Vol.583

MONO

17 SEP 2024

手のひらサイズの小さな盆栽。石木花 SEKIBOKKA

「盆栽を育てる」、それは植物が好きな人であっても少々ハードルが高く感じられることかもしれない。手入れが大変そう、「和」の雰囲気が強過ぎる、住まいのインテリアに似合わない…。そんな杞憂を払拭するのが、石木花 SEKIBOKKA の盆栽だ。小さなサイズで世話がしやすく、デザイン性の高い器は置く場所を選ばない。これまで知らなかった盆栽の世界を新たに知るきっかけになってくれるに違いない。

苦手意識が先立つ盆栽。植物がその発想を変えてくれる

植物との付き合いは、人によって様々な物語があるはずだ。たとえば屋外で植物が咲いているのを見るだけ、店に花が飾られているのを眺めるだけだったが、人から花をもらったことをきっかけに、時々自宅で花や植物を飾るようになることもあるだろう。

やがて住まいのベランダで、小さなグリーンやハーブを植木鉢で育ててみたり、室内で観葉植物を育ててみたり。そうなると植物は暮らしの中で欠かせない存在へなっていく。

始まりは小さな植木鉢から。やがて植物は暮らしの良きパートナーへと変わっていく
植物と密な関係を築き出しても、取り入れるのに少し躊躇してしまうのが盆栽ではないだろうか。私にとって盆栽は和のイメージが強過ぎて、室内のどこに置いても浮き上がってしまいそうだし、手入れが大変そう、器もあまり好みではない等、どうもネガティブな印象が強く、自分とは縁のないものと感じていた。

だがその考えが変化したのが、室内で観葉植物を育て始めたからだ。これまで土を住まいに持ち込むことに抵抗があったが、& Green(アンドグリーン)の土がいらない観葉植物を育て出してから、その意識はがらりと変わったのだ。

心惹かれる盆栽と共に過ごす住まいへ

水を切らさないようにするだけという手軽さから始まった観葉植物との暮らし。毎日水の分量、葉の艶をチェックし、朝は柔らかな日差しの近くに置いて、夕暮れには場所を移動させる、植物の種類によっては違う場所に置いた方が良いのが分かったりと、植物たちの世話をすることが習慣となった。

以前は日々怠らずにちゃんと面倒をみることが出来るのだろうか、と心配していたのだが、億劫に思うことなく暮らしの中にルーティンとして組み込まれた。何より植物たちの元気な様子を眺める度に心が癒され、家族の一員としてともに暮らす喜びを実感できた。

世話することが苦になることはないと、観葉植物との暮らしが教えてくれた
室内で植物を育てることは、それほど難しいことではないのかもしれないと実感し、そんな時に目についたものが、石木花 SEKIBOKKA の盆栽だ。これまでイメージしていた盆栽ではなく、小ぶりなサイズで器もまたスタイリッシュ。この盆栽を是非とも我が家に迎えたいと強く思った。

これまで抱いていたネガティブな印象を払拭してくれた石木花 SEKIBOKKAの盆栽
以前だったら盆栽の世話を果たして自分が出来るのかという不安も、観葉植物とともに暮らしていることで、何とか出来るのではないかという希望的観測に変わっていたのだ。

小さな器に自然がいっぱい。石木花の器と植物

2003年に設立された石木花 SEKIBOKKA では、苔や植物、そして器に至るまですべてがスタッフによる手作業で行われているという。最初は完成品を手に入れて育てながら盆栽について学びたいという、まったくの初心者の人にとっても、気に入った洋服を選ぶような感覚で植物を探せるのが嬉しい。

今回選んだものは「コフジ」で、花が咲かない藤として古くから一部の園芸愛好家より育てられてきたそうだ。最初に見た際の葉のかたちやその風情、そして丈夫で育てやすいという言葉に惹かれ、我が家に迎え入れた。

通常の藤と比べて葉が小さく、苔や器と相性の良いコフジ

石木花 SEKIBOKKAから届いたコフジは緑の葉が美しく、涼やかな気配をもたらしてくれる

先端には新芽が見られ、これからの成長を想像して胸がときめく
器は「手のひら」という意味を持つPalm(パルム)の『結晶』という名のもので、クールな印象の青色が特徴的だ。器の表面に見られる結晶は1100℃付近の高温焼成時に生成されるそうで、石木花のスタッフによる手捻りで成形されている。

