Vol.492

KOTO

03 NOV 2023

タンスの肥やしで「ノート」作り。アップサイクル&ものづくりの楽しさを学ぶ

店の紙袋を溜め込んでいる人は、けっこう多いのではないだろうか。「デザインが秀逸」「何かに使えそう」「もったいない」……なんて言い訳をしながら、部屋の隙間にスッと差し込み、気づいたときにはかなりの量になっていたりする。そんな私たちのタンスの肥やしコレクションが、ついに日の目を見る時がきた。今回は、紙袋や包装紙をアップサイクルする方法をご紹介しよう。

スキルシェア × アップサイクル

本作りをスキルシェアワークショップで学ぶ
今回伺ったのは「タンスの肥やしでノートを作る」というワークショップだ。“タンスの肥やし”とは、冒頭でも触れた紙袋のことである。主宰者はインテリア&DIYコーディネーターとして活躍する岩西剛氏。各分野のスペシャリストの技術を伝えるスキルシェアとユーモアや遊び心をミックスさせたワークショップを不定期開催している。

DIYの楽しさを伝える岩西氏(右)と製本のレクチャをする江本氏(左)
この企画を思いついたきっかけは、家に溜まっていた紙袋問題だったという岩西氏。

「僕はできるだけモノを持ちたくないタイプなのですが、うちの妻は必要以上に紙袋を溜め込んでしまいます。確かに、よく見ると上質な紙だったり、イラストやロゴも素敵だと思うし、取っておきたい気持ちもわかります。そこで、ただ捨てるのではなく何かの役に立つように形を変える方法を考案しました。作るものは、紙袋を「表紙」に使ったノートです。作り方は職人さんから技術をシェアしてもらいます」

タンスの肥やしで「ノート」をDIY

江本氏が手本に使用していたのは、おなじみ某百貨店のタータンチェック
製本の手ほどきをしてくれたのは、株式会社望月製本所の江本昭司氏だ。作業台の上にはさまざまな大きさの厚紙や、刷毛、のりなどが並んでいる。それらをどのように組み合わせて本になっていくのか。現段階では想像できないほど、たくさんのパーツが並んでいる。

厚紙などのパーツと道具が並ぶ作業台

ノートの材料

紙袋
・本文(コピー用紙)
・ボール紙(背・芯)
・両面テープ
・ボンド(布、紙にも対応するもの)
・藁半紙など(力紙) 

ノートの作り方

「表紙」づくり

「表紙」になる紙袋を展開
まずは、紙袋を丁寧に展開していく。紙袋のデザインは全部を見せる必要はなく、どこをどのように使うかは各自のセンスの見せどころ。展開できたら型紙に沿って裁断していく。少々の破れはテクスチャーのバラエティとして味わいにもなる。傷んでいたりシワになっていたりしても、気にせずそのまま使うのもアリ。

紙袋を型にそって裁断

「芯ボール」を貼る
「表紙」の裏から「芯ボール」と「背ボール」をボンドで接着していく。「芯ボール」の片面全体に刷毛でボンドを塗り、貼り付けてから表からブラシで擦りシワを伸ばす。1枚目の「芯ボール」接着が終わったら「背ボール」も同様に。さらに2枚目の「芯ボール」を貼っていく。このとき、「芯ボール」と「背ボール」の高さが揃っていなければ完成したときに閉じないことがあるので、位置の確認は慎重に。

細かいところも丁寧に
「背ボール」の両脇と周囲の余白に両面テープを貼り、「芯ボール」の角から2mm程度の隙間を残して「表紙」の「角」を斜めにカットする。両面テープを剥がし、上下の長手から内側に折り込む。同様に左右も折り込む。

刷毛でボンドを塗る作業
「本文」(ノートとして書き込む紙)はA5のコピー用紙を1cmの厚さ分用意する。紙をきれいに整え、背側になる部分にボンドを塗り、乾かす。

「力紙」と「スピン」をつける
本文のボンドを塗った面が乾いたら、強度を与えるための「力紙」にもボンドを塗って貼りつける。貼り終えたら、ブラシを使って本文のボンドを塗った面をしっかりと擦る。その上から「スピン」(しおりひも)も貼り付ける。

「スピン」の色を選ぶのも楽しい。包装用リボンでも良い

「表紙」と「本文」を合わせ「背ボール」の両脇に貼った両面テープが「本文」にくっ付くように押し付ける。さらにたわしや丸い棒(菜箸など)などで、くぼみを作る。このくぼみのラインがあることで「本らしさ」がぐっと上がる。

