バッグインボックスワインとは瓶ではなく箱に入った大容量のワインのこと。日本では業務用や安価なワインのイメージがあるかもしれないが、よく探してみるとオーガニック認証やビオロジック、さらに高級ワインの産地、ボルドーのバッグインボックスなど、いろいろな商品がある。さらにこのバッグインボックスワインの専門店を訪ねてみると、サスティナブルで環境負荷が少なく、良質なワインがリーズナブルに楽しめるという、さまざまな魅力について知ることができた。今回はそこでうかがった話を元に、これからの時代にマッチしたワイン、バッグインボックスワインについて紹介していく。
バッグインボックスワインとは?
酒屋やスーパーなどで見かける箱入りのワイン。欧米などではBag in Box(以下BiB)と呼ばれている、袋に入ったワインを段ボール箱に詰めた商品のことだ。単なる箱に入ったワインと思っている人が多いかもしれないが、瓶入りワインとは異なる特徴、長所がある。
まずBiBワインは、密閉された真空パック袋の中にワインが入っているので、ワインの大敵である酸化や振動、光に強い。注ぎ口が下部にあり、開栓後もほぼ密閉されているので酸化による変化が少なく、光も当たらない。それにより瓶よりも長期間同じ状態で飲むことができる。瓶のワインは開栓後1週間ほどで飲み切るのがいいと言われているが、BiBならば開栓後約1か月ほど楽しめるという。
次にいえるのが、ワインの輸送時にかかるコストやCO2排出量を軽減できるということ。瓶だと4本分のワインの量+4本分の瓶の重さが加わってしまうが、BiBの容器はとても軽く、四角いので積み重ねて効率よく積み込むことができ、輸送時かかるCO2排出量を瓶ワインよりも減らすことができるのだ。一度に沢山運ぶことができるので生産者も価格を抑えて販売することが可能となる。
さらにゴミの排出という観点から言うと、ガラス瓶はリサイクルできるが、ワインの瓶は牛乳瓶のようなリターナブルではないので、洗うだけではなく粉砕して溶かしてから再利用する必要がある。意外にリサイクルにコストがかかっているということは知っておくべきだろう。BiBの素材は、段ボール箱とポリエチレン製の袋とノズル。捨てるときもコンパクトになり、プラ容器や段ボールはリサイクルゴミとして再利用できる。
以上のような点からBiBは生産者・メーカーからも注目されていて、ビオや有機農法の醸造家ほど、環境のことを考えこのBiBワインを取り入れているとか。ヨーロッパなどは脱プラの動きが盛んで、持ち手を布にしたりするなどして極力プラを使わないボックスを開発するメーカーも。よりサスティナブルとなるよう工夫された商品が登場している。
バッグインボックスワイン専門店「BiB toyama」
そんなBiBワインに注目した、日本初となるBiBワイン専門店が富山県にあることを知り、店を訪ねてみた。ネットショップでBiBワインを販売している店はあるが、店舗を構えてBiBに特化した展開をしている店は珍しい。店主の中山さんも、店を開くにあたっていろいろ調べたが実店舗の専門店は日本では今のところなく、日本初だという。
BiBワイン専門店「BiB toyama」のオーナーである中山さんはもともと料理人で、今は富山で50年以上続く酒屋の二代目。ソムリエの資格も持ち、富山からワインのある暮らしをと、ワイン会なども主催し、ワインの魅力を発信している人物だ。
そんな中山さんがちょうど2年ほど前、酒屋として新しいことができるのでは...と注目したのが、BiBワインだった。もともとBiBは市場で流通していたが、日本では業務用のワインや安ワインのイメージが強かった。しかし家飲み需要の高まりに応える商品として、そしてこれからの時代のワインとして暮らしを変えるものになるのではと考えたのだ。
開業するにあたって中山さんはさまざまなBiBワインを複数人のソムリエと共に100種類近く試飲したという。その中から価格に見合った味わいを持つ、美味しいワインだけをセレクトした。
「BiB toyama」の魅力はBiBワインの試飲ができるということ。ソムリエもいるので、相談しながら好みに合ったものを購入できる。これは実店舗ならではの利点だ。大容量のワインを購入して、あまり好みの味ではなかった…というのが一番痛い。プロがセレクトしたものの中から試飲して買うことができるということはBiBワインを選ぶ上での一番の重要なポイントだと思った。
「BiB toyama」ではプロが厳選した美味しいものしか置かないというのがコンセプトだが、中山さんが考える美味しいの基準は、決して高級なワインではなく、日常に溶け込むことができる、考えなくても美味しい、疲れないワイン。そこには、ワインを身近に、気軽に楽しむのにBiBは最適で、価格以上の美味しさを楽しめるとても魅力的なワインだということをもっと知ってほしいという思いがあった。
