国民全員が自らのクリエイティビティを発揮する。デザイン大国デンマーク
「クリエイティブに物事を考え、進めることはデンマークの人々にとっては普通のこと。一般の人も、当たり前のようにデザインシンキングができるんです」と宮田さんは言う。彼は授業を受けるたびに、同窓生たちが課題全体にある“本来の目的”を見失うことなく、オープンな姿勢で試行錯誤しながら解決する姿を目の当たりにしてきたそうだ。
そんなデンマークの人々の根底には、「共生」の意識があるという。「心地よく過ごす」という目的に向かって、個人も社会も同じ方向を見ているのだ。それが、日々の暮らしを心地よくするためのインテリアにも反映されている。
なぜ日本人は北欧インテリアが好き?その意外な理由
わかりきった話だが、北欧のインテリアアイテムは、洗練されたフォルムの中に素材の味わい、特に木のぬくもりが活かされているものが多く、日本の住宅にもマッチしやすい。しかしそもそも日本人が北欧デザインに惹かれる根本的な理由は、それらが日本の工芸・民芸品からも影響を受けて発展したものだというところにある。
19世紀末、「ジャポニズム」がヨーロッパに旋風を巻き起こした。ジャポニズムと聞くと、マネやモネ、ゴッホなど、ヨーロッパを代表する印象派の画家たちが浮世絵から影響を受けた、西洋美術の潮流の一つというイメージが強い。しかし北欧の人々の琴線に触れたのは、どちらかというと工芸の美しさだったようだ。
デンマークと日本の国交が始まったのは、1867年のこと。当初から多くのデンマーク人が機能的かつ美しさを追求する日本文化に影響を受け、家具などのデザインにもその美意識が反映されてきたそうだ。もともとデンマークも日本も、木材資源が多い国。木という素材に対する親しみと、素材を生かしたものづくりの姿勢、「長く使えるいいものを」という考え方は通じるところがあったのだろう。
デンマークの人々はそのような日本文化に共鳴し、多くの偉大なデザイナーを輩出。「心地よく過ごす」という目的に向かって、独自に発展していった。一方で戦後の日本は、経済成長によって大量生産・大量消費の社会になり、もともとあった美意識は影を潜めてしまった。そして、働き方を見つめ直し、暮らしの大切さに向き合うようになった日本人にとって、西洋的でありながら日本の美意識と通じる北欧デザインが憧れの存在になったのだ。
街歩きで見つけた心踊るインテリアショップ
他とはひと味違う。HAY HOUSEで見つけたもの
本当にいいデザインとはなにか
今だけでなく、これからも。だれもが「心地よく過ごす」ためにどうアプローチしていけばいいのかを、彼らは常に考えているのだ。インテリアアイテムを選ぶとき、見た目や機能の良し悪しで選ぶと同時に、その根源にある思想を捉えることも重要なのだ。暮らしを心地よくするにはどうすればいいのか、今一度ライフスタイルのあり方を考えてみるのもいいだろう。
取材協力
尚工藝代表。文具・服飾雑貨デザイン開発に従事した後、デンマークの福祉で有名な学校Egmont Højskolenに留学。Vilhelm Hertzでインターンを経て帰国後独立。