、薄葉紙に包まれた「香木を焚くためのセット」と「ガラスの器」がきれいに収まっていて、自分自身にプレゼントをしてあげたような嬉しい気分になる。じっくり悩んだ甲斐があった。

細かく砕かれた白檀と沈香の香木、ピンセット、さじ、香炭、灰と、香木を焚くために必要な道具が揃っている。
中身を出し、袋に入った灰をガラス瓶の中に移せば準備完了。

「ガラスの器」は、インドのBOROSIL(ボロシル)社が製造する耐熱ガラス「VISION GLASS」
灰を入れた「ガラスの器」の佇まいは少し独特だ。BOROSIL社は元々理化学用ガラスメーカーということもあり、飾り気のない器フォルムは実験器具を彷彿とさせる。透明なガラスの中に入った白い灰の陰影は、ついぼーっと眺めてしまうような美しさがあるが、いざ使い始める段になると徐々に精神が集中してくる。

静かな空間で、香を焚く

まずは香炭に火をつける。火はライターやマッチでもOK。
さっそく香木を焚いてみることにする。付属の香炭は大きいものと小さいものがあるが、まずは小さい方で試すことに。しばらく火をつけていると、香炭の表面が白っぽくなり、息を吹きかけるとオレンジに光る。この状態になれば炭の準備は完了。

器の中央に香炭を埋める。
火をつけた香炭が半分以上白くなったら、灰の上に置き、ピンセットで軽く押して半分ほど灰の中に埋める。神経を使う作業だからか、感覚も少し敏感になる。鼻はほんのり漂う炭の匂いを捉え、炭の周りで温かくなった空気も指先で微かに感じ取れる。

灰を温めたら、香木をのせる。
続いて香炭を置いて少し待ち、周辺の灰を温めたらさじ1杯分の沈香の香木をのせる。香木は直接炭の上にのせて焼いても良いが、今回は香木本来の香りを楽しむために、香炭に軽く灰をかけて遠火で焚く空薫にする。こうすることで煙も立ちにくくなる。精神を鎮静させるという沈香の香りが、優しく漂ってくる。集中して香りを聞いていると、次第に自分の内面にフォーカスが当たっていく。ゆったりとしながら集中できるような、特別な時間になった。

香木を聞くことは、香りの源流に触れていくことにつながる

様々な楽しみ方がある「香」の世界では、香木は香原料として加工品に用いられることが多い。サンダルウッド(白檀)のお香を焚いていたとしても、原材料の白檀がどれだけ使われていて、本来はどんな色で、どんな形の植物なのかなど知りもしなかった。

一方で香木を焚くと、香木そのものの色や香りに触れることができる。採れる場所や、同じ種類でも香りの質や価値がどのように変わってくるのかといったところにまで、興味が及ぶようになった。

現在良質な香木は、自然環境の変化や大量消費の結果、非常に希少なものとなっているそうだ。香木は限りある資源であるということを知った上で、少しずつ大切に使う暮らしを楽しんでみよう。

東京香堂「香木を楽しむギフトセット 2020」

セット内容:白檀1g、沈香1g、灰80g、香炭4個、香炭(小)10個、ピンセット、さじ、ガラスの器
価格¥ 5,800 (+tax)

https://tokyokodo.online/