そろそろ完成間近
「見返し」と呼ばれる紙は本文と表紙をつなげる紙。まず「見返し」に薄くボンドを塗り「本文」に貼り付ける。

「見返し」が反らないよう、手早くすすめる
反対側の「見返し」にボンドを塗り「表紙」の裏側に貼る。ボンドを塗った「見返し」は反りやすいので手早く行う。また、ボンドを塗りすぎると失敗の原因になるのでサッと薄く塗ること。

ノートが完成
これでノートのできあがり。これは楽しくてクセになりそうだ。筆者作のノートは、あえてイラストの中心を外したのも良かったように思う。ノート作りにはたくさんの工程があるが、一度覚えてしまえば案外簡単にできる。時間があれば、蒐集した紙袋をすべてノートに仕上げたいと思うほど、充実したひとときだった。

ワークショップ参加者全員の作品
他の方のタンスの肥やしも、ノートとして見事に生まれ変わった。おそらくワークショップ参加者全員が「捨てずに取っておいて良かった!」と思ったに違いない。

達成感に浸りながら完成したノートを眺めていると、こういった紙袋は「袋」としての形状にではなく、紙のテクスチャーやデザインに惹かれていたのだということに気づいた。紙袋を「袋」ではなく「素材」として捉え直してみると、活用の幅はもっと広がっていくかもしれない。

スキルシェアで伝える、モノと技術の価値

ものづくりに携わる二人が考えていることとは
インテリアやDIYに携わる岩西氏と代々製本会社を経営する江本氏。二人がワークショップを開催している理由についてお聞きした。

岩西氏「オンラインでさまざまなスキルを教えてもらえる『SKiLL SHare』という海外のサイトに感銘を受け、自分も技術をシェアする活動をしたいと考えてきました」

SKiLL SHare

スキルシェアの意義を話してくれた岩西氏
「僕は仕事柄、職人とやりとりすることが多く、彼らが持つ技術の価値を知っていますが、消費者にはそういったモノづくりの過程が見えづらいものです。長い時間と手間ひまがかかっているものであっても『高い』と思われたりもします。実際に制作現場を見たら、皆さんがプロダクトの価値を感じられると思うのです。職人が行っている仕事を実際に体験してもらい、買う側の人たちに職人技術の価値を伝えたいのです」(岩西氏)

古い地図看板に「望月製本所の文字」
江本氏「うちの製作所があるのは神楽坂の裏側に位置するエリアで、製版、製本所が多くあり、古くから出版業界を支えてきた職人の街です。しかし、インターネットの普及によって紙の本離れが加速し、ここ十数年は撤退する企業が後を絶ちません。職人が培った技術を絶やさぬために私たちができることを模索しながらやってきましたが、その一つが業種を越えてさまざまな人たちと接点を持つことでした」

「写場」と名付けられたギャラリー
江本氏は会社の近くにイベントや展覧会ができるギャラリーをオープンさせたのだという。作家の展覧会やイベントなどが不定期に開催され、作品を世に出したい人の「場」として機能しているようだ。

写場|SHABA KAGURAZAKA

ギャラリーには、見たこともないデザインのアート本が置かれていた。

パッと見、分厚い本のようだが……

開いてびっくりな製本技術
「私たちの製本所は、どんな会社の技術を持ってしても不可能と言われるようなアートブックの製本を得意としています。最近は個人で出版される方も増えていて、お客様と一緒に、こだわりの詰まった一冊をつくっています。そういったプロダクトは時間も手間も膨大にかかりますが、やりがいがあるし、楽しいと思います。『どこへ持ち込んでも断られたけれど、ここなら作ってくれるかもしれない……」と、一部のお客様たちに『最後の砦』のように思われているような製本所なのです」(江本氏)

断捨離よりアップサイクルという選択肢を

捨てられない紙袋たちをアップサイクル
そろそろ大掃除がチラつく時期がやってくる。断捨離リストに紙袋コレクションが入っている人も少なくないだろう。最近はエコバッグが主流で、紙袋というもの自体が貴重になっていくかもしれない。そう考えると、ただ捨てるのではなく素材として活かした方が良いのではないだろうか。

「リサイクル」と「アップサイクル」の違いは、資源に戻すか、戻さないかである。リサイクルは一度製品を資源に戻してから新たなものに活用すること。アップサイクルは特徴を生かしながら新たな価値を与えること。紙袋は、リサイクルに出せばトイレットペーパーになるかもしれないが、それだとせっかくのコレクションがもったいない。ノートの方が何倍も嬉しい。

なお、ノートの表紙になる素材は紙袋だけではなく、包装紙、洋服の記事などでもできるそうだ。皆さんも、年末の断捨離前に素材としての可能性を探ってみてほしい。

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