2023年12月5日(火)より、写真家・映画監督である蜷川実花氏の最大級の展覧会「蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」が開幕した。11月のチケット発売後たった1日で予定していた前売り券が完売するなど、開催前から注目を集めている本展の見どころをお伝えする。
新情報発信拠点「TOKYO NODE」開館記念企画として開幕
会場は、虎ノ門ヒルズ ステーションタワー内「TOKYO NODE」。イベントホール、ギャラリー、レストラン、屋上ガーデンなどが複合する情報発信拠点として、2023年10月6日に開業したばかりだ。本展覧会は開館記念企画の第2弾であり、この空間スケールとロケーションだからこそ可能な展覧会構成になっているという。
展示会場は、映像インスタレーション、写真、立体展示などで構成され、すべての作品が本展のために制作された。開幕前日に行われたプレスや関係者向けの内覧会には各界から1,800名超が訪れ、初日には10時の開幕を待つ来場者が列を作ったという。
今回の展示は、写真家・映画監督の蜷川実花が率いるクリエイティブチーム EiM(エイム)による体験型展覧会で、作品ごとに異なるチームメンバーが制作に携わっている点も特徴である。映像とともに、音や空間演出を組み合わせた試みで、建築、音楽、舞台美術など各分野のプロフェッショナルらと共創したインスタレーション作品となっている。
「蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠」作品紹介
これまでの蜷川実花氏の作品は、ハイコントラストと極彩色の世界観が印象的だが、今回の作品群は「光彩色」がキーワードになっている。パンデミックによって予測不能な未来が待ち受ける時代だからこそ、日常の中にある普遍的な心象風景、いまの命の輝きを伝え、鑑賞者自身が体験や感情と結びつけられる作品を目指したという。
作品は空間ごとの11作品。蜷川実花氏としては初めて、写真作品は展示しておらず、映像インスタレーションが核になっている。
展示の序章は、真っ暗な中に鮮やかに咲き、枯れゆく花々の空間で始まる。生と死、繁栄と衰退、明と暗といったコントラストを、我々の人生や世界の移ろいと重ねている。
水槽を模した透明なBOXに投影されるのは、何気ない都市の風景。蜷川実花氏作品の代表的なモチーフの一つでもある金魚が泳ぐ水槽を彷彿とさせる作品だ。
"このコロナ禍を経て、人々は互いを制約する、社会というある種の水槽の中で生きていることを実感しました。現代社会という、強烈なつながりの中に生まれる巨大なシステムの中で生きる私たちはすくなからず、金魚に通じる側面を持つのでしょう”———展覧会ステートメント抜粋
最高天高15メートルのドーム型天井全面を使った、大型の映像体験。この体験を存分に味わうために、ぜひ横たわって見上げてみてほしい。走馬灯のように次々と現れ消えていく映像に全感覚を委ねてみよう。
"夢のように見える美しい景色であっても、全て現実のものである”こと、そしてそれらの大半は"人々の日常の延長線上にある、何気ない場所で撮影されている”こと。———展覧会ステートメント抜粋
こちらは、誰もが写真に撮りたいと思うはず。本展覧会の一番の見どころとも言える作品。映画監督の顔をもつ蜷川実花氏の真骨頂とも言える、映画セット技術を活用した大迫力のインスタレーション。視界一面を埋め尽くす花々は、どこを切り取っても画になるように構成されている。
"今回の展覧会で撮影された植物や花々の多くは、あるがままの自然の中にあるものではなく、庭園や公園など人の意志の中で育まれた花や木々です。(中略)花や植物、人々の営み、そして都市がまとう光は、その先に広がる景色とゆらめく情感が響き合う中で写し取られたものです。形が定まらない虚構というのは未来の1つの側面です。”———展覧会ステートメント抜粋
鮮やかなピンク色のカーテンに囲まれた小部屋。天井には有機的な形状のパネルが設置され、その丸い形状と呼応するような形でクッションが積まれている。こちらの展示空間は、夜になるとカーテンが開かれ、地上200メートルからの東京の街を体感することができる。
「胡蝶のめぐる季節」と題されたこちらの作品は、半透過の素材に四季の花々がダイナミックに投影されている。鑑賞者のシルエットが浮かび上がり、消えていく様子は、まるで花々を縫うように浮遊する蝶のよう。
開幕にあたってのアーティストコメント
蜷川実花(にながわ・みか) 写真家 / 映画監督
今回の展覧会は、今までの自分の経験値や感覚を全て集結させました。ひとつひとつの作品がそれだけで個展のできるような濃さで作っていて、今までにない新しい体験になっているはず。今回は映像インスタレーションが多いのですが、被写体はどこも何気ない日常を切り取ったものです。自分の視点や見る角度がほんのちょっと変わるだけで、こんなにも世界は美しいんだ、と気づくような、そんな展覧会になればと思っています。
宮田裕章(みやた・ひろあき) データサイエンティスト / 慶應義塾大学教
人が認識できる色はおよそ100万色と言われています。一方で現代では、多くの人に受け入れられることを追求していった結果、商品やブランドロゴなどさまざまな部分で “世界から色が消えていっている”とも言われます。本展のコピーには「100万色の桃源郷へ」というコピーがありますが、多様性が重視される時代の中で、蜷川さんの作風としても重要な要素である「色」も大きなテーマになっています。皆さんがいつかどこかで見たような心象風景が、本展の体験と重なり、未来へ繋がることを祈っています。
蜷川実花展 Eternity in a Moment 瞬きの中の永遠
蜷川実花展
会期:2023年12月5日(火)~2024年2月25日(日)
※2024年1月1日(月・祝)~1月2日(火)は休館
会場:虎ノ門ヒルズ ステーションタワー 45F TOKYO NODE GALLERY A/B/C
主催:TOKYO NODE
公 式 サ イ ト:
https://www.tokyonode.jp/sp/eim/チケット情報:
https://www.tokyonode.jp/sp/eim/ticket/
CURATION BY
料理とアートが好きなコラムニスト&写真家。
毎日、都内をぐるぐる歩き回っていますが、本当はインドア派。
映画を観ながら、作品に合わせた外国の料理を楽しむことにハマっています。