Vol.405

KOTO

03 JAN 2023

挿し木と水挿し。美しい植物の、より美しい楽しみ方。

インテリアとして購入される方も多い、家の中で眺めて楽しむための観葉植物。部屋に緑があるというのはとても気持ちの良いものだ。植物がすくすくと育っていく様子は美しく、愛おしい。ただ、もちろんそれだけでも十分に楽しめるけれど、その素晴らしさを人につなげることができるとしたら、もっと素敵ではないだろうか。今回お届けするのは、そんな願いを叶える挿し木という栽培方法。その中でも特に水挿しという方法をご紹介する。見た目にも美しい水挿しをとおして、植物の生をもう一歩深く感じてみよう。

水挿しって?栽培方法のご紹介

まずは挿し木について触れておきたい。

挿し木とは、植物の一部を切り取り(剪定)、発根させて増やす方法のこと。切り出し、水揚げし、植え付けることで、新しい個体が生まれる。

観葉植物の健康と見た目のバランスのため、剪定する

水の吸収と蒸発のバランスを取るためさらに葉を落とし、水挿しの準備をする
水挿しもまた、挿し木の一種だ。異なるのは発根の仕方。挿し木と呼ばれる栽培方法が、水揚げした植物をそのまま土に挿すのに対し、水挿しはまず水の中で発根させてから土へと植え替える。水耕栽培とも呼ばれており、近年ではマイクロファーミング(屋内やベランダなど限られたスペースで行う農業)として、家庭菜園愛好家の間でも人気を高めつつある方法だ。

挿し木と水挿しを比べたとき、挿し木の生長速度の方がより安定するようだが、個人的には水挿しをおすすめしたい。というのも、この水挿しという方法は、とても見た目が美しいのだ。土と比べ清潔だというだけでなく、根が生えていく過程が、ただただ美しい。

発根の様子を見ることができる水挿し
徐々に発根していくその様子に、植物の生を強く感じることができる。植え付けてしまうと確認できない部分なので、育てる楽しみを味わえることは水挿しの最大のメリットだと言えるだろう。

またそれは、初心者でも取りかかりやすいというメリットにもつながる。最初のうちは きちんと根が出るか不安だが、水挿しを選択すれば発根の状況を把握できるので、失敗が少ない。春や秋などいわゆる生長に適した時期でなくても根が出やすいので、あまり細かいことを心配せず、安心して栽培を楽しむことができるはず。

例えば、昼にパスタに添えて、少し余ったバジル。例えば、夜モヒートを作って、使いきれなかったミント。それらの植物だって水挿しをすれば、視覚的にも味覚的にも、もっともっと味わうことができるのだ。

試験管の手作り一輪挿しにて水挿しをしている様子。インテリアとしてもちょっと可愛い

慈しむということ - 剪定された枝葉の命

...と、ここまで偉そうに水挿しをおすすめしたが、実は私はその手のプロではない。私が水挿しに出会ったのは、夫がそれを趣味としていたことがきっかけだった。

夫は以前から、薬や飲み物の空き瓶を捨てずに取っておく人で、気がつくとそこには植物が入っていた。私は植物に興味があるタイプではなかったので、一輪挿し代わりに使っているのかなと思う程度だったのだが、考えてみればそこにあるのは花ではなく葉っぱばかり。そこで尋ねてみたところ、それはただ植物を生けているのではなく水挿しで、新しい個体として増やしている最中なのだということを教えてもらったのだ。

一見不思議なこの光景。実は水挿しの最中だった
私はその行為を知って、なんだかじんわりと心が温かくなった。彼が植物をただの鑑賞としてではなく、ひとつの命として大切に扱っていることを感じたからだ。

植物の健康やバランスのため、剪定作業は必要不可欠だが、切り取られた枝葉もまた命である。それがまた根を出し、新しい個体として生き生きと大きく育っていく様子を慈しみ、守る姿を、とても素晴らしいものだと思った。

もともと自分たちの力で生きている植物。人間の都合で鑑賞したり、食べたりするが、それらはインテリアでも食材でもなく、やはりひとつの命なのだ。水挿しを知って、私はそんな当たり前のことを思い出したりした。

植物の生をもう一歩深く感じられる行為としても、とてもおすすめできる水挿しという栽培方法。インテリアや食材として存在しているお家の中の植物を見直し、あらためてその美しさを感じてみたい。

剪定した枝葉を捨てずに大切に育てる

スペシャルな贈り物としての挿し木、水挿しの魅力

水挿しにまつわるエピソードの中でも特に印象に残っていることを、ここにご紹介したい。

我が家には、数年前夫に誕生日プレゼントとして贈った大きなアムステルダムキングがある。夫にとってはずっと憧れだった植物。彼はその木をとても大切にしてくれていて、剪定するたび いくつも水挿しをして個体を増やしていたのだが、ある日その中の一つが、可愛い鉢に植え替えられ、そしてリボンがかけられていた。友人夫婦の新築祝いに、幸せのお裾分けとして、我が家のアムステルダムキングのクローンを贈るのだという。

植え替えられた、我が家のアムステルダムキングのクローンたち
もちろん関係性にもよるだろうが、私はそれをとてもスペシャルな贈り物だと感じた。自分の家にあったものを増やすことで大切な人にも持ってもらえて、そしてそれがまた同じように大きくなっていくというのは、植物ならではの素敵な循環である。

実際友人夫婦はとても喜んでくれて、まさに幸せの循環を感じた出来事だった。

美しい観葉植物を、美味しい食材を、自分たちだけの楽しみで終わらせず人にもつなげられたら、どんなに素晴らしいだろう。同じものを楽しめたら、どんなに価値があるだろう。ただ飾るだけでなく、ただ味わうだけでなく、人に拡げ共有するという楽しみを、私は水挿しという方法をとおして初めて知ることができた。

現在はいくつかの友人宅に我が家のアムステルダムキングのクローンがいて、それぞれの家で可愛がられている。友人が言っていたことが印象的だった。

「新しく選んでもらう植物も もちろん嬉しいけど、友達のお家にある大切な植物の一部をもらったんだと思ったら、もっと嬉しいね」

大切にしてきた植物だからこそ、そこに乗った想いまでもが贈り物に込められていく。ただ増やすというだけでなく人につなげられるというところに、挿し木/水挿しの魅力的な可能性を見た。

可愛い鉢に入れられ、次の居場所へ

美しい植物の、より美しい楽しみ方

植物はそこにあるだけで美しく、楽しめるものだけれど、その魅力にもう一歩踏み込んでみよう。

もし次に剪定する機会があったら、水挿しをしてみてはいかがだろう。今そこにある空き瓶で、きっとすぐにでも始めることができる。

水の中で根が生えていく様子を慈しみ、植え替えてまたどんどん育っていく過程をとおして命の強さを感じ、そして大きくなったら、大切な人にバトンタッチしてもいい。

美しい植物の、より美しい楽しみ方としての挿し木/水挿し。新しい選択肢として、あるいは新年の抱負のひとつとして頭の隅に置きつつ、来る春を心待ちにしたい。

大切なお家の植物を、水挿しでさらに楽しもう
※本記事に登場する植物は譲渡・販売可能な品種ですが、種苗法により禁止されている登録品種もございます。挿し木をされる際は品種登録データ検索の上、正しくお楽しみください。