Vol.54

KOTO

07 AUG 2019

インテリアショップ巡りが楽しい!肌で感じる北欧デザインの魅力

「世界幸福度ランキング」のトップ常連国である、北欧・デンマーク。首都のコペンハーゲンは、童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンが生まれ育った地としても知られ、カラフルな外壁の建物や運河を行き交う船がメルヘンチックな気分にさせてくれる。そんなコペンハーゲンの街を歩いていると、モダンなデザイン家具屋からアンティークショップまで、数多くのインテリアショップが軒を連ねていることに気づく。それほど現地の人々もインテリアやデザインに対する関心が高いということだ。その理由を探るとともに、現地で見つけた個性的なインテリアショップを紹介しよう。

国民全員が自らのクリエイティビティを発揮する。デザイン大国デンマーク

コペンハーゲンのシンボル「旧証券取引所」。先端がねじれた塔が目印。
デンマークは福祉国家でもあり、デザイン大国としても知られている国だ。空港に降り立ち電車に乗るまでの道のりはずっとフラットで、重いキャリーバッグを持っていても気持ちよく歩けるし、見かけるポスターも写真や文字づかいが洗練されていて美しい。街に出てからも、広々とした道路と多すぎない車の通行量で、のんびりと快適に歩くことができる。1枚のポスターから都市設計、さらには社会まで。たった1泊2日の弾丸旅行だったが、どことなく肌で感じたのが「デンマークの人々の根底にあるデザイン意識は、日本人と全くちがう」ということ。

新旧の建物が並び、帆船が海に浮かぶ街。独特な雰囲気だ。
その直感を確かめるべく、デンマークに1年住み、成人向けの教育機関ホイスコーレで福祉を学んだ、プロダクトデザイナーの宮田尚幸さんにお話を伺った。

「クリエイティブに物事を考え、進めることはデンマークの人々にとっては普通のこと。一般の人も、当たり前のようにデザインシンキングができるんです」と宮田さんは言う。彼は授業を受けるたびに、同窓生たちが課題全体にある“本来の目的”を見失うことなく、オープンな姿勢で試行錯誤しながら解決する姿を目の当たりにしてきたそうだ。

そんなデンマークの人々の根底には、「共生」の意識があるという。「心地よく過ごす」という目的に向かって、個人も社会も同じ方向を見ているのだ。それが、日々の暮らしを心地よくするためのインテリアにも反映されている。

なぜ日本人は北欧インテリアが好き?その意外な理由

コペンハーゲンのモダンインテリアショップでは、デンマークのデザイナーがデザインし、日本の職人が製作した照明が販売されていた。
日本には家具やファブリック、雑貨など、デンマークをはじめとした北欧のインテリアアイテムを扱うショップが数多く存在する。それほど北欧デザインが日本人に支持されているということだ。

わかりきった話だが、北欧のインテリアアイテムは、洗練されたフォルムの中に素材の味わい、特に木のぬくもりが活かされているものが多く、日本の住宅にもマッチしやすい。しかしそもそも日本人が北欧デザインに惹かれる根本的な理由は、それらが日本の工芸・民芸品からも影響を受けて発展したものだというところにある。

19世紀末、「ジャポニズム」がヨーロッパに旋風を巻き起こした。ジャポニズムと聞くと、マネやモネ、ゴッホなど、ヨーロッパを代表する印象派の画家たちが浮世絵から影響を受けた、西洋美術の潮流の一つというイメージが強い。しかし北欧の人々の琴線に触れたのは、どちらかというと工芸の美しさだったようだ。

デンマークと日本の国交が始まったのは、1867年のこと。当初から多くのデンマーク人が機能的かつ美しさを追求する日本文化に影響を受け、家具などのデザインにもその美意識が反映されてきたそうだ。もともとデンマークも日本も、木材資源が多い国。木という素材に対する親しみと、素材を生かしたものづくりの姿勢、「長く使えるいいものを」という考え方は通じるところがあったのだろう。

デンマークの人々はそのような日本文化に共鳴し、多くの偉大なデザイナーを輩出。「心地よく過ごす」という目的に向かって、独自に発展していった。一方で戦後の日本は、経済成長によって大量生産・大量消費の社会になり、もともとあった美意識は影を潜めてしまった。そして、働き方を見つめ直し、暮らしの大切さに向き合うようになった日本人にとって、西洋的でありながら日本の美意識と通じる北欧デザインが憧れの存在になったのだ。

街歩きで見つけた心踊るインテリアショップ

コペンハーゲンを代表するデパートIllums Bolighusは、1階のメインフロアがまるごとインテリアアイテム売り場となっている。

1階のメインフロアがまるごとインテリアアイテム売り場となっている。
「心地よく過ごす」ための努力を怠らないデンマークの人々にとって、部屋のインテリアを整えることは重要な問題である。そのため、街には幅広いジャンルのインテリアショップが集まっている。コペンハーゲンの街も同様で、中心部を歩いているとどこもかしこもインテリアショップだらけ。その数と種類の多さに驚かされた。

アンティークのランプショップの前にはクラシックカー。古くて良いものが好きな人も多いようだ。

中には毛皮専門店も。

ちなみに日本でも人気のLEGOはデンマークの会社。空港や街中にもレゴショップがあった。

他とはひと味違う。HAY HOUSEで見つけたもの

HAY HOUSE 入り口
そんななか、街を歩いていてひときわ個性的だったインテリアショップがHAY HOUSEだ。2002年に設立され、1950〜60年代のデンマーク家具をリスペクトしながらもモダンな感性を取り込むブランド、HAYのコンセプトショップである。

ショップ入り口
ショップはアパートの2階と3階にあり、家の中を探検するような気分で見て回ることができる。
日本でも表参道に期間限定ショップHAY TOKYOがあるが、そこでの見え方とは違い、暮らしにHAYのアイテムが置かれる光景をリアルに想像できるディスプレイだ。
お土産に購入したのは、ポット。柔らかな色味と不思議でかわいい配色が、食卓に彩りを与えてくれることだろう。

本当にいいデザインとはなにか

意匠性と機能性の高さが追求された、魅力的なデンマークのデザイン。しかし現地に行って肌で感じたのは、その根底にある社会や福祉に対する意識の高さだった。

今だけでなく、これからも。だれもが「心地よく過ごす」ためにどうアプローチしていけばいいのかを、彼らは常に考えているのだ。インテリアアイテムを選ぶとき、見た目や機能の良し悪しで選ぶと同時に、その根源にある思想を捉えることも重要なのだ。暮らしを心地よくするにはどうすればいいのか、今一度ライフスタイルのあり方を考えてみるのもいいだろう。

取材協力

宮田尚幸(みやた なおゆき)
尚工藝代表。文具・服飾雑貨デザイン開発に従事した後、デンマークの福祉で有名な学校Egmont Højskolenに留学。Vilhelm Hertzでインターンを経て帰国後独立。