絶妙なカラーで忘れえぬ印象を与えてくれる、石木花 SEKIBOKKA の器
和の雰囲気を保ちつつモダンな器は、苔とコフジとのバランスが素晴らしく、どこに置いても絵になる景色を描いてくれる。そして何より心惹かれるのが、手のひらにすっぽりと収まる小さなサイズと丸くころんとした優し気なフォルムだ。

小さめサイズの盆栽は、器の中に息づく小さな自然を実感出来る
これまでは近寄り難い存在であった盆栽がとても身近に感じられ、思わず「ようこそ我が家へ」と声をかけてみたくなる。室内に取り入れる植物は、植物そのものの魅力はもちろん、サイズや器もとても大きなポイントになるのだと改めて知った。

縁遠かった盆栽の世界、その芸術美

そもそも盆栽とは中国から伝わり日本でその芸術が開花したと言われるが、発祥やその過程は明らかにはなっていないという。もっとも古い記述は平安期のもので、現在のような樹形となったのは明治から大正にかけてと言われている。

鉢の中で植物が風景や時代を描く盆栽は、長く日本人の暮らしを彩ってきた
盆栽は鉢と植物に美しく調和が取れていること、鉢の中で自然の景色が描かれていること、また自然の摂理が繰り返されていることが求められる。一方鉢植えは花や葉、実など植物そのものが持つ美しさを鑑賞することであり、盆栽は植物だけでなく鉢も芸術美の対象としてその色合いやフォルムも吟味されているという。

上記のことを踏まえると、鉢、植物、そしてその調和と景色が描かれている様はモステラリウムの存在を思い起こさせる。
室内にいながらにして自然を感じることができる点でも、盆栽との共通項があると言えるのではないだろうか。自分自身で創り上げるモステラリウムだが、盆栽は最初のステップからすべて行うのは少々難しさを感じる向きもあるかもしれない。

その点、石木花 SEKIBOKKA では既に盆栽が持つ美しさ、調和、風景を描いているものが魅力的な器とともに数多く展開されている。初めて盆栽に触れる人にとっては、植物を鉢に植え付け、配置を考えたり成形をするのは難しいこと。最初だからこそ、石木花 SEKIBOKKA の盆栽で器のかたちやカラー、植物の雰囲気で好みのものを選ぶこと、楽しむことからスタートしてみたい。

器や植物の種類、また置く場所や光りの当たり方によって様々な表情を持つ盆栽。眺めて心弾むものを選んでみよう

迎え入れた盆栽を慈しみ、育て、眺める

植物を育てる際に置く場所や水やりなど、気を付けなければならない点がある。盆栽は室内で飾る際には直射日光を避け、明るく穏やかな風が当たる窓辺や、日差しの柔らかな場所を選んで欲しい。水やりは、乾いたらたっぷりと水を与えること。

植物の活動が活発になる夏は1日1回、春と秋は1〜2日に1度、植物の水あげが弱くなる冬場には2〜3日に1度水を与えてあげよう。縁あって共に暮らすことになった盆栽だからこそ、愛情を込めて大切に育ててあげたい。

水やりの方法は、苔が被るぐらいの水を張ったボウルに器ごと水に入れ、気泡が出なくなるまで浸しておく
盆栽はエアコン等の風に直接当たると乾燥しやすくなるので、その点にも注意が必要だ。石木花 SEKIBOKKA の盆栽は小ぶりなサイズで場所を取らないため、室内でも植物がすくすくと育つ場所がきっと見つかるに違いない。

苦手な意識を払拭。植物が教えてくれるささやかな変革

観葉植物や盆栽を迎え入れる前は、室内で植物を育てることは自分には向いていないと固く信じていたところがあった。ついうっかり水やりを忘れてしまったり、置き場所に注意を払わなかったり、いずれきっと枯らしてしまうに違いないと、始める前からそう信じ込んでいた。

だが実際に自身の住まいで植物と暮らしてみると、常に様子が気になり、いつも心地良い状態に置いてあげたいという意識が自然に沸いたことに自分自身で驚いた。

もしかするとこれまでにも、頭でこうだと決めつけていても、実際にはそれとは全く異なっているということが数多くあるのかもしれない。

自分の中の小さな意識の変化を、小さな自然が教えてくれた
これからはもう少し頭を柔軟にして、始める前から無理だと思い込んでいた事にも取り組んでみようか。穏やかに優しく室内に佇み、小さな鉢の中で力強い自然を表す石木花 SEKIBOKKA の盆栽が、暮らしの風景を柔らかく変化させてくれたように。

石木花 コフジ no.018