ソムリエとして瓶に入ったワインの魅力を知っているからこそ、ボックスインワインの良さをしっかりと伝え、その違いを知ってもらいたい。そして環境負荷を減らしたサスティナブルなワインを多くの人が楽しみ、このスタイルがもっと浸透すれば、日本酒などほかの酒類や飲み物もBiBとなっていくかもしれない。そんな未来を中山さんは描いていた。
BiBワインのある暮らしを体験してみる
中山さんの思いは、美味しいワインをもっと気軽に飲みたいという私にとって、とても共感できるものだった。そして自分でも実際にいろいろ飲んでみたいと思い、「BiB toyama」にあるいろいろなBiBの中から、ほぼジャケ買いで2つのワインを購入してみた。イタリアとスペインで、どちらもEUのオーガニック認証を取得している。
赤はスペイン・カタルーニャのワイナリー「アルテロヴィヌム」が作るワイン。スペインの生活・食卓になくてはならないものであったワインを、再び身近なものに、という思いでワイン造りを行っているワイナリーだ。
なかでもBiBのシリーズ「シーネ」は、ジューシーかつナチュラルな味わいが特徴だという。ブドウ品種はグルナッシュ・ネグラ。酢豚や鶏南蛮などに合うというテイスティングコメントが紹介されていた。やや酸味のある濃厚な旨味がある料理が適しているという。飲んでみると、中華料理など脂っこい料理と合わせると口の中をさっぱりさせてくれる。餃子や小籠包などとも相性がよいと感じる味わいだった。
白はイタリア・シチリア島で5世代に渡りワイン造りを続けるディ・ジョヴァンナ・ファミリーのBiB。ブドウは丁寧にオーガニック栽培されたカタラットというシチリアの土着品種だ。アートなジャケットもイタリアらしい。ペアリングにおすすめなのは、グラタンなどクリーム系の料理やチーズだという。
これからの暑い季節にぴったりな味で、まろやかでクリーミーな料理と合わせると、口をすっきりさせてくれ食が進む。ハーブやレモンなどの柑橘の風味も持つので、レモンやオリーブオイルをかけた白身魚のカルパッチョにも合いそうだ。
この2つのBiBを日々飲んでいて気づいたのが、瓶のワインを開けると、早く飲まなくてはと気が急いてしまい、ついつい飲みすぎてしまうが、その心配がなくなったということ。少しだけ飲みたい、という時に特にいい。
収納についても、大きいので少々スペースはとるが箱型なので冷蔵庫にも入れやすい。何より瓶より各段に気を使わなくて済む。「BiB toyama」には本のようなデザインになった商品もあり、本棚に入れても違和感のないものも。おしゃれなデザインのものが多いと感じた。
そして栓の部分を押すだけでワインが出てくるBiBは抜栓が不要なので、ホームパーティでも活躍しそうだ。誰でも好きな時にワインを注ぎ、飲むことができる。瓶のように割れる心配をしなくていいのでアウトドアなどに持ち出してみてもいいだろう。箱を開けて袋の隙間に保冷剤を入れておくと、冷たさもキープできる。
さらに開けてから1か月と長期間同じワインを楽しむことができるので、ひとつのワインにじっくりと向き合うことができるのも魅力だと思った。「BiB toyama」が提案しているペアリングはもちろん、今日の魚料理に合うだろうか…サラダを作ったがオレンジを加えてみたらワインに合うかも…といろいろな食事との組み合わせを試すことができる。何度も飲むことで、これと合いそう…というアイデアも湧いてくるようになっていった。
注意として中山さんが教えてくれたのが、箱の中の真空容器はポリエチレン製で、これは臭いを吸着してしまう性質があるので、長期保存しておく場合、臭いの強いものの近くには置かないこと。また瓶は耐久性が高い容器なので何年も寝かせ熟成をさせることができるが、BiBの素材の耐久性は1年ほど。真空になっているということもあり瓶のように熟成をさせることは難しい。よって味わいは軽やかでフルーティなものが多く、日常の食に合わせるのには最適なのだ。BiBは、すぐに飲む、日常のワインに特化したものだということを押さえておこう。
ワイン選びにBiBという選択肢を
熟成したワインの複雑な味わいや余韻で特別な食事を演出したいという時には、瓶入りのヴィンテージワインを楽しむべきだが、もっと気軽に日々の食事に合わせたい時には箱入りワインはとてもマッチした商品。どちらが良い、悪いではなく、シーンに合わせて選ぶことが大切だと中山さんは教えてくれた。今はネットショップで探せば本当に多彩なBiBワインを見つけることができるが、自分にあった美味しいワインをセレクトしてくれるお店を手掛かりに選べば失敗なく、好みのものが見つかるだろう。
環境にも消費者にも優しいBiB。たかが箱ワインと思わず、しっかりとその特徴を理解して、自分のライフスタイルに取り入れてみてはいかがだろうか。そして、もっと身近に肩肘張らずに、ワインがある暮らしを楽しんでみてほしい。
BiB toyama
CURATION BY
古いものや熟成したものと愛娘に目がない、フリーライター。チーズ好きが高じて、「チーズプロフェッショナル」の資格も取得。カメラ片手に町や人、美味しいものを訪ね歩く日々を過ごす。