Vol.85

KOTO

03 DEC 2019

ものづくりは自然が循環するようにつづく。「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」展

どうしても手放せない服がある。心地よい手触りで、他にはない柄の生地を使った、仕立ての良い服だ。当然お気に入りだから、何年も着ている。着れば着るほど好きになり、経年変化も味として受け入れられる。もし自分の手から離れることになっても、誰かに大切に着続けてもらいたい。
服はいつから物質や機能以上の価値を持つのか?その答えを探しに、東京都現代美術館(MOT)で開催されている「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」展へ足を運び、デザイナーご本人に話を伺った。

「せめて100年つづくブランド」へ。過去最大規模の展覧会

「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」展覧会会場
現在開催中の「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」展は、2020年に25周年を迎えるブランド「ミナ ペルホネン」の世界観やものづくりの姿勢を紹介する展覧会だ。

「ミナ ペルホネン」を代表する刺繍の柄「タンバリン」を使って作られたプロダクトの数々
「せめて100年つづくブランド」を目指し、デザイナー・皆川明によって1995年に設立された「ミナ ペルホネン」は、ファッションブランドとしてスタートした。この独特な響きのブランドネームは、フィンランド語で、ミナ(minä)が「私」、ペルホネン(perhonen)が「蝶」という意味を持つ。そこには、蝶の美しい羽のような図案を軽やかに作っていきたいという願いが込められているそうだ。

さらに、1999年にはオリジナル家具を手がけはじめ、2008年からはプレートやコーヒーカップなどの食器の展開をスタート。生活全般に活動の領域を広げ、国内外のブランドやクリエイターとの共同事業も行なっている。

ミナ ペルホネンのデザイナー・皆川明

デザイナー・皆川明
皆川明を筆頭に、インハウスデザイナーが生地からデザインを手がける「ミナ ペルホネン」の服は、流行に左右されず長年着用できる「特別な日常服」だ。

「ファッションの表面的なトレンドというのは、僕にはわからないです。でもファッションに限らず、今は完成品がどのように作られたかというのが、見えなかったり、見えないようにしている時代になっていると感じます。だからこそ、完成した新しいものが、どれくらいのプロセスを経て出来上がっているか、見せることの価値は大きくなると思います」(皆川)

毎年出しているという、ラインシリーズ。機械には出せない手描きの柔らかさや、線の微妙なゆらぎが魅力
今回の展覧会でも制作の途中段階を積極的に展示。また、コンセプトにある「せめて100年つづく」という思いも、今回の展覧会にも深く反映されている。

「人間にとって、作る喜びというのはある種根源的なもの。世の中が便利になって、大多数の所有の価値観が変わったとしても、一定の比率で残るものを作りたいという欲求はありつづけると思いますし、残していきたいですね」(皆川)

やさしいけれど個性的な色使い。刺繍や生地の立体感が生かされたテキスタイルは、一点もののような尊さすら感じる
「ミナ ペルホネン」では、日本中の生地産地と直接繋がり、時間をかけて深い関係性を続けながらこれらのオリジナル生地を作り続けている。

循環しながら未来を想像する。丁寧なものづくりをつづけることの大切さ

アイデアと試みを展示する「種」の部屋では、皆川が構想している簡素で心地よい宿「shell house」を展示

「shell house」内部
通常大規模な展覧会というものは、入り口と出口は別に設置されていることが多い。しかし、本展覧会会場は「種」「風」「森」など、自然界に例えた名前が付く8つの部屋が円環状に繋がり、何度もぐるぐると見て回ることができる構造だ。

刺繍の指示書
自然の営みを止められないように、一度ものづくりを始めたら、その手を止めることは難しい。循環する自然界と、つづいていくものづくりの営みには確かに共通性を感じる。毎年2回のコレクションに出すために、原画を描き、生地を生産し、パターンを作り、仕立てるといった工程を25年。この継続の労力は計り知れないものだ。

服作りの過程で出てしまう生地の余りも無駄にせず、ミニバッグやエッグバッグに変える

手描きでは出せないラインは、ガムテープで創作
展示を見ていると、ひとつひとつの工程が丁寧であり、多くの人々の労力が積み重なって完成していることを実感する。同時に実験的な遊び心が取り込まれていることも見て取れた。

買われた先を考える、ブランドの思想。

「土」の展示風景
ものづくりに関わる人たちが手を組み、全力を出して作り上げた服は、やがて店に並び、購入され、その持ち主が使用する。特別な日常服は、愛着を持って何年も着られ、持ち主の人生に寄り添うのだ。

エピソードから、愛用者の思いが伝わる
特に印象深かった「土」の部屋では、「洋服と記憶」をテーマに服とその服にまつわるエピソードを紹介。何年経っても色褪せないことを追求して作られた服は、実際に何年も経ったあと、持ち主の人生の一部になっていくことが証明されていた。

布の両面が違う色で織られたdop
日常のものは作って終わりではない。買った人にとっては、何年も付き合いつづけるものなのだ。それを作り手が真剣に考えることで、このような経年変化による風合いを楽しめる、dopという家具用の生地も開発されたそうだ。

100年後もつづく人の営みのために、今できること

「芽」テキスタイルのデザイン原案。これらを元に作られた生地は3,000種類を超える
「物質をぞんざいに扱った結果、今や気候が変わるまでになってしまいました。だからこそ、目に見える物をどうするかということだけでなく、物に対する感情面を見直さなきゃいけないと思います。作り手にも責任があって、捨てないようにしようと思うということは、作る側が捨てようと考えるほどの価値しか生み出せていないということ。買う人にとって大切になるものを作っていけば、捨てようとは思わないはずです」(皆川)

日々仕事をし、生活を続ける私たち。身の回りにあるものは、ものの機能以上の価値はあるだろうか? 100年後も残していきたい、色褪せないものだろうか?

ものづくりのミクロな視点とともに、人間が循環する自然の中でどのように物と関わって生きていかなければいけないかという、マクロな視点にも気づかされた今回の展覧会。各地で環境問題が多発している今だからこそ、暮らしを鳥のような視点で捉え直したい。

ミナ ペルホネン/皆川明 つづく

会期:2019年11月16日(土)〜2020年02月16日(日)
会場:東京都現代美術館(MOT)
住所:東京都江東区三好4丁目1−1
施設開館時間:10:00〜18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(ただし、2020/1/13は開館)、2019/12/28-2020/1/1、2020/1/14
観覧料:一般当日券1,500 円(税込)
公式サイト:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/minagawa-akira-tsuzuku/

皆川 明(みながわ あきら)

designer / founder

1967年東京生まれ。1995年に自身のファッションブランド「minä」を設立(2003年には「minä perhonen」に名前を変更)。時の経過により色あせることのないデザインを目指しyr、想像が広がるオリジナルデザインの生地からデザインし、服作りを進める。また、インテリアファブリックや家具、陶磁器など、人びとの暮らしに寄り添うものもデザイン。北欧のテキスタイルブランドへのデザイン提供や挿画創作など、幅広く活動している。

ブランド公式サイト:https://www.mina-perhonen.jp/